放蕩ほうとう)” の例文
また放蕩ほうとうにふけっている者も同じことで、耽溺たんできしているあいだは『論語』をもっても『法華経ほけきょう』をもってもなかなか浮かびきれない。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
投げて死ぬ者、自暴自棄、やけくそになって放蕩ほうとうふける者、夫婦離別、親子わかれ、実に悲惨な出来事が数えきれぬほどあった
半之助祝言 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
その人たちというのは、主に懶惰らんだ放蕩ほうとうのため、世に見棄てられた医学生の落第なかまで、年輩も相応、女房持にょうぼうもちなどもまじった。
売色鴨南蛮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それが中途から学問をめて、この商売を始めたのは、放蕩ほうとう遣損やりそこなつたのでもなければ、あへ食窮くひつめた訳でも有りませんので。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
放蕩ほうとうなかだち、万悪の源、時珍が本草ことごとく能毒を挙げましたが、酒は百薬の長なりとめて置いて、多くくらえばこんを断ったと言いましたぜ
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それは、演戯茶房しばいちゃや蔦屋つたや主翁ていしゅ芳兵衛よしべえと云う者であったが、放蕩ほうとうのために失敗して、吉原角町河岸よしわらすみちょうがしつぶれた女郎屋の空店あきだなを借りて住んでいた。
幽霊の衣裳 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
父としては子をきずつけ、夫としては妻を傷つけて行ったようなあの放蕩ほうとうな旦那が、どうしてこんなに恋しいかと思われるほど。
ある女の生涯 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
放蕩ほうとう懶惰らんだとを経緯たてぬきの糸にして織上おりあがったおぼッちゃま方が、不負魂まけじだましいねたそねみからおむずかり遊ばすけれども、文三はそれ等の事には頓着とんじゃくせず
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
だが、妻は、(汚された処女の復讐ふくしゅう)を私に対して、行なったのである。私はそれに対して、放蕩ほうとうをもって対抗していた。
野狐 (新字新仮名) / 田中英光(著)
結婚から逸作の放蕩ほうとう時代の清算、次の魔界の一ときが過ぎて、わたくしたちは、息も絶え絶えのところから蘇生そせいの面持で立上った顔を見合した。
雛妓 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
唯円 放蕩ほうとうな上に、浄土門の救いを信じない滅びの子だと申しています。父上にぬ荒々しい気質だと言っていましたよ。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
○○と云う人に今日の会で始めて出逢であった。あの人は大分だいぶ放蕩ほうとうをした人だと云うがなるほど通人つうじんらしい風采ふうさいをしている。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
かかる放蕩ほうとう者の行末ゆくすえ覚束おぼつかなき、勘当せんと敦圉いきまき給えるよし聞きたれば、心ならずも再びかの国に渡航して身を終らんと覚悟せるなりと物語る。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
嫂は、この四五年の良人おっと放蕩ほうとうで、所有の土地もそっちこっち抵当に入っていることなどを、蔭でお島に話して聴せた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
決闘をやったために位をおとされ、のちにはまた元にかえると、今度はひどく放蕩ほうとうをして、比較的多額の金を浪費した。
一たび幕府の倉吏となったが、天保の初梁川星巌やながわせいがんが詩社を開くに及びこれに参し、職を辞して後放蕩ほうとうのため家産を失い、上総かずさ東金とうがねの漁村に隠棲いんせいした。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
今も、黄いろい秩父のついの着物に茶博多ちゃはかたの帯で、末座にすわって聞いているのを見ると、どうしても、一生を放蕩ほうとうと遊芸とに費した人とは思われない。
老年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「うまくいった。これで秘密が探れる。底の底までわかる。悪戯者いたずらもの放蕩ほうとうに手をつけることができる。種本を手に入れたようなものだ。写真もある。」
またついせんだっても、僕がこんなに放蕩ほうとうをやめないのもつまりは僕の身体がまだ放蕩に堪え得るからであろう。
(新字新仮名) / 太宰治(著)
剣術はからっ下手ぺたにて、放蕩ほうとうを働き、大塚の親類に預けられる程な未熟不鍛錬ふたんれんな者なれども、飯島は此の深傷ふかでにては彼の刃に打たれて死するに相違なし
隠岐は筒袖の外套がいとうに鳥打帽子、商家の放蕩ほうとう若旦那といういでたちであるし、僕はドテラの着流しにステッキをふりまわし、雪が降るのに外套も着ていない。
日本文化私観 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
京水が放蕩ほうとうであった。そこで京水を離縁して門人晋を養子に入れたとすれば、その説通ぜずというでもない。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
私は或階級の自堕落な女が昔から行っている乱行に類似したような放蕩ほうとうあえてして、個性の権威を自覚した女、新生活を建てた女と自負する一部の婦人たちに
鏡心灯語 抄 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
長らくの放蕩ほうとうで、どこか疲れたようなようすをしているが、美しい面ざしはむかしとすこしも変わらない。
そのつぎに、『自分の道楽子息むすこ放蕩ほうとうのやむかやまざるか』をたずねたるに、『やみます』と答えたり。
妖怪玄談 (新字新仮名) / 井上円了(著)
思いやると、この放蕩ほうとうおやじでも実があって、可哀そうだ。吉弥こそそんな——馬鹿馬鹿しい手段だが——熱のある情けにも感じ得ない無神経者——不実者——。
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
小山は物堅い人物と聞いて嫁に来たけれどもやっぱり以前は放蕩ほうとうでもして高利貸の金を借りていたのか
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
好色で放蕩ほうとう剽軽者ひょうきんものの彼には、褊一枚の白拍子を抱いて、乱痴気さわぎをやっているところの、この無礼講というものが、どうにも面白くてならないようであった。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
だがそのために、今まで放蕩ほうとうしたこともなく、長い物には巻かれろ主義で、ひたすら家庭平和を保持している良人が、物足りない以上に、憎らしくさえ思っている。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
たまたま以前私の書いた詩を読んだという人に逢って昔の話をされると、かつていっしょに放蕩ほうとうをした友だちに昔の女の話をされると同じ種類の不快な感じが起った。
弓町より (新字新仮名) / 石川啄木(著)
例の放蕩ほうとう子息がひざまずいて泣いた時、かれはその過去の罪悪および苦悩をば生涯において最も美しく神聖なる時となしたのであると基督がいわれるであろうといっている。
善の研究 (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
勿論もちろん西洋ではどんなことがあったかも知れないし、帰朝してからも大分新橋赤坂あたりで遊んでおり、放蕩ほうとうの味は知っているらしいのであるが、それも去年ぐらい迄で
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
もう二度と浮気うわきはしないと柳吉はちかったが、蝶子の折檻は何の薬にもならなかった。しばらくすると、また放蕩ほうとうした。そして帰るときは、やはり折檻をおそれて蒼くなった。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
私は放蕩ほうとう息子のようにあなたたちのもとを去って、通りがかりの人影について行った。けれどまたもどって来た。私を迎えてほしい。私たちは死者も生者も皆一体である。
それに、例のロシア式の無茶と奢りで精いっぱい放蕩ほうとうをやり、一生を浮いた浮いたで暮らしているような地主がそこいらにごろごろしているのだから、なおさら不思議だ。
音楽上の天分をもちながら放蕩ほうとうに身をもちくずした父、いやしい育ちではあるが家計にたくみでまた優しい清い心を具えている母、一生を神に託して行商の旅に流浪してる叔父
まして倫理を教ふる教師にして多少欠点あるの人ならんか、生徒はその講義に対してむしろ悪感情をき起すを常とす。かつて倫理学の先生あり、年六十にして遊里に放蕩ほうとうす。
病牀譫語 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
健吉くんは大学を卒業してから、デパートメント・ストアで名高いM呉服店の会計課に勤めることになりましたが、保一くんは大学を中途にて退学し、放蕩ほうとうに身を持ち崩しました。
愚人の毒 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
けれども異国語の難関をのり越え、爛熟らんじゅくした生活感情を咀嚼そしゃくしてまで、老大国の文学を机辺の風雅とすることは、あまりに稚い民族には、いまだ興り得ない、精神の放蕩ほうとうであった。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
が、そのころ、一週間もめちゃくちゃな放蕩ほうとうをしたのち、私はもっとも放縦な学生の数人を自分の部屋での秘密な酒宴に招待したのであった。私たちは夜がよほどけてから集まった。
理智の技巧を離れて純粋な学問的思索にふけるとき、感情の放蕩ほうとうを去って純粋な芸術的制作に従うとき、欲望の打算を退けて純粋な道徳的行為を行うとき、私はかような無限を体験する。
人生論ノート (新字新仮名) / 三木清(著)
その中に、伯爵の放蕩ほうとう息子だという若者が一人混っていて、おどけた表情でバンド一座の采配さいはいを振っており、その様子がいかにも粋人のなれの果てと云いたい枯れた手腕を発揮していた。
罌粟の中 (新字新仮名) / 横光利一(著)
即ち戸外の義士は家内の好主人たるのじつを見るべし。いかなる場合にも放蕩ほうとう無情、家を知らざるの軽薄児が、く私権のために節を守りて義を全うしたるの例は、我輩の未だ聞かざる所なり。
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
校長先生に誘惑されて無情な放蕩ほうとうばかりしてお出でになる義理のお父様に仕えながら、そんな事情を世間へらさないために、女中も置かないで、黙って楽しそうに立ち働いてお出でになる
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
唄つてゆきながら、ゆき子は、放蕩ほうとうの果てのやうなさんだ気持ちだつた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
木更津あたりの料理店の女将おかみであるしゅうとめ仕来しきたりとは、ものみながしっくりとゆかなかったその上に、若主人は放蕩ほうとうで、須磨子は悪い病気になったのを、肺病だろうということにして離縁された。
松井須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
しかるに其方は頑固すぎる拙者よりも、かの放蕩ほうとうの片里を好み、だんだん拙者にはうとくなったに依り、此頃では打絶えて訪れも交さねど、それは其方の求めた事で、決して拙者の本意ではない。
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
だが軍隊生活の土産みやげとして、酒と女の味を知った彼は、田舎の味気ない土いじりに、もはや満足することが出来なかった。次第に彼は放蕩ほうとうに身を持ちくずし、とうとう壮士芝居の一座に這入はいった。
軍人の事ゆえ、時々、転任するので、その間淋しいらしく、男の子は「二宗商店」という、例の「照葉」に指を切らした放蕩ほうとう息子を生んだ大阪屈指のべっ甲問屋へ奉公へ出ていていないし、それで
死までを語る (新字新仮名) / 直木三十五(著)
今はじめて知ったかッ。放蕩ほうとう無頼に身をもちくずしたために、南部家を