はこ)” の例文
そして誰も食料をはこぶ者がなかったままに、とうとう餓死してしまったものである。これも蠅男の残忍性を語る一つの材料となった。
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
トラック三台ではこびつけたのだつたが、工事は中途から行き悩みで、木山が気をみ出した頃には、既に親方も姿をくらませてゐた。
のらもの (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
オヤあの人は急用もないのに車へ乗って身体からだはこばせている、もしや病気になって足がかないのでないかとこういう風になりましょう。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
そのいくらかをはこんできて、職員達は花壇の肥料にした。局内の菊花壇は、毎年美事な花を咲かせるのを彼女達は知っていた。
工場新聞 (新字新仮名) / 徳永直(著)
それをやる所に空想妄想の発生を自ら防ぐ途が開けて来る。そうしてその中から水を汲み柴をはこぶ即ち是れ神通妙用じんずうみょうゆうという智慧が湧き出る。
僧堂教育論 (新字新仮名) / 鈴木大拙(著)
家内の嫁入りの蒲団をはこび込んでいました時には、阿母はもう昨夜ゆうべまで私たちの使っておりました例の蒲団の上に横になって
蒲団 (新字新仮名) / 橘外男(著)
そうして、其処から、しきりに人が繋っては出て来て、石をく。木をつ。土をはこび入れる。重苦しい石城しき。懐しい昔構え。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
そうかと思うとまたある日本食堂で最近代的な青年二人と少女二人の一行が鯛茶たいちゃを注文していたが、それが面前にはこばれたときにこの四人の新人は
雑記帳より(Ⅰ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
東福寺の門前は、日々、おびただしい往来だった。多くは京都の豪商や公卿くげたちであった。また、社寺の使い、用度の品をはこびこむ商人、何しても雑沓ざっとうだった。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
運河から荷を揚げて倉庫へ運ぶ人夫になつた。重いこりを肩にしてうつむき加減にはこんでゐる仙吉の目の下に大きな手がその日の給料をのせてさし出された。
反逆の呂律 (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
彼は灰をはこぶ時にそれも一緒に家へ持って行くつもりだったに違いないと言った、楊小母さんはこれを見つけ出したのは自分の大へんな手柄だというので
故郷 (新字新仮名) / 魯迅(著)
みぎわの柳、小さな柴橋、北戸の竹、植木屋に褒められるほどのものは何一ツ無く、又先生の眉をしわめさせるような牛にはこばせた大石なども更に見えなくても
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
外に三千子の死骸をはこぶ様な人がありませんもの。しかし、そんなことを今更詮索せんさくして見たって始まらないわ。小林さん、あたしどうすればいいんでしょうね
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
柏軒は翌年お玉が池に第宅ていたくを移す時も、家財と共にこれを新居にはこび入れて、一年間位鄭重ていちょう保護ほうごしていた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
今にも天井がちそうになったので、大急ぎでわたし達を安全な場所へはこびだしてくれたそうですが、わたし達が正気にかえったときは、赤ん坊は一人っきりで
二人の母親 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
我心は何故とも知る由なけれど、唯だ推されかるゝ如くなりき。われは埠頭ふとうにおり立ちて、行李をはこび來らしめ、目を放ちて海原を望み見たり。さらば/\我故郷。
それでも白木の棺だけは用意されて、其処からは一丁程しかないお寺の墓地にはこばれたのである。
そこには洋館の入口の扉を半ば開けて島田髷しまだまげの女が半身はんしんあらわしていた。それは昨夜ゆうべ飲み物をはこんで来た女であった。謙作は昨夜ゆうべの家の前に帰っていることに気がいた。
港の妖婦 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「憎いだらう、君、女が憎いだらう。」と、湯村は自分の言葉ばかりサツサとはこぶ。
茗荷畠 (新字旧仮名) / 真山青果(著)
構わずに道具をはこび出してくれと云って、自分はどこへか立ち去ってしまいました。
半七捕物帳:67 薄雲の碁盤 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「船にて和泉の土をはこび申そう、和泉の土は子供を落着かせて眠らせるであろう。息子殿の父御ほどござって死後にも難題を申さるる方じゃ、息子も甚だ残念を致したであろうに。」
姫たちばな (新字新仮名) / 室生犀星(著)
かねて買ってあったしばを、この家のめぐりへはこび出してくれ、わしも手伝うから」
討たせてやらぬ敵討 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
二百里の長き車は、牛を乗せようか、馬を乗せようか、いかなる人の運命をいかに東のかたはこび去ろうか、さらに無頓着むとんじゃくである。世をおそれぬ鉄輪てつわをごとりとまわす。あとは驀地ましぐらやみく。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
煮炊にたきをするのだ、山頂の風雨とはいいながら、焚火さえあれば、先ず生命に別条がないということを知っているから、連中懸命になって、薪材を山のようにはこんで、火のそばへ盛り上げたものだ
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
眩暈めまいと激烈なる頭痛とに悩まされて、石工らの倒るるあり、またほどなく落成せんとたのしめる前日に、暴風雨の襲来にい、数十日の日子にっしと労力とを費してはこげたる木材を噴火坑内に吹き飛ばされ
ところへ女中が二人お膳をはこんで来た。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
それで肉を斬ってはこんでいる。
アイヌ神謡集 (新字新仮名) / 作者不詳(著)
すると土は、地下戦車の胴にあたるが、戦車の胴の前方は、深いみぞのついたゆるやかな廻転式のコンベヤーになっていて、土をあとはこぶのだ。
未来の地下戦車長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
夕方なぞ時々田浦の町からはこんで来る氷が間に合なくて、あのお爺さんが淋しそうに村の氷屋へ氷を求めに来たということ。
逗子物語 (新字新仮名) / 橘外男(著)
国々の神部カムベ乞食こつじき流離の生活が、神を諸方へ持ちはこんだ。これをてっとりばやく表したらしいのは、出雲のあはきへ・わなさひこなる社の名である。
水の女 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
庸三はその時担架に乗って、病室からはこび出されて行く葉子について、つい手術室の次ぎの室に入って行った。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
彼の誇大妄想狂の原因は彼の蒐集した書物にあるから、これを焼き捨てなければいけないというので大勢の役人達が大きな書物をかかえてはこび出す場面がある。
雑記帳より(Ⅱ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
はずれの、町との境にある「益城屋」は、白い壁の米倉が、幾十とならんでいた。景気のいいときは、此処ここの倉庫は、ガラン堂になるように米が倉からはこび出された。
戦争雑記 (新字新仮名) / 徳永直(著)
捕卒は銀錠をって臨安府の堂上へはこんで来た。許宣はそこで盗賊の嫌疑は晴れたが、素性の判らない者から、ひそかに金をもらったと云うかどで、蘇州そしゅう配流ついほうせられることになった。
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
さうして彼女かのぢよなにらずに、婦人達ふじんたち見守みまもられながら、しづかに寢臺車しんだいしやはこばれた。
彼女こゝに眠る (旧字旧仮名) / 若杉鳥子(著)
家を建てるよりかもっとかかりますね、しかしあの大きい松だけたすかっているのは、全くの拾い物ですね、よかったですな、かれはそういうと百年くらいの松をくるまではこんだ時の苦心と
生涯の垣根 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
今の世の人を評しますと下駄と帽子と身体からだはこぶ事は身分不相応に贅沢ぜいたく
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
空虚からの棺桶は、ローマの国会議事堂前へなぞらえた壇の下に、えられていたが、これはふたたび女生徒に担がれて講堂入口の方へはこばれた。
棺桶の花嫁 (新字新仮名) / 海野十三(著)
車を出迎えて扉を開いたユアンは、やがて旅行鞄トランクを書斎の中へはこび入れたのであったが、出て行こうとするそのユアンをさえぎって私は丁寧な礼をした。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
番頭はぱちぱち算盤そろばんはじいて、何か取引を開始し、押問答の末、冬物全部が手押車に積まれ、二人の小僧によってはこばれ、夏物と入れ替わりになるのだった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
池上の堤で命召されたあのお方のむくろを、罪人にもがりするは、災の元と、天若日子あめわかひこの昔語りに任せて、其まま此処におはこびなされて、おけになったのが、此塚よ。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
それにも関らず光が一種のエネルギーであるという考えは少しも動かされない。光がエネルギーをはこぶと考えると光のあらゆる物理的化学的性質を説明して矛盾するところがない。
物質とエネルギー (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
あきれた。彼女かのぢよ屍體したい白布しろぬのおほはれて、その屍室ししつはこばれた。
彼女こゝに眠る (旧字旧仮名) / 若杉鳥子(著)
家の中から、大きな下駄を突ッかけた六歳ばかりの女のが、鼻汁をすすりあげながら出てきた。そしていきなり品物でもはこぶように、狂人のへ両手をあてがうと、グングン家の方へ押しやった。
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
恰度ちょうど、童子が亡くなりましてから七日目に、年来知っております山樵がわたくしの家へたきぎはこんでまいりまして、そして阿闍利さまが世にも恐ろしいありさまでおられることを知ったのでございます。
あじゃり (新字新仮名) / 室生犀星(著)
島田髷の女が広蓋ひろぶたに入れて料理をはこんで来てテーブルの前に置いた。
港の妖婦 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そして其の身体の直ぐ近くに装置をはこぶと、複雑なスウィッチや抵抗器やダイヤルを操って、興奮曲線を出すために数値データを観測したのだった。
キド効果 (新字新仮名) / 海野十三(著)
私も夢中で宿屋の中へ駈け込んで、帳場から座布団をはこび出そうとしたが、もうその時には、奥から男衆たちがどんどん蒲団をかつぎ出すところであった。
生不動 (新字新仮名) / 橘外男(著)
当麻路に墓を造りました当時そのかみ、石をはこぶ若い衆にのり移ったたまが、あの長歌をうとうた、と申すのが伝え。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
車で二度にはこび込まれた植木類を、すっかり庭の方へ始末をしてから、お島にはどこへ往くとも告げずに、またふいと羽織や帽子をて出て往ったが、お島はその晩裏から入って来た壮太郎が
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)