かか)” の例文
両性の関係はかくの如く重つ大なるものあるにかかわらず、古来この問題が如何いかほど研究されたかというに、はなはだ怠られて来て居る。
婦人問題解決の急務 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
年は二十はたちを多くは出ていなかったゞろう。が、そうした若い美しさにもかかわらず、人を圧するような威厳が、何処どこかに備わっていた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「そんな者はない」にもかかわらず、ほんの一時の物好きと肉体的の要求とから、いかがわしい女を求めに行くと云うことだけだった。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
最初の印象は最も感銘の深いものであるにかかわらず、此時は金峰山を除いて、秩父の山から何等の印象を受けなかったものと思われる。
思い出す儘に (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
戦時中、老媼の一家がいまのところに引越して来たにもかかはらず将棋の如き、かういふ品物をも無くさずに持つてゐたのであつた。
日本大地震 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
しかも、それにもかかわらず、依然として此の生の歩みは辛い。私は私の歩み方の誤を認め、結果の前に惨めに厳粛に叩頭こうとうせねばならぬ。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
そういう弥吉の目には、測り知れない例の憎念が、微笑んでいるにかかわらず、児太郎の目に停らぬ程度で現われていたのである。
お小姓児太郎 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
目黒の与吉は、何が何やら解らない様子で、ぼんやり二人の話を聴いておりましたが、気が付くと沽券こけんかかわると思ったものか
隠退させるために来た、にもかかわらず、きさまは城代におべっかを使い、ごまをすり、逆に城代を居据らせてしまったではないか
半之助祝言 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
しかるにこの品がこの様に正にアマリリスの正品であるにかかわらず世間では決して単にこれをアマリリスとはいわないのである。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
にもかかわらず、誰よりも大きな打撃をうけたのは女の閑子なのだ。しかも閑子は投げ出された自分の羽目に、今もって納得できないでいる。
妻の座 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
人々の智愚ちぐ賢不肖けんふしょうかかわらず、上士は下士を目下に見くだすとふうもっぱら行われて、私は少年の時からソレについ如何いかにも不平でたまらない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
そこの所が一寸ちよつと明晰に区別が立たないものだから、相手は馬鹿の様な気がするにもかかはらず、あまり与次郎の感化を蒙らない。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
しかし、この語が、かかる状態で世に喧伝けんでんせられているにかかわらず、それが何を指しているかは、実は明かに示されていないといってもよい。
日本精神について (新字新仮名) / 津田左右吉(著)
上野の図書館は、コレラ流行時にかかわらず、意外に賑って居た。死神が横行するとき、読書慾の起るのは古来の定則である。
死の接吻 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
当然老中会議が行われた上で罪科が決定するものと予想されていたにもかかわらず、将軍綱吉の一存によってその日の中に切腹が申し渡された。
本所松坂町 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
「せめては下肥しもごえ位はたまるだらう」と校長先生が考へたにもかかはらず、校長先生の作男が下肥を汲みに行く朝は、其処は何時もからつぽだつた。
事実、演者がその心持でシカケてヒラクと、観者は主観的に演者を鬼と感じてしまうので扮装の有無にはかかわらない。扮装していれば尚鬼である。
能とは何か (新字新仮名) / 夢野久作(著)
セマン人いわく、太古夫婦あれど子を生む事を知らず、他の諸動物皆子あるに我独りなしと恥じ入り、薪をかかえて子を持ったごとく見せかけた。
ところが私が身分などを言うてはならぬといましめて置いたにかかわらず、主人が「このお方はセラのアムチーでなかなかたっとい方、法王の侍従医です」
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「一千一夜物語」は子供のあひだに知れ渡つてゐるにもかかはらず本当の値打が僅かに亜剌比亜アラビア語学者にしか認められてゐないと云ふ感慨がれて出た。
これをもってわが指令書の中にも、しゅとして土国の嫌疑けんぎかもすべき諸事を避け、宗教の事にかかわる条款じょうかんに至りては、ことに過多の寛裕を与えたり。
二十七 しかし博士のかかる用心にかかわらず、世界は実に心配した。火星からの信号が益々激しい。確かにこれは一種の警報である、警告である。
暗黒星 (新字新仮名) / シモン・ニューコム(著)
わが隊の携帯用無電機眼がけて拳をふりあげて来った怪物団は、その甲虫の如き頑丈なる身体つきにもかかわらず、力ははなはだ弱きことを発見せり。
大宇宙遠征隊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「——御訓誡ごくんかい、ありがとう存じまする。……にもかかわらず、慈悲の御袖みそでにすがって、おねがい申さねばならぬ儀は」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
シカモ大筋ニ臨ムニおよびテ私情ニかかハリ公義ヲ失フニ非ラザレバすなわち畏縮退避シテ活ヲ草間ニぬすムモノ往往ニシテアリ。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
市五郎はれ気味で独言ひとりごとを言っているにかかわらず、自分は長火鉢の前へ御輿みこしを据えて、悠々と脂下やにさがっていました。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
アメリカではあんな髭をはやしているのは黒ン坊ばっかりだから、あの髭はあなたの人気にかかわります。
お蝶夫人 (新字新仮名) / 三浦環(著)
痴人しれものというのはそち達がことじゃ。先夜上野の山下で初めて汝らに巡り合い滾々こんこん不心得をさとしたにもかかわらず、今夜再び現われ出で、押し借りの悪行を働くとは天を
紅白縮緬組 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
武甲山より二里ばかり奥に、三峰山みつみねざんがあって、三峰神社の信仰者は多く登山するが、武甲山の方は近いにかかわらず、信仰のともなわない山だから、滅多に登山するものがない。
武甲山に登る (新字新仮名) / 河井酔茗(著)
けだしこれ本校の世好にかかわらずその理学の一科を設け、数年のち大にこれを勧むるの地歩を為さんと欲するもの。余、その用意の疎ならざるを賀するなり(喝采)。
祝東京専門学校之開校 (新字新仮名) / 小野梓(著)
一つの季節までが附け加えられ説明せられているにもかかわらず、この親切な下の句は、結局芭蕉の名句を殺し、愚かな無意味なものとするほかには何の役にも立っていない。
FARCE に就て (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
それにもかかわらず、私はときどきややもするとそれのものことごとくを見失い、そしてまるっきり放心状態になっている自分自身に気がついて、思わずどきっとするのだった。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
もう十分暗黙の了解が成立っていると確信していたにもかかわらず、Tはまだ仕事以外の言葉を話しかける勇気がなく、相変らず帳簿のことなぞを話題にしてS子と話していました。
算盤が恋を語る話 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
貫一はその何の意なりやをおもはず、又その突然の来叩おとづれをもあやしまずして、畢竟ひつきよう彼の疏音なりしはその飄然ひようぜん主義のかからざるゆゑまじはりを絶つとは言ひしかど、よしみの吾を棄つるに忍びざる故と
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
けれども彼の年輩の少年にまけは取らなかった。彼は家庭の影響と貧苦の影響とで至って柔和な少年であった、——むしろ弱い少年であった。にもかかわらず彼は非常な野心を抱いていた。
愛か (新字新仮名) / 李光洙(著)
川が暖かい陽当たりに向いて流れるにもかかわらず、利根川の方が水温が低い。
水と骨 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
主義だから、早速、俺の左に坐つて居た奴を捕へて話しかけた。「君もこん度が始めだね」と、聞くと「そーだ」と云ふ。「どんな風だつたい」と、チヨツカイをかけると、すぐかかつたね。
俺の記 (新字旧仮名) / 尾崎放哉(著)
平三郎は眼をみはっておどろいてこっちを見ている婢と顔を見あわした。今の女はたしかにその婢のようであるが、第一右の首筋をしたたか斬ってあるにかかわらず、傷らしいものも見えない。
水面に浮んだ女 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
ほっすると否とにかかわらず、ぼくねんじんの顎十郎がいつの間にか、江戸でこんな大勢力になっているということは、たれもあまり知らない。いわんや、叔父の庄兵衛などが知ろうはずがない。
顎十郎捕物帳:05 ねずみ (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
参謀長磊落らいらく物にかかはらざるが如くわれらに向つて常に好意を表す。しかれどもいまだかつて管理部長を叱責せしことを聞かざるなり。これまたその磊落なるの致す所かた部長特にそのちょうを得たるか。
従軍紀事 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
おはりにのぞくまに就て一言すべし、熊の巣穴は山中に無数あるにもかかはらず、藤原村に於て年々得る所のくまは数頭のみ、之れ猟師の勇気いうき胆力たんりよくと甚少きを以てなり、即ち陥穽かんせいもうけて熊をりやうするあり
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
あだなることにかからいて、泣くことを忘れいたりしよ、げに忘れ
二十歳のエチュード (新字新仮名) / 原口統三(著)
また教育上の智識も経験も無いにかかわらず、成瀬君の女子大学設置に熱心な賛成を致し、つご依頼に依て多少知るところの友人
国民教育の複本位 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
それにもかかわらずただ一筋に妻をおもうと言いくだし、それが通俗に堕せないのは、一首の古調のためであり、人麿的声調のためである。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
信一郎が夫人の本心を知ってから、可なり妥協的な心持になっているのにもかかわらず、夫人の態度の険しさは、少しもゆるんでいなかった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「若様は急に命にかかわる事もありますまい。それより大事なのは、お家の瑕瑾きずにもなる縄付の始末です。利助はいつ頃ここを出かけました」
それで三左衛門を呼び、「今日の犬追い物は当藩弓道の名誉を見せるもので、その成敗は池田家の面目にもかかわるものだからすぐに出仕せよ」
備前名弓伝 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それにもかかわらず、直接証拠がないために、彼を罪に陥れることが出来ません。即ち男が自白しない限りは彼を罰することが出来ないのです。
三つの痣 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
この様にその事実が最も明瞭なるにかかわらず、我が邦人はどうしてこれを間違え Ovule を胚珠としたのかというと
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)