徒然つれ/″\)” の例文
新納武蔵に可愛がられてゐた若い小間使こまづかひがあつた。ある日雨の徒然つれ/″\に自分の居間で何だかしたゝめてゐると、丁度そこへ武蔵が入つて来た。
天城を越したら送れと言つたY君を始め、信州のT君へは、K君と私と連名で書いた。旅の徒然つれ/″\に土地の按摩を頼んだ。温暖あたたかい雨の降る音がして來た。
伊豆の旅 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
或時あるとき徒然つれ/″\なるにまかせて、書物しよもつ明細めいさい目録もくろく編成へんせいし、書物しよもつにはふだを一々貼付はりつけたが、這麼機械的こんなきかいてき單調たんてう仕事しごとが、かへつて何故なにゆゑ奇妙きめうかれ思想しさうろうして、興味きようみをさへへしめてゐた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
若い嫁さんが、離れにゐる土井の徒然つれ/″\を慰めにあがつて来て、お茶をいれながら死んだ人のことを話した。それほど兄は皆から慕はれてゐた。彼の潔白と正直が、社会的には彼に幸ひしなかつた。
(新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
櫻木海軍大佐さくらぎかいぐんたいさ元來ぐわんらい愛國あいこく慷慨かうがいひとかつ北海ほくかい滊船きせん面會めんくわいしたときも、談話だんわこゝおよんだときかれはふと衣袋ポツケツトそこさぐつて、昨夜さくや旅亭りよてい徒然つれ/″\つくつたのだとつて、一ぺん不思議ふしぎ新體詩しんたいししめされた。
椽側えんがは白痴あはうたれ取合とりあはぬ徒然つれ/″\へられなくなつたものか、ぐた/\と膝行出いざりだして、婦人をんなそば便々べん/\たるはらつてたが、くづれたやうに胡座あぐらして、しきりわしぜんながめて、ゆびさしをした。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
時しもあれや、徒然つれ/″\ゑひをさなき心に浮び
始として加茂北野金閣寺其外遊所いうしよはもとより人立しげき方へ行ては尋ぬれども此處にも更に手掛りなく彼是と半年ばかりも暮しけるうち或日あめつよふりて流石の忠八も此日は外へも出ず宿屋に一人徒然つれ/″\に居たりしに此家の亭主出來いできたり偖も折惡敷をりあしき雨天にてお客樣には嘸かし御退屈ごたいくつならんと下婢げぢよ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
秋篠寺あきしのでらの伎芸天女や、薬師寺の吉祥天きちじやうてんといつたやうな結構な美術品は幾度となく見は見たが、いつといふ事なし、それだけでは何だか物足りなくなつて、旅籠はたご徒然つれ/″\
徒然つれ/″\な舟の中は人々の雑談で持切つた。就中わけても、高柳と一緒になつた坊主、茶にしたやうな口軽な調子で、柄に無い政事上の取沙汰とりざた菎蒻こんにやくのとやり出したので、聞く人は皆な笑ひ憎んだ。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
この飜譯ほんやくは、仕事しごと餘暇よか水兵等すいへいら教授けふじゆためにと、大佐たいさ餘程よほど以前いぜんから着手ちやくしゆしてつたので、のこ五分ごぶんいちほどになつてつたのを、徒然つれ/″\なるまゝ、わたくし無理むり引受ひきうけたので、その飜譯ほんやくまつたをはつたころ
五日いつか六日むいか心持こゝろもちわづらはしければとて、きやくにもはず、二階にかい一室ひとまこもりツきり、で、寢起ねおきひまには、裏庭うらにはまつこずゑたかき、しろのもののやうなまどから、くも水色みづいろそらとをながら、徒然つれ/″\にさしまねいて
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「紹巴か、よく参つて呉れたの。徒然つれ/″\の折ぢや、今日は連歌の話でもしてりやれ。」
半日の徒然つれ/″\を慰めようとした。
山陰土産 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)