幼児おさなご)” の例文
旧字:幼兒
われわれの責任以外知る以外の独自どくじの立場を持っているおさなご、じつにわれわれの幼児おさなごに対する思いは複雑でなくてはなりません。
おさなご (新字新仮名) / 羽仁もと子(著)
あなたがたは恋人の心を直感するように敏捷びんしょうに、幼児おさなごを愛するように誠実に、時代の優良な新人物を選択することが出来るはずである。
鏡心灯語 抄 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
さて最初さいしょ地上ちじょううまでた一人ひとり幼児おさなご——無論むろんそれはちからよわく、智慧ちえもとぼしく、そのままで無事ぶじ生長せいちょうはずはございませぬ。
川音がタタと鼓草たんぽぽを打って花に日の光が動いたのである。濃くかぐわしい、その幾重いくえ花葩はなびらうちに、幼児おさなごの姿は、二つながら吸われて消えた。
若菜のうち (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
親も兄弟も親戚もなんにもない、一人ぼっちの幼児おさなごが、この世から、どんな待遇を受けるかということを、君達は知っているか。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
お市の方の泣き悲しむ様や、長政のおもてや、幼児おさなごたちの無心なすがたや——どうも奥の様子が想像されてならなかった。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
無心の幼児おさなごがお文の名を呼びつづけるのを利用して、かれはにわかかに怪談の作者となった。その偽りの怪談を口実にして、夫の家を去ろうとしたのであった。
半七捕物帳:01 お文の魂 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
まことに、このさびしい年寄と、幼児おさなご、この二人だけが、心をつくして病気の犬を見守るのでした。小屋の隅には、枯草を山のように積んで、犬の寝床ができました。
人間にたっとぶべきは、聖書に「もし汝らひるがえりて幼児おさなごのごとくならずば、天国に入るを得じ」
『グリム童話集』序 (新字新仮名) / 金田鬼一(著)
彼の光輝に満ちた笞は真理を生々しく語るものです。彼が幼児をしてシニテ・パルヴュロス(訳者注 幼児をして我にきたらしめよ)と叫んだ時、彼は幼児おさなごの間に何らの区別をも立てなかった。
眠りに入るとすぐ、満山の緑清冽せいれつな小川の縁を、酔っぴて幼児おさなごとなって駈けまわるのである。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
なんでも其の顔付は、極端な腎臓病にかかっているような徴候らしくあった。それだのにこうして医者にも見せずにしかも幼児おさなごの守をさして置くのは畢竟ひっきょう貧しいが為ではなかろうか。
ある日の午後 (新字新仮名) / 小川未明(著)
幼児おさなごのことだから、埋葬の準備も成るべく省くことにして、医者の診断書を貰うことだの、警察や村役場へ届けることだの、近くにある寺の墓地を買うことだの、大抵のことは自分で仕末した。
芽生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
たとへば床の浄瑠璃の「あとには一人ひとり母親が」とかあるひは「すかせばすやすや幼児おさなごが」といふが如きは文字の上より見れば全く無用の説明に相違なしといへどもその語る節廻と合ノ手とは決して然らざるものなり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そして、ただ幼児おさなごのように楽しく遊んでいると聞く。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
我意がいを通そうとするみにくい泣き顔、人前にはかくしておきたい悲しい動作を、その幼児おさなごのさまざまの生活の場面にみないでしょうか。
おさなご (新字新仮名) / 羽仁もと子(著)
トコトン/\、はらり/\、くるりと廻り、ぶんと飛んで、座はただ蠅でおおはれて、はておびただしいかなうずまく中に、幼児おさなごは息がとまつた。
蠅を憎む記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「三名して、夫人おく幼児おさなごたちの身をまもり、木下藤吉郎を案内として、く、城外へ落ちのびよ。すぐ行けッ」
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
通行人の同情を惹く為に、乞食に傭われた幼児おさなごが、どんなに巧みにひもじさを装い、側に立っている大人乞食を、さも自分の親であるかの如くに装うことが出来るか。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
だれかがそばから世話せわをしてくれなければとても三とはきてられるはずはございませぬ。そのお世話掛せわがかりがつまり守護霊しゅごれいもうすもので、かげから幼児おさなご保護ほごあたるのでございます。
この犬一ぴきが、彼等——老いぼれた不具者と頑是がんぜない幼児おさなご——にとっては、ただ一人の稼ぎ人、ただ一人の友達、ただ一人の相談相手、杖とも柱ともたのむ、ただ一つの頼りなのでした。
偶然ふとした北の故郷にあった幼児おさなごの昔を懐想して、黄色な雲——灰色の空——白衣の行者——波の音——眼に尚お残っている其等それらの幻が私の心からぬぐい去られないで、いかにも神秘に感ぜられる。
北の冬 (新字新仮名) / 小川未明(著)
打騒ぐ幼児おさなご甲高かんだかくやさしき叫び。
これにめくるめいたものであろう、啊呀あないまわし、よみじの(ことづけ)をめたる獅子を、と見る内に、幼児おさなごは見えなくなった。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
幼児おさなごはまたわれらのよろこびであります。それはだれでも知っています。それゆえに私たちは、彼らにひきつけられて、そうして彼らを愛します。
おさなご (新字新仮名) / 羽仁もと子(著)
だが、彼にはただひと粒の幼児おさなご、巌之助があった。この頑是がんぜないものまでを、死なすにはしのびない。また武門の意義を負わせるには——余りにもまだ年少すぎる。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ところが進一少年の様な幼児おさなごとなると、問題は別です。骨の細い幼児なら、あすこをくぐって、部屋へ出入りすることが出来るのです。アア何という巧みな思いつきでしょう。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
が、一人ひとり幼児おさなご母胎ぼたい宿やどったときに、同一系統どういつけいとう竜神りゅうじんがその幼児おさなご守護霊しゅごれいまた司配霊しはいれいとしてはたらくことはけっしてめずらしいことでもない。それが竜神りゅうじんとして大切たいせつ修業しゅぎょうひとつでもあるのじゃ……。
さしたてのしおが澄んでいるからのぞくとよく分かった——幼児おさなごこぶしほどで、ふわふわとあわつかねた形。
海の使者 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そして、自分で白い胸をはだけると、寝ている幼児おさなごくちへ、いるように、乳ぶさをふくませ
春の雁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
都会の新式の家にすむ知識階級の母親から、農村の茅屋ぼうおくにすんでいる母親まで、赤ん坊や幼児おさなごの強い自力に気がついていないことにおいては、全然同一ではないかと思われます。
おさなごを発見せよ (新字新仮名) / 羽仁もと子(著)
細い乳を含めてる、幼児おさなごが玉のような顔を見ては、世に何等かの大不平あってしかりしがごとき母親が我慢の角も折れたかして、涙で半襟の紫の色のせるのも
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
官兵衛は、早速、平井山へもどると、秀吉の前に出て、敵将から託されたこの幼児おさなごを見せた。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
陽気はそれでもかったが、泳ぎは知らぬと見える。ただいきおいよく、水を逆にね返した。手でなぐって、足で踏むを、海水は稲妻いなずまのように幼児おさなごを包んでその左右へ飛んだ。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それと、当時、世人のものとなって、ひそかに涙をそそがれたのは、荒木久左衛門の息子で十四歳になる少年と、伊丹安太夫のせがれのわずか八歳といういたいけな幼児おさなごだった。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
玉日は、乳をすう幼児おさなごの顔をじっと見ていた。自分が一つの母胎ぼたいであると共に、良人が、億万の民衆に愛と安心の乳をそそぐ偉大な母胎ぼたいでなければならないことがよく分った。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
座に着いて、針箱の引出ひきだしから、一糸いっし其の色くれないなるが、幼児おさなごの胸にかゝつて居るのを見て
蠅を憎む記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
されば幼児おさなごが拾っても、われらが砂から掘り出しても、このものいわぬは同一おなじである。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
なぜならば、もういつもの半狂乱のていになった田弓は、そこに仲よく遊んでいる頑是がんぜない二人の幼児おさなごを、ころしかねない血相で抱きしめ、手に、懐剣を抜いているからだった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
棟瓦むねがわらをひらりとまたいで、高く、高く、雲の白きが、かすかに動いて、瑠璃色るりいろ澄渡すみわたった空を仰ぐ時は、あの、夕立の夜を思出おもいだす……そして、美しく清らかな母の懐にある幼児おさなごの身にあこがれた。
霰ふる (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そして、邸内の草茫々たる一隅には、幼児おさなごのおむつが干してあったり、幼子が、食物をねだって泣きぬいている声までが——やしきは広いが——何となくつつ抜けに、風も一しょに通っている。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一個ひとり幼児おさなごを抱きたるが、夜深よふけの人目なきに心を許しけん、帯を解きてその幼児を膚に引きめ、着たる襤褸らんるの綿入れをふすまとなして、少しにても多量の暖を与えんとせる、母の心はいかなるべき。
夜行巡査 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
長政はこれにおるが、何も知らぬ幼児おさなご生命いのちやくして、ものをいおうとは、卑劣ないたし方。そちも織田家の一方の将、木下藤吉郎というほどの者ならば、さような奸策かんさくはみずからに恥じたがいい。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
指でこしらえたような、小さな玩弄おもちゃの緑の天鵝絨びろうど蟇口がまぐちを引出して、パチンとあけて、幼児おさなごが袂の中をのぞくように、あどけなく、嬉しそうに、ぱっちりした目を細めて見ながら、一片ひとひらの、銀の小粒を
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)