“寒気(さむけ)” の例文
旧字:寒氣
お君はその時に身のうちに寒気(さむけ)を感じて、いつのまにか、恥かしい寝衣姿(ねまきすがた)で、奥庭の池のほとりに立っている自分を見出しました。
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「いや、ルーブル紙幣の名を聞いただけで、寒気(さむけ)がしてぶるぶると慄(ふる)えが出る。そんなものを紙幣で頂(いただ)こうなど毛頭(もうとう)思っとらん」
臭(くさ)いの汚(きた)ないのというところは通り越している。すべての光景が文学的頭の矢野には、その刺激(しげき)にたえられない思いがする、寒気(さむけ)がする。
廃める (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
将門は、肚(はら)の中で、かぶとを脱いだ。と同時に、不死人が都においての神出鬼没ぶりを思い出して、急に、酔が寒気(さむけ)に変った。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ぞっとして寒気(さむけ)を覚えながら、葉子は闇(やみ)の中に目をさました。恐ろしい凶夢のなごりは、ど、ど、ど……と激しく高くうつ心臓に残っていた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
突然彼は身震いをし、寒気(さむけ)に襲わるるのを感じた。彼は司教の燭台(しょくだい)にともってる蝋燭(ろうそく)に照らされたテーブルに肱(ひじ)をかけて、ペンを取り上げた。
ああ云う風に高い熱の差し退きが激しく、寒気(さむけ)がして顫(ふる)いが来ると云うのは、恐らく赤痢だけでなく、肝臓膿瘍を併発したとしか考えられない。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
急に寒気(さむけ)がしてきた。惨めな室の中を見廻してから、床を敷いて寝た。身動きも出来ないほどの疲労を全身に覚えた。
反抗 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
「なんでもないの。ただ、熱の出る前が、いやなのよ。頭がちょっと痛くなって、寒気(さむけ)がして、それから熱が出るの」
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
騒ぎのあった翌日、その狼藉(ろうぜき)者一党が揃って詑(わ)びにきたが、その時、父はすこし寒気(さむけ)がするといっていたが、左の手の甲が紫色に腫(は)れてるだけだった。
それを考えただけでも、ぞっと寒気(さむけ)がして、歯ががたがた鳴りだす。わたしはねむることができなかった。やがてバルブレンも、また帰って来るだろう。
何しろ僕はこれを見ると同時に一種の寒気(さむけ)を覚えて恐(こわ)いとも哀(かな)しいとも言いようのない思が胸に塞(つか)えてちょうど、鉛の塊(かたまり)が胸を圧(お)しつけるように感じました。
牛肉と馬鈴薯 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
この夕方の家の中の光景は寒気(さむけ)がするほど悲しいものであった。若い女房たちはあちらこちらにかたまって、それはまた自身たちの悲しみを語り合っていた。
源氏物語:09 葵 (新字新仮名) / 紫式部(著)
彼はこの恐ろしい雲鶴青磁を見とどけた時の寒気(さむけ)が、しばらく背中にもむねからも去らないことを知った。
陶古の女人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
もう、とっぷりと暮れてしまった障子の外の闇のかなたに、白木の獄門台が、ずらりと並んでいることを考えると、水のような寒気(さむけ)が全身を流れるのであった。
乱世 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
その顔色が真蒼(まっさお)にでもなっていたものか、相方(あいかた)も驚きながら、如何(どう)したのかと訊ねられたが、その場では別に何も談(はな)さず、風邪の気味か何だか少し寒気(さむけ)がするといって
一つ枕 (新字新仮名) / 柳川春葉(著)
卯一郎 ちよつと、失礼ですが、隣りの部屋に家内もやすんでゐるんですが、さつきから頭痛がするとか寒気(さむけ)がするとか云つてるやうです。ひとつ、お序(ついで)にどうか……。
医術の進歩 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
下は毛布(けっと)一枚敷かぬ堅い床板なので、腰骨や肩先が痛くなる。深夜の寒気(さむけ)にブルブル震えて来る。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
利平は、咽喉(のど)がつまりそうであった。それに熱でも出て来た故(せい)か、ゾッと寒気(さむけ)が背筋を走った。
眼 (新字新仮名) / 徳永直(著)
私(わたくし)はますます全身(ぜんしん)に寒気(さむけ)を感(かん)じ、心(こころ)の中(うち)では逃(に)げて帰(かえ)りたい位(くらい)に思(おも)いましたが、それでもお爺(じい)さんが一向(こう)平気(へいき)でズンズン足(あし)を運(はこ)びますので、漸(やっ)との思(おも)いでついて参(まい)りますと
大阪ぼんちが泥棒ごっこをして遊んでいるようだった。見ている間は寒気(さむけ)を感じつづけた。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
三頭(みつ)も四頭(よつ)も一斉に吠え立てるのは、丁(ちょう)ど前途(ゆくて)の浜際(はまぎわ)に、また人家が七八軒、浴場、荒物屋(あらものや)など一廓(ひとくるわ)になって居(い)るそのあたり。彼処(あすこ)を通抜(とおりぬ)けねばならないと思うと、今度は寒気(さむけ)がした。
星あかり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
初(はじ)め彼(かれ)は寒気(さむけ)を身(み)に覚(おぼ)え、吐気(はきけ)を催(もよお)して、異様(いよう)な心地悪(ここちあ)しさが指先(ゆびさき)にまで染渡(しみわた)ると、何(なに)か胃(い)から頭(あたま)に突上(つきあ)げて来(く)る、そうして眼(め)や耳(みみ)に掩(おお)い被(かぶ)さるような気(き)がする。青(あお)い光(ひかり)が眼(め)に閃付(ちらつ)く。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「ぼくは寒気(さむけ)がしてしようがない。熱があるようだ。少し休ませてもらうよ。」
怪人二十面相 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
反動的な嫌悪(けんお)の情が彼の総身に寒気(さむけ)を立てさすであろうとは思ったが、それと同時に、何か腹癒(はらい)せに彼女をさんざん弄(もてあそ)んでやりたいような悪魔的な野心も芽生(めば)えないわけに行かなかった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
寒気(さむけ)を覚えて、襟をかき合はせたり、額に垂れ下つて来る頭髪をかき上げたりしながら、利根子がもう私などの知らぬうちに秋津に全身をぶちつけて行つてゐるやうな気がしてならなかつた。
青春の天刑病者達 (新字旧仮名) / 北条民雄(著)
胸が悪くなって、体がしびれ、ぞっと寒気(さむけ)がし、眼がくらみ、やがてすぐばったりと倒れる。それから数週間も、なにもかも空虚で、真っ黒で、ひっそりしていて、虚無が宇宙全体を占める。
国民党の旗を立てて多勢の遠足隊が私の前を通つたのをも半眠(はんみん)のやうな状態で意識してゐた。身に寒気(さむけ)して目が醒(さ)め、それからイーサルの川の方に下りて行つた。此処(ここ)に来るとまた別様に寂しい。
イーサル川 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
梅 何だか寒気(さむけ)がすると思つたら、もう毛虫がたかつてゐるんだよ。
続野人生計事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ゾッと寒気(さむけ)がして、ハアクシャン! くしゃみが出た時は、もう風邪をひいているのと同じことで、お妙が、ああこの男は、何という立派な方であろう! と、一眼見て思ったとき、その時すでに
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
軽々とこそ揺すぶれば、波の中にて寒気(さむけ)する
『そう、なんだか、寒気(さむけ)がするの——』
鱗粉 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
「きみ、寒気(さむけ)でもするんじゃないか」
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
上の手欄(てすり)から見つめているうちに、お綱は夢ともうつつとも知らない境に、骨の髄(ずい)まで沁みわたるほどなゾッとする恋慕の寒気(さむけ)にとりつかれた。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お浜はぞくぞくと寒気(さむけ)がして、郁太郎を乳の傍へひたと抱き寄せて、夜具をかぶろうとして、ふと仏壇の方を見ました。
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
手先が震えて寒気(さむけ)がしていた。袴も義姉さんに手伝って貰ってぬいだ。義姉さんから私は奥の室へ連れて行かれた。
或る女の手記 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
『ハあ、お峰(みね)がそう言ってよ、そしてね姉さんのお目が大変赤くなって腫(は)れていましたよ。』文造はしばらく物思いに沈んでいたが、寒気(さむけ)でもするようにふるえた。
まぼろし (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
東助少年は見ているうちに、寒気(さむけ)がしてきた。それは色の黒っぽい丸みのある物体だった。それは何物か分らなかった。お尻のところからたしかに茶色がかった煙がでている。
ふしぎ国探検 (新字新仮名) / 海野十三(著)
こんな具合いで、生きて行けるのかしら、と思ったら、全身に寒気(さむけ)を感じました。
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
彼は寒気(さむけ)がした。そして少し火をたいた。窓をしめることには気がつかなかった。
追い払っても追い払ってもそのうるさい黒い影は目の前を立ち去ろうとはしなかった。……しばらくそうしているうちに葉子は寒気(さむけ)がするほどぞっとおそろしくなって気がはっきりした。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
だから、だからいはぬ事(こと)ではない、私(わたし)は寒気(さむけ)がして来(き)た。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
寒気(さむけ)がするわ。足の先が冷(つめ)たいわ。
医術の進歩 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
初めは何の音だか分らなかったが、近づくにつれて愈々それだとはっきりすると、変に僕はぞーと寒気(さむけ)を感じた。
道連 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
再び、その木剣を取り直した時は、もう鼠の姿は見えず、ただなんとなく、寒気(さむけ)が全身を襲うて来るのみです。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
葉子は思わず毛孔(けあな)が一本一本逆立(さかだ)つほどの寒気(さむけ)を感じた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
あわててそれを拭き、それを取りのけ、それをあしらい、しているうちに、また机の前へ坐り直しはしたが、ぞくぞくとして寒気(さむけ)がこうじ、肌がこんなに粟になる。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
彼はぞっと寒気(さむけ)を背筋に感じて、窓を閉めた。そして煖炉の側の椅子の上に蹲った。
二つの途 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
ゾクゾクと寒気(さむけ)が立ち、書院の火燈口(かとうぐち)の方を見やると、そこに微かな人の咳(しわぶき)の声がします。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
扉を押して外に出ると、ぞっと寒気(さむけ)がした。其処へ、後から村田が追っかけてきた。
反抗 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)