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噎
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む
ふりがな文庫
“
噎
(
む
)” の例文
鼻と、口を
手拭
(
てぬぐい
)
でしっかと
結
(
ゆわ
)
えてもムーンと鼻の穴から、頭へ突きぬけるような臭気が、
噎
(
む
)
せるようだった。
馴
(
な
)
れても同じだった。
工場新聞
(新字新仮名)
/
徳永直
(著)
最前血を吐いたらしい処には、白い石灰の粉が撒き散らしてあって、エグイ、
噎
(
む
)
せっぽい刺激を含んだ匂いがプーンと鼻に迫って来た。
童貞
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
彼の
背丈
(
せい
)
を埋めそうに麦が伸びて、青い穂が針のようにちかちかと光っていた。菜の花が放つ生温い香気が、彼を
噎
(
む
)
せ返らせそうにした。
田舎医師の子
(新字新仮名)
/
相馬泰三
(著)
小型ノ六十圓ノ事ダッタノデ木村ガ前ニ掛ケタ。ブランデーノ
匂
(
にお
)
イガ襦袢ヤ
衣裳
(
いしょう
)
ニ浸ミ通ッテイテ車ノ中ガ
噎
(
む
)
せ返ルヨウダッタ。
鍵
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
亡き
主人
(
あるじ
)
の大切にする気持から出たものであった、……どの株も今が咲きざかりで、あたりの空気は
噎
(
む
)
せるほども高雅な香りに満ちていた。
菊屋敷
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
▼ もっと見る
母親も子供もこんこん
噎
(
む
)
せた。それから母親はその鉢を傍に寄せて、中からいくらかの飯の分量を掴み出して、両手で小さく長方形に握った。
鮨
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
僕は少女の身体から発する恥かしいような、香気に
噎
(
む
)
せびながらこの思いがけない連れを、これからどう取扱ったものかと思案をめぐらせた。
深夜の市長
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
全身泥まみれで
髭
(
ひげ
)
はのび、マヌエラまで
噎
(
む
)
っとなるような異臭がする。そしてこの辺から、巨樹は死に絶え、
寄生木
(
やどりぎ
)
だけの世界になってきた。
人外魔境:01 有尾人
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
それもみなお前のお蔭だ、よく来て呉れた、難有かつたと、しみじみ、私は煙に
噎
(
む
)
せる。いいえと妻も、向うへ立つて、紅い紅葉を拾うて来る。
観相の秋
(新字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
とまで言って、専務は
噎
(
む
)
せ返った。ゴホン/\と苦しそうに咳き込む。
喘息
(
ぜんそく
)
が持病なのに葉巻を放さない。津島君は吉か凶か未だ分らなかった。
小問題大問題
(新字新仮名)
/
佐々木邦
(著)
山腹は一面
蕎麦
(
そば
)
の畑で、咲きはじめたばかりの白い花が、塩をふりかけたように月に
噎
(
む
)
せた。赤い茎の層が初々しく匂い、驢馬の足どりも軽い。
蕎麦の花の頃
(新字新仮名)
/
李孝石
(著)
たばこを吸わぬ駿介は、そのにほひに
噎
(
む
)
せ、なかば醉つたやうに、頭はくらくらした。煙りは眼にも鼻にもしみた。駒平も大きなくしやみをした。
生活の探求
(旧字旧仮名)
/
島木健作
(著)
此處
(
こゝ
)
で
整然
(
きちん
)
として
腰
(
こし
)
を
掛
(
か
)
けて、
外套
(
ぐわいたう
)
の
袖
(
そで
)
を
合
(
あは
)
せて、
一
(
ひと
)
つ
下腹
(
したつぱら
)
で
落着
(
おちつ
)
いた
氣
(
き
)
が、だらしもなく
續
(
つゞ
)
けざまに
噎
(
む
)
せ
返
(
かへ
)
つた。
魔法罎
(旧字旧仮名)
/
泉鏡花
、
泉鏡太郎
(著)
然
(
しか
)
しこの時、あなたの一杯に毛の生えた脚の、女らしい
体臭
(
たいしゅう
)
に
噎
(
む
)
せると、ぼくはぞっとしていたたまれず、「熊本さんは
肥
(
ふと
)
りましたね」とかなんとか
オリンポスの果実
(新字新仮名)
/
田中英光
(著)
四邊
(
あたり
)
は
其香
(
そのにほ
)
ひで
大變
(
たいへん
)
でした。
公爵夫人
(
こうしやくふじん
)
でさへも、
坊
(
ぼ
)
ッちやんと
殆
(
ほと
)
んど
交
(
かは
)
る/″\
嚏
(
くさめ
)
をして、
噎
(
む
)
せる
苦
(
くる
)
しさに
互
(
たがひ
)
に
頻切
(
しツきり
)
なしに
泣
(
な
)
いたり
喚
(
わめ
)
いたりして
居
(
ゐ
)
ました。
愛ちやんの夢物語
(旧字旧仮名)
/
ルイス・キャロル
(著)
故人が、生前、家族や召使達の為に作った
祈祷
(
きとう
)
の一つが、その
儘
(
まま
)
、唱えられた。
噎
(
む
)
せる程強いシトロンの香の立ちこめる熱い空気の中で、会衆は静かに頭を垂れた。
光と風と夢
(新字新仮名)
/
中島敦
(著)
はじめのうちは煙を
咽喉
(
のど
)
へ入れるとたちまち
噎
(
む
)
せかえり、咽喉も鼻の奥も痛んで困った、それよりも閉口したのは船に酔ったように胸が悪くなって吐きそうになった。
喫煙四十年
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
その
噎
(
む
)
せるような空気のなかに、もとの藩主はもとの家臣を忍耐づよく眺めていた。酒の力をかりたとは云え、
頽
(
くず
)
れるだけ頽れたその姿が見たかったのかも知れない。
石狩川
(新字新仮名)
/
本庄陸男
(著)
私のボンボンの電報のことが話された。みんなが、お前までがどっと笑った。私はてれ臭そうに、耳にはさんでいた巻煙草をふかし出した。私は何度もその煙に
噎
(
む
)
せた。
麦藁帽子
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
今のように特別に暑くなった時でなくても、執務時間がやや進んでから、便所に行った帰りに、廊下から這入ると、悪い烟草の
匂
(
におい
)
と汗の香とで
噎
(
む
)
せるような心持がする。
あそび
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
噎
(
む
)
せっぽくって苦しいから、
後
(
うしろ
)
を向いたら、作事場ではかあん、かあんともう仕事を始めだした。
坑夫
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
日は高く上つて、
噎
(
む
)
せるやうな温かい空気が、時々、風の工合で河原の方からやつて来た。徳次も切り上げて来た。三箇の
魚籠
(
びく
)
を中にして、頭を並べて獲物を見せ合つた。
医師高間房一氏
(新字旧仮名)
/
田畑修一郎
(著)
重太郎はお葉の酌で、
満々
(
なみなみ
)
と
注
(
つ
)
がれたる洋盃を取った。が、生れてから
今日
(
こんにち
)
まで酒と云うものの味を知らぬ彼は、熱い酒を飲むに
堪
(
た
)
えなかった。彼は一口飲んで
忽
(
たちま
)
ち
噎
(
む
)
せ返った。
飛騨の怪談
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
噎
(
む
)
せかえるような強い香水、甘たるい皮膚の香、柔らかそうな首筋、クリーム色のふっくりした胸、それ等は彼に何の刺戟も与えなかったが、ダイヤの魅力には時々自制の念を失うような
梟の眼
(新字新仮名)
/
大倉燁子
(著)
御二人とも厚い
外套
(
がいとう
)
を召して御出掛になりました。爺さんも御荷物を提げて、停車場まで随いて参りました。後で、取散かった物を片付けますと、御部屋の内は煙草の
烟
(
けむり
)
ですこし
噎
(
む
)
せる位。
旧主人
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
酒の匂ひや莨の煙がむつと
噎
(
む
)
せかへる位立ちこめてゐて、コツプの落ちて壊れる音やナイフやフオークの触れ合ふ響きが、酒に荒んだ人の心を、いやが上にも苛苛させるやうに聴こえて来た。
酔狂録
(新字旧仮名)
/
吉井勇
(著)
雑草が、土のにおいに
噎
(
む
)
せんで、春のあし音は、江戸のどこにでもあった。
釘抜藤吉捕物覚書:12 悲願百両
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
いったいに、この季節には、べとべと、
噎
(
む
)
せるほどの体臭がある。
八十八夜
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
津の人は太刀に手をふれて、
対手
(
あいて
)
の熱い
粗
(
あら
)
い呼吸に
噎
(
む
)
せて叫んだ。
姫たちばな
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
一瞬、私は
噎
(
む
)
せ返るような、沈丁花の芳香を幻覚する。
落日の光景
(新字新仮名)
/
外村繁
(著)
藥は烟に
噎
(
む
)
せた時のやうにちき/\と目に浸みた。
赤い鳥
(旧字旧仮名)
/
鈴木三重吉
(著)
赤子は
噎
(
む
)
せるし、お
袋
(
ふく
)
らはじける。
ファウスト
(新字新仮名)
/
ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ
(著)
薬に
噎
(
む
)
せて、
伏
(
ふ
)
して眼をとづ。
悲しき玩具
(新字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
噎
(
む
)
せるからね。
沓掛時次郎 三幕十場
(新字新仮名)
/
長谷川伸
(著)
それから片隅の手洗場のコックを
捻
(
ねじ
)
って、勢よく
噴
(
ふ
)
き出る水のシブキに
噎
(
む
)
せかえりながら、ゴクゴクと腹一パイになるまで呑んだ。
一足お先に
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
腰から煙草入れをとり出すと一服
点
(
つ
)
けて吸いこんだが、こんどは激しく
噎
(
む
)
せて咳き入りながら、それでも涙の出る眼をこすりながら
呟
(
つぶや
)
いた。
麦の芽
(新字新仮名)
/
徳永直
(著)
「おらあ」男は煙草に
噎
(
む
)
せた、「おらあ、船七って名だけは知ってるが、……千住大橋の脇にそんな船宿があるってことは聞いていたがね」
暴風雨の中
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
六条は、突然右
胸部
(
きょうぶ
)
に
焼火箸
(
やけひばし
)
をつきこまれたような
疼痛
(
とうつう
)
を感じた。胸に手をやってみると、
掌
(
てのひら
)
にベットリ血だ。とたんに彼ははげしく
噎
(
む
)
せんだ。
空中漂流一週間
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
ほのかに
匂
(
にお
)
っているオレンジに塗られたブランデーの揮発性に、けへんけへん
噎
(
む
)
せながら、デザートのスザンヌを小さいフォークで
喰
(
た
)
べていると
母子叙情
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
或日、同僚数名が
一塊
(
ひとかたまり
)
になって話し込んでいる時、一人が咳をして窓を開けた。煙草の煙に
噎
(
む
)
せたのだった。
善根鈍根
(新字新仮名)
/
佐々木邦
(著)
そして、埃の層が
雪崩
(
なだれ
)
のように
摺
(
ず
)
り落ちた時だった。
噎
(
む
)
っとなって鼻口を覆いながらも
瞠
(
みひら
)
いた一同の眼が、明らかにそれを、像の第一肋骨の上で認めたのであった。
黒死館殺人事件
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
それとも煙は
坑
(
あな
)
から坑へ抜け切って、
陸
(
おか
)
の上なら、大抵晴れ渡った時分なのに、路が暗いんでいつまでも煙が
這
(
は
)
ってるように感じたり
噎
(
む
)
せっぽく思ったのかも知れない。
坑夫
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
と、また、別な人が、つゞいて、自分自身笑ひに
噎
(
む
)
せながら、一層巧みなところを試みた。
野の哄笑
(新字旧仮名)
/
相馬泰三
(著)
それに空はあくまで晴れ、雲切れ一つなく、彼等の歩いてゐる田舎路は右手にきらめく河を見下して、白くはつきりと浮び上り、ふり注ぐ日ざしと温かさで
噎
(
む
)
せるほどだつた。
医師高間房一氏
(新字旧仮名)
/
田畑修一郎
(著)
ついと
辷
(
すべ
)
って、彼女は夫の膝に顔を伏せた。男はふるえているその肩をおさえ、襟足を見おろした。
噎
(
む
)
せるような
匂
(
にお
)
いに包まれた。髪油のにおいがむんむんと酔わすように嗅っているのだ。
石狩川
(新字新仮名)
/
本庄陸男
(著)
暗い、
噎
(
む
)
せるような煙は
煤
(
すす
)
けた台所の壁から高い草屋根の裏を這って、炉辺の方へ遠慮なく侵入して行った。家の内は一時この煙で
充
(
み
)
たされた。未だ三吉は寝床の上に死んだように成っていた。
家:01 (上)
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
重太郎の名を聞いては
愈
(
いよい
)
よ
捨置
(
すてお
)
かれぬ、巡査も人々も続いて
其
(
その
)
跡を追った。が、何分にも
眼口
(
めくち
)
を
撲
(
う
)
つ雪が烈しいので、人々は火事場の
烟
(
けむり
)
に
噎
(
む
)
せたように、殆ど東西の方角が付かなくなって来た。
飛騨の怪談
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
暗い裂けた葉の
陰影
(
かげ
)
から
噎
(
む
)
せる
如
(
やう
)
に光る。
東京景物詩及其他
(新字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
……と……間もなく、まわりに寄り集まって来る人々の足もとから立つ薄いホコリの中に、息も絶え絶えに
噎
(
む
)
せ返ってしまった。
童貞
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
だが、長次は激しく
噎
(
む
)
せ、僅かばかり吸った水といっしょに、悪臭のあるものを
嘔吐
(
おうと
)
し、脱力した躯をねじ曲げてもがいた。
赤ひげ診療譚:06 鶯ばか
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
噎
漢検1級
部首:⼝
15画
“噎”を含む語句
噎返
嗚噎
嗝噎
噎泣
膈噎
闐噎