)” の例文
鼻と、口を手拭てぬぐいでしっかとゆわえてもムーンと鼻の穴から、頭へ突きぬけるような臭気が、せるようだった。れても同じだった。
工場新聞 (新字新仮名) / 徳永直(著)
最前血を吐いたらしい処には、白い石灰の粉が撒き散らしてあって、エグイ、せっぽい刺激を含んだ匂いがプーンと鼻に迫って来た。
童貞 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
彼の背丈せいを埋めそうに麦が伸びて、青い穂が針のようにちかちかと光っていた。菜の花が放つ生温い香気が、彼をせ返らせそうにした。
田舎医師の子 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
小型ノ六十圓ノ事ダッタノデ木村ガ前ニ掛ケタ。ブランデーノにおイガ襦袢ヤ衣裳いしょうニ浸ミ通ッテイテ車ノ中ガせ返ルヨウダッタ。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
亡き主人あるじの大切にする気持から出たものであった、……どの株も今が咲きざかりで、あたりの空気はせるほども高雅な香りに満ちていた。
菊屋敷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
母親も子供もこんこんせた。それから母親はその鉢を傍に寄せて、中からいくらかの飯の分量を掴み出して、両手で小さく長方形に握った。
(新字新仮名) / 岡本かの子(著)
僕は少女の身体から発する恥かしいような、香気にせびながらこの思いがけない連れを、これからどう取扱ったものかと思案をめぐらせた。
深夜の市長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
全身泥まみれでひげはのび、マヌエラまでっとなるような異臭がする。そしてこの辺から、巨樹は死に絶え、寄生木やどりぎだけの世界になってきた。
人外魔境:01 有尾人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
それもみなお前のお蔭だ、よく来て呉れた、難有かつたと、しみじみ、私は煙にせる。いいえと妻も、向うへ立つて、紅い紅葉を拾うて来る。
観相の秋 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
とまで言って、専務はせ返った。ゴホン/\と苦しそうに咳き込む。喘息ぜんそくが持病なのに葉巻を放さない。津島君は吉か凶か未だ分らなかった。
小問題大問題 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
山腹は一面蕎麦そばの畑で、咲きはじめたばかりの白い花が、塩をふりかけたように月にせた。赤い茎の層が初々しく匂い、驢馬の足どりも軽い。
蕎麦の花の頃 (新字新仮名) / 李孝石(著)
たばこを吸わぬ駿介は、そのにほひにせ、なかば醉つたやうに、頭はくらくらした。煙りは眼にも鼻にもしみた。駒平も大きなくしやみをした。
生活の探求 (旧字旧仮名) / 島木健作(著)
此處こゝ整然きちんとしてこしけて、外套ぐわいたうそであはせて、ひと下腹したつぱら落着おちついたが、だらしもなくつゞけざまにかへつた。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
しかしこの時、あなたの一杯に毛の生えた脚の、女らしい体臭たいしゅうせると、ぼくはぞっとしていたたまれず、「熊本さんはふとりましたね」とかなんとか
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
四邊あたり其香そのにほひで大變たいへんでした。公爵夫人こうしやくふじんでさへも、ッちやんとほとんどかはる/″\くさめをして、せるくるしさにたがひ頻切しツきりなしにいたりわめいたりしてました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
故人が、生前、家族や召使達の為に作った祈祷きとうの一つが、そのまま、唱えられた。せる程強いシトロンの香の立ちこめる熱い空気の中で、会衆は静かに頭を垂れた。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
はじめのうちは煙を咽喉のどへ入れるとたちまちせかえり、咽喉も鼻の奥も痛んで困った、それよりも閉口したのは船に酔ったように胸が悪くなって吐きそうになった。
喫煙四十年 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そのせるような空気のなかに、もとの藩主はもとの家臣を忍耐づよく眺めていた。酒の力をかりたとは云え、くずれるだけ頽れたその姿が見たかったのかも知れない。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
私のボンボンの電報のことが話された。みんなが、お前までがどっと笑った。私はてれ臭そうに、耳にはさんでいた巻煙草をふかし出した。私は何度もその煙にせた。
麦藁帽子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
今のように特別に暑くなった時でなくても、執務時間がやや進んでから、便所に行った帰りに、廊下から這入ると、悪い烟草のにおいと汗の香とでせるような心持がする。
あそび (新字新仮名) / 森鴎外(著)
せっぽくって苦しいから、うしろを向いたら、作事場ではかあん、かあんともう仕事を始めだした。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
日は高く上つて、せるやうな温かい空気が、時々、風の工合で河原の方からやつて来た。徳次も切り上げて来た。三箇の魚籠びくを中にして、頭を並べて獲物を見せ合つた。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
重太郎はお葉の酌で、満々なみなみがれたる洋盃を取った。が、生れてから今日こんにちまで酒と云うものの味を知らぬ彼は、熱い酒を飲むにえなかった。彼は一口飲んでたちませ返った。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
せかえるような強い香水、甘たるい皮膚の香、柔らかそうな首筋、クリーム色のふっくりした胸、それ等は彼に何の刺戟も与えなかったが、ダイヤの魅力には時々自制の念を失うような
梟の眼 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
御二人とも厚い外套がいとうを召して御出掛になりました。爺さんも御荷物を提げて、停車場まで随いて参りました。後で、取散かった物を片付けますと、御部屋の内は煙草のけむりですこしせる位。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
酒の匂ひや莨の煙がむつとせかへる位立ちこめてゐて、コツプの落ちて壊れる音やナイフやフオークの触れ合ふ響きが、酒に荒んだ人の心を、いやが上にも苛苛させるやうに聴こえて来た。
酔狂録 (新字旧仮名) / 吉井勇(著)
雑草が、土のにおいにせんで、春のあし音は、江戸のどこにでもあった。
いったいに、この季節には、べとべと、せるほどの体臭がある。
八十八夜 (新字新仮名) / 太宰治(著)
津の人は太刀に手をふれて、対手あいての熱いあらい呼吸にせて叫んだ。
姫たちばな (新字新仮名) / 室生犀星(著)
一瞬、私はせ返るような、沈丁花の芳香を幻覚する。
落日の光景 (新字新仮名) / 外村繁(著)
藥は烟にせた時のやうにちき/\と目に浸みた。
赤い鳥 (旧字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
赤子はせるし、おふくらはじける。
薬にせて、して眼をとづ。
悲しき玩具 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
せるからね。
沓掛時次郎 三幕十場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
それから片隅の手洗場のコックをねじって、勢よくき出る水のシブキにせかえりながら、ゴクゴクと腹一パイになるまで呑んだ。
一足お先に (新字新仮名) / 夢野久作(著)
腰から煙草入れをとり出すと一服けて吸いこんだが、こんどは激しくせて咳き入りながら、それでも涙の出る眼をこすりながらつぶやいた。
麦の芽 (新字新仮名) / 徳永直(著)
「おらあ」男は煙草にせた、「おらあ、船七って名だけは知ってるが、……千住大橋の脇にそんな船宿があるってことは聞いていたがね」
暴風雨の中 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
六条は、突然右胸部きょうぶ焼火箸やけひばしをつきこまれたような疼痛とうつうを感じた。胸に手をやってみると、てのひらにベットリ血だ。とたんに彼ははげしくせんだ。
空中漂流一週間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ほのかににおっているオレンジに塗られたブランデーの揮発性に、けへんけへんせながら、デザートのスザンヌを小さいフォークでべていると
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
或日、同僚数名が一塊ひとかたまりになって話し込んでいる時、一人が咳をして窓を開けた。煙草の煙にせたのだった。
善根鈍根 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
そして、埃の層が雪崩なだれのようにり落ちた時だった。っとなって鼻口を覆いながらもみひらいた一同の眼が、明らかにそれを、像の第一肋骨の上で認めたのであった。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
それとも煙はあなから坑へ抜け切って、おかの上なら、大抵晴れ渡った時分なのに、路が暗いんでいつまでも煙がってるように感じたりせっぽく思ったのかも知れない。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と、また、別な人が、つゞいて、自分自身笑ひにせながら、一層巧みなところを試みた。
野の哄笑 (新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
それに空はあくまで晴れ、雲切れ一つなく、彼等の歩いてゐる田舎路は右手にきらめく河を見下して、白くはつきりと浮び上り、ふり注ぐ日ざしと温かさでせるほどだつた。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
ついとすべって、彼女は夫の膝に顔を伏せた。男はふるえているその肩をおさえ、襟足を見おろした。せるようなにおいに包まれた。髪油のにおいがむんむんと酔わすように嗅っているのだ。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
暗い、せるような煙はすすけた台所の壁から高い草屋根の裏を這って、炉辺の方へ遠慮なく侵入して行った。家の内は一時この煙でたされた。未だ三吉は寝床の上に死んだように成っていた。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
重太郎の名を聞いてはいよい捨置すておかれぬ、巡査も人々も続いてその跡を追った。が、何分にも眼口めくちつ雪が烈しいので、人々は火事場のけむりせたように、殆ど東西の方角が付かなくなって来た。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
暗い裂けた葉の陰影かげからせるやうに光る。
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
……と……間もなく、まわりに寄り集まって来る人々の足もとから立つ薄いホコリの中に、息も絶え絶えにせ返ってしまった。
童貞 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
だが、長次は激しくせ、僅かばかり吸った水といっしょに、悪臭のあるものを嘔吐おうとし、脱力した躯をねじ曲げてもがいた。
赤ひげ診療譚:06 鶯ばか (新字新仮名) / 山本周五郎(著)