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嘶
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いなな
ふりがな文庫
“
嘶
(
いなな
)” の例文
ちょうどその時、四五十歩を隔てた、夜店の賑かな中を、
背後
(
うしろ
)
の方で、一声高く、馬の
嘶
(
いなな
)
くのが、往来の
跫音
(
あしおと
)
を圧して近々と響いた。
黒百合
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
馬に乗った者もあれば徒歩でいる者もあって、それが
戈
(
ほこ
)
を持ち
弩
(
いしゆみ
)
を持っていた。馬の
嘶
(
いなな
)
く声と人声が家の周囲に湧きたって聞えた。
胡氏
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
すなわち乗れざる自転車と手を携えて帰る、どうでしたと婆さんの問に敗余の意気をもらすらく車
嘶
(
いなな
)
いて白日暮れ耳鳴って秋気
来
(
きた
)
るヘン
自転車日記
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
……突込んで行く軍兵の声、狂奔する馬の
嘶
(
いなな
)
き、それを押包むような
陣鉦
(
じんがね
)
や
法螺貝
(
ほらがい
)
の音が、伊勢の山野にすさまじく響きわたった。
蒲生鶴千代
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
海浜や道傍の到る処に
塵埃
(
じんあい
)
の山があり、馬車が何台も道につながれてあって、足の太い馬が毛の抜けた
鬣
(
たてがみ
)
を振って
懶
(
ものう
)
そうに
嘶
(
いなな
)
いている。
糞尿譚
(新字新仮名)
/
火野葦平
(著)
▼ もっと見る
そのうちに、競馬のはじまる時刻が近づいて、国内から
選
(
え
)
りすぐって
厩
(
うまや
)
につないである馬は、勇んで
嘶
(
いなな
)
きながら引き出されました。
大菩薩峠:14 お銀様の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
その時、絶壁の遥か上、高原に当たって騎馬武者の音、馬の
嘶
(
いなな
)
き、
物具
(
もののぐ
)
の
響
(
ひびき
)
、それらに
雑
(
まじ
)
って若い女の悲鳴が
幽
(
かす
)
かに聞こえて来た。
蔦葛木曽棧
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
ガッキリと馬の
轡
(
くつわ
)
の根元を掴んで、エエーイッ、と一声鋭く轡を突き上げたので、馬は泡を噛んで
嘶
(
いなな
)
きながら、棒立ちになった。
剣難女難
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
意志は、
嘶
(
いなな
)
きつつ通りかかる夢想の
臀
(
しり
)
に飛び乗って、それを両
膝
(
ひざ
)
でしめつける。精神は、おのれを引き込む
節奏
(
リズム
)
の規則を認める。
ジャン・クリストフ:12 第十巻 新しき日
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
痩馬は荷が軽るくなると
鬱積
(
うっせき
)
した怒りを一時にぶちまけるように
嘶
(
いなな
)
いた。遙かの遠くでそれに
応
(
こた
)
えた馬があった。跡は風だけが吹きすさんだ。
カインの末裔
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
馬は、——畜生になった父母は、苦しそうに身を
悶
(
もだ
)
えて、眼には血の涙を浮べたまま、見てもいられない程
嘶
(
いなな
)
き立てました。
杜子春
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
ヒンニーの語源は、ギリシアのヒンノスとラテンのヒンヌスで、多分馬の
嘶
(
いなな
)
きをニヒヒンなどいう邦語と同様のものだろう。
十二支考:05 馬に関する民俗と伝説
(新字新仮名)
/
南方熊楠
(著)
それと一緒に狂わしい馬の
嘶
(
いなな
)
きと、助けを呼ぶ外国人の声とが乱れて聞えた。馬が狂い出して厩の羽目板を蹴っているのだ。
暗黒公使
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
と、
俄
(
にわか
)
に門の外で馬の
嘶
(
いなな
)
く声と人のわめく声が交って聞えだしたが、やがてそれががやがやと騒ぎながらいってしまった。
阿英
(新字新仮名)
/
蒲 松齢
(著)
浜辺に近づき足が立つようになると、もう点のように小さく消える知盛の船に向って高く
嘶
(
いなな
)
く。これが三度くり返された。
現代語訳 平家物語:09 第九巻
(新字新仮名)
/
作者不詳
(著)
尻尾を焼かれた馬が芝生のある傾斜面を、ほえるように
嘶
(
いなな
)
き、倒れている人間のあいだを縫って狂的に馳せまわった。
パルチザン・ウォルコフ
(新字新仮名)
/
黒島伝治
(著)
そうして、それが水を出て、だんだんに里の方へ近付いて来ると、家々に飼ってある馬があたかもそれに
応
(
こた
)
えるように、一度に狂い立って
嘶
(
いなな
)
き始めた。
馬妖記
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
そのうちに馬は前途に水あることに勘づいたと見えて、急に元気よく
嘶
(
いなな
)
いた。鞍上の人もホッとして馬を急がせる、という風にも解することが出来る。
古句を観る
(新字新仮名)
/
柴田宵曲
(著)
だがもう蹄は延びなくなり、すり切れた鉄のすきまからは痛々しく血がにじみ出ていた。
匂
(
におい
)
で主人が判った。いつも訴えるような
仰山
(
ぎょうさん
)
な
嘶
(
いなな
)
き声で迎える。
蕎麦の花の頃
(新字新仮名)
/
李孝石
(著)
「さあ、
退
(
ど
)
いた、退いた」と、源は肩と肩との
擦合
(
すれあ
)
う中へ割込んで、
漸
(
やっと
)
のことで
溜
(
たまり
)
へ参りますと、馬は
悦
(
うれ
)
しそうに
嘶
(
いなな
)
いて、大な首を源の
身
(
からだ
)
へ擦付けました。
藁草履
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
或日の昼頃、突然、大門の方で馬が気もちのいいくらい高く
嘶
(
いなな
)
いた。それがどういうわけか、私のうちに言うに言われないような人なつかしさを
蘇
(
よみがえ
)
らせた。
かげろうの日記
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
秋の半ば過の朝霧が
家並
(
やなみ
)
の茅葺屋根の上半分を一様に消して了ふ程重く濃く降りた朝であつた。S——村では、霧の中で鶏が鳴き、赤児が泣き、馬が
嘶
(
いなな
)
いた。
道
(新字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
モルヴァアクは暴風の風のように激しく高く
嘶
(
いなな
)
いて、
鬣
(
たてがみ
)
をふりみだしながら、ダフウトの方に駈けて行った。
髪あかきダフウト
(新字新仮名)
/
フィオナ・マクラウド
(著)
その馬群が投げられた球を追って道端の柵までどっと押し寄せる気配いを受けて、高く
嘶
(
いなな
)
いてダクを踏んだ馬が一つ、小田島の行手の道の
接骨木
(
にわとこ
)
の蔭に居る。
ドーヴィル物語
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
「妙なものを差し上げるようですが、ここの風の吹いた時に、あなたのそばで
嘶
(
いなな
)
くようにと思うからですよ」
源氏物語:12 須磨
(新字新仮名)
/
紫式部
(著)
その馬の
嘶
(
いなな
)
きのような鳴き声は、すべての小鳥たちにとって、もう
囀
(
さえず
)
るのをやめて寝ろと命令する声である。
博物誌
(新字新仮名)
/
ジュール・ルナール
(著)
最先きの馬の背には飼主が乗り、鞍の上で
草鞋
(
わらじ
)
などを作っていると、親馬の後を追いながら子馬は立ち止って道草を食ったり、また
嘶
(
いなな
)
いたりしながら走って来る。
木曽御嶽の両面
(新字新仮名)
/
吉江喬松
(著)
四山の紅葉を振い落そうとするような馬の
嘶
(
いなな
)
きが聞えることもある。草刈が曳き後れた馬の嘶きである。
茸をたずねる
(新字新仮名)
/
飯田蛇笏
(著)
痩馬は、痛さにたえかねたらしく、ひひんと
嘶
(
いなな
)
いて急に駈けだしました。そのとき、車の上から、積んでいた木箱がつづいて二つ、がたんと地上に転げおちました。
怪塔王
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
同書には「面白の駒」と
渾名
(
あだな
)
せられた
兵部少輔
(
ひょうぶのすけ
)
について、「首いと長うて顔つき駒のやうにて鼻のいらゝぎたる事かぎりなし。ひゝと
嘶
(
いなな
)
きて
引放
(
ひきはな
)
れていぬべき顔したり」
駒のいななき
(新字新仮名)
/
橋本進吉
(著)
しかしそういう身勝手な施しなので、美しくなって行く筈もなく、毎日少しずつ顔が長くなって来て、しまいにはヒヒンと
嘶
(
いなな
)
いて飛び出したなどといって笑わせている。
年中行事覚書
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
真暗で馬は見えないけれど、
嘶
(
いなな
)
きを便りに行ってみると、元の場所から少し
退
(
さが
)
ったところに、馬は相変らず横っ倒れになっていた。車台がそれだけ
後退
(
あとすざ
)
りをしたのである。
乞食
(新字新仮名)
/
モーリス・ルヴェル
(著)
さながら狂馬のごとくに
鬣逆
(
たてがみ
)
立てながら、
嘶
(
いなな
)
きつづけて挑みかかったと見るまに、疾走中の早馬は、当然のごとく打ちおどろいて、さッと棒立ちになりました。と同時です。
旗本退屈男:05 第五話 三河に現れた退屈男
(新字新仮名)
/
佐々木味津三
(著)
彼は
卑弥呼
(
ひみこ
)
が
遁走
(
とんそう
)
した三日目の真昼に、森を脱け出た河原の岸で、馬の
嘶
(
いなな
)
きを聞きつけた。彼は
芒
(
すすき
)
を分けてその方へ近づくと、馬の傍で、足を洗っている不弥の女の姿が見えた。
日輪
(新字新仮名)
/
横光利一
(著)
あたかもかの精鋭なる仏国の常備兵がナポレオンの号令に従い行軍するがごとく、
朝
(
あした
)
にセーヌの河を渡り、夕にアルプスの雪嶺を超え、鉄馬風に
嘶
(
いなな
)
き、雄剣氷に没するの地を踏み
将来の日本:04 将来の日本
(新字新仮名)
/
徳富蘇峰
(著)
韃靼人
(
だったんじん
)
の牧場には馬の群が
嘶
(
いなな
)
いてゐる。鼻の平つたいコザツク人の住む、カスピアの草原が来る。南ロシア、オオストリア、ドイツ、スイスが来る。そして最後に又フランスが来る。
科学の不思議
(新字旧仮名)
/
ジャン・アンリ・ファーブル
(著)
虻
(
あぶ
)
がいるのでも蚊がいるのでもない。ただぴしりっぴしりっと
無暗
(
むやみ
)
に尾を振った。人が通りかかると、首を高く持ち上げて(ほほほ!)と
嘶
(
いなな
)
いた。
脚
(
あし
)
を上げては石炭の
破片
(
かけら
)
を踏み
砕
(
くだ
)
いた。
狂馬
(新字新仮名)
/
佐左木俊郎
(著)
それは、邸内のみでなく、門の外にも、馬の
嘶
(
いなな
)
き、馬蹄の音、話声がしていた。
南国太平記
(新字新仮名)
/
直木三十五
(著)
女中に案内せられて、
万翠楼
(
ばんすいろう
)
の三階の下を通り抜けて、奥の平家立ての座敷に近づくと、電燈が明るく障子に差して、内からは
笑声
(
わらいごえ
)
が聞えている。
Basse
(
バス
)
の
嘶
(
いなな
)
くような笑声である。
青年
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
シャン・ゼリゼーは日の光と群集とに満ちて、輝きと
塵
(
ちり
)
とのみだった。その二つこそ光栄を形造るところのものである。マルリーの
嘶
(
いなな
)
ける大理石の馬は黄金の雲の中におどり上がっていた。
レ・ミゼラブル:04 第一部 ファンテーヌ
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
こうして話を交わしているうちに、門のところで馬の
嘶
(
いなな
)
きが聞こえました。
墓が呼んでいる
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
青前掛のゴオルキイは、
鼻翼
(
こばな
)
をふくらませて、ふうん、と
嘶
(
いなな
)
いてから
犂氏の友情
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
兵は物言わず馬は舌を縛して
嘶
(
いなな
)
くを得ざらしめた。全軍粛々妻女山をくだり其状長蛇の山を出づるが如くして
狗
(
いぬ
)
ヶ瀬をわたった。時正に深更夜色沈々只鳴るものは鎧の草摺のかすかな音のみである。
川中島合戦
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
「今
嘶
(
いなな
)
いたのは、あすこにゐる馬のやうだが、あいつ
片目
(
めつかち
)
だね。」
独楽園
(新字旧仮名)
/
薄田泣菫
(著)
矢張草葺だが、さすがに家内何処となく
潤
(
うるお
)
うて、屋根裏には一ぱい玉蜀黍をつり、土間には寒中
蔬菜
(
そさい
)
を
囲
(
かこ
)
う
窖
(
あなぐら
)
を設け、
農具
(
のうぐ
)
漁具
(
ぎょぐ
)
雪中用具
(
せっちゅうようぐ
)
それ/″\
掛
(
か
)
け
列
(
なら
)
べて、
横手
(
よこて
)
の馬小屋には馬が高く
嘶
(
いなな
)
いて居る。
みみずのたはこと
(新字新仮名)
/
徳冨健次郎
、
徳冨蘆花
(著)
馬殿、鼻をブルンブルンいわせながら、一
声
(
せい
)
風に
嘶
(
いなな
)
いてヒーン。
本州横断 痛快徒歩旅行
(新字新仮名)
/
押川春浪
、
井沢衣水
(著)
呉牛
(
ごぎゅう
)
の喘ぎ苦しく
胡馬
(
こば
)
の
嘶
(
いなな
)
きを願えども甲斐なし。
良夜
(新字新仮名)
/
饗庭篁村
(著)
その幕の
羅馬字
(
らうまじ
)
よ、くるしげに馬は
嘶
(
いなな
)
き
邪宗門
(新字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
馬
嘶
(
いなな
)
くか——嘶きもしまい
山羊の歌
(新字旧仮名)
/
中原中也
(著)
嘶
(
いなな
)
きてよき
機嫌
(
きげん
)
なり大根馬
五百五十句
(新字旧仮名)
/
高浜虚子
(著)
嘶
漢検1級
部首:⼝
15画
“嘶”を含む語句
嘶声
遠嘶
嘶馬
頞嘶叱
馬嘶
高嘶