先立さきだ)” の例文
わたくし三浦みうらとついだころは五十さいくらいでもあったでしょうが、とう女房にょうぼう先立さきだたれ、独身どくしんはたらいている、いたって忠実ちゅうじつ親爺おやじさんでした。
倉地は四五歩先立さきだって、そのあとから葉子と木部とは間を隔てて並びながら、また弁慶がにのうざうざいる砂道を浜のほうに降りて行った。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
もうそら何處どこにかいきほひをひそめて躊躇ちうちよしてはずはる先立さきだつて一取返とりかへさうとするものゝごとさわいで/\またさわぐのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
早く妻を先立さきだてた私はそれと反対に、自分は家にとどまりながら成長する子供を順に送り出して、だんだん一人になるような道を歩いて来た。
分配 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
これは結婚けつこん先立さきだつて、あたらしいいへてる、その新築しんちくむろ言葉ことばで、同時どうじに、新婚者しんこんしや幸福こうふくいの意味いみ言葉ことばなのです。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
おのもおのものりたまひへて後に、その妹にりたまひしく、「女人をみな先立さきだち言へるはふさはず」とのりたまひき。然れども隱處くみどおこしてみこ水蛭子ひるこを生みたまひき
それよりはすこしでもうつくしい立派りつぱな、快適くわいてきいへつくりたいといふかんがへが先立さきだつてたらねばならぬ。
日本建築の発達と地震 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
老年になってから、十も年下の弟に先立さきだたれ、四人兄弟が私一人になってしまったのですものを。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
まつはるこほり朝日あさひかげおのづからけわたるをりならでは何事なにごと甲斐かひありともおぼえずれも/\異見いけんふなこゝろはなしをなぐさめて面白おもしろをおもしろしとおもはするのが肝要かんえうぞとわれ先立さきだちて機嫌きげん
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ちちははは国に捧ぐとひとり愛児まなご先立さきだたし老いつつ言はず
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
さういふ村落むらつゝんで其處そこにも雜木林ざふきばやしが一たいあかくなつてる。先立さきだつてきはどくえるやうになつた白膠木ぬるでくろつちとほあひえいじてる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
そんなことをいながら、みぎからひだりからしげしげとわたくし姿すがたまもるのでした。これもみのははなればこそ、とおもえば、おのずと先立さきだつものはなみだでございました。
彼等かれらはさういふ仕事しごとがあるのではかくにもひとよりも先立さきだつて非常ひじやういそいだのであつたが、それでもこめせるまでにはいへうち薄闇うすくらつてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
散々さんざん苦労くろうばかりかけて、んのむくゆるところもなく、わか身上みそらで、先立さきだってこちらへ引越ひきこしてしまった親不孝おやふこうつみ、こればかりはまったられるようなおもいがするのでした。