“先刻:さっき” の例文
“先刻:さっき”を含む作品の著者(上位)作品数
野村胡堂71
泉鏡花57
吉川英治32
海野十三28
小川未明27
“先刻:さっき”を含む作品のジャンル比率
芸術・美術 > 演劇 > 大衆演芸40.3%
文学 > 日本文学 > 小説 物語13.7%
文学 > 日本文学 > 戯曲8.3%
(注)比率=対象の語句にふりがなが振られている作品数÷各ジャンルの合計の作品数
先刻さっき郵便を出してから、神田を散歩して、電車を降りて家へ帰るまで、宗助の頭には小六の小の字もひらめかなかった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
青年は、何か答えようとして、口を動かした。が、言葉の代りに出たものは、先刻さっきの吐血の名残りらしい少量の血であった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
そこは、先刻さっきそのぐちまえぎた、おな公園こうえん裏手うらてになっていました。
雪の上のおじいさん (新字新仮名) / 小川未明(著)
そこへ、牛乳ぎゅうにゅうのびんをってやってきたのは、先刻さっきくるまいていた青年せいねんでした。
野菊の花 (新字新仮名) / 小川未明(著)
としちゃんは、先刻さっき、このいえのおばさんがいらしったのに、なんでうそをつくのだろうとおもっていました。
小さな年ちゃん (新字新仮名) / 小川未明(著)
甚「とぼけやアがって此畜生め、先刻さっき鎌を出したら手前てめえ面付つらつきは変ったぜ、殺したら殺したと云えよ」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
なぜ先刻さっきKの言葉をさえぎって、こっちから逆襲しなかったのか、そこが非常な手落てぬかりのように見えて来ました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
先刻さっき下女が浴衣ゆかたを持って来たから、着換えようと思って、今帯を解いているところです」とあによめが答えた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
帳面をあけて先刻さっきの鶏を静かに写生していると、落ちついた耳の底へじゃらんじゃらんと云う馬の鈴がきこえ出した。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
先刻さっきから赤い本に指をまれた夢を見ていた、主人はこの時寝返りをどうと打ちながら「寒月だ」と大きな声を出す。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ただ先刻さっき多々良君が吾輩を目して休養以外に何等の能もない贅物ぜいぶつのごとくにののしったのは少々気掛りである。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかるに先刻さっきから津田君の容子ようすを見ると、何だかこの幽霊なる者が余の知らぬに再興されたようにもある。
琴のそら音 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
部屋で、先刻さっきこれを着た時も、乳をおさえてそっと袖をくぐらすような、男に気を兼ねたものではなかった。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
診察所の方は薬剤師が一人と会計の爺さんとで、この二人は通い、その外に先刻さっきいった下村さんと内野さんの書生が二人。
ニッケルの文鎮 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
夕方の家事雑役をするということは、先刻さっきの遊びに釣をするのでないという言葉に反映し合って、自分の心を動かさせた。
蘆声 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
正義! 先刻さっきまでは見せかけだけの正義の士であったが、もういまは、腹の底から、わしは正義のために叫びたくなりました。
新ハムレット (新字新仮名) / 太宰治(著)
若い方は、先刻さっき山鳥五羽うって来た白手しらで留吉とめきち、漢字で立派に名がかけて、話も自由自在なハイカラである。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
つい今先刻さっき、吾輩がここを出かける時まで空室あきべやであった、あの六号の病室にアカアカと電燈がいている。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
何もかも先刻さっきの通りの姿で、しかも一人の水夫の片腕がブランブランになっているのが幽霊以上の恐ろしいものに見えた。
幽霊と推進機 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
若子さんに呼ばれて、私ははッと思って、若子さんの方へ行こうとすると、二人の間を先刻さっきの学生に隔てられて居るのでした。
昇降場 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
先刻さっき取次に出た女は其後そのご漸く下女と感付いたが、此時障子の蔭からヒョコリお亀のような笑顔えがおを出して、
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
こうして先刻さっきからボルドオルウジ——一九二八年醸造——の半壜デミをなかにすっかり饒舌しゃべりこんでいるのだ。
山「オヤ金入を落したか、こーと、あ先刻さっきの娘の所へ心附けた時紙入から出したが、包んで遣ったまゝ忘れて来た」
……こう私が考えたには、所説いわれがあります。……それは、お話は前後したが、その何の時でした。——先刻さっき、——
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
勝平に付きまとっていた芸妓げいぎ達も、先刻さっき踊りが始まる拍子木が鳴ると、皆その方へけ出してしまった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
白みかけた水明りに、先刻さっきの船はおぼろに見える。桂はまだ其船そこにいて、船頭とともに、船底の板子を上げていた。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
先刻さっきから恐ろしい熱心をもって話を聞いていた美しいお菊は、どうしたものか利右衛門の顔をこの時横眼で睨んだものである。
赤格子九郎右衛門の娘 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
先刻さっきの、あの青大将あおだいしょうの事なんでしょう。それにしても、よく私だというのが分りましたね、驚きました。」
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私は室の中へはいると、先刻さっきも申し上げたように、真っ先に灰皿の中にある敷島しきしまの吸い殻が眼にとまりました。
アパートの殺人 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
失火やったかい。」と膝の進むを覚えず、火鉢をうしろに、先刻さっきからって出て、聞きながら一服しようとする。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
先刻さっきの文金で襟なしの小袖でさえ見違えたのに、栗鼠のコオトに藍鼠のその頭巾。しかもこの時はかぶっていました。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
こんなようなおんなか、先刻さっきの、おとこのような、かわいらしいまごがあったら、どんなに
やんま (新字新仮名) / 小川未明(著)
そこからのぞいて見ると、美少年は先刻さっきの席へもどって、何か、失くし物でもしたように、自分の足もとを見廻している。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
先刻さっきから枯柳の幹にりかかって、じっと岸に立っている岸柳佐々木小次郎のすがたを、そこに見出すことが出来る。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「お坊さんだから、やはり女子はきらいとみえますな、そのくせ先刻さっきは、あの隠居様のことを、いい人間だといったりしたが」
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
——見ると、先刻さっき泥鰌どじょうを分けてくれなかった子どもである。これはよくよく縁があると、武蔵は思わず微笑んで、
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
先刻さっき、どんじきの中で、浜田とか呼ばれていたもう一名の牢人が、すぐ駈けて、横から西瓜売りの首をつまみ上げた。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
先刻さっきから通って、木村助九郎が挨拶に出ておるが、あの長談義には閉口なのだ。殊に、坊主と兵法の議論などは参るからな」
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お徳は必死と身を揉みますが、先刻さっきの芝居が過ぎて、あまりに厳重に縛られたので、どうすることも出来なかったのです。
「馬道に申刻ななつ(午後四時)時分から先刻さっきまで、師匠の帰りを待っていましたよ。八五郎さんもよく御存じで——」
先刻さっきさんざん縁の下をのぞいて歩いた留吉は、苦笑いをしております。彼の頭は蜘蛛くもの巣だらけだったのです。
やや離れて、広縁をうしろにし、じっと、先刻さっきから手をつかえているのは、夫人おくがたしずかまえであった。
日本名婦伝:静御前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
新「なアニ師匠お前が種々な事を云いさえしなければいゝけれども…お前先刻さっき何処どこかの二階へ来やアしないかえ」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
先刻さっきまで庭で護謨風船ゴムふうせんげて騒いでいた小供達は、みんな連れ立って活動写真へ行ってしまった。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
お上さんは「いいえおかまい申しも致しませんで」と礼を返したあと先刻さっき小供にやった白銅はくどうの礼を述べた。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
自分はそれでも兄が先刻さっきの会談のあと、よくこれほどに昂奮こうふんした神経を治められたものだと思ってひそかに感心した。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
先刻さっきから肉を突ッついていた叔父は、自分の口を出さなければならない時機に到着した人のように、皿から眼を放した。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼の前には先刻さっき島田の持って来た手土産てみやげがそのまま置いてあった。彼はぼんやりその粗末な菓子折を眺めた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「兄さん、佐伯さえきの方はいったいどうなるんでしょう。先刻さっき姉さんから聞いたら、今日手紙を出して下すったそうですが」
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「これあネ」私は彼の耳に口を寄せた。「これあ先刻さっき云ったゴールデン・バットの君江とややっこしい仲で評判の男さ」
ゴールデン・バット事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その寒いのにじゃね……先刻さっきから、水に臨んで、橋の上に、ここに暫時しばらく立っていたのは、ありゃどういうわけですか。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
先刻さっきから、あちこちで、様子を見ていましたけれども、そばに人が居るから、見られるのが可厭いやで来ませんでしたよ。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「そうですか。わたくしも先刻さっきから見てあるいているのですが、もし果して石が啼くとすれば、あの石らしいのです。」
こま犬 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
武蔵は思い出した。先刻さっきここへ来る途中、宝蔵院の裏の畑でくわをもって百姓仕事をしていたあの老僧ではないか。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
先刻さっきチラと振返ふりかえった繁代の顔には、昨夜とは又違った、深刻な悩みのあったのを、半十郎は見のがさなかったのです。
江戸の火術 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「犬が匕首なんか背負って逃げるものか。先刻さっきから考えていたんだが、匕首はその沓脱くつぬぎの後ろに、打ち込んであるよ」
「銭形の親分さん、先刻さっきからいらっしゃることは存じておりました。わざわざこんな小屋へ御運びで、有難う存じます」
「夕方、沖から帰って来て、御飯を食べてから、なんか書きもんをして、先刻さっき、風呂に入って寝たようにありましたけど、……」
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
「そいつは主人が預かっている。先刻さっき検屍のとき、同心の内藤さんが眼を通して、後で取りに来るからと、主人に返したはずだ」
時間過の客に気を揉んで居る亭主の前へ、ポンとほうり出したのは、先刻さっき柳糸子の指から抜いて来た、ダイヤ入の指環です。
踊る美人像 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
×「だから己が先刻さっきから、う云うことを云って係合に成ったものが有るから大きな声をして云うなと云うのだ」
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
先刻さっき私を案内して来た男が入口の処へしずかに、影のように現れた。そして手真似で、もう時間だぜ、と云った。
淫売婦 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
「ええ先刻さっき御客さまといっしょに御出かけになりました。ことによると今日はもうこちらへは御帰りにならないかも知れませんよ」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「私は先刻さっきからそう思って拝見しているところなんですけれど、今日は先生のお顔色も好くない」ともう一人の女中が言い添えた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
十右衛門に挨拶して、若い男は早々に出て行ってしまった。あれが先刻さっきお話し申した千崎弥五郎の和吉ですと、十右衛門が云った。
半七捕物帳:03 勘平の死 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
医師いしゃが転地しろと言うそうで。」と、母親は一番体が弱くて可愛い正雄のことで先刻さっきから気を揉んでいた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
わがクロクロ島の現在の位置は、先刻さっきも、深度計や指針が示していたとおり、水深三十一メートルの海中にあるのだ。
地球要塞 (新字新仮名) / 海野十三(著)
振向いて見ると、思いがけずお糸さんが入口にうずくまって、両手を突いて、先刻さっきの礼を又言ってお辞儀をする。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「途方もない、若様。それを取ろうッて、実はつい先刻さっきだそうです。あの花売のむすめも石滝へ入ったんです。」
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
——小松原さん、この梅雨あけにも田圃へ水が出ましてね、先刻さっきおっしゃいました、踏切の前の橋も落ちたんですよ。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その襟足がばかに真白だったが、先刻さっきちらと見たところでは、顔は濃い白粉おしろいを脂で拭きとったらしくつるりとしていた。
溺るるもの (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
と、その時一人の若武士わかざむらい先刻さっきから群集の中にまじり、巫女の様子をうかがっていたが、思わず呟いたものである。
南蛮秘話森右近丸 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
と、扉が一方へあいて、先刻さっき方お紅の部屋に在って、お紅に因果を含めていた、老婆が顔をつき出した。すなわち四塚の姥である。
血ぬられた懐刀 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
博士は立ち上ろうとしたが、先刻さっきの衝突でひどく身体を打ったと見えて、腰の関節が痛んで中々立てそうもない。
月世界跋渉記 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
こう語って康雄は一息ついた。紺野老人は先刻さっきから、神妙にかしこまって、康雄の言葉を肯定するかのようであった。
好色破邪顕正 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
不意の見参げんざんといい、ことに先刻さっき小間使を見てさえ低頭平身した青年わかものの、何とて本尊に対して恐入らざるべき。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ふとすると先刻さっき遁失にげうせた悪漢わるもの小戻こもどりして、奪い取ったかも知れぬ、猶予する処でない。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
風采花やかな若衆武士が、先刻さっきから側には中堂の寺侍を二、三名も据え、威風は辺りを払うが如く見うけられていたので、彼らは、
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
坐り直すと、賛之丞はまるで先刻さっきの賛之丞ではなかった。決して、お稲へゆるしたような哀れっぽい弱気はどこにも見せなかった。
八寒道中 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『それに山上講演のマルキシズムと、先刻さっきの女中の、院化はんも来なはるとで攻め立てられては三宝鳥も駄目ですよ』
仏法僧鳥 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
「どうして? ——どうして無駄だ? ——お前でも、先刻さっき、すこしは体を思わねえじゃァ。……そ、そういったじゃァねえか?」
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
「つい先刻さっき瓶口ビングから、駅で書いたらしいびの端書が来たけど、そんなもの貰ったってしょうがない」
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
お蝶の神経はげて来ました。そして、先刻さっきの、沢からオ——イと呼んだ声が、ふたたび耳によみがえってくる。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ここだと云うので、二人馬車を下りて税関に這入って見ると、あいにく政樹公は先刻さっき具合が悪いとかでうちへ帰った後であった。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「旦那様ですか。もう最前とっく御出掛おでましに成りました。貴方、奥様は先刻さっきから御待兼で御座ますよ」
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
眼こそ見えね、まゆの形、細きおもて、なよやかなるくびあたりにいたるまで、先刻さっき見た女そのままである。
倫敦塔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
思わず、心が、先刻さっきの暗がり坂の中途へ行って、そのおかしな婆々ばばあが、荒縄でぶら提げていた、腐った烏の事を思ったんだ。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
背後の座席にいた通信兵は、このとき大きくうなずいて、先刻さっきから用意していた白紙に、鉛筆を走らせていた。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「検事さん。今日の集りの真意しんいはどこにあるのですかなア」と先刻さっきから聞きたかったことをたずねた。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
と、向うから自動車が一台やって来た。ヘッド・ライトの眩射が、痛々しく目を射る。——先刻さっきのクーペだろうか?
白妖 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
「そうでしょう。先刻さっきはまた妙な倍音が聴えましたわ。でも、まさか伸子さんを犯人になさりゃしないでしょうね」
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
と博士は勝ち誇ったように云い放ったが、先刻さっきから絶えずうかんでは消えていた不安の色が、いきなり顔面一杯に拡がってきて、
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「ああ、日が射して来た、先刻さっきまでは雪模様でしたが、こりゃ好い塩梅あんばいだ」と復た辰さんが言っていた。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
先刻さっきまでていた掻捲きなどの、そのままそこにつくねられた部屋の空気も、いとわしく思えて来た。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
と、先刻さっきの蛇の目を忘れたことに気がついたらしく、階下したから「三造さん。傘! 傘!」と大きな声がした。
斗南先生 (新字新仮名) / 中島敦(著)
陽子の足許の畳の上へ胡坐あぐらを掻いて、小学五年生の悌が目醒し時計の壊れを先刻さっきからいじくっていた。
明るい海浜 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
「どうしました、え? 先刻さっきはあんなに馴れっこになってたのに……。困りますね。」と兼子は云いながら、没表情な微笑を浮べた。
子を奪う (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
先刻さっきまでその髪の毛にたわむれてゐた強烈な光線は少うし動いて窓の方へ寄り、与里の全身は、今は全く影の中に息づいてゐるのだ。
竹藪の家 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
「それサ、おれ先刻さっきから其奴を言おうと思ってたんだ、何しろ難有ありがてエ難有てエ、ア、助ったナア」
監獄部屋 (新字新仮名) / 羽志主水(著)
清水にきぬ洗える美女である。先刻さっきのままで、洗いさらした銘仙めいせん半纏はんてん引掛ひっかけた。
夫人利生記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)