不束ふつゝか)” の例文
「奥さん。そんな事はありません。」ドイツ人は不束ふつゝかなロシア語で答へた。そして直ぐに金網を持ち上げて、棒で鰐の頭を衝いた。
町「不束ふつゝかのもので何処どこへ参っても御意にらず逐出おいだされたとき宿やどがございません、どうかお見捨なく御膳炊きにお置き遊ばして下さい」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
おちつけずや母樣はゝさまにはねがはんとてはなたまはず夫樣おくさままたくれ/″\のおほせにそのまゝの御奉公ごほうこう都會みやこなれぬとてなにごとも不束ふつゝかなるを
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
いや不束ふつゝかではございますが、こしらへましたもの、貴下あなたのおゆるしがありませんでも、開閉あけたて自由じいうでございます。」
画の裡 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
勿論もちろんわたくし不束ふつゝかながらも一個いつこ日本男子につぽんだんしであれば、そのくにたいしても、かゝ塲合ばあひだい一に逃出にげだこと出來できぬのである。
不束ふつゝかな假名文字で書いてはあるが、條理が善く整つてゐて、大人でもこれだけの短文に、これだけの事柄を書くのは、容易であるまいと思はれる程である。
最後の一句 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
併しその持つて行き方が余り不束ふつゝかであつたので、ジユリエツトは「どうなすつたの」と云つて笑ひ始めた。
不可説 (新字旧仮名) / アンリ・ド・レニエ(著)
どうせ自分は父祖の偉業を亡ぼした不束ふつゝかな子であるから、その申訳に腹を切るのは覚悟の前であるけれども、迂濶うかつに此処で死んだら、きっと自分の首は輝勝の手に渡るであろう。
やりたき物なりとさる大家とは知ざれば一個ひとりこゝろに思ひゐたるが息子殿には不束ふつゝかなる娘お光を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
さうして假令たとへ、私が多くの缺點を持ち、何んの取柄とりえもないやうな不束ふつゝかな人間だとしても、ヘレン・バーンズに飽きることは決してなかつたし、これまで私の心を勵ましてくれた他のどんなものよりも
なされてくださるはづもなしべつものにあそばすとりながらおうらみも申されぬ不束ふつゝかうらめしうぞんじますとホロリとこぼすひざつゆ
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
小「おや/\これはお初にお目にかゝります、手前は稻垣小三郎と申す不束ふつゝかの浮浪人此のともに幾久しく御別懇に願います」
不束ふつゝかおそるが、小作せうさく蒟蒻本こんにやくぼん蝋燭らふそくもてあそ宿場女郎しゆくばぢよらうは、それからおもいたものである。
番茶話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
八右衞門に申付る又名主儀は日頃ひごろ行屆ゆきとゞかざる故家主の善惡もわきまへざる段不束ふつゝかなり以來屹度きつと心付こゝろつけ候樣致すべき旨申渡され一件落着とぞなりける是先に一旦彦兵衞獄門ごくもんと成りしは大岡殿申されし通り獄中にて病死の者の首を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ことには貴方様と何うか御相談の上で、不束ふつゝかな妹では有るが、女房にょうぼに持って貰いたいと存じて、今日こんにち身請を致し、明後日みょうごにちは貴方様をお招き申して
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ときに、ことなりけり。三人さんにんおなじくゆめむ、ゆめ蒋侯しやうこう伝教さんだいふつかはして使者ししやおもむきまをさす。いはく、不束ふつゝかなるをんなども、みだり卿等けいら栄顧えいこかふむる、まこと不思議ふしぎなる御縁ごえんだん祝着しうちやくぞんずるものなり
甲冑堂 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
花「はい、決して背きませんが、不束ふつゝかものでございますから、宜く御用をお言い付けなすって下さいまし、漸く御飯ごぜんは炊けるようになりました」
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
此方こちらの御両親のお心持をお察し申しますと誠にお気の毒様で、どうも是程に不束ふつゝかな私を、あゝ仰しゃって下さりますものを無にも致されませんから
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
武運つたなくして谷中瑞麟寺の藪蔭で何者とも知れず殺害せつがいされ、不束ふつゝかの至りによってながのおいとまを仰付けられ、討ったるかたきが知れんというが、さぞ残念であろう
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
大「えへゝゝ、不束ふつゝかの大藏格別かみのお思召ぼしめしをもちまして、重きお役を仰付けられ、冥加至極の儀で、此の上とも何卒どうぞ御家老のお引立をこうむりたく存じます」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
さて昨日は殿様に御無理を願い早速お聞済きゝずみ下さいましたが、たかすくなし娘は不束ふつゝかなり、しゅうとは知っての通りの粗忽者そこつもの、実になんと云って取る所はないだろうが
うか今夜不束ふつゝかな娘だが婚礼をしてくだされ、これ婆、明日あしたは孝助殿が目出度めでたく御出立だ、そこで目出度いついでに今夜婚礼をする積りだから、徳に髪でも取り上げさせ
さて其の頃はお屋敷は堅いもので、当主が他人ひとに殺された時には、不憫ふびんだからたかを増してやろうという訳にはまいりません、不束ふつゝかだとか不覚悟だとか申して、おいとまになります。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
なんともはや誠にどうも恐れ入りますなア、殿様と申し貴方あなたと申し、不束ふつゝかわたくしをそれ程までに、これははや口ではお礼が述べきれましねえ、何ともヘイ分らなく有難うございます
実は旦那様はさぞいやであろうと存じて居りました処が、御孝心深いあなた様、お母様の云うことをお背き遊ばさずに、親が云うからと不束ふつゝかわたくしを嫁にと仰しゃって下さりまして
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
重役の耳へ此の事が聞え、部屋ずみの身の上でも、中根善之進何者とも知れず殺害せつがいされ、不束ふつゝかいたりと云うので、父善右衞門は百日の間蟄居ちっきょ致してまかれという御沙汰でございますから
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
何処どこへか奉公に参りましょうと思いましても、不束ふつゝかもの逐出されてもき処がございません、心細う思うて居りました、旦那様へ御奉公に参ればお情深い旦那さま、見捨みすてては下さるまい
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
左様そうなさる時は不束ふつゝかの妹どころでは無い立派な嫁を届かんながら山三郎が媒妁なこうどして差上げたく、末永う御懇意に致しますから、何うかすっぱり魂を洗い清めて其の証拠をわたくしに見せて下さい