三言みこと)” の例文
とその中の頭分かしらぶんらしいさむらいがいいました。それから二言ふたこと三言みこといいったとおもうと、乱暴らんぼう侍共さむらいどもはいきなりかたないてってかかりました。
葛の葉狐 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
案内の男が二言ふたこと三言みこと支那語で何か云うと、老人は手を休めて、暢気のんきな大きい声で返事をする。七十だそうですと案内が通訳してくれた。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
俊助と二言ふたこと三言みこと雑談を交換した後で、野村は大理石のマントル・ピイスへ手をかけながら、冗談のような調子でこう云った。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
おつたも不快ふくわい容子ようすをしながら南瓜たうなすねぎとを脊負しよつてべつくちくでもなく、たゞ卯平うへい二言ふたこと三言みこといつてもうどうでもいといふ態度たいどつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
だが今朝は、作左衛門が出がけであるため、二言ふたこと三言みこと軽い言葉をかけられたのみで、彼は本陣を出て行く駕をなぜか知らぬ淋しい心もちで見送った。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
艦長松島大佐かんちやうまつしまたいさむかつて、何事なにごとをか二言ふたこと三言みこと公務こうむ報告ほうこくをはつてのちわたくしほう向直むきなをつた。快活くわいくわつ調子ちようし
くど/\二言ふたこと三言みこと云うかと思うと、「それじゃまた」とお辞儀じぎをして往ってしまった。「弟が発狂した」が彼の口癖くちぐせである。弟とはけだし夫子ふうしみずからうのであろう。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
ここは農夫の客にめられたりしがようやくきしなり。となりひげうるわしき男あり、あたりをはばからず声高こえたかに物語するを聞くに、二言ふたこと三言みことの中に必ず県庁けんちょうという。
みちの記 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
エレーナ じゃ、あと二言ふたこと三言みこと——それでおしまいにしましょうね。あなた、何もお気づきじゃなくて?
三言みこととはばれもせずおびよりさきたすきがけの甲斐かひ/\しく、井戸端ゐどばたいづればつきかげながしにのこりて、はだへすやうなかぜさむさにゆめわすれぬ、風呂ふろすゑ風呂ふろにておほきからねど
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
夜の八時頃、一人で棊譜きふを開いて盤上に石を並べている父に、紅茶を運んで行ったときにも、父は二言ふたこと三言みこと瑠璃子に言葉をかけたけれど、書状のことは、何も云わなかった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
間違まちがつてるかもれないわ』とあいちやんはおそる/\つて、『二言ふたこと三言みことへたのよ』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
と云つて鏡子は襟をあはせた。何時いつの間にか千枝子も伯母の膝にもたれて居た。お照が千枝子に二言ふたこと三言みこと物を云つてかうとすると榮子がわつと泣き出した。鏡子は手を放して子を立たせた。
帰つてから (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
孟丙の弟仲壬は昭公の近侍きんじ某と親しくしていたが、一日友を公宮に訪ねた時、たまたま公の目にとまった。二言ふたこと三言みこと、その下問に答えている中に、気に入られたと見え、帰りには親しく玉環ぎょっかんを賜わった。
牛人 (新字新仮名) / 中島敦(著)
ヂュリ ロミオどの、もう三言みことだけ、それで今宵こよひわかれませう。
安井やすゐ門口かどぐちぢやうおろして、かぎうらうちあづけるとかつて、けてつた。宗助そうすけ御米およねつてゐるあひだ二言ふたこと三言みこと尋常じんじやうくちいた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
その間に、騎馬の女と、跛行の侍は、何か、ふたこと三言みこと話していたが、やがて侍は馬の口輪をつかんで、伊織のかくれている草むらの前を通りすぎた。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
で、濱島はまじま此時このとき最早もはやこのふねらんとてわたくしにぎりて袂別わかれ言葉ことばあつく、夫人ふじんにも二言ふたこと三言みことつたのち、その愛兒あいじをば右手めていだせて、その房々ふさ/″\とした頭髮かみのけでながら
野村のむらもその窓から首を出して、外に立っている俊助しゅんすけと、二言ふたこと三言みこと落着かない言葉を交換した。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
彼女は何か二言ふたこと三言みこと言葉を換すと乗るべき自動車に片手をかけて、華やかな微笑を四人の中の、誰に投げるともなく投げて、そのしなやかな身をひるがえしてたちまち車上の人となったが
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
質樸しつぼくなれば言葉すくなきに、二言ふたこと三言みことめには、「われ一個人にとりては」とことわるくせあり。にわかにメエルハイムのかたへ向きて、「君がいひなづけの妻の待ちてやあるらむ、」といひぬ。
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
しかしKの室の前に立ち留まって、二言ふたこと三言みこと内と外とで話をしていました。それは先刻さっきの続きらしかったのですが、前を聞かない私にはまるで解りませんでした。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それからも、ふたこと三言みこと、門番は何かいったが、子供の声をいぶかりながら、やがて、門を少し開けて
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ふたこと三言みこと、藤夜叉が口走りつづける訴えを聞くと、彼は、愕然がくぜんと色をなした。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)