一目散いちもくさん)” の例文
その間に——悧巧りこうな例のお差控え連は事面倒と見て、道庵にこの場をなすりつけ、三人顔を見合わせると、一目散いちもくさんに逃げ出しました。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
三五郎と松吉はすぐに駈け出して行って、有無うむを云わせずに二人の日本人を取り押えた。ロイドはおどろいて一目散いちもくさんに逃げ去った。
半七捕物帳:40 異人の首 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
阿弥陀如来の後ろから、巨大なねずみのような真っ黒な怪物が、さッと飛び出して、あたりのものを蹴散らかし、一目散いちもくさんに逃げ出して行った。
死体蝋燭 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
よくとおる、しかし意地の悪くない高笑いに追われながら、一目散いちもくさんに自分の部屋へんで、ベッドにころがり込むと、両手で顔をかくした。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
その結果夜暗くなつてから船宿の桟橋へ船を着け、宿の亭主がふなべりの大破損に気のつかない中一同一目散いちもくさんに逃げ出すがよからうといふ事になつた。
水 附渡船 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「ありがとう」一言礼をいうと、彼女は、一旦後へ引きかえし、宙で憶えている近道をとおって、一目散いちもくさんに裏口へ走った。
鬼仏洞事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
劉璋の嫡子劉循りゅうじゅんは、この急変におどろいて、北門の一方からわずかな兵と共に、取る物もとりあえず、逃げ出していた。一目散いちもくさん、成都をさして。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それから元気よく口笛くちぶえきながらパン屋へ寄ってパンのかたまりを一つと角砂糖を一ふくろ買いますと一目散いちもくさんに走りだしました。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
二人ふたりは、おどろいて、一目散いちもくさん往来おうらいをあちらへはしっていきました。二人ふたりは、うしろをないようにしました。なぜなら、あとってくる足音あしおとがきこえたからです。
子供どうし (新字新仮名) / 小川未明(著)
飛び降りたばかりではありません、飛び降りていきなり下駄を握って一目散いちもくさんに逃げ出しました。だから一口も叱られもせずまたつかまえられもせずに済んでしまった。
模倣と独立 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「それから一目散いちもくさんに飛び出した。——懐中ふところの十手を取り出すわけにもいかないから、逃げの一手だ。石燈籠いしどうろう蹴散けちらして植込うえこみをくぐって、裏門を出るのが精いっぱい」
盗人は狼狽あわてた。外へ出られてはたまらない——彼の方が一目散いちもくさんに飛出すと、おばあさんが後から
ひい、ふう、みい……まるで暗闇坂くらやみざかでひとつ眼小僧にでもあったときのよう、大きな図体ずうたいをしたふたりが、わあッ、と声をあげながら一目散いちもくさんに居酒屋から逃げだした。
村の方角へ一目散いちもくさんに馬を駈けさせたものだから、とうとう馬車のながえが柵にぶつかって、それ以上はもう一歩も先へ進めなくなるまで、馬をとめることが出来なかった位だ。
丁度ちやうど、その砂山の上に来た時、久米くめは何か叫ぶが早いか一目散いちもくさんに砂山をりて行つた。
微笑 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
そういう罪悪とおよそ懸けはなれたと思われる清浄無垢むくの人間が、自分も他人も誰知らぬ間に駆足で飛んで来てそうした淵の中に一目散いちもくさんに飛込んでしまうこともあるようである。
変った話 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
野良調子のらでうし高声たかごゑげて、広野ひろのかすみかげけぶらせ、一目散いちもくさん駆附かけつけるものがある。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
多分、そんなような、胡散うさんな者を、たった今眼前に於て、感得したればこそ、彼はかくも一目散いちもくさんに走り過ぎたものと思われる。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その結果夜暗くなってから船宿の桟橋へ船を着け、宿の亭主がふなべりの大破損に気のつかないうち一同一目散いちもくさんに逃げ出すがよかろうという事になった。
その声をしるべに其処そこらを見まはすと、その声は土の下から聞えてくるらしかつた。亭主は一目散いちもくさんに暗い路を駈け出して、山の下まで逃げ降りた。
小夜の中山夜啼石 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
魚も網もいたまま一目散いちもくさんげるでしょうバキチはわらってそいつをって警察けいさつ小使室こづかいしつへ帰るんです。
バキチの仕事 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
蛾次郎がじろうもにわかにあわてだして、半助のからだを背負せおって、一目散いちもくさんにそこを立ちさった。すると、たった一足ひとあしちがいに、あらしのように殺到した一だんの軍馬があった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
塔橋を渡ってからは一目散いちもくさんに塔門までせ着けた。見るに三万坪に余る過去の一大磁石いちだいじしゃく現世げんせ浮游ふゆうするこの小鉄屑しょうてつくずを吸収しおわった。門をはいって振り返ったとき
倫敦塔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
白は犬殺しに目をくばりながら、じりじりあとすざりを始めました。そうしてまた生垣いけがきの蔭に犬殺しの姿が隠れるが早いか、可哀かわいそうな黒を残したまま、一目散いちもくさんに逃げ出しました。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
其處そこ薄汚うすよごれたしたぐつつて、かたからひさしへ、大屋根おほやね這上はひあがつて、二百十日にひやくとをかかたちで、やつとこな、と帽子ばうしつかむと、したやつ甜瓜まくはかじりにくつつかんで、一目散いちもくさん人込ひとごみなかへまぎれてさふらふ
人参 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
もう堪まらなくなって、あわてて土蔵の扉をしめ切って一目散いちもくさんに逃げて帰りました。大蛇だいじゃが口をきく筈がありません。
半七捕物帳:20 向島の寮 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
米友は大音を揚げて財布ぐるみそっくりと格子戸こうしどの中へ投げ込むや否や、物にわれるように一目散いちもくさんに逃げ出して来ました。跛足びっこの足で逃げ出しました。
バキチはすっかりまごついて一目散いちもくさん警察けいさつげて帰ったんです。そして署長のところへ行って耕牧舎では牛のかわだけはいで肉とほねはたしかに土にめていましたって報告ほうこくしたんです。
バキチの仕事 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
その金を、河岸から川の中へほうり込んで、一目散いちもくさんに逃げ出したらしいんです。
魚紋 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その勢いの烈しさにさすがの刺客しかくが、刀を取り返そうともせず、鞘までも落したままで一目散いちもくさんに逃げてしまった。
ことに一番いいことは、最上等さいじょうとうの外国犬が、むこうから黒い影法師かげぼうし一緒いっしょに、一目散いちもくさんに走って来たことでした。じつにそれはロバートとでも名のきそうなもじゃもじゃした大きな犬でした。
イギリス海岸 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
一目散いちもくさんに引っ返して逃げ出したのです。
半七捕物帳:59 蟹のお角 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
しまの財布を懐ろから出して、竜之助の前に置くや、後ろへいざるように退さがると、土手から田圃たんぼへ転げ落ちる、転げ落ちると共に田圃中を一目散いちもくさんに逃げ出した。
新世界交響楽はいよいよはっきり地平線のはてからきそのまっ黒な野原のなかを一人のインデアンが白い鳥の羽根を頭につけたくさんの石をうでと胸にかざり小さな弓に矢をつがえて一目散いちもくさんに汽車を
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
それを見ていた忠作は、何と思ったか蕎麦屋の荷物を抛り出して、一目散いちもくさんに駕籠の跡を追いかけました。
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
私どもはそこでまるで一目散いちもくさんにその野原の一本みちを走りました。
二人の役人 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
声を揚げて泣き出さんばかりに見えましたが、何を思い出したか一目散いちもくさんに表の方へ走り出しました。
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それから一目散いちもくさんげました。
二人の役人 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
と言ってどもりました。吃った時分には、いま米友が見かけた人影は、御米蔵おこめぐらの蔭へ隠れてしまいました。その人影の隠れた御米蔵をめざして、米友は一目散いちもくさんに駆けて行きました。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
さしもの、真黒な肉塊の海女がふるえ上って、後ろでつかんでいた髪の毛の手を放し、大童おおわらわで、二度とは、その声のした方を見返らずに、一目散いちもくさんおかせあがってしまったのは不思議です。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
こらえ兼ねて、石垣の後ろからけたたましい音を立てて飛び出したのは、無論、二人を威嚇するためではなく、そのまま一目散いちもくさんに、はばたきのけたたましい音を続けながら、二人の間を割って
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
余憤容易に去らず、これは昨晩、金助が両国橋まで一目散いちもくさんに逃げて、さてその下駄を突っかけようとして見ると、片一方だから、やむを得ず、そこへ並べて置捨てにしていったものに相違ない。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
といって、また一目散いちもくさんに屋台のところまでかけ戻って
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
なお一目散いちもくさんに濠端を急いで行くと往来止め。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)