もだ)” の例文
旧字:
法海和尚は「今は老朽ちて、しるしあるべくもおぼえはべらねど、君が家のわざわいもだしてやあらん」と云って芥子けしのしみた袈裟けさりだして
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
二人は又接穂つぎほなさに困つた。そして長い事もだしてゐた。吉野はう顔のほてりも忘られて、酔醒よひざめの佗しさが、何がなしの心の要求のぞみと戦つた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
其れがやわらかな日光にみ、若くは面を吹いて寒からぬ程の微風びふうにソヨぐ時、或は夕雲ゆうぐもかげに青黒くもだす時、花何ものぞと云いたい程美しい。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
一二一鬼畜きちくのくらきまなこをもて、一二二活仏くわつぶつ一二三来迎らいがうを見んとするとも、一二四見ゆべからぬことわりなるかな。あなたふとと、かうべれてもだしける。
他人の運命を思えばもだしがたく、しかも働きかけることが、他人を益するとの自信を握りかぬる弱者である。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
それはもだせる証人のように、そこによこたわっている。まったく厭なもんだ。すぐに処分してしまおう。
ピストルの蠱惑 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
「知らぬ疇昔むかしは是非もなけれど、かくわが親に仇敵あること、承はりて知る上は、もだして過すは本意ならず、それにつき、ここ一件ひとつの願ひあり、聞入れてたびてんや」
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
橋の上には、宵の人影もままぎるが、そこは瀬の水音と、とびう蛍だけだった。三名は腰をおろして、しばしもだしあった。夏も忘れ、生きる苦患くげんも薄らいでくる。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
(人々怪しき驚愕の声出しつつ眺む。老いたる男少時槌の手を休めて、人々を顧みながら)皆の衆は、などて、さはもだしておぢやるぞや。念仏申さぬか。念仏申さぬか。
南蛮寺門前 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
初対面のことではあったけれども、どうもに落ちない。学問の習いでもだし難く法然はいった。
法然行伝 (新字新仮名) / 中里介山(著)
厳令もだし難く、コン吉とポピノは赤い絨氈じゅうたんを頭からひっかぶって、越後から来たお獅子のように、ステテ、ステテとしきりにナポレオンの前をおどり廻るが、ナポレオンは一向に驚く様子もなく
夫に誘導されて一歩一歩堕落のふちに沈みつつあった私であるが、まだそれまでは、夫の要請もだしがたく苦痛を忍んで不倫を犯しているかのように、———そうしてそれは舊式な道徳観から見ても
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
彼はもだすべき時を知っていたように、また口をきくべき時をも知っていた。嘆賞すべき慰藉いしゃ者よ! 彼は忘却によって悲しみを消させることなく、希望によってそれを大きくなしたかめさせんとした。
これは老人の恋でまことに珍らしいものである。「あぢきなく」は「あづきなく」ともいい、「なかなかにもだもあらましをあぢきなく相見めても吾は恋ふるか」(巻十二・二八九九)の例がある。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
ひとりゐてもだもあらんと思へどもまた音づるる山ほととぎす
礼厳法師歌集 (新字旧仮名) / 与謝野礼厳(著)
深く母のもだしたまへば蠅の来てつぎつぎにたかる飯の白きに
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
唇を打ちふるはしてもだしたるかはゆき人をかき抱かまし
かろきねたみ (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
獅子はもだありて優しく、11850
もだせる樹々も歌ふ小鳥に接唇くちづけ
秋草に もだし伏すおほきいしずゑ
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
といひさしもだして咽び泣く。
『聊斎志異』より (新字旧仮名) / 蒲原有明(著)
互にもだしつつ語り合へり。
我が愛する詩人の伝記 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
じつともだしてある身にも
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
もだしつゝ白き血
秋の一夕 (新字旧仮名) / 末吉安持(著)
お登和嬢も折角の頼みもだがたく「そうですねー、品数の沢山出るのは支那料理です。上等の御馳走は三十六わんといって三十六品のお料理が出ます。その上の大御馳走となれば六十四碗のお料理が出ます」大原もさすがに驚き「ヘイ、三十六碗だの六十四碗だのとそんなに沢山出ては如何いかに大食の僕でも少々閉口しますな。支那人は ...
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
夜明けて朝日のさし出でぬれば、酒の醒めたるごとくにして、禅師がもとの所にいますを見て、只あきれたるさまに、ものさへいはで、柱にもたれ長嘘ためいきをつぎてもだしゐたりける。
そしてともに暁の疲れにもだしあって、閨も白々としてくるうちに何のご屈託もないかのような寝息に入った帝のお寝顔を見ながら、彼女は、ゆうべれるまで泣きつくした涙を
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
近ごろ、ご無礼の至りなれど、一応、後ろのお乗物の中のお連れにお目通りがしたい、拙者は岡崎藩の中、梶川与之助と申すもの、友人のためにもだし難き儀があって、人あらためを
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
碧色——三尺の春の野川のがわおもに宿るあるか無きかの浅碧あさみどりから、深山の谿たにもだす日蔭の淵の紺碧こんぺきに到るまで、あらゆる階級の碧色——其碧色の中でもことあざやかに煮え返える様な濃碧は
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
その吼声こえと、風のうなりと、樹々を打つ雨の音を聞くと、静かなへや内部なかが一しお暖かそうに思われ、そこにじっともだしている婦人おんなの姿が、何となく懐かしい感じをさえも与えるのであった。
犬舎 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
さがなくも人は言ふともよしゑやし我はもだして事なくぞ経ん
礼厳法師歌集 (新字旧仮名) / 与謝野礼厳(著)
石原に来りもだせばわがいのち石のうへ過ぎし雲のかげにひとし
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
父われはピアノのかげにかき坐りこともだしをり子らぞたたける
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
(かの黒い幻想の帆前ほまへは力なくもだしたのに——。)
北原白秋氏の肖像 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
嵐よもだせ、やみ打つそのつばさ
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
うちもだすこそ苦しけれ。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
もだしぬ。
『聊斎志異』より (新字旧仮名) / 蒲原有明(著)
爺の左近と、龍泉の正季も、彼のさしずを待ちかねるふうだが、それにもだしたまま、寝床まで抱き入れた迷いは、寝ぐるしい蒸し暑さを、よけい幾たびもの寝がえりにさせていた。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
老和尚三七四眼蔵めんざうをゐざり出でて、此の物がたりを聞きて、そは浅ましくおぼすべし。今は老朽おいくちて三七五げんあるべくもおぼえはべらねど、君が家のわざはひもだしてやあらん。三七六まづおはせ。
老が身は人わらへなる腰折れの歌よまんよりもだもあらぬか
礼厳法師歌集 (新字旧仮名) / 与謝野礼厳(著)
日もすがら砂原すなはらに来てもだせりき海風うみかぜつよく我身わがみに吹くも
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
赫爾洪得ハラハンテ夕日の照りにうつら出て駱駝もだ居り高き砂山
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
うちもだすこそ苦しけれ。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
一瞬の気まずいもだし合いのなかにチラと見ると、女は良家の内室らしい白妙しろたえ喪服もふくがかえって似合わしく、臙脂白粉気べにおしろいけがなくてさえ、なんとも婀娜あだなまめきをその姿は描いている。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この村の小さきやしろの森に来てもだすことあれど心足らはず
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
彼アイヌ、よくもだし、念じ、かつ、しかくもだせり。
(新字旧仮名) / 北原白秋(著)
両女ふたりは、息をつめて、もだしきった。眸と眸とは、曼珠沙華まんじゅしゃげのように、燃えあった。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
舟とめてひそかにもだす闇のうち深海底の響きこゆる
雲母集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
多市に蒲団ふとんを掛けてやりなどして、何気なく縁側から空を仰いでいると、パラパラと大粒な雨! もだしぬいていた闇の一角から、にわかに、気味の悪い冷風がサーッと一陣に揺すり立ててきた。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大鴉一羽渚にもだふかしうしろにうごく漣の列
雲母集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)