トップ
>
顰
>
しか
ふりがな文庫
“
顰
(
しか
)” の例文
「ぢや、
姉
(
ねい
)
さんは
何方
(
どちら
)
が
好
(
すき
)
だと
仰
(
おつ
)
しやるの」と、妹は姉の手を引ツ張りながら、
面
(
かほ
)
顰
(
しか
)
めて
促
(
うな
)
がすを、姉は空の
彼方
(
あなた
)
此方
(
こなた
)
眺
(
なが
)
めやりつゝ
火の柱
(新字旧仮名)
/
木下尚江
(著)
今からもう、二人は、そら、
顰
(
しか
)
めっ
面
(
つら
)
だと、
面白
(
おもしろ
)
がっている。近所の人たちを招待できるものなら招待するところだったに違いない。
にんじん
(新字新仮名)
/
ジュール・ルナール
(著)
留針を一本さすにも、そのあとで大儀そうな
顰
(
しか
)
め顔をちょっと鏡に映しながら、その大した努力の骨休めをしなければならなかった。
ジャン・クリストフ:05 第三巻 青年
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
とにかく部屋が見つかる迄といふ約束で泣き附いたのだつたが、彼が持込んで来た荷物を見ただけで、この部屋の主人公は眉を
顰
(
しか
)
めた。
火の踵
(新字旧仮名)
/
原民喜
(著)
「人でなし呼ばわりするなんて」とサモイレンコはさも厭わしげに眉を
顰
(
しか
)
めて呟いた、「そりゃ君、なんぼなんでも酷すぎるぞ。」
決闘
(新字新仮名)
/
アントン・チェーホフ
(著)
▼ もっと見る
要するに今のところはチェーホフという人が深刻ぶった
顰
(
しか
)
め
面
(
づら
)
からも、百姓的な粗野からも、歯ぐきを見せるような野卑な笑いからも
チェーホフ序説:――一つの反措定として――
(新字新仮名)
/
神西清
(著)
梶原が実検する中、その方を
上目
(
うわめ
)
に見、顔を
顰
(
しか
)
めつつ両手を膝につき、膝頭を揃へ、段々と背延して、中腰になりて
緊
(
きっ
)
と見て居る。
いがみの権太:(明治二十九年一月、明治座)
(新字旧仮名)
/
三木竹二
(著)
婆さんは、そういいながら、さもさも胸の痛みに触るように皺だらけの筋張った顔を一層
顰
(
しか
)
めて、そっと胸に手を当てる形をした。
霜凍る宵
(新字新仮名)
/
近松秋江
(著)
寝台
(
ベッド
)
に腰をかけている犯人は、細巻の女煙草を紅い
唇
(
くち
)
にくわえ、煙たそうに眼を細めながら、妖美な顔をよけい妖美に
顰
(
しか
)
めている。
旗岡巡査
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
主膳はその一類の者と共に馬場の下から、桟敷の上の舞台面を見上げているうちに、何に気がついたか、
面
(
かお
)
を
顰
(
しか
)
めて
慌
(
あわただ
)
しく左右を顧み
大菩薩峠:14 お銀様の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
身ぎれいにしてるが、一方では
情婦
(
いろおんな
)
をこしらえて、手鼻をかむ馬方でさえ眉を
顰
(
しか
)
むるような、
肥料溜
(
こえだめ
)
や
塵溜
(
ちりだめ
)
を心の底に持っている。
レ・ミゼラブル:08 第五部 ジャン・ヴァルジャン
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
机の上の繪端書帖に兄の繪端書を插んだ。そして、目を
顰
(
しか
)
めて、夕月の寒さうに冴えてゐる空を仰ぎながら、雨戸を
鎖
(
とざ
)
して階下へ下りた。
入江のほとり
(旧字旧仮名)
/
正宗白鳥
(著)
「そんなにキチキチされちゃかえって困るな。」と顔を
顰
(
しか
)
めて言う。「商売が商売だから、どうせそう綺麗事に行きゃしない。」
新世帯
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
其辺
(
そこら
)
にある机や碁盤をえつちらをつちら持ち出して来て、平気でそれに腰を掛ける事で、几帳面な主人は、大抵が苦りきつて顔を
顰
(
しか
)
める。
茶話:04 大正七(一九一八)年
(新字旧仮名)
/
薄田泣菫
(著)
自筆の名刺か何かを出されて、之を持って奥へ行くと、伯父さんの先生名刺を一見するや、
面
(
かお
)
を
顰
(
しか
)
めて、居ると言ったかという。
平凡
(新字新仮名)
/
二葉亭四迷
(著)
彼女は
顰
(
しか
)
め
面
(
つら
)
をして鼻を鳴らし始めた。明るい陽差しが、軒に出された
風露草
(
グラニヤ
)
の植木鉢に、恵み多い光りの
箭
(
や
)
をそそいでいた。
橋
(新字新仮名)
/
池谷信三郎
(著)
彼女は別に眉を
顰
(
しか
)
めはしなかった。というのは、この速力が如何にも緩漫だったからだ。映画を見あきると、レヴィウを見た。
恐しき通夜
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
この質問には
流石
(
さすが
)
に安藤巡査も
呆
(
あき
)
れたと見えまして、暫く眉根を
顰
(
しか
)
めながら考えを絞っていましたが、やがて顔を挙げると
とむらい機関車
(新字新仮名)
/
大阪圭吉
(著)
しかも誰かに打ち殺された無念の
形相
(
ぎょうそう
)
か何ぞのように、ジッと眼を
顰
(
しか
)
めていて、一文字に噛み締めている岩の唇の間から流れしたたる水滴が
斜坑
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
反絵は時々戸の隙間から中を
覗
(
のぞ
)
いた。薄暗い部屋の中からは、一条の寝息が絶えず
幽
(
かす
)
かに聞えていた。彼は顔を
顰
(
しか
)
めて部屋の前を
往
(
ゆ
)
き
来
(
き
)
した。
日輪
(新字新仮名)
/
横光利一
(著)
ルオーの描いた
基督
(
キリスト
)
のように、真面目過ぎるが故に、かすかに
剽軽
(
ひょうきん
)
にさえ見える葛岡の顔が
顰
(
しか
)
められかけて、それを張り
支
(
ささ
)
えるものがあって
生々流転
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
それを耳にもかけぬ風で、お梶は弟の前の
煙管
(
きせる
)
を取り上げて、一服すはうとしたが、煙管の詰まつてゐるのに顔を
顰
(
しか
)
めて
鱧の皮
(新字旧仮名)
/
上司小剣
(著)
彼が手に唾し、眉を
顰
(
しか
)
めて、その刀身をびゅうびゅうと空気を切って振り𢌞すのを見ると、吾々みんなは元気が出て来た。
宝島:02 宝島
(新字新仮名)
/
ロバート・ルイス・スティーブンソン
(著)
こう来たらどうでしょう、同地宿屋の亭主の顔はそれでも
顰
(
しか
)
んでいるでしょうか? その他同地の迎客場処は
孰
(
いず
)
れも景気の好い事請合いでしょう。
植物記
(新字新仮名)
/
牧野富太郎
(著)
夫人は
遉
(
さすが
)
に、緊張した。やさしく烟つてゐる眉を、一寸
顰
(
しか
)
めながら、信一郎が何を云ひ出すかを待つてゐるやうだつた。
真珠夫人
(新字旧仮名)
/
菊池寛
(著)
必ず美しい額を、
顰
(
しか
)
める時が来るのを予想していた。そこで、私は舟に乗り込む前に、そっと船頭に命じてこの問題の解決に備えて置いたのである。
葵原夫人の鯛釣
(新字新仮名)
/
佐藤垢石
(著)
若しも人が、又父が、妹が、当然の権利のやうに私の答へを求めるなら、私は忽ち顔を
顰
(
しか
)
め、心の底では癇癪に浪立ちながら叫ぶだらう。俺は孤独だ。
狼園
(新字旧仮名)
/
坂口安吾
(著)
「人形の観賞は、いずれゆっくりやってもらうことにしてだ」と熊城は苦々しげに顔を
顰
(
しか
)
めたが、「それより法水君、鍵が内側から掛っているんだぜ」
黒死館殺人事件
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
「それはそれは困ったことで」老師は一層顔を
顰
(
しか
)
めたが、「愚老はともかく芳江姫が
酷
(
ひど
)
く恐れておりますのでのう」
蔦葛木曽棧
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
風が吹きすぎる毎に思わず
顰
(
しか
)
め顔をしながら外の景色を眺める。バラックのスレートの屋根屋根、その彼方に突立つ葉のない巨大なる
焼棒杭
(
やけぼっくい
)
のような樹木。
街
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
弟子達の口からイエの名をきくと祖母は露骨に顔を
顰
(
しか
)
め、よしないものに軽率に名を遣ったことの
愚痴
(
ぐち
)
を漏らすのがきまりだった。父はいつも黙っていた。
前途なお
(新字新仮名)
/
小山清
(著)
元三は眩しそうに頬肉を畳み上げ顔をひどく
顰
(
しか
)
めていた。厚ぽったい大きな脣がきゅっと歪められている。大きな両眼の縁には何か白いものが光って見えた。
土城廊
(新字新仮名)
/
金史良
(著)
『
難破船
(
なんぱせん
)
⁈ あはゝゝゝゝ。』と
船長
(
せんちやう
)
は
大聲
(
おほごえ
)
に
笑
(
わら
)
つた。
驚愕
(
おどろ
)
くと
思
(
おも
)
ひきや、
彼
(
かれ
)
はいと
腹立
(
はらだ
)
たし
氣
(
げ
)
に
顏
(
かほ
)
を
顰
(
しか
)
めて
海島冒険奇譚 海底軍艦:05 海島冒険奇譚 海底軍艦
(旧字旧仮名)
/
押川春浪
(著)
我等をティチオにもティフォにも行かしむる勿れ、この者よく汝等のこゝに求むるものを與ふるをうるがゆゑに身を
屈
(
かゞ
)
めよ、顏を
顰
(
しか
)
むる勿れ 一二四—一二六
神曲:01 地獄
(旧字旧仮名)
/
アリギエリ・ダンテ
(著)
両手を腹に
支
(
か
)
つて、顔を強く
顰
(
しか
)
めて、お由は棒の様に突立つたが、
出掛
(
でがけ
)
に言つた事を松太郎に聞かれたと思ふと、言ふ許りなき怒気が肉体の
苦痛
(
くるしみ
)
と共に発した。
赤痢
(新字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
「旦那! 笑いごとじゃごぜえやせん」と不快そうに顔を
顰
(
しか
)
めて、どっちが主人だかわからぬ声を出した。
陰獣トリステサ
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
だから、もっともらしく
顰
(
しか
)
めた伊兵衛の死顔を見た時、藤吉は、ははあ、とうとう誰かがやったな、という頭がぴいんと来て、格別おどろかなかったわけである。
釘抜藤吉捕物覚書:08 無明の夜
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
小兵衛は腹を圧えたまま、顔を
顰
(
しか
)
めて立停った。が、漸く声だけは立てずに済ませると、小声で云った。
大衆文芸作法
(新字新仮名)
/
直木三十五
(著)
眉を
顰
(
しか
)
めながら顔を
斜
(
ななめ
)
にす。
太
(
いた
)
く考うる
状
(
さま
)
なれば、あえてその意を迎えむとにはあらねど、かりにもかの
女
(
ひと
)
の母なれば、われは
遂
(
つい
)
にわが惜しき小親の名語りたり。
照葉狂言
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
白川は釣りこまれて、会釈をかえしたが、とんだやつと乗合わせたものだと、ひとりでに顔が
顰
(
しか
)
んだ。
雲の小径
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
そしてお互いにもはや言い合うようなことも尽きて、身体を横にして、互いに
顰
(
しか
)
め
面
(
つら
)
をしていたのだ。
遁走
(新字新仮名)
/
葛西善蔵
(著)
公は不吉なものを見たように眉を
顰
(
しか
)
め、再び室に入って、気になるままに灯の下で自ら
筮竹
(
ぜいちく
)
を取った。
盈虚
(新字新仮名)
/
中島敦
(著)
圭一郎は電車の中などで
水鼻洟
(
みづばな
)
を啜つてゐる生氣の衰へ切つて萎びた老婆と向ひ合はすと、身内を
疼
(
うづ
)
く痛みと同時に焚くが如き憤怒さへ覺えて顏を
顰
(
しか
)
めて席を立ち
崖の下
(旧字旧仮名)
/
嘉村礒多
(著)
殊に父はいよ/\自分の罪の報いが来たように眉を
顰
(
しか
)
めた。どうにでも勝手にしろ! と彼は言った。
地上:地に潜むもの
(新字新仮名)
/
島田清次郎
(著)
お母さんは、「まあ、むごいことを」といって、
眉
(
まゆ
)
を
顰
(
しか
)
めていられます。私は可愛そうだとは思いましたが、絵本で見た中将姫の雪責めなどを幻にえがくのでした。
鴎外の思い出
(新字新仮名)
/
小金井喜美子
(著)
つけたりなんかするなんて、馬鹿/\し過ぎるわ。そんなこと何うでも好い、兎も角、妾、あのお父さんの
顰
(
しか
)
め顔だけが滑稽だわ。ナンセンスたら、ないぢやないの!
南風譜
(新字旧仮名)
/
牧野信一
(著)
と、頭をさすって顔を
顰
(
しか
)
めて居る当人も可笑しさが堪えられず、鼻を鳴らしてくす/\笑って居る。
少年
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
すると、忽ち真赤に焼けた石炭を噛んだやうに舌が焼け出して、リユシエンは唾を吐き/\顔を
顰
(
しか
)
めて帰つて来ましたよ。しかしもう今度はこりて食べないでせうよ。
科学の不思議
(新字旧仮名)
/
ジャン・アンリ・ファーブル
(著)
俺は監獄で……と
戯奴
(
ヂヤオカア
)
が面を
顰
(
しか
)
める……俺は監獄であまり
監房
(
へや
)
の臭気が陰気なので、汚ない亜鉛の金盥に水を入れて、あの安石鹸を
溶
(
とか
)
しては両手で掻き立て掻き立て
桐の花
(新字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
ましてやこれしきの
蚯蚓膨
(
みみずば
)
れに、と云いつつお浪が手中より奪いとったる腹掛けに、左の手を通さんとして
顰
(
しか
)
むる顔、見るに女房の争えず、争いまけて傷をいたわり
五重塔
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
顰
漢検1級
部首:⾴
24画
“顰”を含む語句
顰蹙
一顰
顰面
一顰一笑
打顰
顰笑
一顰一蹙
嬌顰
詩史顰
面顰
顰縮面