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躙
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にじ
ふりがな文庫
“
躙
(
にじ
)” の例文
そこでクリシマ博士は、再び
顕微鏡
(
めがね
)
の方に向いた。そしてプレパラートをすこし横へ
躙
(
にじ
)
らせると、また
接眼
(
せつがん
)
レンズに一眼を当てた。
蠅
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
自宅
(
うち
)
へも寄らずにその足で海老床へ駈けつけた勘次は、案の定暢気そうな藤吉を見出してそのまま
躙
(
にじ
)
り寄ると何事か耳許へ囁いた。
釘抜藤吉捕物覚書:01 のの字の刀痕
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
そう法水に宣告されてしまうと、つい今しがた
此奴
(
こやつ
)
とばかりに肩口を踏み
躙
(
にじ
)
った熊城でさえ、そろそろ自分の軽挙が悔まれてきた。
黒死館殺人事件
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
いな、彼女は初恋の人に対する心と肉体との操を守りながら、初恋を
蹂
(
ふ
)
み
躙
(
にじ
)
られた恨を、多くの男性に報いていたと
云
(
い
)
ってもよかった。
真珠夫人
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
しかし、直覚があるからと言つて、常識を踏み
躙
(
にじ
)
つて了ふ人達には私は
左袒
(
さたん
)
しない。常識は、少くとも自然の外面的『あらはれ』である。
エンジンの響
(新字旧仮名)
/
田山花袋
、
田山録弥
(著)
▼ もっと見る
躙
(
にじ
)
りつけたようなぐあいになってこびりついている……湖や沼の岸にある淡水藻はアオミドロかカワノリ……エビ藻やフサ藻は
肌色の月
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
一生懸命に夫を押えている手も女の悲しさ、次第に力が弱って、今にも子供諸共踏み
躙
(
にじ
)
られそうになった。彼女は身を悶えながら只微に
支倉事件
(新字新仮名)
/
甲賀三郎
(著)
支配者達は、青年の生を踏み
躙
(
にじ
)
ったと同じように死をも侮辱した。それは極端な表現のように思われるかも知れない。果してそうだろうか。
青年の生きる道
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
あまり
爪尖
(
つまさき
)
に響いたので、はっと思って浮足で飛び
退
(
すさ
)
った。その時は、
雛
(
ひな
)
の
鶯
(
うぐいす
)
を
蹂
(
ふ
)
み
躙
(
にじ
)
ったようにも思った、
傷々
(
いたいた
)
しいばかり
可憐
(
かれん
)
な声かな。
海の使者
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
そして国民軍の出動によつて散々に
蹂
(
ふ
)
み
躙
(
にじ
)
られた労働者の様子に心の底まで動かされたアレキサンダア・ベルクマンは彼れの生命を賭して
乞食の名誉
(新字旧仮名)
/
伊藤野枝
(著)
そして、跫音のしないやうに、舞ひ落ちた秘密な粉を踏み
躙
(
にじ
)
ることのないやうに、女に残された空虚な部屋へ這入つてみた。
麓
(新字旧仮名)
/
坂口安吾
(著)
貫一は
寄付
(
よせつ
)
けじとやうに
彼方
(
あなた
)
を向きて、覚めながら目を
塞
(
ふさ
)
ぎていと静に
臥
(
ふ
)
したり。
附添婆
(
つきそひばば
)
の折から
出行
(
いでゆ
)
きしを
候
(
うかが
)
ひて、満枝は椅子を
躙
(
にじ
)
り寄せつつ
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
と赤羽君は忽ちマンドリンを踏み
躙
(
にじ
)
った。乱暴極まる。理も非もない。佐伯君は呆気に取られて手出しをしなかった。
凡人伝
(新字新仮名)
/
佐々木邦
(著)
みのるが自分の腕に
纒繞
(
まつは
)
つてゐる爲に、大膽に世間を踏み
躙
(
にじ
)
れないといふ事が自分に禍ひをしてゐるのだと思ふと
木乃伊の口紅
(旧字旧仮名)
/
田村俊子
(著)
人間には、弱い者を踏み
躙
(
にじ
)
るという、醜い本能があります。私は子供の時分から、敏感にそのことを感じました。
自分を鞭打つ感激より
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
わツと彼の膝へ泣き伏したい衝動にかられながら、それをぢつとこらへ、一歩、一歩、初代のそばへ
躙
(
にじ
)
り寄つた。
すべてを得るは難し
(新字旧仮名)
/
岸田国士
(著)
上から上から這いかかり乗りかかる。
怪我
(
けが
)
をする。血を流す。
嘔吐
(
は
)
く。気絶する。その上から踏み
躙
(
にじ
)
る。警官も役人も有志も
芸妓
(
げいしゃ
)
も有ったもんじゃない。
爆弾太平記
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
彼は常々「貧乏である」というだけのことで、世間が一切の自然な対等的な要求を踏み
躙
(
にじ
)
ることを当然にしているような事実に反抗せずにはいられなかった。
地上:地に潜むもの
(新字新仮名)
/
島田清次郎
(著)
「それは私の
被衣
(
かつぎ
)
をその痩せ衰へた頭からとると、二つに引裂いて、床に投げつけて踏み
躙
(
にじ
)
つたのです。」
ジエィン・エア:02 ジエィン・エア
(旧字旧仮名)
/
シャーロット・ブロンテ
(著)
それを、あなたは、そのわずかな誇りを踏み
躙
(
にじ
)
って、無理矢理、口を引き裂いても愛の大声を叫ばせようとしているのです。愛しているのは、恥ずかしい事です。
新ハムレット
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
「先には、
十禅師
(
じゅうぜんじ
)
の
神輿
(
しんよ
)
をさえ、
踏
(
ふ
)
み
躙
(
にじ
)
った、あの
羅刹
(
らせつ
)
どもが、祈願をしたとて、何の
効
(
かい
)
があるものか」
親鸞
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
「白法師の
所業
(
しわざ
)
に相違ない。我々の部落、我々の信仰を日頃から
彼奴
(
きゃつ
)
は
譏
(
そし
)
っていた。我々の神聖な神を
穢
(
けが
)
し、我々の霊場を踏み
躙
(
にじ
)
った者は
彼奴
(
きゃつ
)
以外にある
筈
(
はず
)
がない!」
八ヶ嶽の魔神
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
しかも、その近辺の勁草はいずれも踏み
躙
(
にじ
)
られ、柔らかい地膚の中へめり込ませられて、何さまここでよほどの強力なものが大格闘を演じたと見らるべきものであった。
令嬢エミーラの日記
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
草は踏み
躙
(
にじ
)
られていた。所々に、醤油のような色をして、血が淀んでいた。その中に一つの、首の無い、醜くて、滑稽な感じのする死体と、首のあるのとが転がっていた。
南国太平記
(新字新仮名)
/
直木三十五
(著)
ほとほと
疲弊困憊
(
ひへいこんぱい
)
した慧鶴青年は、何等か心を転ずるものを求めようとすればそこに、土足で乳のみ児の上を
踏
(
ふ
)
み
躙
(
にじ
)
って来るような無残な情緒が
閃
(
ひらめ
)
いて橘屋の娘の顔が浮ぶ。
宝永噴火
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
祖母たちには、どんな「高尚な掟」でも、自分達の利益の前には平気で
蹂
(
ふ
)
み
躙
(
にじ
)
っていいのだ。
何が私をこうさせたか:――獄中手記――
(新字新仮名)
/
金子ふみ子
(著)
末の妹に踏み
躙
(
にじ
)
られるやうな兄達を生みの親であれば作り上げやうとは思ひませんけれど。
遺書
(新字旧仮名)
/
与謝野晶子
(著)
岩間に根を下ろした米躑躅が旨く手掛りや足掛りを造って
呉
(
く
)
れるが、
其度毎
(
そのたびごと
)
に枝間に咲きこぼれたつつましやかな白い花を
毮
(
むし
)
り取ったり、薄桃色の花を蹈み
躙
(
にじ
)
ったりするのは
黒部川奥の山旅
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
然し遂に最後の安心は来た「父よ(父よは愛よである)我れわが身を汝に
委
(
ゆだ
)
ぬ」。そして本当に
神々
(
こうごう
)
しく、その辛酸に
痩
(
や
)
せた肉体を、最上の満足の為めに
脚
(
あし
)
の下に踏み
躙
(
にじ
)
った。
惜みなく愛は奪う
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
我々は先ず床の間(部屋の壁龕)へ
躙
(
にじ
)
り寄って、極めてさっぱりした懸け物を眺め、次に落ち込んだ炉へと躙って行ったが、これは三角形の場所で、その中に若干の石があり
日本その日その日:03 日本その日その日
(新字新仮名)
/
エドワード・シルヴェスター・モース
(著)
左大臣のやり方は、他人の面目や世間の
掟
(
おきて
)
を蹈み
躙
(
にじ
)
った
傍若無人
(
ぼうじゃくぶじん
)
な行為であるのみか、色道の方でも仲間の仁義を無視した仕方で、あれでは色事師の資格はないと云うべきである。
少将滋幹の母
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
そこの隅々に置かれた共同ベンチには、いつものように浮浪人らが
寝支度
(
ねじたく
)
をしていた。ベンチの
側
(
そば
)
にはどれもこれもおびただしいバナナの皮が踏み
躙
(
にじ
)
られていた。浮浪人達の夕食なのだ。
一寸法師
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
狙
(
ね
)
らった上は決して
免
(
の
)
がさぬ。光代との関係は確かに見た。わが物顔のその
面
(
つら
)
を
蹂
(
ふ
)
み
躙
(
にじ
)
るのは朝飯前だ。おれを知らんか。おれを知らんか。はははははさすがは学者の
迂濶
(
うかつ
)
だ。馬鹿な奴。
書記官
(新字新仮名)
/
川上眉山
(著)
女は、「へえ」と腰をこごめながら、それでやっと、「ほんならここからどうぞごめんやす」と沈み沈み言って、上り框に
躙
(
にじ
)
り上がって、茶の間の板の間のところに小さくなって坐った。
霜凍る宵
(新字新仮名)
/
近松秋江
(著)
然るに今や老年と疾病とはあらゆる希望と気魄とを
蹂
(
ふ
)
み
躙
(
にじ
)
ろうとしている。此の時に当って、
曾
(
かつ
)
て夜々
紐育
(
ニューヨーク
)
に
巴里
(
パリ
)
にまた
里昂
(
リヨン
)
の劇場に聞き馴れた音楽を、偶然二十年の後、本国の都に聴く。
帝国劇場のオペラ
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
自分の職務というよりも、私があの紳士を制止したのは紳士の生命をあやぶんでのことではないか、私は弱き者の理由がかくして無下に
蹂
(
ふ
)
み
躙
(
にじ
)
られて行くのを思うて思わず小さい拳を握った。
駅夫日記
(新字新仮名)
/
白柳秀湖
(著)
ジェーンは
義父
(
ぎふ
)
と
所天
(
おっと
)
の野心のために十八年の
春秋
(
しゅんじゅう
)
を罪なくして
惜気
(
おしげ
)
もなく刑場に売った。
蹂
(
ふ
)
み
躙
(
にじ
)
られたる
薔薇
(
ばら
)
の
蕊
(
しべ
)
より消え難き
香
(
か
)
の遠く立ちて、今に至るまで史を
繙
(
ひもと
)
く者をゆかしがらせる。
倫敦塔
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
その顔には、少しずつ
躙
(
にじ
)
られて行くような気の衰えが見えた。
黴
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
躙
(
にじ
)
り寄るように、圓生はしてきた。
小説 円朝
(新字新仮名)
/
正岡容
(著)
女に
踏
(
ふ
)
み
躙
(
にじ
)
らる6・10(夕)
茶話:04 大正七(一九一八)年
(新字旧仮名)
/
薄田泣菫
(著)
薄く地面を覆った雪のためと、それをあわてて踏み
躙
(
にじ
)
った諸人の足跡のために、置場の入口からもなんの目星い手掛りも得られなかった。
釘抜藤吉捕物覚書:10 宇治の茶箱
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
踏み
躙
(
にじ
)
られた号外で足元も見えないステイションの
鉄階子
(
てつばしご
)
を降りて街上に出ると、伸子は混乱に圧倒され、しっかり平野の腕につかまった。
伸子
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
やうやく作業が終りをつげたと思つたら今度は急にヂリヂリと
躙
(
にじ
)
り寄つて一尺あまりの近さに寄り、妙に真面目な顔付をして紙の面を眺めてゐる。
竹藪の家
(新字旧仮名)
/
坂口安吾
(著)
お前が、勝平の告白に感激して、お前の手を与えて御覧! 彼は、その手を
戴
(
いただ
)
くような風をしながら、何時の間にかお前を
蹂
(
ふ
)
み
躙
(
にじ
)
ってしまうのだ。
真珠夫人
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
じただらを踏むばかりに蹴はづして、一段膝をついて
躙
(
にじ
)
り
上
(
あが
)
ると、
件
(
くだん
)
の障子を
密
(
そっ
)
と開けたが、早や次の間は
真暗
(
まっくら
)
がり。
註文帳
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
「するとこれが、踏み
躙
(
にじ
)
った婚礼の
象徴
(
シンボル
)
なんですね。」法水はポケットから泥塗れに
潰
(
つぶ
)
れた
白薔薇
(
しろばら
)
を取り出して
聖アレキセイ寺院の惨劇
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
警部は左手をあげて
合図
(
あいず
)
をすると、
自
(
みずか
)
ら先頭に立ってソロソロと
匍
(
は
)
い出しました。ゆっくりゆっくり戸口の方へ
躙
(
にじ
)
り出てゆきます。息づまるような緊張です。
崩れる鬼影
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
名宣
(
なの
)
られし女は、消えも
遣
(
や
)
らでゐたりし人陰の
闇
(
くら
)
きより
僅
(
わづか
)
に
躙
(
にじ
)
り出でて、
面伏
(
おもぶせ
)
にも貫一が前に会釈しつ。
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
それよりも、二人の幸福を、平気で
蹂
(
ふ
)
み
躙
(
にじ
)
つてゐるんですもの……。二人の生活を楽しいものにするつていふ希望が、あの人のどこにも現れてゐないんですもの……。
驟雨(一幕)
(新字旧仮名)
/
岸田国士
(著)
つかつかと、
大股
(
おおまた
)
に歩いてきた。いきなり土足を庄次郎の背へかけると、ぐいぐいと
踏
(
ふ
)
み
躙
(
にじ
)
って
松のや露八
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
躙
漢検1級
部首:⾜
23画
“躙”を含む語句
蹂躙
踏躙
人権蹂躙
揉躙
攪乱蹂躙
貞操蹂躙
足躙
蹂躙下
蹂躙隊