貸家かしや)” の例文
貸家かしやがあるたびに、馭者ぎょしゃに車を留めさせて、マリイが間取りの様子や庭などを見て来る間、男は車の中に待っていた。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
そして売地うりち貸家かしやふだを見てすぎ度々たび/\なんともつかず胸算用むなざんようをしながら自分も懐手ふところで大儲おほまうけがして見たいと思ふ。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
まるまへ本多ほんださんやうね」と御米およねわらつた。まへ本多ほんださんとふのは、矢張やはおな構内かまへうちんで、おな坂井さかゐ貸家かしやりてゐる隱居夫婦いんきよふうふであつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「どうしまして、邪魔も何もござりましねえ。はい、お前様まえさま、何かたずねごとさっしゃるかね。彼処あすこうち表門おもてもんしまっておりませども、貸家かしやではねえが……」
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
二人の意識いしきの中にはたつた三しかない古びた貸家かしやである自分のいへが、ほんとにねこひたひほどのにはが、やつとのおもひで古道具屋だうぐやからつて※たただ一きやくのトイスが、いや
(旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
藤間ふぢまのお師匠さんは私の家の貸家かしやに居ました。その隣には私の母の両親が隠居をして居ました。
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
場處ばしよ小石川こいしかは植物園しよくぶつゑんにちかく物靜ものしづかなれば、すこしの不便ふべんきずにしてほかにはまをむねのなき貸家かしやありけり、かどはしらふだをはりしより大凡おほよそ三月みつきごしにもなりけれど、いまだに住人すみてのさだまらで
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
魚勝うをかつ肴屋さかなやまへとほして、その五六軒先けんさき露次ろじとも横丁よこちやうともかないところまがると、あたりがたかがけで、その左右さいうに四五けんおなかまへ貸家かしやならんでゐる。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
普請中ふしんちゅう貸家かしやも見える。道の上には長屋の子供が五、六人ずつ群をなして遊んでいる。空車からぐるまを曳いた馬がいかにも疲れたらしく、たてがみを垂れ、馬方うまかたの背に額を押しつけながら歩いて行く。
元八まん (新字新仮名) / 永井荷風(著)
こといへは、風通かぜとほしもよし室取まどりもよし造作ざうさく建具たてぐごときも、こゝらにのきならべた貸家かしやとはおもむきちがつて、それ家賃やちんもかつかうだとくのに……不思議ふしぎしてるものが居着ゐつかない。
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
たる我々われ/\申譯まをしわけ言葉ことばなし、是非ぜひまりたまへとへども、いや/\其樣そのやうことはお前樣まへさま出世しゆつせあかつきにいふてくだされ、いまきゝませぬとて孤身みひとつ風呂敷ふろしきづゝみ、谷中やなかいへ貸家かしやふだはられて
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
それは京都きやうと共通きようつうくら陰氣いんきつくりのうへに、はしら格子かうし黒赤くろあかつて、わざと古臭ふるくさせたせま貸家かしやであつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
寺は青山練兵場れんぺいじょうを横切って兵営の裏手なる千駄せんだの一隅に残っていたが、堂宇は見るかげもなく改築せられ、境内狭しと建てられた貸家かしやに、松は愚か庭らしい閑地あきちさえ見当らなかった。
しまいに駄菓子屋だがしやかみさんに、ここいらに小ぢんまりした貸家かしやはないかと尋ねてみました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
自分の持つてゐる貸家かしや敷金しききんを、つい使つかつて仕舞つて、借家人しやくやにん明日あす引越すといふ間際になつても、まだ調達が出来ないとか云つて、矢っ張り藤野から泣き付いてた事がある。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
それから三人はもとの大通りへ出て、動坂から田端たばたたにりたが、りた時分には三人ともただあるいてゐる。貸家かしやの事はみんな忘れて仕舞つた。ひとり与次郎が時々とき/″\石の門の事を云ふ。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「君、此辺に貸家かしやはないか。広くて、奇麗な、書生部屋のある」と尋ねだした。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
麹町からあれを千駄木迄引いてくるのに、手間が五円程かゝつた抔と云ふ。あの植木屋は大分金持らしい抔とも云ふ。あすこへ四十円の貸家かしやを建てゝ、全体だれりるだらう抔と余計なこと迄云ふ。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)