のろ)” の例文
「よし、こうなったら、やぶれかぶれ。おれはきさまをのろってやる。金輪際こんりんざいまで詛ってやる。今更、この期になってびくつくまいぞ」
富士 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
昨日きのうまで机を並べて勉強した学友の就職を傍観して、むなしく世を恨み、自己おのれのろわねばならぬのです。なんたる悲惨なことでしょう。
融和促進 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
巫臣は直ちに晋から書を送って之をのろい、報復を誓った。彼は晋侯に請うて、自ら呉に使し、晋呉を結んで、楚国を挟撃しようとした。
妖氛録 (新字新仮名) / 中島敦(著)
今も元旦にその鶏がここで時を作るという。長者の妻、そののち跡を尋ね来てこの有様を見、悲憤の余りに「粟稗たたれ」とのろうた。
「彼も初めはのろうつもりだったが、詩神がそれを制してかえって祝福せしめられたものである」と述べ、このオーリャという可憐かれんな映像を
……老人はすぐに若い百姓の女房を伴れて来た、のどをならして吸い付く顔を見ながら、若い女房はその児の親をのろうように云って涙ぐんだ。
初蕾 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
やがて「ノア酒さめて其若き子の已に為したる事を知れり。是に於て彼言ひけるはカナンのろはれよ、彼はしもべ等の僕となりて其兄弟につかへん」
可愛い山 (新字新仮名) / 石川欣一(著)
のろひて死し、果たして敵讐を退けたり。いま足下もみづから一死を期するからは祈念を籠めて内外の敵を払はれよ、一心を残し置きて給はれよ
留魂録 (新字旧仮名) / 吉田松陰(著)
すべて人をのろふの念をいましめ、己れを詛ふ者を愛するをもて天国の極意とせり。是れを、極めて簡にして而して極めて大なる理想と言はざらめや。
想断々(1) (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
吒幾爾だきにの密法は容易ならざる呪詛じゅそであって、もし神々がそれを受けない時には還着於本人げんちゃくおほんにんと言ってのろったものに呪詛がかえるのだからといって。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
彼奴あいつは悪魔だ。お前と俺の生涯をドン底までのろって来た奴だ。今度彼奴に会ったら、鉄鎚かなづちで脳天を喰らわしてやるんだぞ。いいか。忘れるなよ」
鉄鎚 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
斎院を誘惑しようとかかっていることなどはむろんあるべきことですよ。何事によらず当代をのろってかかる人なのです。
源氏物語:10 榊 (新字新仮名) / 紫式部(著)
僕は二度も僕の目に浮んだダンテの地獄をのろいながら、じっと運転手の背中を眺めていた。そのうちに又あらゆるものの譃であることを感じ出した。
歯車 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それまで彼は歴々れっきとした生みの親のある、家の後取娘として、何かにつけておとらからひけらかす様に、隔てをおかれるお島を、のろわしくも思っていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
なんじをのろうものを祝し、なんじを憎むものを善視し、なんじを虐遇迫害するもののために祈祷するの『新約聖書』にあらざることはさらに分明なり。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
そういう場合にはオトヂキョもののしのろわれたけれども、別に雨乞あまごいのためには祈りタカべられてもいたのである。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
そのヨブが友人の来訪に会して突然三章の痛歎を発してわが運命をのろうに至るは、必ずそこに彼の心理状態の急変を促すある誘因があったに相違ないのである。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
爾曹なんぢらの敵をいつくしみ、爾曹なんぢらのろふ者を祝し、爾曹なんぢらを憎む者を善視よくし、虐遇迫害なやめせむるものゝ爲に祈祷せよ。」
墮落の原因もとは、汝の見しごとく宇宙一切の重さにされをる者の、のろふべき傲慢たかぶりなりき 五五—五七
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
私は、何も過去の時代のみを礼讃らいさんして、現代をのろうというような、気の強いものではありません。
既に将門の乱が起つた時でも、浄蔵が大威徳法で将門をのろひ、明達が四天王法で将門を調伏し、其他神社仏寺で祈立て責立てゝ、とう/\祈り伏せたといふ事になつてゐる。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
人がわが口をかんするからである。巨万の富をわれに与えて、一銭も使うなかれと命ぜられたる時は富なきむかしの心安きに帰るあたわずして、めいを下せる人をさかしまにのろわんとす。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いと小さき者の一人の飢えしときに食わせず、渇きしときに飲ませざる者は、のろわれて永久の刑罰に入るべきものだ、とかつて教え給うたでないか(マタイ二五の四一—四六)。
彼は軟かく二三度それを揺ぶって「お前はな、もうせん、八幡さまの池で、よ、ほら、亀の子を盗んだじゃねえか、え、そうだ、きっとお前そいでのろわれたんだ」「ちげえねえや」
白い壁 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
せめては奥さんがわたしをのろい殺そうとでもしてくだされば少しは気持ちがいいんだけれども、しとやかにしてお里に帰っていらっしゃると思うとつい身につまされてしまいます。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
頭の上には、たつた一つ黒く消えかけた星が、小さいのろひのやうに瞬いてゐる。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
兄が今口を開いたら、其口からは己をのろふ詞が出るだらうと、己は思つてゐた。
(新字旧仮名) / グスターフ・ウィード(著)
オヤ/\乃公おれは隠して置いた酒さえも何時いつ他人ひとしりの下にしかれてしまうのか、と自分の運命をのろったのです。詛うと言えばすごく聞えますが、実は僕にはそんなすご了見りょうけんた気力もありません。
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
未来に向って走る川との間にはさまって、池はとこしえに無言でいる、自分たち二人(自分は嚮導きょうどう兼荷担ぎの若い男を伴っている)だけが確に現在である、我らはのろわれているのではないかとおもう
梓川の上流 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
泉津よもつ平坂にさやります千引石を道返ちかえしの大神といい、磐長姫が皇孫の召し給わぬを恥じ恨みて、うつしき蒼生たみくさは木の華の如くに衰えんとのろわれた事から察せられ、又磐が神のいます神聖なる場所で
山の今昔 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
美女 (髪みだるるまでかぶりをる)嘘です、嘘です。人をのろって、人をのろって、貴方こそ、その毒蛇です。親のために沈んだ身が蛇体になろうはずがない。って下さい。故郷くにへ帰して下さい。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
呻吟の声、のろいの声、ののしる声、悲しむ声——四方の辻で聞こえていた。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
われわれの讃美歌集は調べある神ののろいと神に対する永遠の我慢とをもって鳴りひびいている。予言者たちや救済者たちさえも人間の希望をつよめるよりはその恐れを慰めたものであるといえよう。
あえかなる白きうすものまなじりの火かげのはえのろはしき君
みだれ髪 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
に自らをほこりつゝ、はたのろひぬる、あはれ、人の世。
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
このようにのろつて、かまどの上に置かしめました。
九月一日の東京ぜんと大焼けに焼けた妻が拙者をのろうて、別嬪べっぴんでも醜婦でも、一切の物、わが夫に見られたらたちまち破れおわれと詛うた。
世間の人々もその娘に対して、よい感じを持たなくなる。その娘は母を恨み、世をのろうて、ますます始末におえぬものになってしまうのであります。
融和促進 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
僕は二度も僕の目に浮かんだダンテの地獄をのろひながら、ぢつと運転手の背中を眺めてゐた。そのうちに又あらゆるもののうそであることを感じ出した。
歯車 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
世をのろあまって、意地悪く吐出す罵倒や嘲笑ちょうしょう鋒尖ほこさきを彼女は全身に刺し込まれても、ただ情無く我慢するだけ、苦鳴の声さえ聞取られるのに憶している。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
と宮がお言いになるのを聞いて、夫人はいよいよたけり立つばかりで、源氏夫婦へののろいの言葉を吐き散らした。この夫人だけは善良なところのない人であった。
源氏物語:31 真木柱 (新字新仮名) / 紫式部(著)
もて皮に換うるなれば人はその一切の所有物もちものをもておのれの生命に換うべし、されど今汝の手を伸べて彼の骨と肉とを撃ち給え、さらば必ず汝の顔に向いて汝をのろわん
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
昔し矢部駿州は桑名侯へ御預けの日より絶食して敵讐てきしゅうのろいて死し、果して敵讐を退けたり、今足下そっかも自ら一死を期するからは祈念きねんめて内外の敵を払われよ、一心を
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
彼の身辺がたちまち虚構と偽善と阿諛あゆで塗り固められ、彼を中心にして家臣のあいだに対立と暗闘の始まったのを見て、彼はようやくおのれの身分と境遇をのろうようになった。
野分 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
のろひの花を生じて散らす、こは牧者を狼となして、羊、こひつじをさまよはしゝもの 一三〇—一三二
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
しかし戦ふに及ばぬ間に将門が亡びたので賞に及ばなかつたのを恨んで、こぶしを握つて爪が手の甲にとほり、怨言を発して小野宮をののみや大臣をのろつたといふところなどは余り小さい。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
……と同時に、そのドレよりものろわしい、まわしい、しつっこい存在でなければならぬ。
冗談に殺す (新字新仮名) / 夢野久作(著)
死あることなく、悲しみあることなく、のろいと涙は全く消え去ってしまうであろう。
みんなみんな幸福に暮らしてくださいと祈る心持ちである。甲を祝して、乙をのろうならばその人の人格は「愛」なる徳を所有してはいない。すなわちその人が甲を祝することは偶然にすぎなくなる。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
そして可憐かれんで正直で怜悧れいりな女であるが不思議と関係のない者からはいやしい人間のやうに思はれる女で実に何者にかのろはれて居るのではないかと思つた。しかし銀之助には以前もとの恋のこゝろすこしもなかつた。
節操 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)