薄荷はっか)” の例文
たけなす薔薇ばら、色鮮やかな衝羽根朝顔つくばねあさがお、小さな淡紅色ときいろの花をつけた見上げるようなたばこ叢立むらだち、薄荷はっか孔雀草くじゃくそう凌霄葉蓮のうぜんはれん、それから罌粟けし
長さものみならざるむねに、一重の梅や八重桜、桃はまだしも、菊の花、薄荷はっかの花のも及ばぬまでこまかきを浮き彫にしてにおばか
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
甘草かんぞうに、肉桂粉にっけいふん薄荷はっかといったようなものを二寸四方位の板に練り固めて、縦横十文字に切り型を入れて金粉や銀粉がタタキ付けてある。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
庭には紫の花をつけた大きな栴檀せんだんの樹があって、その樹の蔭のじめじめしたところに、雑草と交って薄荷はっかが沢山生えていた。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
長男 薄荷はっかみたいにすうっとするね。ぼくなんだか、心が軽くなったみたいだ。わくわくするなあ、さあ早くいこうよ。
病む子の祭 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
苹果りんごなしやまるめろや胡瓜きゅうりはだめだ、すぐ枯れる、稲や薄荷はっかやだいこんなどはなかなか強い、牧草なども強いねえ。
風野又三郎 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
鐵「へえーお医者で、わっちどもはいけぞんぜえだもんだから、お医者と相宿になってると皆も気丈夫でごぜえます、ちっとばかり薄荷はっかがあるならめたいもんで」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
それこそ、薄荷はっか入りの海風うみかぜのようなすがすがしいものが、皆の心に吹き込んで、胸をいっぱいにふくらせる。
キャラコさん:07 海の刷画 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
……寝棺に納められた妻の白い衣に、彼は薄荷はっかの液体をふりかけておいた。顔のまわりに、髪の上に、胸の上に合掌した手のまわりに、花は少しずつ置かれて行った。
死のなかの風景 (新字新仮名) / 原民喜(著)
かの女の躍起となった瞳から、かの女の必死に掴んだ指から、千代重が今まで栖子からうけたことのない感覚が、薄荷はっかを擦り込むような痛さと共に骨身に浸み込んだ。
唇草 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
頭を垂れたり、あるいは薄荷はっかパイプをくわえたりして、熱い砂を踏んで行く人の群を眺めると、丁度この濠端に、同じような高さに揃えられて、枝も葉も切り捨てられて
並木 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
全体刺撃物や香料の配合は衛生上から割出してあって玉子に唐辛、豆類に薄荷はっか無花果いちじく丁子ちょうじ、牛肉に芥子からし、梨や芋類に肉桂というふうな合い物という事が出来ています。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
永山ながやま比布ぴっぷ蘭留らんると、眺望ながめは次第に淋しくなる。紫蘇しそともつかず、麻でも無いものを苅って畑にしてあるのを、車中の甲乙たれかれが評議して居たが、薄荷はっかだと丙が説明した。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
のみならずまゆは両方からせまって、中間に数滴の薄荷はっかを点じたるごとく、ぴくぴく焦慮じれている。鼻ばかりは軽薄に鋭どくもない、遅鈍に丸くもない。にしたら美しかろう。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
麝香草じゃこうそう薄荷はっか薔薇ばらの咲き乱れた花壇が彼方此方かなたこなたに設けられ、そして甃の両側には、緑の街路樹が眼路めじの限りに打ち続き、その葉陰に真っ白な壁、磨き上げたような円柱
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
これはマンドウ草といって、やはり葉は花時に採って喘息ぜんそくの薬にする。こちらのは薄荷はっかだ。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
……映像はしだいにはっきりとなる。それ、広い平野、あしの茂み、新鮮な草や薄荷はっかの匂いがする微風に波打っている畑の作物。至るところに花が咲いている、矢車草、罌粟けしすみれ
以来は三度の食事も省略しょうりゃくするほどに時をおしみ、夜も眠らず、眠気ねむけがさせば眼に薄荷はっかまでさして、試験の準備に余念ない三千ちかくの青年が、第一高等学校の試験場にむらがり来たり
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
サイダーの静脈内注射はどうだろう? 頭に穴をあけて脳を薄荷はっか水で洗ってみようか? それとも、心臓に液体酸素のボンベをつないで血管の中へ冷たい酸素を送ってやろうか?──
ロザリオの鎖 (新字新仮名) / 永井隆(著)
芍薬しゃくやく一本、我庭園中の最もえんなる者なり。八車やぐるま孔雀草くじゃくそう天竺牡丹てんじくぼたん昼照草ひでりそう丁子草ちょうじそう薄荷はっかなどあり。総ての花皆うつくしとのみ見し中に孔雀草といふ花のみひとりいとはしく思ひぬ。
わが幼時の美感 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
先刻さっき、横浜駅前の(現今の桜木町さくらぎちょう駅)かねの橋を横に見て、いつもの通り、尾上町おのえちょうの方へ出ようとする河岸かしっぷちを通ると、薄荷はっかを製造している薄荷のにおいが、爽快そうかいに鼻をひっこすった
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「甘い薄荷はっか入りの粟の水あめでござーい」といって売りに来るかと思えば
新古細句銀座通 (新字新仮名) / 岸田劉生(著)
「なんだか薄荷はっかみたいな香りがするわね。薄荷草というのじゃないこと?」
恢復期 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
それからもう何年かたった、ある寒さの厳しい夜、僕は従兄の家の茶のに近頃始めた薄荷はっかパイプをくわえ、従姉と差し向いに話していた。初七日しょなのかを越した家の中は気味の悪いほどもの静かだった。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
薄荷はっかのようにひりひりする唇が微笑している。
渦巻ける烏の群 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
さては薄荷はっか菊の花まで今真盛まっさかりなるに、みつを吸わんと飛びきたはちの羽音どこやらに聞ゆるごとく、耳さえいらぬ事に迷ってはおろかなりとまぶたかたじ、掻巻かいまきこうべおおうに
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
果して大原珍らしそうに「お登和さん、これはどうしたのです」お登和嬢「それは羊のももを二時間半ばかりロースにして、ジャガ芋も一緒にロースにして、薄荷はっかのソースを ...
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
薬草とにんにくとバタとこね合せたパテを作って置き、それに引き出した身をまぶし再び殻に詰め込み火鍋にかける。薬草の混ぜ合せに秘伝がある。それへ薄荷はっか草の入ることは確だ。
食魔に贈る (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
いっぱいに開け放した硝子扉ケースメントから、薄荷はっか入りの、すがすがしい朝の海風うみかぜが吹き込んでくる。
キャラコさん:07 海の刷画 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
いつも晴れ着の裾やたもとからすうッと風が薄荷はっかのように体へみたのをいまだに記憶しているが、その肌寒さはあたかも梅見頃の陽気のさわやかさに似てぞくぞくしながらもここちよく
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
忍冬すいかずら常春藤きづたまとわり付いた穹窿アーチ形の門があり、門をくぐると、荒れ果ててはいたが、花の一杯に乱れ咲いた前庭があり、その前庭には赭熊百合しゃぐまぐさ白菖マートルや、薄荷はっか麝香草じゃこうそうや、薔薇ばらすみれ
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
つづり音のまわりには、百里香かあるいは野生薄荷はっかかおりのように、弾力性の律動リズムを有する南欧のあでやかな抑揚が踊っていた。アルル国のオフェリア姫ともいうべき不思議な幻影だった。
仄暗い廊下のようなところに突然、目がくらむような隙間があった。その隙間から薄荷はっかかおりのような微風が吹いてわたしの頬にあたった。見ると、向うには真青な空と赤い煉瓦れんがへいがあった。
鎮魂歌 (新字新仮名) / 原民喜(著)
薄荷はっかパイプを吸っていると、余計寒さも身にしみるようだね。」
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そして一人留守番るすばんのときの用心に、いつものように入口にかぎをかけ、電燈でんとうを消して、蚊帳かやの中に這入はいり、万一しのむものがあるときのおどしに使う薄荷はっか入りの水ピストルを枕元まくらもとへ置いた。
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
それは蝸牛の肉をでてやわらかくしたものを上等のバタと細かくきざんだ薄荷はっかとをこねあわせたものと一緒にしてからに詰めるだけのことである。しかしこの簡単な料理にもなかなか熟練じゅくれんを要するという。
異国食餌抄 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)