)” の例文
舟は大概右岸の浅草に沿うてそのを操っているであろう。これは浅草あさくさの岸一帯が浅瀬になっていて上汐の流が幾分かゆるやかであるからだ。
夏の町 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「誰も気がつかなかったそうですよ、船頭は舫っている時でも気が張っているから、や、かじの音を聞き逃すはずはないと言いますよ」
どうの方からしずかに女のうしろへ立った父親は、いきなりっている女をうしろから突きとばした。女は艪を持ったなりに海の中へ落ちた。
参宮がえり (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
取舵とりかじだい‼」と叫ぶと見えしが、早くもともかた転行ころげゆき、疲れたる船子ふなこの握れるを奪いて、金輪際こんりんざいより生えたるごとくに突立つったちたり。
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
を振りあげた泰軒、たちまち四、五人に水礼をほどこす。栄三郎にかわされた土生はぶ仙之助も、はずみを食って水音寒く川へのめりこんだ。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
猟師りょうしたちはうたをうたいながら、をこいだり、あみげたりしていますと、きゅうくもおもてをさえぎったように、太陽たいようひかりをかげらしました。
黒い人と赤いそり (新字新仮名) / 小川未明(著)
と言ったまま多くを語らず、それをわからないなりであやつっている若い男は、駒井甚三郎に盲目的に信従している者と見なければなりません。
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ギイ……ギイ……ギイ……墨田川を滑ってゆくの音が聞こえて、師走の朝日の濡れている障子へ映る帆の影が、大きく、のどかに揺れていった。
円太郎馬車 (新字新仮名) / 正岡容(著)
屋根の低い川船で、人々はいずれもひざを突合せて乗った。水に響くの音、屋根の上を歩きながらの船頭の話声、そんなものがノンキな感じを与える。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
思はしい獲物もないので、少し時間は早いけれどひきあげることにして、皆々を取りなほしました。そして、エイホイとかけ声を出して漕ぎはじめました。
海坊主の話 (新字旧仮名) / 土田耕平(著)
ギーときしる音がして、船隊は船首へさきを西南に向けた。若殿のご座船を先頭にして神宮寺の方へ進んで行く。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そういう時に君だけは自分が彼らの間に不思議な異邦人である事に気づく。同じをあやつり、同じ帆綱をあつかいながら、なんという悲しい心のへだたりだろう。
生まれいずる悩み (新字新仮名) / 有島武郎(著)
船頭は、合図をして、竿を外して、に代えた。船は、ぴたぴた水音をさせつつ、静かに、中流へ出た。
三人の相馬大作 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
平三はともづなを解いて舟に乗るや否やを取つた。父はへさき錨綱いかりづなを放してさをを待つた。艪のさきで一突きつくと、舟がすつと軽く岸を離れた。平三は艪に早緒をかけた。
厄年 (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
中学時代に、私はこの十津川とつがわの九里峡をによる船で下ったことがあった。それは晴れた八月だった。
本陣は一所懸命を押しながら この風で鱒がとれるからいいのがあったらもってゆこう という。
島守 (新字新仮名) / 中勘助(著)
たわに押されおされた渡し舟は、ゆっくりと大きな半円を描いてずしんと南の岸にぶっつかった。その足場にとびあがった阿賀妻は、咄嗟とっさに、官員の土地を感じた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
「どつちへでも好いからいでをれ。」瀬田はかう云つて、船頭にあやつらせた。火災につたものの荷物を運び出す舟が、大川おほかはにはばらいたやうに浮かんでゐる。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
舟人は俄に潮滿ちと叫びて、忙はしくうごかし始めつ。そは滿潮の巖穴を塞ぐを恐れてなりき。
一丁のと風まかせの帆をあやつっての一人旅であるからには、甚作の場合よりもっと大きい不安がともなうわけであるが、かやは別にそれを口に出してくやみもしなかった。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
汐潮しおがあげてきて、鼻のさきをいせいのいい押送りの、八丁の白帆が通ろうと、相生橋にお盆のような月がのぼろうと、お互がいやがらせをいいながら無中になっている。
ただ一人の船頭せんどうともに立ってぐ、これもほとんど動かない。塔橋の欄干らんかんのあたりには白き影がちらちらする、大方おおかたかもめであろう。見渡したところすべての物が静かである。
倫敦塔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
西風のいだ後の入江は鏡のようで、漁船や肥舟は眠りを促すようなの音を立てた。
入江のほとり (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
一人が「ヒアリ」というと他の一人が「フタリ」といい——すくなくともこんな風に聞える——そして漁夫達は、片舷片舷交代で漕ぎながらの一と押しごとにこの叫びを上げる。
屋根船や猪牙ちょきの音を夕闇に響かせて帰りを急ぐ柳橋、舟遊びの通客も多かった。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
「あのを漕ぐ腰ッ振が好う御座いますね」と市助までが黙ってはいなかった。
悪因縁の怨 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
穏戸おんどの瀬戸で、エンヤラヤアノヤア、ソオレ漕げ、ヤアレ漕げ、一丈五尺の、一丈五尺の、しわる、エンヤラヤアノ、エンヤラヤノ、エンヤラヤノ、エンヤラヤノ、エンヤラサノサア。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
小刻みに小さなを押しながら静かに漕いで行くのを眼にしたことがあった。
日本橋附近 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
居士の肺を病んだのは余の面会する二、三年前の事であったので、余の逢った頃はもう一度咯血かっけつしたちであった。けれどもなお相当に蛮気があった。この時もたしかを漕いだかと思う。
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
「お前これ何だと思ふ。」嘉吉は得意さうにをあやつりながら云ふ。
煤煙の匂ひ (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
で、其艪で殺しておしまひなさい、頭をなぐつておんなさい!
鼻で鱒を釣つた話(実事) (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
「まごついちゃいられねえ」と、死骸を蹴落して、をつかんで
治郎吉格子 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
加納はで舟の動きを調節しながら言った。
狂い凧 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
を漕いでいた佐吉という若い船頭が
顎十郎捕物帳:14 蕃拉布 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
風が吹いて 水を切るの音かいの音
測量船 (新字旧仮名) / 三好達治(著)
が響く
別後 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
女は何んの躊躇もなくに寄ると、至って器用に漕ぎ始めながら、わだかまりのない調子で、——こう忠弘に用事をいいつけるのでした。
もみじのような手を胸に、弥生やよいの花も見ずに過ぎ、若葉の風のたよりにもの声にのみ耳を澄ませば、生憎あやにく待たぬ時鳥ほととぎす
海異記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
を持っていた男がそう云い云い艪を舟の中へ入れた。すると莚包と焼明を持った男が、その手荷物を舟の中へ入れて
赤い土の壺 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
米国の都市には汽車を渡す大仕掛けの渡船わたしぶねがあるけれど、竹屋たけやわたしの如く、河水かはみづ洗出あらひだされた木目もくめの美しい木造きづくりの船、かし、竹のさをを以てする絵の如き渡船わたしぶねはない。
水 附渡船 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
それでかたわらにいる清吉と呼ばれた男も、あの時バッテーラのを押していた男であります。二人はあの時、目的通りに外国船へ乗り込むことができなかったものと思われます。
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
吹雪ふぶきの間からまっ黒に天までそそり立つ断崕だんがいに近寄って行くのを、漁夫たちはそうはさせまいと、帆をたて直し、を押して、横波を食わせながら船を北へと向けて行った。
生まれいずる悩み (新字新仮名) / 有島武郎(著)
と旅人は舟にとび乗りますと、子どもはをたくみにあやつつてむかう岸へつきました。
狐の渡 (新字旧仮名) / 土田耕平(著)
ジュと音がしての足で掻き分けられたなみの上をられながらただよっていった。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
二人は、ちらっと、眼で、語り合うと、すぐ、をとって、艪臍ろべそへ落した。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
舷下の水はあをくして油の如し。試みに手をもて探れば、手も亦水と共に碧し。舟の影の水に落ちたるは極て濃き青色にして、の影は濃淡の紋理ある青蛇を畫けり。われは聲を放ちて叫びぬ。
とさし招くと、の音も勇ましく船べりを寄せてきた一隻の大伝馬がある。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ギー、ギー、ギー、ギー、二十隻の船からの音が物狂わしくきしり出す。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
法木ほうぎ島船しまぶね、小船、浦の真船まふね出鼻でばなを見れば、あねいもとも皆乗り出して、をおし押し、にまきの先に、おせなおせなとさぶかぜ通れば、凪もいし、かつまを通れば、せじた宵烏賊、せがらし宵烏賊
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
卯八は料理のため用意した出刄庖丁を取出すと、碇綱いかりづなをブツリと切りました。あとは、に寄つて、馴れない乍ら一と押し、二た押し。