トップ
>
艪
>
ろ
ふりがな文庫
“
艪
(
ろ
)” の例文
舟は大概右岸の浅草に沿うてその
艪
(
ろ
)
を操っているであろう。これは
浅草
(
あさくさ
)
の岸一帯が浅瀬になっていて上汐の流が幾分か
緩
(
ゆるやか
)
であるからだ。
夏の町
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
「誰も気がつかなかったそうですよ、船頭は舫っている時でも気が張っているから、
艪
(
ろ
)
や、
櫂
(
かじ
)
の音を聞き逃すはずはないと言いますよ」
銭形平次捕物控:055 路地の小判
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
胴
(
どう
)
の
間
(
ま
)
の方から
静
(
しずか
)
に女の
後
(
うしろ
)
へ立った父親は、いきなり
艪
(
ろ
)
を
執
(
と
)
っている女を
後
(
うしろ
)
から突きとばした。女は艪を持ったなりに海の中へ落ちた。
参宮がえり
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
「
取舵
(
とりかじ
)
だい‼」と叫ぶと見えしが、早くも
舳
(
とも
)
の
方
(
かた
)
へ
転行
(
ころげゆ
)
き、疲れたる
船子
(
ふなこ
)
の握れる
艪
(
ろ
)
を奪いて、
金輪際
(
こんりんざい
)
より生えたるごとくに
突立
(
つった
)
ちたり。
取舵
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
艪
(
ろ
)
を振りあげた泰軒、たちまち四、五人に水礼をほどこす。栄三郎にかわされた
土生
(
はぶ
)
仙之助も、はずみを食って水音寒く川へのめりこんだ。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
▼ もっと見る
猟師
(
りょうし
)
たちは
唄
(
うた
)
をうたいながら、
艪
(
ろ
)
をこいだり、
網
(
あみ
)
を
投
(
な
)
げたりしていますと、
急
(
きゅう
)
に
雲
(
くも
)
が
日
(
ひ
)
の
面
(
おもて
)
をさえぎったように、
太陽
(
たいよう
)
の
光
(
ひかり
)
をかげらしました。
黒い人と赤いそり
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
と言ったまま多くを語らず、それをわからないなりで
艪
(
ろ
)
を
操
(
あやつ
)
っている若い男は、駒井甚三郎に盲目的に信従している者と見なければなりません。
大菩薩峠:17 黒業白業の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
ギイ……ギイ……ギイ……墨田川を滑ってゆく
艪
(
ろ
)
の音が聞こえて、師走の朝日の濡れている障子へ映る帆の影が、大きく、のどかに揺れていった。
円太郎馬車
(新字新仮名)
/
正岡容
(著)
屋根の低い川船で、人々はいずれも
膝
(
ひざ
)
を突合せて乗った。水に響く
艪
(
ろ
)
の音、屋根の上を歩きながらの船頭の話声、そんなものがノンキな感じを与える。
千曲川のスケッチ
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
思はしい獲物もないので、少し時間は早いけれどひきあげることにして、皆々
艪
(
ろ
)
を取りなほしました。そして、エイホイとかけ声を出して漕ぎはじめました。
海坊主の話
(新字旧仮名)
/
土田耕平
(著)
ギーと
艪
(
ろ
)
の
軋
(
きし
)
る音がして、船隊は
船首
(
へさき
)
を西南に向けた。若殿のご座船を先頭にして神宮寺の方へ進んで行く。
八ヶ嶽の魔神
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
そういう時に君だけは自分が彼らの間に不思議な異邦人である事に気づく。同じ
艪
(
ろ
)
をあやつり、同じ帆綱をあつかいながら、なんという悲しい心の
距
(
へだた
)
りだろう。
生まれいずる悩み
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
船頭は、合図をして、竿を外して、
艪
(
ろ
)
に代えた。船は、ぴたぴた水音をさせつつ、静かに、中流へ出た。
三人の相馬大作
(新字新仮名)
/
直木三十五
(著)
平三は
纜
(
ともづな
)
を解いて舟に乗るや否や
艪
(
ろ
)
を取つた。父は
舳
(
へさき
)
の
錨綱
(
いかりづな
)
を放して
棹
(
さを
)
を待つた。艪の
尖
(
さき
)
で一突きつくと、舟がすつと軽く岸を離れた。平三は艪に早緒をかけた。
厄年
(新字旧仮名)
/
加能作次郎
(著)
中学時代に、私はこの
十津川
(
とつがわ
)
の九里峡を
艪
(
ろ
)
による船で下ったことがあった。それは晴れた八月だった。
大切な雰囲気:03 大切な雰囲気
(新字新仮名)
/
小出楢重
(著)
本陣は一所懸命
艪
(
ろ
)
を押しながら この風で鱒がとれるからいいのがあったらもってゆこう という。
島守
(新字新仮名)
/
中勘助
(著)
撓
(
たわ
)
む
艪
(
ろ
)
に押されおされた渡し舟は、ゆっくりと大きな半円を描いてずしんと南の岸にぶっつかった。その足場にとびあがった阿賀妻は、
咄嗟
(
とっさ
)
に、官員の土地を感じた。
石狩川
(新字新仮名)
/
本庄陸男
(著)
「どつちへでも好いから
漕
(
こ
)
いでをれ。」瀬田はかう云つて、船頭に
艪
(
ろ
)
を
操
(
あやつ
)
らせた。火災に
遭
(
あ
)
つたものの荷物を運び出す舟が、
大川
(
おほかは
)
にはばら
蒔
(
ま
)
いたやうに浮かんでゐる。
大塩平八郎
(新字旧仮名)
/
森鴎外
(著)
舟人は俄に潮滿ち
來
(
く
)
と叫びて、忙はしく
艪
(
ろ
)
を
搖
(
うご
)
かし始めつ。そは滿潮の巖穴を塞ぐを恐れてなりき。
即興詩人
(旧字旧仮名)
/
ハンス・クリスチャン・アンデルセン
(著)
一丁の
艪
(
ろ
)
と風まかせの帆をあやつっての一人旅であるからには、甚作の場合よりもっと大きい不安が
伴
(
ともな
)
うわけであるが、かやは別にそれを口に出して
悔
(
くや
)
みもしなかった。
暦
(新字新仮名)
/
壺井栄
(著)
汐潮
(
しお
)
があげてきて、鼻のさきをいせいのいい押送りの、八丁
艪
(
ろ
)
の白帆が通ろうと、相生橋にお盆のような月がのぼろうと、お互が
厭
(
いや
)
がらせをいいながら無中になっている。
旧聞日本橋:13 お墓のすげかえ
(新字新仮名)
/
長谷川時雨
(著)
ただ一人の
船頭
(
せんどう
)
が
艫
(
とも
)
に立って
艪
(
ろ
)
を
漕
(
こ
)
ぐ、これもほとんど動かない。塔橋の
欄干
(
らんかん
)
のあたりには白き影がちらちらする、
大方
(
おおかた
)
鴎
(
かもめ
)
であろう。見渡したところすべての物が静かである。
倫敦塔
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
西風の
凪
(
な
)
いだ後の入江は鏡のようで、漁船や肥舟は眠りを促すような
艪
(
ろ
)
の音を立てた。
入江のほとり
(新字新仮名)
/
正宗白鳥
(著)
一人が「ヒアリ」というと他の一人が「フタリ」といい——すくなくともこんな風に聞える——そして漁夫達は、片舷片舷交代で漕ぎながら
艪
(
ろ
)
の一と押しごとにこの叫びを上げる。
日本その日その日:03 日本その日その日
(新字新仮名)
/
エドワード・シルヴェスター・モース
(著)
屋根船や
猪牙
(
ちょき
)
の
艪
(
ろ
)
の音を夕闇に響かせて帰りを急ぐ柳橋、舟遊びの通客も多かった。
明治世相百話
(新字新仮名)
/
山本笑月
(著)
「あの
艪
(
ろ
)
を漕ぐ腰ッ振が好う御座いますね」と市助までが黙ってはいなかった。
悪因縁の怨
(新字新仮名)
/
江見水蔭
(著)
穏戸
(
おんど
)
の瀬戸で、エンヤラヤアノヤア、ソオレ漕げ、ヤアレ漕げ、一丈五尺の、一丈五尺の、
艪
(
ろ
)
が
撓
(
しわ
)
る、エンヤラヤアノ、エンヤラヤノ、エンヤラヤノ、エンヤラヤノ、エンヤラサノサア。
フレップ・トリップ
(新字新仮名)
/
北原白秋
(著)
小刻みに小さな
艪
(
ろ
)
を押しながら静かに漕いで行くのを眼にしたことがあった。
日本橋附近
(新字新仮名)
/
田山花袋
(著)
居士の肺を病んだのは余の面会する二、三年前の事であったので、余の逢った頃はもう一度
咯血
(
かっけつ
)
した
後
(
の
)
ちであった。けれどもなお相当に蛮気があった。この時もたしか
艪
(
ろ
)
を漕いだかと思う。
子規居士と余
(新字新仮名)
/
高浜虚子
(著)
「お前これ何だと思ふ。」嘉吉は得意さうに
艪
(
ろ
)
をあやつりながら云ふ。
煤煙の匂ひ
(新字旧仮名)
/
宮地嘉六
(著)
艪
(
ろ
)
で、其艪で殺しておしまひなさい、頭をなぐつてお
遣
(
や
)
んなさい!
鼻で鱒を釣つた話(実事)
(新字旧仮名)
/
若松賤子
(著)
「まごついちゃいられねえ」と、死骸を蹴落して、
艪
(
ろ
)
をつかんで
治郎吉格子
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
加納は
艪
(
ろ
)
で舟の動きを調節しながら言った。
狂い凧
(新字新仮名)
/
梅崎春生
(著)
艪
(
ろ
)
を漕いでいた佐吉という若い船頭が
顎十郎捕物帳:14 蕃拉布
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
風が吹いて 水を切る
艪
(
ろ
)
の音
櫂
(
かい
)
の音
測量船
(新字旧仮名)
/
三好達治
(著)
艪
(
ろ
)
が響く
別後
(新字旧仮名)
/
野口雨情
(著)
女は何んの躊躇もなく
艪
(
ろ
)
に寄ると、至って器用に漕ぎ始めながら、
蟠
(
わだかま
)
りのない調子で、——こう忠弘に用事をいいつけるのでした。
奇談クラブ〔戦後版〕:12 乞食志願
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
もみじのような手を胸に、
弥生
(
やよい
)
の花も見ずに過ぎ、若葉の風のたよりにも
艪
(
ろ
)
の声にのみ耳を澄ませば、
生憎
(
あやにく
)
待たぬ
時鳥
(
ほととぎす
)
。
海異記
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
艪
(
ろ
)
を持っていた男がそう云い云い艪を舟の中へ入れた。すると莚包と焼明を持った男が、その手荷物を舟の中へ入れて
赤い土の壺
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
米国の都市には汽車を渡す大仕掛けの
渡船
(
わたしぶね
)
があるけれど、
竹屋
(
たけや
)
の
渡
(
わた
)
しの如く、
河水
(
かはみづ
)
に
洗出
(
あらひだ
)
された
木目
(
もくめ
)
の美しい
木造
(
きづく
)
りの船、
樫
(
かし
)
の
艪
(
ろ
)
、竹の
棹
(
さを
)
を以てする絵の如き
渡船
(
わたしぶね
)
はない。
水 附渡船
(新字旧仮名)
/
永井荷風
(著)
それで
傍
(
かたわら
)
にいる清吉と呼ばれた男も、あの時バッテーラの
艪
(
ろ
)
を押していた男であります。二人はあの時、目的通りに外国船へ乗り込むことができなかったものと思われます。
大菩薩峠:18 安房の国の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
吹雪
(
ふぶき
)
の間からまっ黒に天までそそり立つ
断崕
(
だんがい
)
に近寄って行くのを、漁夫たちはそうはさせまいと、帆をたて直し、
艪
(
ろ
)
を押して、横波を食わせながら船を北へと向けて行った。
生まれいずる悩み
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
と旅人は舟にとび乗りますと、子どもは
艪
(
ろ
)
をたくみにあやつつてむかう岸へつきました。
狐の渡
(新字旧仮名)
/
土田耕平
(著)
ジュと音がして
艪
(
ろ
)
の足で掻き分けられた
浪
(
なみ
)
の上を
揺
(
ゆ
)
られながら
漾
(
ただよ
)
っていった。
坊っちゃん
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
二人は、ちらっと、眼で、語り合うと、すぐ、
艪
(
ろ
)
をとって、
艪臍
(
ろべそ
)
へ落した。
南国太平記
(新字新仮名)
/
直木三十五
(著)
舷下の水は
碧
(
あを
)
くして油の如し。試みに手をもて探れば、手も亦水と共に碧し。舟の影の水に落ちたるは極て濃き青色にして、
艪
(
ろ
)
の影は濃淡の紋理ある青蛇を畫けり。われは聲を放ちて叫びぬ。
即興詩人
(旧字旧仮名)
/
ハンス・クリスチャン・アンデルセン
(著)
とさし招くと、
艪
(
ろ
)
の音も勇ましく船べりを寄せてきた一隻の大伝馬がある。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
ギー、ギー、ギー、ギー、二十隻の船から
艪
(
ろ
)
の音が物狂わしく
軋
(
きし
)
り出す。
八ヶ嶽の魔神
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
法木
(
ほうぎ
)
の
島船
(
しまぶね
)
、小船、浦の
真船
(
まふね
)
の
出鼻
(
でばな
)
を見れば、
姐
(
あね
)
も
妹
(
いもと
)
も皆乗り出して、
艪
(
ろ
)
をおし押し、にまきの先に、おせなおせなとさぶかぜ通れば、凪もいし、かつまを通れば、せじた宵烏賊、せがらし宵烏賊
フレップ・トリップ
(新字新仮名)
/
北原白秋
(著)
卯八は料理のため用意した出刄庖丁を取出すと、
碇綱
(
いかりづな
)
をブツリと切りました。あとは、
艪
(
ろ
)
に寄つて、馴れない乍ら一と押し、二た押し。
銭形平次捕物控:091 笑い茸
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
“艪”の解説
艪(ろ)は、人力によって舟艇の推進力を得るための装置。櫓とも書く。
(出典:Wikipedia)
艪
漢検1級
部首:⾈
21画
“艪”を含む語句
艪拍子
艪臍
艪櫂
艪柄
艪声檣影
逆艪
艪音
艪楫
艪杭
艪数
二梃艪
艪声
脇艪
挺艪
四梃艪
四挺艪
四丁艪
八挺艪
八丁艪