舷側げんそく)” の例文
小蒸気こじょうきを出て鉄嶺丸てつれいまる舷側げんそくのぼるや否や、商船会社の大河平おおかわひらさんが、どうか総裁とごいっしょのように伺いましたがと云われる。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
舷側げんそくに、しろくあわだっては消えて行く水沫うたかたは、またきょうの日のわれの心か、と少年の日の甘ったるい感傷におぼれこんでもみるのでした。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
……淡い郷愁とでもいったようなものを覚えて、立って反対の舷側げんそくへ行くと、対岸をまっ黒な人とまっ黒な石炭を積んだ船が通って行った。
旅日記から (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
ボートはスルスルとあざやかに舷側げんそくをすべりおりて、海面に浮かんだ。と思うと、はや、白波をけたてて進んでいった。
海底大陸 (新字新仮名) / 海野十三(著)
船は小動こゆるぎもせずにアメリカ松のえ茂った大島小島の間を縫って、舷側げんそくに来てぶつかるさざ波の音ものどかだった。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
波止場と舷側げんそくとのあいだの、きたならしく光る水の帯が、幅をひろげていって、たどたどしい操作のうちに、汽船は船首の斜檣しゃしょうを沖合のほうへ向けた。
その運送船はシシリアに兵士を運んでいたのであって、舷側げんそくまでいっぱいになるほど人員と馬とを積んでいた。
数名の部下と共に賊船の舷側げんそくをよじ昇り、甲板をあちこち探しながら、偶然にも、一人の死体と、二人の気絶者と、生人形の様に突立った明智小五郎との
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「だが兄上、私はただ、海波高かれとばかりに祈りおりまする。そして、舷側げんそくの砲列が役立たぬようにとな」
紅毛傾城 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
二人の腕が脱けるようになったとき、やっとミシシッピーふね舷側げんそくへ着いた。二人は、蘇生そせいした思いがした。
船医の立場 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
それと、一緒にぐ、ぐ、ぐ……と、千きんのおもりを一時に吊り上げられたように、舷側げんそくが傾いて行った。
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
ともでは舷側げんそく上部まで水に触れていた。何度か舟は水をかぶり、私のズボンと上衣の裾とは、百ヤードと行かないうちに、すっかりびしょびしょに濡れてしまった。
舷側げんそくの明り窓から西洋の景色や戦争の油画を覗かせるという趣向の見世物みせものこしらえ、那破烈翁ナポレオン羅馬ローマ法王の油画肖像を看板として西洋覗眼鏡のぞきめがねという名で人気をあおった。
堀大主典と、その向い合せには阿賀妻が、舷側げんそくに腰をかけ、つえづいた長刀の先に顎をのせていた。他のものは思い思いの場所にたたずんだ。黒い影のように見えた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
といって、龍睡丸が舷側げんそくにひいてきた、水先ボートに、乗りうつろうとして、大きな声でさけんだ。
無人島に生きる十六人 (新字新仮名) / 須川邦彦(著)
また中には酔ってしゃべりくたぶれて舷側げんそくにもたれながらうつらうつらと眠っている者もある。
鹿狩り (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
船と船とが、すれ違いになったとき、方船は黒船の舷側げんそくにぴったりと吸付いてしまった。いや、吸付いたとみたのは、しおのために、舷々げんげんあいしたのだ。方船の生残者たちは
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
するとモッフは、舷側げんそくもたれているガルールの連中をゆびさしながら、役人の方へ目配めくばせをして
波浪が舷側げんそくをどうっとばかり流れてゆき、まさに耳もとで咆哮ほうこうするのを聞くと、あたかも死神がこの水に浮んでいる牢獄ろうごくのまわりで怒り狂い、獲物をもとめているような気がした。
船旅 (新字新仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
潜航艇の舷側げんそくを海水が滝のように滑り落ちた。暗い水面をいて、コロナ号の船内に非常警報が鳴り響いている。その悲鳴を消して、つづけさまに砲声がとどろいた。十七分で沈んだ。
戦雲を駆る女怪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
その船は舷側げんそく菱形ひしがたの桟をめた船板を使ったので、菱垣船ひしがきぶねと云った。廻船業は繁昌はんじょうするので、その廻船によって商いする問屋はだんだん殖え、大阪で二十四組、江戸で十組にもなった。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
そのころになって、ピエールさんがあわてたように舷側げんそくへ出てきた。複雑な表情をしながらなにかひと言叫んだが、イヴォンヌさんの声に消されて、キャラコさんの耳には届かなかった。
キャラコさん:05 鴎 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
と、下村はすかさず巻揚機ウインチをあやつつて、軽々と吊るした魚雷をそろそろ水面近く下した。中原は舷側げんそくに立つて、右の手を上げ、敵艦をにらんで立つてゐる。息づまるやうな緊張の十数秒だ!
怪艦ウルフ号 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
ちかづいてると艇中ていちうには一個いつこ人影ひとかげもなく、海水かいすいていなかばを滿みたしてるが、なにもあれてんたすけうちよろこび、少年せうねんをば浮標ブイたくし、わたくし舷側げんそくいておよぎながら、一心いつしん海水かいすい酌出くみだ
花子がドサリと横に倒れその重みで船がかしぐほど揺れて激しい水音が舷側げんそくにすると、彼は見る見る狂暴になつた。船長は床の上から鉄のハンドルをつかむと娘のもものあたりを所きらはず乱打した。
水に沈むロメオとユリヤ (新字旧仮名) / 神西清(著)
見おろす一面の河幅かふくは光り、光の中に更に燦々さんさんたるものが光って、その点々を舷側げんそくに、声なく浮ぶ小舟がある。小舟には一、二の人かげの水にうつって、何やらしきりにさお河心かしんを探っている。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
さきを争って、舷側げんそくから海面へどぼんどぼんところげおちる。中には、もう舷側をこえる元気さえなくなって、甲板上にへたばるものさえ出てきた。
海底大陸 (新字新仮名) / 海野十三(著)
舷側げんそくから見おろすと一せきのかなり大きなボートに数人の男女が乗って、セレネードのようなものをやっている。
旅日記から (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
ぼくは、舷側げんそくの手摺にもたれて、みんなの頭越しに、この傷だらけのフィルムを、ぼんやりながめていました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
まるともなく進行を止めていた絵島丸は風のまにまに少しずつ方向を変えながら、二人ふたりの医官を乗せて行くモーター・ボートが舷側げんそくを離れるのを待っていた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
帆船から投げてくれたつなをうけとって、伝馬船は帆船の舷側げんそくにつながれ、上からさげられた縄梯子なわばしごをつたって、私たちは、さるのようにすばやく、帆船の甲板におどりこんだ。
無人島に生きる十六人 (新字新仮名) / 須川邦彦(著)
船上には人影もないけれど、とも舷側げんそくの油障子に、ランプの灯影が赤くさしている。あの中には船頭の一家族が住んでいるはずだ。見れば、歩みの板もまだ渡したままになっている。
黒蜥蜴 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
しみ渡るような低い声で彼は云いつづけた。舷側げんそくにぴたぴたと川波がくだけていた。腰をかがめねば聞きとれないような堀大主典の言葉は、まるで呪文じゅもんのようにぶつぶつと続いていた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
舵輪を握っている男は帆の前縁を見ながら、ゆっくりとひとりで口笛を吹き続けていた。そしてその口笛の音が、船首や舷側げんそくにあたる浪のしゅうしゅうという音を除けば、聞える唯一の音であった。
貝谷も銃を背に斜めに負うたまま、ひらりと局長のとなりの梯子にとびつき、そのままたったっと舷側げんそくへのぼっていった。彼は一番乗りをするつもりらしい。
幽霊船の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それでいながら、たとえば、舷側げんそくきあがり、渦巻うずまき、泡だっては消えてゆく、太平洋の水のとおる淡青さに、生命もらぬ、と思う、はかない気持もあった。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
たとえば流氷のようなものでも舷側げんそくで押しくずされるぐあいや、海馬せいうちが穴から顔をだす様子などから、その氷塊の堅さや重さや厚さなどが、ほとんど感覚的に直観される。
映画雑感(Ⅰ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
舷側げんそくから吐き出される捨て水の音がざあざあと聞こえ出したので、遠い幻想の国から一そく飛びに取って返した葉子は、夢ではなく、まがいもなく目の前に立っている船員を見て
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
まんいちにも調子がわるく、いじのわるい大波が、どっと伝馬船をもちあげて、ごつうん、と本船の舷側げんそくにたたきつけたら、伝馬船は、たちまち、ばらばらにくだけてしまうだろう。
無人島に生きる十六人 (新字新仮名) / 須川邦彦(著)
怪物群が舷側げんそくをこえてむこうにおりて逃げ去ると、三人は、いいあわせたようにホッと深い息をついた。
海底大陸 (新字新仮名) / 海野十三(著)
先生だけは一人少しはなれた舷側げんそくにもたれて身動きもしないでじっと波止場はとばを見おろしていた。
夏目漱石先生の追憶 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「ああ、お父さま。さよなら、さよなら」と、マリ子は舷側げんそくから、白いハンカチーフをふって埠頭ふとうまで見送りにきてくれた父親にしばしの別れを惜しむのであった。
人造人間エフ氏 (新字新仮名) / 海野十三(著)
程なく新高知丸の舷側げんそくにつけば梯子はしごの混雑例のごとし。荷物を上げ座もかまえ、まだ出帆には間もあればと岩亀亭がんきていへつけさせ昼飯したゝむ。江上油のごとく白鳥飛んでいよいよ青し。
東上記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
その艦名をたしかめたかったが、生憎あいにくとわが艇は、敵艦の真下にいるので、敵艦の形を見ることが出来なかったし、舷側げんそくに記してある艦名を読むことも出来なかった。
地球要塞 (新字新仮名) / 海野十三(著)
オランダ人で伝法肌デスペラドといったような男がシェンケから大きなばりを借りて来てこれに肉片をさし、親指ほどの麻繩あさなわのさきに結びつけ、浮標にはライフブイを縛りつけて舷側げんそくから投げ込んだ。
旅日記から (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
きし少尉を指揮官とする臨検隊りんけんたいが、ボートにうちのって、怪貨物船に近づいていった。むこうの方でも、もう観念したものと見え、舷側げんそくから一本の繋梯子けいはしごがつり下げられた。
火薬船 (新字新仮名) / 海野十三(著)
舷側げんそくを狙う砲弾や魚雷も、同じことに、ゴム蒲団の中でぐるっと方向をかえて、鋼鉄の艦体の外をぐるっと廻って、艦底から海底へ落ちる。今舷側を切って見せてやるよ」
あわせて二十門は、ぎりぎりと仰角ぎょうかくをあげ、ぐるっと砲門の向きをかえたかと思うと、はるか五千メートルの沖にじっと静止している驚異軍艦ホノルル号の舷側げんそく照準しょうじゅんさだめた。
それから十五分ほどたって、四隻がてんでに舷側げんそくから火をふきながら、仲よく揃って、ぶくぶくと波間なみまに沈み去ったその壮観そうかんたるや、とても私の筆紙ひっしつくし得るものではなかった。
機関がさけたのであろうか、舷側げんそくから、白いスチームが、もうもうとふきだした。
地底戦車の怪人 (新字新仮名) / 海野十三(著)