胡麻塩ごましお)” の例文
旧字:胡麻鹽
今日の会主は本阿弥長職派ほんあみちょうしょくはにゆかりのある藩中の老人。さっきから皆がちらちらと視線を送っている胡麻塩ごましお茶筅頭ちゃせんあたまのおやじがそれだ。
寛永相合傘 (新字新仮名) / 林不忘(著)
同じ縁側の遥か下手に平伏している大目付役、尾藤内記びとうないき胡麻塩ごましお頭を睨み付けていた。側女そばめを連れて散歩に出かけるところらしかった。
名君忠之 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
みんなが息をのんだ瞬間に、一人の若々しい器量のよい女が、人だかりを押しわけて、この胡麻塩ごましおひげの男をのぞきにやってきた。
そのあとより続いて出てお出でなさるはいずれも胡麻塩ごましお頭、弓と曲げても張の弱い腰に無残やから弁当を振垂ぶらさげてヨタヨタものでお帰りなさる。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
ただ胡麻塩ごましお色の口髯くちひげが好い加減な所から乱雑に茂生もせいしているので、あの上にあなが二つあるはずだと結論だけは苦もなく出来る。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
三吉は停車場まで行って、背の高い、胡麻塩ごましおひげの生えた、質素な服装みなりをした老人を旅客の群の中に見つけた。この老人が名倉の父であった。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
わずかに残った胡麻塩ごましおの毛が、後頭部を半ばおおった下に、二筋のけんが、赤い鳥肌とりはだの皮膚のしわを、そこだけ目だたないように、のばしている。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それは痩せて背の高い、しかしまだ壮健らしい老人で、黒い髪にはひどく胡麻塩ごましおが交じって、おも長な禁欲者らしいものものしい顔をしていた。
それは、地震前にはうるしのように黒かった髪の毛が、急に胡麻塩ごましおになって、しかもその白髪であるべき部分は薄汚い茶褐色を帯びている事であった。
雑記(Ⅱ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
握飯には、きまって胡麻塩ごましおがつけてあり、沢庵は麻縄のように硬かった。その前に坐ると、彼らの唾液は滾々こんこんと流れた。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
私はつい苦笑すると、彼は益々顔面に深いしわを刻んで、それ見ろ至極しごく難題で困ったろうとでも云うみたいに、胡麻塩ごましお蓬髪ほうはつをくさくさ掻き立てたのだ。
(新字新仮名) / 金史良(著)
眼のくぼい、鮫の歯の様な短い胡麻塩ごましおひげの七右衛門爺さんが、年増としまの婦人と共に甲斐〻〻しく立って給仕きゅうじをする。一椀をやっと食い終えて、すべり出る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
田舎で春から開業している菊太郎の評判などを、小父おじが長い胡麻塩ごましお顎鬚あごひげ仕扱しごきながら従姉いとこに話して聞かせた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
胡麻塩ごましおになった髪もり切れてすくなくなり、打裂ぶっさき羽織に義経袴よしつねばかま、それで大小をさしていなかったら、土地の漁師と見さかいのつかないような容貌ようぼうになっていた。
海神に祈る (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
それから、上を向く時には、きまって胡麻塩ごましおの眉を帽子のつばの下で、高く釣り上げる。そうすると、その眼のただれてみじめに縁取ふちどられているのがよく見えた。
初々ういういしいほど細い声を掛けると、茶の間の悪く暗い戸棚の前で、その何かしら——内臓病者補壮の食はまだ考えない、むぐむぐ頬張っていた士族はげ胡麻塩ごましお
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
筒型にかためられた茶色の御飯と、味噌汁のようなものと胡麻塩ごましお、そんな風な食事でしたが、真面目に務めているひとたちには、時々お三時があると云うことです。
顔はよくわからないが、固太りの頬に胡麻塩ごましおひげが伸び、厚い大きな唇や、ぎょろっとした眼つきに、どことなく土建会社の現場監督といったような、威厳が感じられた。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
金の綯総よりふさのついたビロードの服をつけ首筋をあらわにしてこの暗黒界を脅かしてるきれいな才ばしった妻を持ち、かなり若いのに胡麻塩ごましおの頭を持っていたボーフルモン侯
将軍は、胡麻塩ごましおの硬い髯を撫で撫で、目をじて、諸報告に聞きれているかのようであった。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その貴様の顔が入用なんだよ。というのは、貴様に白いかつらをきせて、胡麻塩ごましおの口髭と頤髭とを
稀有の犯罪 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
しばらく胡麻塩ごましおになった首をえりに埋めて、何を考えるともなくぼんやりしてしまいました。
わずかばかりの胡麻塩ごましおの髪を、総髪にしてうなじに取り上げ、紫のひもで巻き立てている。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
しばらくして出て来たのは陰気なタイプのひょろ長い、胡麻塩ごましお頭の気の浮かない、給仕頭で、その男のブツブツ云うところによると、サレーダイン公爵はこの頃ずーッと不在であったが
胡麻塩ごましおの頭髪は一カ月以上も手入れをしないので長く伸び乱れていた。
電報 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
彼は髪もひげもすでに幾分か胡麻塩ごましおとなっているが、実際はまだ三十を幾つも出ているはずはない。思うにこれは、何かある大きな悲しみが彼をおそって、その全生涯を枯らしてしまったのに相違ない。
キリレンコよりは大柄であるが、引き締った肉づき、日焼けしたような茶褐色ちゃかっしょくの皮膚の色、胡麻塩ごましおの濃い毛髪、黒いひとみの色など、日本人に近い感じで、何処やらに船員上りと云った風な様子があった。
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「さあ、あちらへ——僕もいっしょに行こう」と歩をめぐらす。十間ばかりあるくと、夫婦はすぐ胡麻塩ごましおおやじにつらまった。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
仲人の医師会長栗野博士が、その障子の隙間に胡麻塩ごましお頭を寄せて、少女の囁声ささやきを聞くと二三度軽くうなずいて立上った。
笑う唖女 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
小男の岩城播磨守は猪首いくびに口をへの字に曲げて、長身、痩躯そうく白皙はくせき胡麻塩ごましお各人各様かくじんかくようの一癖ありげな面だましいだ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
私の眼前めのまえには胡麻塩ごましお頭の父と十四五ばかりに成る子とが互に長いつちを振上げてもみを打った。その音がトントンと地に響いて、白い土埃つちほこりが立ち上った。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ヘルマン教授は胡麻塩ごましおの長髪を後ろへでつけていて、いつも七つ下がりのフロックを着ていたが、講義の言語はこの先生がいちばん分りやすくて楽であった。
ベルリン大学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
蒲留仙 五十前後のせてむさくるしいなりをしている詩人、胡麻塩ごましおの長いまばらな顎髯あごひげを生やしている。
背の低い角ばった体格の老人で、かみの毛は濃くて、ぼさぼさしており、胡麻塩ごましおひげをはやしていた。
胡麻塩ごましお兀頭はげあたま、見るから仏になってるのは佃町のはずれに独住居ひとりずまいの、七兵衛という親仁おやじである。
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
顔はよくわからないが、固太りのほお胡麻塩ごましおひげが伸び、厚い大きなくちびるや、ぎょろっとしたつきに、どことなく土建会社の現場監督といったような、威厳が感じられた。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
しばらく胡麻塩ごましおになった首をえりに埋めて、何を考えるともなくぼんやりしてしまいました。
これほどの年になっていながら、彼はまだすっかり胡麻塩ごましおにはなりきっていなかった。
ひかり滑々かつかつたる先生の禿げ頭で、これまた後頭部のあたりに、種々しょうしょうたる胡麻塩ごましおの髪の毛が、わずかに残喘ざんぜんを保っていたが、大部分は博物はくぶつの教科書に画が出ている駝鳥だちょうの卵なるものと相違はない。
毛利先生 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
地の薄くなった胡麻塩ごましおの髪を、小さい髷に取り上げている。顔は小さくてしなびていて、そうして黄味を帯びていた。古びた柑橘かんきつを想わせる。にもかかわらず顔の道具は、いかめしいまでに調ととのっていた。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「ありゃ実際意外だった。あんなに、とんとん拍子びょうしにあがろうとは思わなかった」と胡麻塩ごましおがしきりに胡麻塩頭をく。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
胡麻塩ごましお頭を真黒に染めて、いつも生やしっ放しの無精髭ぶしょうひげを綺麗に剃って、チェック製黒ベロアの中折なかおれの下に、鼈甲縁べっこうぶちの紫外線除けトリック眼鏡を掛けて
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
様子の年寄り染みる割合には、胡麻塩ごましおの毛が房々と生えて、びんも髷も、思いの外見事です。
が、しかし、その時のは綺麗な姉さんでも小母さんでもない。不精髯ぶしょうひげ胡麻塩ごましお親仁おやじであった。と、ばけものは、人のよくいて邪心を追って来たので、やさしひと幻影まぼろしばかり。
夫人利生記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
からびたような声ではあるが、懐しみのある声であった。胡麻塩ごましおの髪の毛を小さなまげに結った老婆が、室の中で半纏はんてんのような物を縫っていた。それは定七の女房のお町であった。
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
めしを胡麻塩ごましおで握ったものくらいうまくて精力のつく喰べ物は世界じゅう捜してもないだろう、と断言しながら、現在なにが有望かといえばセメント以上の事業はない、などと云いだすのであった。
季節のない街 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
恋々れんれんたるわれを、つれなく見捨て去る当時そのかみに未練があればあるほど、人も犬も草も木もめちゃくちゃである。孤堂先生は胡麻塩ごましおまじりのひげをぐいと引いた
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
黄色い胡麻塩ごましお頭が蓬々ほうほうと乱れて、全身が死人のように生白く、ドンヨリと霞んだ青い瞳を二ツ見開いて、一本も歯の無い白茶気た口を、サモ嬉しそうにダラリといている。
空を飛ぶパラソル (新字新仮名) / 夢野久作(著)
つむぎだか、何だか、地紋のある焦茶の被布を着て、その胡麻塩ごましおです。眉毛のもじゃもじゃも是非に及ばぬとして、鼻の下に薄髭うすひげが生えて、四五本スクとねたのが、見透みすかされる。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
総髪にした胡麻塩ごましお頭、まだ皺も寄らない逞しい身体と、微笑をたたえた柔和な顔、何んとなく人好きのする中年者で、身扮みなりも折目正しく、一本差した腰も軽く、顔見知りの八五郎にまで