罵詈ばり)” の例文
切齒せつしし、罵詈ばりし憐憫する必要が起り、ひいて「泥人形」ならぬ「現實」の僕自身もそのまきぞえを食うべく餘儀なくされたのである。
中西氏に答う (旧字新仮名) / 平林初之輔(著)
(もっと多くの殆ど罵詈ばり雑言)それが誰に対する叫びだったかは云うまでもない。しかしそこにいる人たちは事情を知らなかった。
七日七夜 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ほんの一瞬の差が一時間のあとには莫大ばくだいもない懸隔をつくるのである。今の安倍には、慰めや同情も罵詈ばり嘲笑ちょうしょうとおなじであった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
あらゆる罵詈ばり、あらゆる嘲蔑ちょうべつ——武蔵の胸には少なくもそうこたえた——を堂衆たちは彼に浴びせかけて、ぞろぞろと帰って行った。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そうして私は、さんざん飜弄された揚句、惨殺された少女を、あくまでも罵詈ばりし、攻撃するのを聞かなければなりませんでした。
死者の権利 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
わめき、罵詈ばり、溺れるような死にものぐるいの手と脚のもがき、屋台の顛覆。……哄笑に腹を波打たして、中山服は散らばった。
武装せる市街 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
小人しょうじんから罵詈ばりされるとき、罵詈それ自身は別に痛痒つうようを感ぜぬが、その小人しょうじんの面前に起臥きがしなければならぬとすれば、誰しも不愉快だろう。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そうして各流派流派の「主張」とか「精神」とかいうものを固執して他流を排斥しあるいは罵詈ばりするようなこともかなり多い。
俳諧瑣談 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
罵詈ばりもまた奨励の一手段 として畜生、豚、乞食、餓鬼がき驢馬ろば、親の肉喰犬にくくらいいぬというような荒々しい罵詈ばりの言をはなってその子供を教育する。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
けれども、ソクラテスは、その冷評や罵詈ばりの声を聞いても、少しもいからない。のみならず、自分もまた一緒になって、声を立てて笑っていた。
ソクラテス (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
神経の発作、涙の洪水、憤激した罵詈ばり、クリストフにたいする呪詛じゅそ……。め切ったとびら越しに、激怒の叫びが聞こえていた。
ブランデーのために声のかれたその罵詈ばりは、なるほど前歯の二本なくなってる口から醜くほとばしり出ていた。女はファンティーヌであった。
当時の社会主義運動には「分派」の争いが激しく、憎悪、反感、罵詈ばり嘲笑ちょうしょう、批難、攻撃が、ずいぶんきたならしく両派の間に交換されていた。
赤旗事件の回顧 (新字新仮名) / 堺利彦(著)
軽薄なる世人は一時独逸ドイツの文化を非常に崇拝した。しかるに近来は独逸ドイツの文化を非常に罵詈ばりする。いかにも軽薄に見える。
始業式に臨みて (新字新仮名) / 大隈重信(著)
それは、為兼が「詩」の地盤を生きた感性にもとめた故に、彼の手になった『玉葉集』を罵詈ばりしたのでも分るのである。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
ただあの文章はいくらか書き様に善くない処があっていたずらに人を罵詈ばりしたように聞こえたのは甚だ面白くなかった。
病牀苦語 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
要するにイエスはこの罵詈ばり嘲弄を浴びつつも父なる神の御意思を絶対に信じて、最後まで、しかり十字架の死に至るまで従順を守りとおされたのです。
善く言ひて主義なるものに拘泥こうでいすることなき能はず、故に若し一の私見と他の私見と撞着したる時に、近頃流行の罵詈ばり評論に陥ることなきにしもあらず。
彼はすなわち囂々ごうごうたる反対、妨害、罵詈ばり讒謗ざんぼうをものともせず、非戦論をひっさげて全国を遊説せんと志し、まず自己の選挙区に帰るや、有権者団体は
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
戯言ぎげんとも附かず罵詈ばりとも附かぬ曖昧あいまいなお饒舌しゃべりに暫らく時刻を移していると、たちまち梯子段の下にお勢の声がして
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
彼は、ゴルゴタへひかれて行くクリストが、彼の家の戸口に立止って、暫く息を入れようとした時、無情にも罵詈ばりを浴せかけた上で、散々打擲ちょうちゃくを加えさえした。
さまよえる猶太人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
お前さんがそう罵詈ばりなさると。さも私しのわるいようで。人の手前もありますし。みっともないから……。
藪の鶯 (新字新仮名) / 三宅花圃(著)
左の座からは罵詈ばりの声が起る。いずれも極端で最大級の形容詞が使われる。誇張であって、ぎごちない。この読者というものの中には批評家が勿論まじっている。
自分に対する罵詈ばりのために、カッとなってしまって、青年の顔も少女の顔も、十分眼に入らなかったが、今は少し心が落着いたので、二人の顔を、あらためて見直した。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
その敵も口で彼是かれこれやかましくうて罵詈ばりする位は何でもないが、ただ怖くてたまらぬのは襲撃暗殺の一事です。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
老中罷免と聞くと、即刻西丸下の屋敷を引払うものと早合点して、数千の弥次馬、罵詈ばりつぶての雨を降らせ、辻番所を微塵に粉砕して、水野屋敷の表門へ迫ったのです。
礫心中 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
数旬ののちようやく蘇武の身体が恢復かいふくすると、例の近臣衛律えいりつをやってまた熱心に降をすすめさせた。衛律は蘇武が鉄火の罵詈ばりい、すっかり恥をかいて手を引いた。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
憎しみの場合に於ても、例えば私が私を陥れたものを憎んで、これに罵詈ばりを加えたとすれば、憎まれた人も、その醜い私の罵詈も共に還って来て私のうちに巣喰うのだ。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
例の如く猛烈な罵詈ばりやら、鈍い不平やら、欷歔すゝりなきやら、悲鳴やらがあつて、涙もたつぷり流された。
クサンチス (新字旧仮名) / アルベール・サマン(著)
ややしばらく沈黙があたりを領したが、やがてまもなく先ほどと同じ笑いと罵詈ばりの声が起こった。
すなわち無益なる空言をつつしめとの意である。ビルダデのこのヨブ攻撃は、殊に第四節の如きは、罵詈ばりの語としては簡潔雄勁ゆうけいにして、正に独創的の警句というべきである。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
かく申上げ候わば、幕府へ媚付こびつき候見識と一概に罵詈ばりする人これ有るべく候えども、愚論果して朝廷のために申上げ候か、幕府へねいし候か、行末ゆくすえの所、御明鑑仰ぎ奉り候。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
その形式が座談になっているのは、その席で礼を言えば済む。私信になっているのは、礼状を遣れば済む。公開書になっているのも、罵詈ばりがしてあれば、棄て置いても好い。
不苦心談 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
罵詈ばりを極め、果は署長の出身小学校、中学校、戸籍役場より、其他関係しているあらゆる会にまで手を延ばし、甚だしきは署長夫人の出身女学校の校長にまで魔手を及ぼした。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
柔かき臥床ふしどは英雄の死せんことをねがふ場所に非ず。誹謗ひばう罵詈ばり、悪名、窘迫きんぱくたま/\以て吾人の徳を成すに足るのみ。見よ清教徒は失意の時に清くして、得意の時に濁れるに非ずや。
信仰個条なかるべからず (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
... 僕は全くあざむかれて居ました——」吾妻はハンケチもて眼をおほひつ「僕が諸君の罵詈ばり攻撃をさへ甘んじて敬愛尊信した彼は——諸君、——売節漢であつた、うたがひもなき間諜かんてふであつた」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
その時、見物人の喧囂けんごうは絶頂に達して、罵詈ばり、嘲笑、憤怒の言葉が場内にみなぎり溢れた。
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「それだから貴方は坊つちやんだつて云つたのよ!」女は罵詈ばりするやうに言つた。
その表門の門外には、うちこわしの暴徒雲集し、怒号し罵詈ばりしひしめいていた。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
一人口火くちびを切つたからたまらない。練馬大根ねりまだいこんと言ふ、おかめとわめく。雲の内侍ないじと呼ぶ、あめしよぼを踊れ、と怒鳴どなる。水の輪の拡がり、嵐の狂ふ如く、聞くも堪へない讒謗ざんぼう罵詈ばりいかずちの如くどっく。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
罵詈ばりはいけないといふ。批評ではないといふ。しかし罵詈悪口まで行かなければ、本当のことが言へないやうな場合がよくある。罵詈は批評の尖つたものではないか。また熱したものではないか。
批評 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
さあ今度は下宿のものが承知しない。丁度丑松が一日の勤務つとめを終つて、疲れて宿へ帰つた時は、一同『主婦かみさんを出せ』とわめき立てるところ。『不浄だ、不浄だ』の罵詈ばりは無遠慮な客の口唇くちびるいて出た。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
『法隆まさニ季ナラントシ、妄庸ノ徒声利ニ垂涎すいぜんシ、粉焉沓然、風ヲ成シ俗ヲ成ス。』人は惜しむらくは罵詈ばりにすぎぬという。しかしく罵言をなす者すら五山八千の衆徒の中に一人もないではないか。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
わたしのペンはあなた方の罵詈ばりの流れについて行けません。
ひそかに罵詈ばり中傷の言辭を送るに忙しかつた。
古い村 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
「役寮の命とあるゆえ、神妙に仰せごとを受け申しておるに、口ぎたない罵詈ばりは心得申さぬ。わざとそれがしに喧嘩でも売ろうと召さるか」
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
くらいの罵詈ばりは必ず聞こえるであろうと、つくづく物思いに沈みながら、この群集を去って旅館に帰ろうとすると、同じ公園のむこうがわに二
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
やがて家の中から女がだみ声でどなる、あけすけな、仮借かしゃくのない罵詈ばりが聞える。だが信吉はがまんして苦行でもするかのように耳を澄ましていた。
嘘アつかねえ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
故山に別る 私がいよいよ出立の場合になると世の中の人は「彼は死にに行くのだ、馬鹿だ、突飛だ、気狂いだ」といって罵詈ばりするものがあったです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
冷笑し風刺し、口笛を吹き歌を歌い、歓呼し罵詈ばりし、アレリュイアとマタンチュルリュレットと(訳者注 歓呼の賛歌とのろいの賛歌と)をあわせ用い