精進しょうじん)” の例文
肉体の苦しみを度外に置いて、物質上の不便を物とも思わず、勇猛精進しょうじんの心をって、人道のために、鼎鑊ていかくらるるを面白く思う。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
さもしい話だが、当時私達は二十五円の月給を目標として学問に精進しょうじんしていた。今に二十五円取れると思うと、そこに安心立命あんしんりつめいがあった。
首席と末席 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
ベルリオーズの精進しょうじんは涙ぐましきまでに見事であった。欠乏と闘いながらの七年間の苦学は英雄的であったと言ってもしつかえはない。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
或人が寺で造る精進しょうじん料理がうまいといって感心したら、野菜を煮る鍋と腥物なまぐさものを煮る鍋とを別にして御覧、といわれたそうである。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
思うと私は精進しょうじんせずにいられません。いつかはお目にかかる日が来よう。そのときに、消え入るような自分であってはならないと
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ふとはげしい旅ごころをそそられて、かれが栄誉と精進しょうじんとしずけさにみちた生活を、みすてたせつなに、バランスはくずれた。
「ヴェニスに死す」解説 (新字新仮名) / 実吉捷郎(著)
しかし彼らの信ずるのはすべてを許し何人をも成仏せしめる寛容な仏であって、戒律と精進しょうじんとを命令する厳しい教主ではなかったであろう。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
ふとはげしい旅ごころをそそられて、かれが栄誉と精進しょうじんとしずけさにみちた生活を、みすてたせつなに、バランスはくずれた。
釈迦は出離しゅつりの道を求めんがため檀特山だんどくせんなづくる林中に於て六年精進しょうじん苦行した。一日米の実一つぶ亜麻の実一粒を食したのである。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
私たちが互に信じ互に結ばれ、そうして自然に一切を任せている限り、あつい信仰と不動な安心とをもって、仕事に専念精進しょうじんする事が出来る。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
この間は御文下され、観音様の御せんまい三日のうち精進しょうじんにていただき候ようとの御事、御深切の御こころざし感じ入り申し候。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
と繰返しいさめる妹のことばもききいれず、一心に創作に精進しょうじんし、大音寺前だいおんじまえの荒物屋の店で、あの名作「たけくらべ」の着想を得たのであった。
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
精進しょうじんとは、努め励むことで、全生命をうちこんで努力することです。禅定とは、沈着です。心の落ちつきです。「明鏡止水」という境地です。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
僕は少年時代からラジオの研究に精進しょうじんしていたラジオファンとして、あの茫莫ぼうばくたるエーテル波の漂う空間に、くることなき憧憬どうけいを持っているのでした。
壊れたバリコン (新字新仮名) / 海野十三(著)
いよいよ出立の当日午前十一時頃までに、天和堂テンホータンの夫婦は、もはや今日はお立ちになるのであるというて、精進しょうじん料理の御馳走をこしらえて別宴を開きました。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
他人眼よそめから見て相当の精進しょうじんと思われるべき私の生活が幾百日か続いた後、私は或る決心を以て神のふところに飛び入ったと実感のように空想した。弱さの醜さよ。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
本心から左様に発心ほっしんして精進しょうじんしているわけではなく、事情しからしめた故にそうなったので、この事情が除かるるならば——たとえば面の傷が癒着ゆちゃくするとか
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
五百羅漢製作においても多大の精進しょうじんを積まれ一丈六尺の釈迦牟尼仏しゃかむにぶつの坐像、八尺の文殊もんじゅ普賢ふげんの坐像、それから脇士わきし阿難迦葉あなんかしようの八尺の立像をもきざまれました。
芸術の道に精進しょうじんするより他は無いんだ等と、父の留守の時には、大声で私と母に言って聞かせるのでした。
千代女 (新字新仮名) / 太宰治(著)
夕方高梨で「精進しょうじんあげ」を馳走してくれた。今は午前三時、もう寝る。い夢があるだろう。(四、一〇)
禅は梵語ぼんご禅那ぜんな(Dhyana)から出た名であってその意味は静慮じょうりょである。精進しょうじん静慮することによって、自性了解じしょうりょうげの極致に達することができると禅は主張する。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
と同時に悪魔もまた宗徒の精進しょうじんさまたげるため、あるいは見慣れぬ黒人こくじんとなり、あるいは舶来はくらい草花くさばなとなり、あるいは網代あじろの乗物となり、しばしば同じ村々に出没した。
おぎん (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
その時お師匠様御近侍の若僧が遊女をめとったとあっては、法敵の攻撃に乗ずる口実ともなります。若い弟子たちの精進しょうじんは鈍くなります。日ごろ御発明なあなたです。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
無名作家が未来の希望に燃えて精進しょうじん没入するのと違って、庄吉の如くにいったん一応の文名を得ながら、いつまでたってもウダツがあがらず、書く物は概ね金にならず
オモチャ箱 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
食楽は、精進しょうじん料理がお好き。まず録糸まめそうめんにてつくる魚翅ふかのひれ湯葉ゆばでつくれる火腿ハム、たまに彼女はかつて母とともに杭州コウシュウ西湖サイこにある功徳林食処へ精進料理を味わいに行った。
新種族ノラ (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
しかし、無理をして勉強せよとも、是非ぜひえらくなれとも私たちは決して言わなかった。ただ分相応ぶんそうおうにその道に精進しょうじんすべきは人間の職分しょくぶんとして当然のことであるとだけは言った。
巴里のむす子へ (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
また月々この二十四日の一日を愛宕精進しょうじんといって、酒を慎しむ人が多かった。そうすれば火事の災いがないと信じていたのは、多分愛宕が火伏せの神であったからであろう。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
明治三十八年十二月から菜食をはじめて、明治三十九、四十、四十一、と満三年の精進しょうじん、云わば昔の我に対する三年のをやったようなものだ。以前はダシにも昆布こんぶを使った。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
祈祷きとうと御精進しょうじんで一時およろしかった御眼疾もまたこのごろお悪くばかりなっていくことに心細く思召して、七月二十幾日に再度御沙汰ごさたがあって、京へ帰ることを源氏は命ぜられた。
源氏物語:13 明石 (新字新仮名) / 紫式部(著)
じっさいのところ選り好みしようにもほかにどんな金儲けの能力も持ってなかったからなんだ……おれはこれでも絵かきだったんだぜ。十七の年から十五年の間、不退転ふたいてん精進しょうじんをした。
黒い手帳 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
三宅島しまにいたころのことを思や、これでも極楽ごくらく、下らねえ欲をかいて、変なことから、身性みしょうれでもすると、とんだことだと思って、つつしんではいるものの、精進しょうじんぐらしも、これで三年
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
「当日は、清らかなお席、生臭なまぐさって精進しょうじん精物でございましょうか。」
元禄十三年 (新字新仮名) / 林不忘(著)
芸道に精進しょうじんせんとならば痛さ骨身にこたえるとも歯をいしばってしのぶがよいそれが出来ないなら私も師匠を断りますとかえって佐助に嫌味いやみを云った爾来じらい佐助はどんなに辛くとも決して声を
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
たとえば封建の世に大名の家来は表向きみな忠臣のつもりにて、その形を見れば君臣上下の名分を正し、辞儀をするにも敷居しきい一筋の内外うちそとを争い、亡君の逮夜たいやには精進しょうじんを守り、若殿の誕生には上下かみしもを着し
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
姿を消すのは、塾生たちのため精進しょうじん料理をこしらえるためである。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
侍女一 (笑う)お精進しょうじんでおいで遊ばします。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
眠る前の精進しょうじん料理と一しゃくの酒がまわって、三人はやがてぐッすり寝込んだようであったが、かねて思うところのあった李逵は
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この岸からの岸へ渡るのに、六つの行があるというのが、この六波羅蜜、すなわち六度です。布施と持戒と忍辱にんにく精進しょうじん禅定ぜんじょう智慧ちえがそれです。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
学習院を破るために、涙ぐましい精進しょうじんをつづけると共に、学校内では後継者の養成に真剣な努力をはらっていた。
胡堂百話 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
しかし我々は真面目まじめでした。我々は実際偉くなるつもりでいたのです。ことにKは強かったのです。寺に生れた彼は、常に精進しょうじんという言葉を使いました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
精進しょうじん潔斎けっさいなどは随分心の堅まり候ものにてよろしき事とぞんじ候に付き、拙者も二月二十五日より三月晦日みそかまで少々志の候えば酒肴しゅこうども一向べ申さず
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
親鸞 あのころの事は忘れられないね、若々しい精進しょうじん憧憬あこがれとの間にまじめに一すじに煩悶はんもんしたのだからな。森なかで静かに考えたりあさるように経書を読んだりしたよ。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
この「のし込み」というのは云わば精進しょうじんのシチューで、原料たる小麦粉が漂白したメリケン粉と違い、日本小麦の持つ原始的の味わいと営養価は、こういう種類の手打ちによって
四国や九州で百手祭ももてまつり、または御的射おまといの神事といっているのは、的も大きく距離も近くしてあるようだが、射手いてはたいていの場合には少年であって、みな前々から精進しょうじんをして練習する。
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「はい、つつしむ上にも、慎んで、一生懸命、精進しょうじんいたす覚悟でござります」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
そういった意味での鍛練に精進しょうじんしてみる気にはなれないかね。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
これは独り運慶のような名匠の精進しょうじんが、たまたま、のみの先に現し得た奇蹟のようなもので、決して俗界にあるものではない。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そうして始から取捨も商量もれない愚なものの一徹一図をうらやんだ。もしくは信念にあつい善男善女の、知慧も忘れ思議も浮ばぬ精進しょうじんの程度を崇高と仰いだ。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
発明王エジソンも、「人生は努力なり」といっていますが、たしかに人生は努力です。不断の努力が肝要です。しかもその努力こそ、精進しょうじんです。正精進しょうしょうじんというのはそれです。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
ひとたびその天職に目覚めざめると、チャイコフスキーの精進しょうじんは世にも目ざましいものであった。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)