町家ちょうか)” の例文
端唄はうたが現す恋の苦労や浮世のあじきなさも、または浄瑠璃が歌う義理人情のわずらわしさをもまだ経験しない幸福な富裕な町家ちょうかの娘
夏の町 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
『今、ちらと、町家ちょうかの者の声を聞けば——今度は浅野の家来だと云ったが——今度はと云えば、吾々の先にも、早打はやうちが通ったのか』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
嘉永版かえいばんの『東都遊覧年中行事とうとゆうらんねんちゅうぎょうじ』にも、『六月朔日ついたち賜氷しひょうせつ御祝儀ごしゅうぎ、加州侯より氷献上、おあまりを町家ちょうかに下さる』と見えている。
顎十郎捕物帳:08 氷献上 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
前夜の夜歩きの時に見かけた浪人ども——それと芹沢が奪い来ったという町家ちょうかの女房との間に脈絡があるように思われてならぬ。
「深夜の小田原おだわらに怪人が二人現れたそうです。そいつが乱暴にも寝静まっている小田原の町家ちょうかを、一軒一軒ぶっこわして歩いているそうです」
崩れる鬼影 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その僧侶はどこへ泊り込むかというと一般に町家ちょうかです。町家では一室なり二室なりを明渡して僧侶に貸すというのがラサ市民の義務になって居る。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
これはあの衣紋えもんのクリコミ加減でもお解りになります通り、或る町家ちょうかの娘で、芸妓げいしゃに売られておった者で御座いますが、なかなかの手取りと見えて
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
こっちは八坂寺やさかでらを出ると、町家ちょうかの多い所は、さすがに気がさしたと見えて、五条京極きょうごく辺の知人しりびとの家をたずねました。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
叔父は武家奉公は面倒だから町家ちょうかけと申しまして彼方此方あちらこちら奉公にやりますから、私も面当つらあてに駈出してやりました
江戸入りは三人になったが、厳しい藩邸やしきの門はさすがにくぐらせられない。出入りの町家ちょうかに預けておくうちに母親は鳶頭かしらのところへ娘を連れて再縁した。
見物は、がいして町家ちょうかの者である。教育のありそうな者はきわめて少ない。美禰子はその間に立って振り返った。首を延ばして、野々宮のいる方を見た。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
薄寒い二月の夜、月が町家ちょうかの屋根の上から出かかって、四方あたり金粉きんぷんいたような光がくんじます。
黒棚くろだな御廚子みずし三棚みつだなうずたかきは、われら町家ちょうか雛壇ひなだんには打上うちあがり過ぎるであろう。箪笥たんす長持ながもち挟箱はさみばこ金高蒔絵きんたかまきえ銀金具ぎんかなぐ。小指ぐらいな抽斗ひきだしを開けると、中があかいのも美しい。
雛がたり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私は勿論もちろん幼少だから手習てならいどころの話でないが、う十歳ばかりになる兄と七、八歳になる姉などが手習をするには、倉屋敷くらやしきの中に手習の師匠があって、其家そこには町家ちょうかの小供も来る。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
塵塚談ちりづかだん』という書物は、ちょうどこれから少し後に生まれた老人の、若いころの見聞をしるしたものだが、これには目抜めぬきの大通りだけでなく、山の手はしばしの武家ぶけ町家ちょうかともに
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
さも欲し相にのぞいている装身具の類を見ても、「あれ、いいわねえ」などと、往来の町家ちょうかの娘達の身なりを羨望せんぼうする言葉を聞いても、可哀相かわいそうに彼女のお里は、すぐに知れて了うのであった。
木馬は廻る (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
どこか坂下さかした町家ちょうかでたたく、追いかけるような日蓮宗の拍子木ひょうしぎ
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ああいう敏捷びんしょうな女だから、かえってこっちの裏をかいて、明々あかあか町家ちょうかの灯が往来を照らしている中を、洒然しゃぜんとあるいているかも知れない。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ういう訳で左様に長い物をふるって町家ちょうかをお荒しなさいまする、その次第を一応手前にお告げ下さいと云って出ろ
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
そこで彼等はまず神田の裏町うらまちに仮の宿を定めてから甚太夫じんだゆうは怪しいうたいを唱って合力ごうりきを請う浪人になり、求馬もとめ小間物こまものの箱を背負せおって町家ちょうかを廻る商人あきゅうどに化け
或敵打の話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
今日日きょうびは、花柳界もどきの、そんなふうな磨き道具を素人でも持つが、町家ちょうかの女房ではまずない図だった。
帽子を被らないのは当人の自由としても、羽織はおりなり着物なりについて判断したところ、どうしても中流以下の活計を営んでいる町家ちょうかの年寄としか受取れなかった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
行列の道筋にあたる武家ぶけ町家ちょうかでは、もう十三日から家の前に桟敷さじきをかまえ、白幕しらまくやら紫幕。
或者はべにくちびるに塗り或者は剃刀かみそりにて顔をりつつあり。遊女はおとがいの下に読みさしの書物をはさみつつその帯を前にて結び町家ちょうかの女は反対に両手をうしろまわして帯を引締めんとせり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
小僧たちの雷のようなわめきに迎えられて、この店へ入って来たのは切下げ髪に被布ひふ年増としま、ちょっと見れば大名か旗本の後家ごけのようで、よく見れば町家ちょうかの出らしい婀娜あだなところがあって
一度赤い風が吹くと、防火設備はあったにしても、マッチ箱を並べたような江戸の町家ちょうか——無分別にも建込みすぎた木造家屋は、ほとんど無抵抗に、無防禦に、際限もなく燃えて行ったのです。
殿の手がついて出来たのがお賤だと仰しゃったが、わたしも其の深見新左衞門の次男に生れ、小さい時に家は改易と成ったので町家ちょうかで育ったもの、腹は違えどたねは一つ
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ここはずっと町家ちょうかのない土塀どべい続きになっていますから、たとい昼でも人目を避けるには、一番御誂おあつらえの場所なのですが、甚内はわたしを見ても、格別驚いた気色けしきは見せず
報恩記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
鴛鴦おしどり鹿をかけたり、ゆいわた島田にいったり、高島田たかしまだだったり、赤い襟に、着ものには黒繻子くろじゅすをかけ、どんなよい着物でも、町家ちょうかだからまえかけをかけているのが多かった。
町家ちょうか内儀ないぎらしい丸髷まるまげの女がななやっツになる娘の手を引いて門のなか這入はいって行った。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
町家ちょうかを避けて山へ追い込み、そこで充分に仕遂しとげるつもりだな」
「四ツ目屋へ持ってきた伊太利珊瑚イタリヤさんご、あれは、どこからおめえ持ち出して来た。なみの屋敷や町家ちょうかの土蔵じゃあるまい。あれ程の品がある穴なら、まだまだ、存分、金目な品がずまっているはず、案内してくれというのはその穴だ」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
道の両側りょうがわはいつのまにか、ごみごみした町家ちょうかに変っている。塵埃ちりぼこりにまみれたかざり窓と広告のげた電柱と、——市と云う名前はついていても、都会らしい色彩はどこにも見えない。
十円札 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
槍を立って歩ける身の上、不幸にして腹にあるうち、母が石井の家へ帰りまして、わたくし町家ちょうかで生立ちまして、それゆえ貴方がお役で御出張になりましても、つい向う前に居りながら
むかしの無頼漢が町家ちょうかの店先に尻をまくって刺青ほりものを見せるのと同しである。
申訳 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
その次には、おそろしく衣裳いしょうを飾ってお化粧をした町家ちょうか年増としま
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
たかは二千五百石で一色宮内様と仰しゃる、血筋でございますけれども、此方こちら町家ちょうかに育ちましたから𢌞船問屋で名主役も勤めて居り、目通りは出来ますが、お兄様あにいさまという事も出来ず
丁度嘉永の六年に亜米利加船あめりかぶねが日本へ渡来をいたしてから、諸藩共に鎖国攘夷などという事を称え出し、そろ/\ごたつきはじめましたが、町家ちょうかではちっとも気が附かずに居ったことでござります。
闇夜の梅 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
山三郎は十一二の頃物心を知ってから己は二千五百石の一色宮内のたね、世が世なれば鎗一筋の立派な武士、運悪くして町家ちょうか生立おいたったが生涯町家の家は継がん、此の家は父親てゝおやの違う妹のお藤に譲って
重「これ/\其処そこに待って居れ、町家ちょうかを騒がしては済まぬから」
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)