爲方しかた)” の例文
新字:為方
「坊樣暗う御座いますよ」と言つたぎり、女と共に登つてしまつたから僕も爲方しかたなしに其後にいて暗い、狹い、急な梯子段を登つた。
少年の悲哀 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
けれども其の埒外らちぐわいゐつすることの出來ないのが運命うんめいなのだから爲方しかたがない、性格悲劇せいかくひげきといふ戯曲ぎきよく一種いつしゆがあるが、僕等が丁度てうど其だ。
虚弱 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
それならば爲方しかたがない。が、怪猫ばけねこ大袈裟おほげさだ。五月闇さつきやみに、ねこ屋根やねをつたはらないとはたれよう。……まどのぞかないとはかぎらない。
春着 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
二日も三日も汽船が出ないとなると爲方しかたがなしに人足を雇つてはその峠へかゝつてゆく女連をんなづれ子供連こどもづれの客が見かけられます。
然し唯それだけでは、あの革命的色彩に富んだ文學者の胸中を了解するに、何となく不十分に思はれて爲方しかたがなかつた。
硝子窓 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
出すひまの有べきや其方はなさけなき爲方しかたなり是には何か樣子やうすあらんといはれしかば粂之進くめのしん心中しんちういきどほり小身せうしんなりともそれがしも上の御扶持ごふち頂戴ちやうだいことに人の理非りひ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
こんなすぐれたうたが、しかも非常ひじようたふと方々かた/″\のおさくてゐるにかゝはらず、世間せけん流行りゆうこうは、爲方しかたのないもので、だん/\、わるほうへ/\とかたむきました。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
その誤解の爲方しかたが、餘りに眞正直らしい先生の性格から産み出された物であると考へた時、その激怒の表情を痛ましく思つたのは私ばかりではなかつたらう。
猫又先生 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
「あれは爲方しかたが無いよ。タンク見たやうな三田公や、名にし負ふ蟒を相手にしちやあ、とても堪らないよ。わいはお米さんと二人で、しんみり飮み度いんだ。」
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
幾ら贔屓ひいきだつたと云つたつて、死骸しがいまで持つて來るのはひどいと云つて、こちらからは掛け合つたが、色々談判した擧句あげくに、一旦いつたんいけてしまつたものなら爲方しかたが無いと云ふことになつたと
寿阿弥の手紙 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
其樣そんなになくたつて、逃げも隱れもしやしねえ。』と松公は何處迄どこまでも素直に出て、『眞實ほんとうに惡かつたよ。だけど、二三日體が惡くて、店へも出なかつたんだから、爲方しかたがねえぢやねえか。』
絶望 (旧字旧仮名) / 徳田秋声(著)
「ええ。爲方しかたがありません。私は貴方を助けなきやなりませんもの。これで私の心が分るでせう。之からまだ段々分つて來ます。さうしたら貴方は、かはいさうだと思つて下さるでせう。ねえ。」
計画 (旧字旧仮名) / 平出修(著)
凝如じつとしていても爲方しかたが無いので、バレツトも平筆ふでも、臺の上にほうツたらかしたまゝ、ふいとツてへやの内をあるき廻ツて見る。それでも氣は變らない。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
如何に機敏なる新聞も、唯敍上の事實と、及び彼等被檢擧者の平生に就いて多少の報道を爲す外に爲方しかたが無かつた。
所謂今度の事:林中の鳥 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
「顏を快活にしろつたつて、これは持前だから爲方しかたがない……」みんなは冷嘲的にわつと笑つた。
猫又先生 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
強制きようせいせられて爲方しかたなしやつてゐるのと、みづかすゝんでやつてゐるのとちがふわけであります。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
「今更如何どうと言つて爲方しかたがないじやアないか。」
少年の悲哀 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
「まあ坐らないか。騷々しくて爲方しかたが無い。」
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
致せば武士堅氣かたぎ無實の惡名あくみやうつけられてはと怒つてどんな間違にならうも知ねば明日あしたにても氣の落附おちついた其時に吾儕が徐々なんとかに云ますから何卒和君あなたからはお話なくハイ夫は承知しましたが餘りにく爲方しかたゆゑ明日に成たら親父に話して急度掛合にとあくまでこもる親切を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
これは當時に有つては、確かに進歩した批評の爲方しかたであつた。然し今日こんにちになつて見れば、其所謂識者の理解なるものも、決して徹底したもので有つたとは思へない。
所謂今度の事:林中の鳥 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
其樣そんうそくもんぢやない。お祖樣ぢいさんは能く知ツてゐるぞ。其の螢籠はんだ、」失敗しまツた! 自分は螢籠を片手にぶらさげてゐた。うなツてはもう爲方しかたが無い。
水郷 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
このひとは、さういふうたむことが上手じようずだつたけれども、本式ほんしき文學ぶんがくらしいものをつくることは、ほとんど出來できませんでした。さうしてると、やはり下手へたといふより爲方しかたがありません。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
爲方しかたがないから、御酒ごしゆむしを耐へてゐたのが、何時かんとののむべいになつて了ツたんですけれども、そりや誰だつて好んでのむべいになる者アありやしませんよ。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
其の道の技師を一人ひとり雇ふでもないヤワな爲方しかたで、素人の釀造法は第一回目からして腐ツて了ツた。それで叔父も財産を煙にして了へば、綾さんの父もいきついて、會社は解散。
昔の女 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
爲方しかたがないから、ギリ/\齒噛をしながらも、つよい心でおツこらへてゐる。其れがまたつらい。其の辛いのを耐へて、無理に製作をつゞける。がて眼が血走ちはしツて來、心が惑亂わくらんする。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
あまりの事と學生は振返ツた……其のはなつらへ、風をあふツて、ドアーがパタンとしまる……響は高く其處らへ響渡ツた。學生は唇を噛みこぶしを握ツて口惜しがツたが爲方しかたが無い。悄々しを/\と仲間の後を追ツた。
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
何處どこかの森でふくろの啼いてゐる。それが谷間に反響して、恰どやまびこのやうにきこえる。さて立ツてゐても爲方しかたが無いから、あとへ引返す積りで、ぼつ/\あるき始めたが方角とてもしかと解ツてゐなかツた。
水郷 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
「何うするツて、壽命なら爲方しかたがないではないかノ。」
昔の女 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
「それぢや爲方しかたが無いぢやありませんか。」
青い顔 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
眞個まつたく爲方しかたが無いのさ。」
青い顔 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)