煙草屋たばこや)” の例文
さかうへ煙草屋たばこやにて北八きたはちたしところのパイレートをあがなふ。勿論もちろん身錢みぜになり。舶來はくらい煙草たばこ此邊このへんにはいまれあり。たゞしめつてあじはひならず。
弥次行 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
煙草屋たばこやへ二町、湯屋へ三町、行きつけの床屋とこやへも五六町はあって、どこへ用達ようたしに出かけるにも坂をのぼったりくだったりしなければならない。
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ねがはれ何卒なにとぞわたく御役御免下ごめんくださるべしといはれしかば何故退役たいやくねがはるゝやと申さるゝに大岡殿此度このたび煙草屋たばこや喜八裁許さいきよちがとがなき者を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
蒲鉾屋かまぼこやの新公や、下駄屋の幸次郎や、あの連中は今でも仲よく連れだって、煙草屋たばこやの柿内の二階で毎日々々芝居ごっこをして居るだろうか。
母を恋うる記 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
角の煙草屋たばこやの老婆が、姿を見て、薬研やげんの側からあいさつした。賛五郎は水府すいふのたまを一つ求めながら、軽い言葉でいてみた。
死んだ千鳥 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お関という女が録之助という車夫くるまやになっている、幼馴染おさななじみの煙草屋たばこやの息子と出会すところがあるでしょう、ちょっとあれみたようなものです。
雪の日 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
いまいましいことだが、結局、いつものように近くの煙草屋たばこやまで行き、ソバ屋にでも電話しなければ食事にはありつけない。
待っている女 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
煙草屋たばこやかどったまま、つめうわさをしていたまつろうは、あわてて八五ろうくばせをすると、暖簾のれんのかげにいた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
だが、その頃から叔父はもう小さな破戒僧はかいそうだったのだ。叔父は学院に通いながらある煙草屋たばこやの娘を追っかけまわしていた。
神田小川町おがわまちの通にも私が一橋ひとつばしの中学校へ通う頃には大きな銀杏が煙草屋たばこやの屋根をつらぬいて電信柱よりも高くそびえていた。
とにかく記事を読んでみようと思い、お座敷の帰りに、角の煙草屋たばこやで朝日を買い、今朝の新聞があるかと訊いてみた。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
某日あるひお岩が庖厨かっての庭にいると、煙草屋たばこや茂助もすけと云う刻み煙草を売る男が入って来た。この茂助はお岩の家へも商いに来ていたのでお岩とも親しかった。
四谷怪談 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
つり橋のたもとの煙草屋たばこやを見つけて絵はがきと切手を買う。三銭切手二十枚を七十五銭に売るから妙だと思って聞くと「コンミッシォン」だと言った。
旅日記から (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
白地の浴衣ゆかたがぞろぞろと通る。煙草屋たばこやの前に若い細君が出ている。氷屋の暖簾のれんが涼しそうに夕風になびく。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
帰ったのか、下駄箱へしまわしたのか、または気をかして隠したのか、彼にはまるで見当けんとうがつかなかった。表へ出るや否や、どういう料簡りょうけんか彼はすぐ一軒の煙草屋たばこやへ飛び込んだ。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
なか何事なにごと不思議ふしぎなり、「おい、ちよいと煙草屋たばこやむすめはアノ眼色めつき不思議ふしぎぢやあないか。」とふはべつツあるといふ意味いみにあらず
神楽坂七不思議 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
目ざまし草の胴乱どうらんをかけた煙草屋たばこやていの男、しらみ絞りで顔をくるんだ男、或いは物売り或いは旅人、そうした者に、四、五町ごとに出逢います。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
役員や待合の若い子息むすこに、耳鼻咽喉いんこうの医師、煙草屋たばこやの二男に酒屋の主人など、予備の中年者も多かった。地廻りの不良も召集され、運転士も幾人か出て行った。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
店のものにもかならず顔を見知られているにちがいないと、俄にまゆ深く帽子のつばを引下げ、急いで通りすぎると、その先の駄菓子屋と煙草屋たばこやの店もまだ戸をしめずにいたが
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
かけける處に町内の自身番屋じしんばんやへ火附盜賊改役奧田主膳殿組下與力笠原粂之進は同心を引連ひきつれきたりて平兵衞を呼び其方そのはう店子たなこ煙草屋たばこや喜八事御用のすじあるより案内あんない致せとて平兵衞を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
はじかれた煎豆いりまめのように、雨戸あまどそとしたまつろうは、いも一てて、一寸先すんさきえなかったが、それでも溝板どぶいたうえけだして、かど煙草屋たばこやまえまでると
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
その便所には窓があって、そこからまっすぐに煙草屋たばこやのある四辻よつつじがながめられる。
待っている女 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
煙草屋たばこや、うどん屋、医師いしゃの大きな玄関、へいの上にそびえている形のおもしろい松、吹井ふきいが清い水をふいている豪家の前を向こうに出ると、草のえたみぞがあって、白いペンキのはげた門に
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
鉄槌てっついでがんと脳天をやられたような気持で、煙草屋たばこやを出たのだったが、どうしても本家へ帰る顔がなく、二丁ばかりある道を夢中で歩いて、河縁へ出て来たのだった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
直き町の角の煙草屋たばこやも見たし、絵葉がき屋ものぞいたが、どうもその類のものが見当らない。
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さて坂を下りつくすと両側に居並ぶ駄菓子屋荒物屋煙草屋たばこや八百屋やおや薪屋まきやなぞいずれも見すぼらしい小売店こうりみせの間に米屋と醤油屋だけは、柱の太い昔風の家構いえがまえが何となく憎々しく見え
監獄署の裏 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「……煙草屋たばこやの前に、だれかいなかったか?」
待っている女 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
道をきくべき酒屋も煙草屋たばこやもないので、迷い迷ってつい守阪かみざか中途ちゅうとに出てしまった。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)