溌溂はつらつ)” の例文
津留はこういうときまず舌に湿りをくれて精気溌溂はつらつとして、巧みにこわいろを使い分けながら極めて能弁に連打をあびせるのである。
思い違い物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
カリフォルニヤの明るい空の下で、溌溂はつらつと動いている少女の姿が、世界じゅうの無数のスクリンの上で、果物と太陽の香りを発散した。
(新字新仮名) / 池谷信三郎(著)
それがすべての人々のひそかな願いであり志望であって、もっとも元気溌溂はつらつたる人々や実際の政治を支配してる人々でさえそうだった。
建築を通して見た古い昔の民族の素朴な魂と単純な感情に、極めて雄渾ゆうこん溌溂はつらつとした生命があふれてゐるのに、彼は精神をとりこにされてしまつた。
夏の夜の夢 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
湖は日に輝きながら、溌溂はつらつとその言葉に応じた。彼は——そのなぎさにひれ伏している、小さな一人の人間は、代る代る泣いたり笑ったりしていた。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
意気溌溂はつらつたる青年は、その意気の溌溂を、どこに行ってもハケ口を見出すことができないから、滔々とうとうとして不良にちるよりほかに行く道がない。
みんな防寒用の外套がいとうを着て、重々しい歩調だった。………低い声で、平常かねて……などにみるあンな軽い溌溂はつらつさのないのが、スクむような感じだった。
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
由来、日本の文学者は描写がすぐれていないと私は思っている。徳川末期文学には溌溂はつらつたる描写がことに欠けている。
武州公秘話:02 跋 (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
由来、日本の文学者は描写がすぐれていないと私は思っている。徳川末期文学には溌溂はつらつたる描写がことに欠けている。
自分は何となく少しテレた。けれども先輩達は長閑気のんきに元気に溌溂はつらつと笑い興じて、田舎道いなかみちを市川の方へあるいた。
野道 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
家財なぞしらんと——だが深川の商取引の活溌かっぱつさは昔どころではなく、溌溂はつらつとして大きな機運が動いていた。
旧聞日本橋:08 木魚の顔 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
さかさに銀河を崩すに似ている飛泉に、碧澗から白刃はくじんなげうつように溌溂はつらつとして躍り狂うのであるから、鱒魚の豊富な年ほどそれだけ一層の壮観であるそうである
平ヶ岳登攀記 (新字新仮名) / 高頭仁兵衛(著)
山の中とはことかわり、溌溂はつらつたる陽春の気は野に丘に満ち、快い微風は戦士等のやつれた頬を撫でて居る。
小田原陣 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
老衰せる脳細胞は、若き溌溂はつらつたる脳細胞に植継うえつぎて、画期的なる若返りが遂げられる。かかる場合、知能的には低き脳細胞へ移植を行うことが手術上比較的容易である”
大脳手術 (新字新仮名) / 海野十三(著)
地精コボルトふだ——今や事件の終局が、その一点にかけられている。もし、法水の推断が真実であるならば、あの溌溂はつらつたる娘は、ファウスト博士に擬せられなければならない。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
少くとも、そういう実際の社会生活上の問題を云々うんぬんしない事を以て、忠実なる文芸家、溌溂はつらつたる近代人の面目であるというように見せている、或いは見ている人はないか。
性急な思想 (新字新仮名) / 石川啄木(著)
また活きてゐる間溌溂はつらつたる意氣に日毎酒をあふツて喧嘩を賣𢌞ツた元氣な勞働者もあツたらうし
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
トルストイは「自己を改善するという事が人生の最も優れた行為だ」といった。我我日本婦人は特に急いで自己を賢くし、鋭敏にし、溌溂はつらつたる「一人」にする事が必要である。
婦人と思想 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
葡萄大谷ぶどうおおやの別天地は生気溌溂はつらつたる緑葉に埋もれ、人々は甦生そせいの力に溢れ、あるいは鉱山の発掘に、または武術の鍛練に、勤むべきが普通つねであったのに、今年はそれが不可能できなかった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
この場合において最も必要なるは、史家の心生活に溌溂はつらつたる生気があり、その感受性の鋭敏なることであって、この点では、史家の資質には詩人のそれに同じきものが要求せられる。
歴史の矛盾性 (新字新仮名) / 津田左右吉(著)
舟から樽が、太股が、まぐろたいと鰹が海の色に輝きながら溌溂はつらつと上って来た。突如として漁場は、時ならぬ暁のように光り出した。毛の生えた太股は、魚の波の中を右往左往に屈折した。
花園の思想 (新字新仮名) / 横光利一(著)
あらたに十数名の若い会員を加えたので、例の会議室の真珠色の光の中に集まった会員の空気は、思いも寄らぬ溌溂はつらつさがあり、それは青春の匂いさえも感じさせる生々いきいきしたものだったのです。
彼のあつめてきた壺には、不思議とボーモンのそれのような溌溂はつらつとした生気と品位とがないのである。ボーモンの壺は、おそらく特定のだれかが、心をこめてつくったものに違いなかった。
蒐集 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
人間の運動が東京よりも溌溂はつらつと自分の眼を射るように思われたり、家並いえなみが締りのない東京より整って好ましいように見えたり、河が幾筋もあってその河には静かな水が豊かに流れていたり
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
うまつたか、身軽みがるになつて、ちひさなつゝみかたにかけて、に一こひの、うろこ金色こんじきなる、溌溂はつらつとしてうごきさうな、あたらしいそのたけじやくばかりなのを、あぎとわらとほして、ぶらりとげてた。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ずっと溌溂はつらつでおもしろいという話ですから、その点から申しますと、存外将軍さまもすみにおけないお見巧者であったことになりますが、いずれにしてもその日お呼び出しにあずかった者どもは
我輩はそれから藩の先輩たる枝吉杢助えだよしもくのすけについて国典を習った。この人は副島種臣そえじまたねおみの兄であって、藩中では最も目のあいていた人である。その言うところ、尊王論、国体論は生気溌溂はつらつたるものであった。
青年の天下 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
私の方は父ゆずりで溌溂はつらつとしているがしんがもろい(生理的に)。
うを幾千いくせん溌溂はつらつ
全都覚醒賦 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
俗間の大祭典の溌溂はつらつたる伝統、剛健な古木に働きかける春の精気など——すべて、時としては野生の堅いなしのように人の舌を刺すものであり
さっぱりと眼が覚めて、初秋の未明の爽やかさが身に浸み入るようだ、云いようのないちからが体じゅうにみなぎり満ちて、気持も常になく溌溂はつらつとしている。
恋の伝七郎 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
あの貸本屋はとうの昔に影も形も失つたであらう。が、岩見重太郎は今日もなほ僕の中に溌溂はつらつと命を保つてゐる。いつも人生の十字街頭に悠々と扇を使ひながら。
僻見 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
しからば白丘ダリア嬢はどうだ。「赤外線男」というからには、ダリア嬢では性別が違っている。男が女装しているものとはあの溌溂はつらつたる肉体美から云って信じられない。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
で、腕の血色けつしよくを見ても、にごりれて、若い血が溌溂はつらつとしてをどツてゐるかと思はれる。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
国語教育は、どうしてそれらの最も進歩した現代の溌溂はつらつたる国語と協力する所がないのでしょうか。私は現代の進歩した国語と離れて存在し得べき真の国語教育はなかろうと考えます。
黒くて柔らかい土塊つちを破って青い小麦の芽は三寸あまりも伸びていた。一団、一団となって青い房のように、麦の芽は、野づらをわたる寒風さむかぜのなかに、溌溂はつらつと春さきの気品を見せていた。
麦の芽 (新字新仮名) / 徳永直(著)
いま先方さきがた門野を呼んでくくり枕を取り寄せて、午寐ひるねむさぼった時は、あまりに溌溂はつらつたる宇宙の刺激に堪えなくなった頭を、出来るならば、あおい色の付いた、深い水の中に沈めたい位に思った。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
江戸ッ子はだしの啖呵たんかを切るし、兇悪性無類の放浪児とばかり踏んでいたが、その啖呵をきいていると、正義観念が溌溂はつらつとしてひらめくことに、源松の頭も打たれざるを得なかったが、調べの途中から
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その感覚の清新さは、小川のように清澄溌溂はつらつとして、ほとんど純潔の感を与え、何物にも妨げられることがなかった。
姉の千賀がはらはらして「津留さん」と云い、母親も「津留さん」と制止したが、この溌溂はつらつたる妹娘はいさい構わず、「それでもあなたには御兄弟の情がおありなのですか」
思い違い物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
三 益軒の知らぬ新時代の精神は年少の書生の放論の中にも如何に溌溂はつらつと鼓動していたか!
侏儒の言葉 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
溌溂はつらつたる令嬢、やさしい若奥様、四、五人づれでしゃべってゆく女学生、どこかで逢ったことのある女給、急ぎ足のダンサーなどと、どっちを向いても薔薇ばらの花園に踏みこんでいるような気がした。
流線間諜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
溌溂はつらつかへらせる風。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
好男子で、好人物で、溌溂はつらつたる健康をもち、愛嬌あいきょうがあって、真理を、全真理を、自分が握ってるという意識から生ずる、泰然自若たる平静さをそなえていた。
が、二人の友だちに比べると、顔も一番美しければ、容子ようすもすぐれて溌溂はつらつとしていた。さっき竹籠を投げ捨てながら、危く鳩を捕えようとしたのも、この利発りはつらしい娘に違いなかった。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
この友は益々公私共に溌溂はつらつ活躍中。
海野十三敗戦日記 (新字新仮名) / 海野十三(著)
見よ、溌溂はつらつたる素朴と
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
彼の温情的な遠慮なさ、元気溌溂はつらつたる奇抜さ、非常な食欲、のども動かさずに酒を飲み込む早さなどは、アルセーヌ・ガマーシュに不快を与えるはずはなかった。
糸の先には山目やまめ一尾いちび溌溂はつらつと銀のようにおどっていた。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
元気溌溂はつらつたる少数者は——すべての少数者は——腕力に訴えていた。滑稽こっけいではあるがしかも必然的な接近が、フランス行動派の王党員らと労働総組合の産業革命主義者らとの間になされていた。