沙汰ざた)” の例文
東京の第×区から立候補しそうな取り沙汰ざたがあったのが、いつのまにかうやむやのうちに沙汰やみとなったことをおぼえているだろう。
私はかうして死んだ! (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
他人からみれば気ちがい沙汰ざたとしか思われない、お気の毒に、お勤めも不首尾になって、主家を浪人され、ひどく貧乏したらしいね
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
巴里パリイ唯一の芸術新聞コメデイアの記者で常に直截鋭利な議論を書く有名な若手の劇評家エミイル・マス君との間に決闘沙汰ざた持上もちあがつて
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
内乱を煽動せんどうする記事を毎日掲げていた。実を言えば、それもただ言葉の上のことだけで、実際の腕力沙汰ざたになることはめったになかった。
重々しく落ち着いた人格で、尊い親王がた、大臣家から令嬢との縁談を申し込まれても承知しないという取り沙汰ざたを聞いても
源氏物語:46 竹河 (新字新仮名) / 紫式部(著)
廷珸も人命沙汰ざたになったので土地にはいられないから、出発して跡を杭州こうしゅうにくらました。周丹泉の造った模品はこれで土に返った訳である。
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
上皇の、この御一言に、うるさがたの公卿沙汰ざたも、一応は、退きさがったが、しかし陰性は、そく公卿性である。決して、んだわけではない。
「なんでえ! また色沙汰ざたか。おいらがひとり者だと思って、意地わるくまたおのろけ騒動ばかし起こしゃがらあ。相手の女はどこのだれだよ」
それがため他人の嫁入沙汰ざたを聞いても他人は他人、自分は自分の運命があるという風に思って、結婚などをする自分ではないと堅く信じていた。
私の貞操観 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
こうした喧嘩沙汰ざたはこの時代に珍しくないとはいいながら、自分の店先で無遠慮に刃物を振りひらめかされては迷惑である。
番町皿屋敷 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「焼餅だんが。———阿呆らしい、ねこ可愛かわいがり過ぎる云うて焼餅やくもん、何処どこの国にあるか知らん、気違い沙汰ざたや。」
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
その一例は、横浜桜木町の幽霊沙汰ざたである。今より十四年前夏ごろの出来事にて、諸新聞に報道せる大要は左のとおり。
おばけの正体 (新字新仮名) / 井上円了(著)
つい先ごろはまた、彼らの幾人かが石ノ巻にはしったとも取り沙汰ざたされていた。そこに置かれた新政府の鎮台に、求めに応じて兵士となるためであった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
何分にも奴にむかって芸人の浮気沙汰ざたとして許すが、不義の快楽けらくは厳しくいましめたほどの亀吉、そうした話を聴くと汚ないものに触れたように怒った。
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
まだまだ命のある限り馬鹿ばかの限りを尽すだろうが、ひょっとするとこの世で一番長もちのするものが、あの男の乱行沙汰ざたの中から生れ出るかも知れん。……
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
御念仏をも人の聞かぬように御申しある人なりと、常々京都の取り沙汰ざたにてはべるよし、一定いちじょう誠に思いいらせたまえる後世者ごせしゃにてわたらせおわしますよな
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
その人たちはこの物語を気違い沙汰ざただと思って、極力彼女の名声をくじこうとするとともに、一方には狼狽してその物語を一笑にふしてしまおうと努めている。
その附近に屡々強盗沙汰ざたがあったものだから、護身の意味で弾丸まで込めて、机の上に置いていたのである。
灰神楽 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
同情三分にからかい七分の気もちできいてみたのだが……世上の取り沙汰ざたとちがって、今その壺は、チャンとこの柳生の手におさまっている——という返事。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
彼の父は流石さすが狼狽ろうばいしていた。彼は警察へ訴える事を主張した。しかし警察沙汰ざたになっては何にもならない。
急行十三時間 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
徳川幕府あって以来いまだかつて聞いたこともないような、公儀の御金蔵おかねぐらがすでにからっぽになっているという内々ないないの取り沙汰ざたなぞが、その時、胸に浮かんだ。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
婚礼沙汰ざたが初まってから、毎日のように来ては養父母と内密ないしょはなしをしていた青柳は、その当日も手隙てすきを見てはやって来て、床の間に古風な島台を飾りつけたり
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ここで我れが幸福しやわせといふを考へれば、帰国するに先だちておさく頓死とんしするといふ様なことにならば、一人娘のことゆゑ父親てておやおどろいて暫時しばしは家督沙汰ざたやめになるべく
ゆく雲 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
あながち自己に奉ずるの念、薄きところからきたものとのみは、解し難い。むしろ御性格中に、守銭奴的な、黄金マニヤ的なものがあるのではなかろうか? と、取り沙汰ざたされている。
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
結婚沙汰ざたみてより、妾は一層学芸に心をめ、学校の助教を辞して私塾を設立し、親切懇到こんとうに教授しければ、さらぬだに祖先より代々よよ教導を以て任としきたれるわがいえの名は
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
「いや、仲々大金だからなア……。ひよいとしたら、警察沙汰ざたにしないとも限らんぜ」
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
中山両卿へ内申に及び候処忠至参殿の上とくと御様子見上げ参るべき様にとの御内おんうち沙汰ざたかうむり、右薫と申談じ、同人同道一条殿へ参殿の上御姉妹へ拝謁、御次女の御方御様子復命に及びたり。
津下四郎左衛門 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
一体、浅草は余り火事沙汰ざたのない所ゆえ、土蔵など数えるほどしかなかった。それに安政の大地震おおじしんの際、土蔵というものが余り役に立たなかったことを経験しているので、一層数が少なかった。
かようなつむりを致しまして、あてこともない、化物沙汰ざたを申上げまするばかりか、譫言うわごとの薬にもなりませんというは、誠に早やもっての外でござりますが、自慢にも何にもなりません、生得しょうとく大の臆病で
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「あなたは裁判沙汰ざたのことはたいしてご存じじゃありませんね」
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
こんな平和な、安穏な環境に生きている自分に、一体警察沙汰ざたになるような事件の渦中に巻きこまれる可能性があるだろうか?
犠牲者 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
どうしても遊戯じゃない。金吾もそうだ、あの男こそ分けても遊戯沙汰ざたじゃあるまい、一個の仮面めんのために、生々しい苦しみをしているだろう
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
利己的な結婚沙汰ざたさえなければ、おりおり不愉快なことはありましてもまずまず平和なうちに今までどおりあなた様もおいでになれたのですがね
源氏物語:52 東屋 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「そうら、」と彼女は言った、「こんどはまた別な狂気沙汰ざたになってきた!……だがそうならなければならないんなら、まだこんどの方がよい。」
なにか不吉のことが二、三度続くと、たちまち妖怪騒ぎ、迷信沙汰ざたを起こすのは、やはり論理力の薄弱なるためである。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
まだまだ命のある限り馬鹿ばかの限りを尽すだらうが、ひよつとするとこの世で一番長もちのするものが、あの男の乱行沙汰ざたの中から生れ出るかも知れん。……
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
殺人、盗賊、駈落かけおち、男女の情死、諸役人の腐敗沙汰ざたなぞは、この街道でめずらしいことではなくなった。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「なんぼ女同士やかて昼日中ひるひなか若い女が裸になったりして、お前らまるで気違い沙汰ざたやな。」「うちあんたのようにコンヴェンションにとらわれてえへんよってなあ。 ...
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
両君が決闘するに到る迄の経過は以上の如くであるが、決闘沙汰ざたの伝はるに従つて周囲の騒ぎが大きくなり、れに対する名士の批評が多く新聞紙上に発表された。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
一体まあ、これは何という気違い沙汰ざたでありましょう。そうしたことに慣れぬ私は身も知らぬ相手と、暗闇の中で踊り狂っている自分が、ふと空恐しくなるのでした。
覆面の舞踏者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
只今ただいまの我国の有様ではとても筆や楽器は鉄砲にかないませんから、素直に鉄砲に屈従して離婚沙汰ざたなどには立至らずに納まりそうなものでしたが、どういうものでしょうか。
離婚について (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
棄て置けば狐狸こり棲処すみか、さもないまでも乞食の宿、焚火たきびの火沙汰ざたも不用心、給金出しても人は住まず、持余しものになるのを見済まし、立腐れの柱を根こぎに、瓦屋根を踏倒して、股倉またぐら掻込かいこむ算段
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さへてりとくにむすめためにもためにも行末ゆくすゑわろき縁組えんぐみならずとより/\の相談さうだんれきくはらだゝしさ縱令たとひ身分みぶんむかしとほりならずとも現在げんざいゆるせし良人をつとあるいまはしき嫁入よめいり沙汰ざたきくもいやなりおもてにかざる仁者顏じんしやがほ
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
江戸中の職人衆のとり沙汰ざたでございますよ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「いや! 谷の者らが、専ら取り沙汰ざたするところによると、座主の僧正には、少納言に対して、依怙えこを持たれると承る」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこに、戦争に酔ってるドイツ帝国主義の傲慢ごうまんな狂気沙汰ざたが認められ、また、ドイツの為政家らが他民族をまったく理解し得ないことが認められた。
世間の取り沙汰ざたを恐れてお帰りになって以来、容易にお通いになれずお手紙だけを日ごとに幾通もお送りになった。
源氏物語:49 総角 (新字新仮名) / 紫式部(著)
もしそのままに捨て置き、翌日動かぬようになって見たならば、蛇はすでに逃げ出しておらぬから、必ず化け物沙汰ざたになるであろうと、校長当人の直話じきわ
おばけの正体 (新字新仮名) / 井上円了(著)
カ君は社長とも決闘沙汰ざたに訴へざるを得ない形勢になつた。其処そこへマス君との決闘の日が来た。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
とにかく普通の離婚沙汰ざただけのものでなかつたことは娘ごころにも察しがつきました。
死児変相 (新字旧仮名) / 神西清(著)