かや)” の例文
そして谷川の南の、まつ黒なかやの木の森の方へ、あたらしいちひさなみちがついてゐました。一郎はそのみちをのぼつて行きました。
どんぐりと山猫 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
銀杏いちょうかやの数を隠して、相手に当てさせるにも同じ言葉を唱え、または手を組み、輪になって、中央に一人の児をしゃがませ
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
さア腹が減ってたまりませぬ、ふと心付いて見ると、毎日熊が持って来ましたのは胡桃くるみの実やらかやの実やら、乃至ないし芋のような物であります。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
参詣さんけいが果てると雑煮を祝って、すぐにお正月が来るのであったが、これはいつまでも大晦日おおみそかで、餅どころか、たもとに、煎餅せんべいも、かやの実もない。
瓜の涙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
杖により、壁にもたれて、じゃくとしているその人は、寝ているのか、起きているのか分らない。白い行衣ぎょうえすそを、かやの煙がうすくって——。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
福包み(かや勝栗かちぐりなどを紙に包んで水引みずひきを掛けて包んだもの、延命袋えんめいぶくろのようなもの)などを附けてかど飾りにしたものです。
だんなが知恵をひねり出すときにゃ碁を打つことを日本じゅうのみなさんがもうご存じとみえて、このとおりかやの碁盤が備えつけてありますぜ。
われわれがおぼえてからでも、くすのきかやの木片が蚊遣用として荒物屋に並んでいた外に、普通の木屑なども盛に用いられた。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
そのうちにお腹がきますと、ちょうど秋の事で、方々に栗だの柿だのしいだのかやだのいろんな木の実がっております。
豚吉とヒョロ子 (新字新仮名) / 夢野久作三鳥山人(著)
四、五間かなたに生えているかやの木の向うに、伐られたその枝が、うず高く積まれているのを見出した。榧の木の下を潜って、彼が向う側へ出た時である。
仇討三態 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
その井桁に腰をかけて、暫くあたりを眺めてゐると、やがて向ふのかやか何かの繁みのかげから、黒い人影が一つあらはれて、ゆつくりと小径を歩いてゆく。
灰色の眼の女 (新字旧仮名) / 神西清(著)
かやや楓、車輪梅などの植えこまれた庭は古びていて、あたりは市内と思われない閑寂さだった。竹垣のそとで、江田がホースを使っている水の音がきこえた。
二つの庭 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
庭にはまきかやあいだに、木蘭もくれんが花を開いている。木蘭はなぜか日の当る南へ折角せっかくの花を向けないらしい。が、辛夷こぶしは似ている癖に、きっと南へ花を向けている。
保吉の手帳から (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
或る日、一人の若者が、王宮の門前のかやほこだちを見ると、疲れ切った体をその中へ馳け込ませてひとり叫んだ。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
でも心は汚れてはゐなかつたので、かやの実の一つや、落花生ぢまめの二つを、良寛さんの鉢の中へ入れてくれた。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
あのときあのように云ったにしては、かくべつ機嫌を悪くしたようにもみえず、却って持って来て呉れる物のなかに卵や胡麻やかやの実などが殖えたくらいである。
柳橋物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
寒々さむざむと揺れてゐるものは、孟宗のほづえ、ささ栗のそばのかやの木、枯枝の桐の莟、墓原のかうのけむり。
観相の秋 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
私はそこに屈んで窓硝子についた放射状のひびや、ぢきそばにあるかやの木や、朽木にからんだ美男葛、美男葛の赤い蔓、蔓のさきに汁をすふ油虫などを眺めてゐた。
銀の匙 (新字旧仮名) / 中勘助(著)
白米三斗九升が一分、秩父絹二疋で二朱と四百文、駕籠かご賃(飯田台から赤羽橋まで)七十四文、大まぐろ片身二百二十四文、かやの油五合が二十四文、白砂糖半斤五十二文
酒渇記 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
「アイ妾は一人娘さ、大事な子だということだよ、とっちゃんの名は彦兵衛さ、母ちゃんの名はおかやてんだ、浜路姉さんはいい人で、そりゃあ本当に可愛がってくれるよ」
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
奥庭には、松やかや木檞もっこくや、柏もゆずの木も、梅も山吹も海棠もあって、風に桜の花片は飛んで来ることはあっても、外通りは堅気一色な、花の木などない大問屋町であった。
さう云ひながら一寸横目で自分の膝のわきに据ゑたずつしりと厚味のあるかやの碁盤を眺めた。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
なにしろ其の頃の花魁おいらんですからね。その碁盤もわたくしは見ましたが、頗る立派なものでした。木地きじかやだそうですが、四方は黒の蝋色で、それに桜と紅葉を金蒔絵にしてある。
半七捕物帳:67 薄雲の碁盤 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
かやの実 ろた
蛍の灯台 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
そして谷川の南の、まっ黒なかやの木の森の方へ、あたらしいちいさなみちがついていました。一郎はそのみちをのぼって行きました。
どんぐりと山猫 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「番士。……蚊遣かやりが絶えた。またかや木屑きくずでもいてくれんか。生きているとは厄介なもの。この蚊攻めにもホトホトまいる」
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かやしぶわびし。子供こどものふだんには、大抵たいてい柑子かうじなり。蜜柑みかんたつとし。輪切わぎりにしてはちものの料理れうりにつけはせる。淺草海苔あさくさのりを一まいづゝる。
寸情風土記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
銀杏いちょうかやの実などの数をあてる女の子の遊びにこの語を用い、なかには「なかなか小坊主こぼうず」と同じく、手をつないで輪になって中央にうずくまった
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
井上氏の庭は数千坪の見事なもので、廊下でつながった別棟の数軒に囲まれた広い庭の中央に、大きな池があり、根元から五つに岐れたかやの大木が枝を張っている。
かやの木にかやの実のり、榧の実はれてこぼれぬ。こぼれたる拾ひて見れば、露じもに凍てし榧の実、とがり実のかな銃弾つつだま、みどり児がつむりにも似つ、わが抱ける子の。
風隠集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
客間の庭には松や梅、美しい馬酔木あせびかや木賊とくさなど茂って、飛石のところには羊歯が生えていた。
雨と子供 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
「米一粒でもよい、かやの実一つでもよい。たべる物をくだされ! たべるものをくだされ!」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
木の実かやの実を拾いながらヤットのことで、念がけていた人跡未踏の山奥に到着しますと、私は辛苦艱難をして持って来た鍬と、ナイフで木をり倒して、頑丈な掘立て小舎を造り
キチガイ地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「妹をお助けください、妹も彼らに斬られます、どうぞ早く、かや寺の榧の木……」
武道宵節句 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
本陣は 木曾のほうでは楢の実を豆にまぜて味噌をつくる とか 山奥へゆけばかや、はしばみ、ぶなの実もたべる などと話しながら先にたってゆく。南の崖に一株のけんぼ梨がある。
島守 (新字新仮名) / 中勘助(著)
新しい僕の家の庭には冬青もちかや木斛もっこく、かくれみの、臘梅ろうばい、八つ手、五葉の松などが植わっていた。僕はそれらの木の中でも特に一本の臘梅を愛した。が、五葉の松だけは何か無気味でならなかった。
追憶 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
かやの木に
沙上の夢 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
しばらくすると、枯れ杉とかやの枝をつかんで戻ってきた。そして、所を見計らって、そのかやの木をプスプスといぶしはじめる。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
真山の方では光飯廃寺のもとの庭に、中興大師のお手えと称するかやの大樹が、依然としておおいに茂り栄えている。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ブドリたちのおとうさんのお墓が森のいちばんはずれの大きなかやの木の下にあるということを教えて行きました。
グスコーブドリの伝記 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
自動車を捨てた一同は湖の方へ歩くと、一見かやの樹かと見まがう松の間を通り、ボートに乗った。
旅愁 (新字新仮名) / 横光利一(著)
伝肇寺でんでうじさき古寺、此寺の山の墓場に、かやと栗並び立ちたり。並び立ちともに老いたり。榧の木は栗の木のそば、栗の木は榧のかたへにさびさびて、すでに老いたり。
莫迦ばかを云わっしゃい、彦兵衛さん。おかやさんやお六さんをどうする気だね」
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
もうひとつ、数多い修業者のなかにはときに、太刀筋たちすじを教えてくれ、とせがむ者がある。そういう者が来たときのために、といって、前庭のおおきなかやの樹の枝に、飯篠老人は一本の木剣をった。
似而非物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
小児二 そうすりゃこのお菓子なんか、うちへ帰ると、かやや勝栗だ。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
庭の八ツ手の木の下に一本かやがありました。
かや柾目まさめばんが三面、行儀よくならんでいた。床の間へ寄った一面は空いていて、紫ちりめんの座ぶとんだけがある。那智石なちいしの白へ手を突っ込んで
魚紋 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
伝肇寺でんでうじさき古寺ふるてら、この寺の山の墓場にかやと栗並び立ちたり。並びたちともに老いたり。榧の木は栗の木のそば、栗の木は榧のかたへに、さびさびてすでに老いたり。
観相の秋 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
二人が二本のかやの木のアーチになった下をくぐったら不思議な音はもう切れ切れじゃなくなった。
黄いろのトマト (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
家でも正月だけは集まってこれを食べたと見えて、干柿ほしがきかや搗栗かちぐりというような、今はお菓子といわない昔の菓子が、三方折敷さんぼうおしきの上に鏡餅かがみもちと共にかならず積みあげられる。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)