枝折戸しおりど)” の例文
かたつかんで、ぐいとった。そので、かおさかさにでた八五ろうは、もう一おびって、藤吉とうきち枝折戸しおりどうちきずりんだ。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
「表の戸締りが開いていたのだ。かんぬきがかかっていなかったのだ、そして、そこから、庭へ通ずる枝折戸しおりどには錠前がないのだ」
疑惑 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
先生がその肩のそびえた、懐手のまま、片手で不精らしくとんとんと枝折戸しおりどを叩くと、ばたばたと跫音あしおと聞えて、縁の雨戸が細目に開いた。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
庭の飛石とびいし下駄げたの音がした。平三郎は何人たれであろうと思いながら、やはり本を読んでいた。枝折戸しおりど掛金かけがねをはずす音が聞えた。
水面に浮んだ女 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
脚拵あしごしらえも厳重に編笠を深くいただいて枝折戸しおりどをあけて野路へ出た。才蔵もそこまで送って行きそこでまたもや会釈えしゃくをする。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
私たちは戯れに一方を枝折戸しおりど、この方を垣根と呼んで居るが、古書には我邦では殊にこの垣根が高いのである。是と書物の価値とは固より関係が無い。
書物を愛する道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
丁度卯の花が真白に咲いている垣の間に小さい枝折戸しおりどのあるのを開けて這入はいったと、先ずその境地が叙してある。
そんなことを思いながら僕は玄関から外へ出て、あらためて玄関の傍の枝折戸しおりどから庭のほうへまわり、六畳間の縁側に腰かけて青扇夫婦を待ったのである。
彼は昔の彼ならず (新字新仮名) / 太宰治(著)
そっと一こと言って、枝折戸しおりどの外をうかがう。外には草を踏む音もせぬ。おとよはわが胸の動悸どうきをまで聞きとめた。
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
よく透る男の子の声、顔を挙げると、枝折戸しおりどを押しあけて、十二、三の小僧が顔を出して居ります。宗之助という十三になったばかりの、非凡の悪戯者です。
果して、立戻って来て、裏の篠藪からソッと枝折戸しおりどをあけて、入り込んで来たのは、千隆寺の住職の手を引いて、跣足はだしで逃げて来たお絹。ホッと息をついて
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
やがて、大きな松が、ひと本、黒く枝をひろげたのが見えるあたりの、生け垣の、小家の前まで来ると、老人は、枝折戸しおりどを外からあけてはいる。狭い前庭——
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
台所は一つ小門を潜った右側の中になっていますが、わたくしたちはそっちへは行かないで、左側の方の垣の枝折戸しおりどまで来て文吉だけ戸を開け庭へ入って行きます。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
玄関のわき枝折戸しおりどを開けてはいってくると、いきなり庭の端まで行って、下の海を見おろした。
あなたも私も (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
近所ではこの椿事ちんじをちっとも知らなかったのであるが、かの道具屋の惣八が早朝にたずねて来て、枝折戸しおりどのようになっている門をすと、門はいつものように明いたので
半七捕物帳:36 冬の金魚 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その時健三は日のかぎった夕暮の空の下に、広くもない庭先を逍遥あちこちしていた。彼の歩みが書斎の縁側の前へ来た時、細君は半分朽ち懸けた枝折戸しおりどの影から急に姿を現わした。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
聞くともなく耳傾けし浪子は、またこの室をでて庭におり立ち、枝折戸しおりどあけて浜にでぬ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
次郎は思いきって枝折戸しおりどのところまで行き、その上から眼だけをのぞかせて、声をかけた。
次郎物語:04 第四部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
するとこの時、そばの一軒の家の枝折戸しおりどが開いて、ひとりの美しい少女が小走りに出て来た。そして、平馬が鶯をつかんでいるのを見ると、少女は嬉しそうにかけ寄って言った。
平馬と鶯 (新字新仮名) / 林不忘(著)
いつ見てもしまっていた枝折戸しおりどが草ぼうぼうのなかに開かれている 屍臭がする
死の淵より (新字新仮名) / 高見順(著)
愚にも附かぬことを言いながら、内庭と外庭の間の枝折戸しおりどの辺まで近づいた。
初恋 (新字新仮名) / 矢崎嵯峨の舎(著)
ちょうどの花の真っ白に咲いているかきの間に、小さい枝折戸しおりどのあるのをあけてはいって、権右衛門は芝生の上に突居ついいた。光尚が見て、「手を負ったな、一段骨折りであった」と声をかけた。
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
だが、おえつはよろこばなかった。枝折戸しおりどまで、良人を送り出しながら
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そう云い捨てて飛び石づたいに枝折戸しおりどから表へ廻ると
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
別に厳重な塀がある訳ではなく、押せば開く枝折戸しおりどをあけて、不思議なお豊は、雑草の茂るに任せた別荘の庭へと這入って行く。
白髪鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
山番の爺がいいたるごとく駕籠は来て、われよりさきに庵の枝折戸しおりどにひたと立てられたり。壮佼わかもの居て一人は棒におとがいつき、他は下に居て煙草たばこのみつ。
清心庵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ありあう庭下駄を突っ掛けると、ポンと枝折戸しおりどを押し開けた。往来へ出ると一散に、桝形の方へ走って行った。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ガラッ八が誘うまま、平次も勝手口の方から枝折戸しおりどを押して、石巻左陣の浪宅の前に立っておりました。
と言いながら庭の枝折戸しおりどから小走りに走ってやって来られて、そうしてその眼には、涙が光っていた。
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
駕籠かごかえしたおせんの姿すがたは、小溝こどぶけた土橋どばしわたって、のがれるように枝折戸しおりどなかえてった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
裏の行きとまりに低い珊瑚樹さんごじゅ生垣いけがき、中ほどに形ばかりの枝折戸しおりど、枝折戸の外は三尺ばかりの流れに一枚板の小橋を渡して広い田圃たんぼを見晴らすのである。左右の隣家は椎森しいもりの中にかや屋根やねが見える。
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
山楽は、庭越しの枝折戸しおりどのほうへ、耳をすまして
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
芸者の姿は枝折戸しおりどを伸上った。池を取廻とりまわした廊下には、欄干越てすりごしに、燈籠とうろうの数ほど、ずらりと並ぶ、女中の半身。
妖術 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼はそのまま立去ることが出来ず、枝折戸しおりどを開いて庭へ這入って行った。8の字は砂場の真中から、一間程の距離を置いて、点々と西洋館の向側へ続いている。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
八五郎は裏へ回ってささやかな枝折戸しおりどを押して入ると、西向の狭い縁端で、懐中ふところ煙草入を取出しました。
宏大な建物を囲繞いにょうして、林のようにこんもりと、植え込みが茂っている庭であり、諸所に築山や泉水や、石橋などが出来ており、隔ての生垣には枝折戸しおりどなどがあったが
十二神貝十郎手柄話 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「お師匠さん、その御遠慮には及びませんよ」といいながら、庭先の枝折戸しおりどを開けて、つかつかとはいって来たのは、大丸髭まるまげった二十七八の水も垂れるような美女であった。
歌麿懺悔:江戸名人伝 (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
おとよは今日の長閑のどかさに蚕籠こかごを洗うべく、かつて省作を迎えた枝折戸しおりどの外に出ているのである。抑え難き憂愁を包む身の、洗う蚕籠には念も入らず、幾度も立っては田圃の遠くを眺めるのである。
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
まごまごしていたら、庭の枝折戸しおりどから
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
向う側は、袖垣そでがき枝折戸しおりど、夏草の茂きが中に早咲はやざきの秋の花。いずれも此方こなたを背戸にして別荘だちが二三軒、ひさし海原うなばらの緑をかけて、すだれに沖の船を縫わせたこしらえ。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「で、そこにある石燈籠だが、これはこのへや枝折戸しおりどとの、真ん中に置くのが本格なのだ」
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
枝折戸しおりどそとに、外道げどうつらのようなかおをして、ずんぐりってっていた藤吉とうきちは、駕籠かごなかからこぼれたおせんのすそみだれに、いましもきょろりと、団栗どんぐりまなこを見張みはったところだった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
一太郎君は表の方からお庭へ入る枝折戸しおりどのところへ行って、それを開きながら
智恵の一太郎 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
振り返ると、小僧の宗之助、たった十三になったばかりの、色の浅黒い小汚いのが、枝折戸しおりどのところに顔を出して、円い顎をしゃくり加減に、富山七之助を呼び留めて居るではありませんか。
枝折戸しおりどの外を、柳の下を、がさがさとほうきを当てる、印半纏しるしばんてんの円いせなかが、うずくまって、はじめから見えていた。
妖術 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その時、形ばかりの枝折戸しおりどが、外から開いてその隙からスルリと庭先へはいって来たのは、昨日から影のようにお霜の家に付きまとっていた傀儡師かいらいし、体に隙のない男であった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ここに別に滝の四阿あずまやと称うるのがあって、八ツ橋を掛け、飛石を置いて、枝折戸しおりどとざさぬのである。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
こゝに別に滝の四阿あずまやとなふるのがあつて、はしを掛け、飛石とびいしを置いて、枝折戸しおりどとざさぬのである。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
いつも松露の香がたつようで、実際、初茸はつたけ、しめじ茸は、この落葉に生えるのである。入口に萩の枝折戸しおりど、屋根なしに網代あじろがついている。また松の樹をいつ株、株。
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この枝折戸しおりどの掛金は外ずしてありましょう。表へだと、大廻りですものね。さあ、いらっしゃい。まこと開かなけりゃ四目垣ぐらい、破るか、乗越のっこすかしちまいますわ。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)