昔時むかし)” の例文
今の中等人士は昔時むかしの御大名同様に人の手から手へ渡って行って、ひどく大切だいじにされまするので、山も坂も有ったものじゃあ有りません。
旅行の今昔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
と、隠居たちが派手なしきたりや、お鯉自身もどんなに困っても昔時むかしの通りだということを、どうしようもないようにつぶやくように話した。
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
昔時むかし、直樹の父親が、釣竿つりざおを手にしては二町ばかりある家の方からやって来て、その辺の柳並木の陰で、わずかのひまを自分のものとして楽んだものであった。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
昔時むかしシヽリーといふ島のダイオインシアスといふ国王こくわうがございました。の王がこのんで詩を作りますが、ぞくにいふ下手へた横好よこずきで、一かう上手じやうずでございません。
詩好の王様と棒縛の旅人 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
斯の如く帳面に書留かきとめ之有り右日野家家來けらい逐電ちくでんの始末は毎年八月十五日城州じやうしう男山石清水八幡宮放生會はうじやうゑに付參向さんかう公家衆くげしうあり抑々そも/\この正八幡宮は其昔時むかし 應神天皇を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
日本でも昔時むかし真言宗において立川たてかわ流というものが起って、陰陽道おんみょうどうと秘密の法とを合してこれに似たような説を唱えて、大いに社会を蠧毒とどくしたことがあったです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
どうも思ひ掛けねエ所で御目に掛りまして、昔時むかしのことがアリ/\と目に見えるやうで御座りやす
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
先刻さっき通ったあの金性水の所には、昔時むかし四斗だる程の大蛇がんでおって、麓の村へ出てはしばしば人畜を害したので、須藤権守すどうごんのかみという豪傑が退治したという口碑が伝わっている。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
京大文科の教授某氏のうちに、昔時むかしから持伝へた封印つきの仏様がある。何でも純金むくきんで出来上つたものださうで、封を解くと眼が潰れるかも知れないといふ言伝へになつてゐた。
わが輩は話にまぎれてとかく昔時むかしのことのみを述べたが、我々が今日においてしかも毎日、些細ささいなことにおいてもそれぞれに所信と決心とをつらぬくにはどこかに喜ばぬ人あり
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
昔時むかし「パリサイ」の師「ニコデモ」、夜窃かに耶蘇に來りて道を問ふ。耶蘇答へて曰く、「人若し生まれ替はるに非れば、神の國を見ること能はず」。而して「ニコデモ」遂に之を解せざりき。
同じ様な事あり畢竟ひっきょう何故なにゆえとも分明わからねど世間に知れれば当楼このうち暖簾のれんきずつくべし、この事は当場このばぎり他言は御無用に願うと、依嘱たのま畏々おそるおそるあかしたる事ありと、僕に話したが昔時むかし武辺者ぶへんしゃ
枯尾花 (新字新仮名) / 関根黙庵(著)
中仙道熊谷より荒川に沿い寄居よりいを経て矢那瀬に至るの路を中仙道通りと呼び、この路と川越通りを昔時むかしは秩父へ入るの大路としたりと見ゆ。
知々夫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ずツと昔時むかししば金杉橋かなすぎばしきは黄金餅こがねもち餅屋もちや出来できまして、一時ひとしきり大層たいそう流行はやつたものださうでござります。
黄金餅 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
「なに、伯母さん、改めてお知らせする程のことも無いのです、最早もうくの昔時むかしのことですから」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
昔時むかしは知らずやや老いての半井氏は、訪客の談話が彼女の名にうつると、迷惑そうな顔をされるということである。そして一ことも彼女については語らぬということである。
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
ふうちゃん、房ちゃん」と言って、子供を背中に乗せて、家の内を歩く直樹の様子をながめると、三吉は昔時むかし自分が直樹の家に書生した時代のことを思出さずにいられなかった。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
以て重過料おもくくわれう申付ると有て此事はまづ双方さうはう落着らくちやくに及びけるがまことに越前守殿ならずば斯手早く黒白も判るまじと人々申合りしとぞ昔時むかし唐土もろこしかんの代に是とよく似たることあり趙氏てうしつま若き時夫を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
だからこういう事の知れないようにうまくかの外国人らの進入を防がなくちゃならんという。昔時むかしはチベットの法王政府は確かに宗教のために鎖国を奨励して居った。ところが今はいわゆる
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
昔時むかしはそれでも雁坂越とって、たまにはその山を越して武蔵へ通った人もあるので、今でもあやしい地図に道路みちがあるように書いてあるのもある。
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
これ当今たうこんでは出来できませぬが、昔時むかし行倒ゆきだふれ商売しやうばいにしてた者があります。無闇むやみうちまへ打倒ぶつたふれるから
行倒の商売 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
二千年昔時むかしにお生れになつた外国人の基督が、何時までも/\世界中の人に、誕生日を祝つて貰ふと云ふ不思議な理由わけです、基督と云ふお方は極々ごく/\貧乏なうちへお生れになつたのです
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
その時、用人の塩原彦七しおばらひこしちが進み出て、浪士らは必ず和田峠を越して来るに相違ない。峠のうちの樋橋といはしというところは、谷川を前にし、後方うしろに丘陵を負い、昔時むかし諏訪頼重すわよりしげが古戦場でもある。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
長八は何心なくるに羽織の定紋と云ひなり恰好かつかう大恩受たる大橋文右衞門樣に髣髴よくにたるは扨も不思議なりと思ながら腰の早道はやみちより錢七八文出して手の内にやりければ浪人者是は/\有難う存じますと云し其物語そのものごしまで彌々いよ/\文右衞門にたるゆゑ長八は忽ち十八年の昔時むかし
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
飾り立てたる我が女には眼も少将の遣り玉はざるが口惜しとて、養ひ娘を悪くもてあつかふ愚さ酷さ、昔時むかしの優しかりしとは別のやうなる人となりて
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
落語らくご濫觴らんしやうは、昔時むかし狂歌師きやうかし狂歌きやうかひらきときに、たがひに手をつかねてツクネンと考込かんがへこんでつてはくつします、そこ其合間そのあひまに世の中の雑談ざつだんたがひに語りうて、一うつつたのが濫觴はじまりでござります。
落語の濫觴 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
今の今まで太郎坊を手放さずおったのも思えば可笑しい、その猪口を落して摧いてそれから種々いろいろ昔時むかしのことを繰返して考え出したのもいよいよ可笑しい。
太郎坊 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
少時しばらく三人が茶を喫してゐる際でも、別に会話をはづませる如きことはせぬので、晩成先生はたゞ僅に、此寺が昔時むかしは立派な寺であつたこと、寺の庭のずつと先は渓川で
観画談 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
少時しばらく三人が茶をきっしている際でも、別に会話をはずませる如きことはせぬので、晩成先生はただわずかに、この寺が昔時むかしは立派な寺であったこと、寺の庭のずっと先は渓川たにがわ
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
昔時むかしを繰返して新しく言葉をついやしたって何になろうか、ハハハハ、笑ってしまうに越したことは無い。云わば恋の創痕きずあとかさぶたが時節到来してはがれたのだ。ハハハハ、大分いい工合ぐあいに酒もまわった。
太郎坊 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ありがてえ、昔時むかしからテキパキしたやつだったッケ、イヨ嚊大明神かかあだいみょうじん
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)