おこ)” の例文
司法主任はスッカリおこっとったよ。当局に申告して消印スタムプのハッキリせぬ集配局を全国に亘って調べ出してくれると云っておったが……
二重心臓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
父はおこツてゐる、母夫人は冷淡れいたんだ。周三は何處にも取ツて付端つきはが無いので、眞個まつたく家庭を離れて了ツて、獨其のしつに立籠ツて頑張ツた。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
(ハリスを英人だと言へばあるひおこり出すかも知れない、生れは愛蘭アイルランドで今は亜米利加アメリカにゐるが、自分では巴里人パリジヤンの積りでゐるらしいから)
と豊子さんはおこってしまった。菊太郎君が変な理窟をつけて誤魔化そうとしたのが悪かった。頭が好いんだから、何も彼も分っている。
勝ち運負け運 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
おこらないでもいゝよ。でも周子、お前昨夜ゆうべはよく来たな。どうだい、お父さんが芸者にのろけてゐたところは、どうだ。……驚いたか。」
熱海へ (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
そうそう繰返して、詮索めかして出られると、おこらない相手をも憤らせてしまうではないか。ところが今日の相手は存外淡泊で
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「猟にあぶれた猟師かりゅうどが、鉄砲をかついで、山道を帰って来る時、高い木の梢で、ああ啼かれますと、猟師はおこれて来るそうでございます」
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
わずか、しかし、このくらいの事で、何のために、それほどまでに船長が、おこらねばならなかったか、それは、だれにもわからないのだ。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
……そのかわり、今ね、おこるなよ……お転婆な、きみが嬉しがる、ぐっとつかえが下って胸の透く事をしてお目に掛ける。——
おこるように言い捨てて、小坂部はわざと足早にあるき出した。京の町の秋の灯はもう眼のさきに黄いろくまばらに見えた。
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
天気がいと思って合羽を脱いで外へ出れば雨が降って来たり、芸者を買えばブツ/\とおこってばかりいたり、すべて十分にいかんものでございます。
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
おこりになつちやいや。本当は真似ぢやないの。画といつたらわたくしお兄さまのしか知らないんですの。展覧会でもお兄さまの画しか見ないんです。
青いポアン (新字旧仮名) / 神西清(著)
土地の四人の首を揃えての謝罪に目はしら立てておこる宋江でもない。むしろ仮死のお蔭で、冥途よみの世界をちょっとのぞいてきたと、宋江は笑うのである。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
我を印のかたとなして、贏利虚妄えいりきよまうの特典にし、われをして屡〻かつ恥ぢかつおこらしむることも亦然り 五二—五四
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
そして、浮いたひょうしに見ると、米が小舟を目がけて泳いでいるので、火のようにおこって追っかけて往った。
妖蛸 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「それ、皮肉ですか? でも、私、別に、田部さんに、そんな風な事云われる程、貴方あなたに御厄介かけたって事ないわね?」「おこったの? そうじゃないンだよ。 ...
晩菊 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
婦人おんなの癖に園田勢子と云う名刺なふだこしらえるッてッたから、お勢ッ子で沢山だッてッたら、非常におこッたッけ
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
だけど、つまり……小父さんのことをおこってるの。ママが不幸せになったのは小父さんのお蔭だって言うの。それから、小父さんが……ママを駄目にした、って。
小波瀾 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「大兄さん、あんまりおこらないで下さいよ。イーハトブさんが向ふの空で、又笑ってゐますよ。」
楢ノ木大学士の野宿 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
逗子における葉子の事件は、庸三の近くにいる二三の青年を嫉妬しっと半分おこらせたり、寂しがらせたりはしたが、ジャアナリズムと一般の世界ではほっとしたようであった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
『だからどうしたゞよ? 俺ア此頃少し急しくて四日許り來ねえでたのを、うなおこつたのげえ?』
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
おこらせることをこわがっているから。そんなことをしたら、あたし、あいつを殺しちまうから。
女も非常にすまないと思っていたが、それからはもう手紙も来なかった。おおこりになったのだと思うとともに、このまま自分が忘れられてしまうのは悲しいという気がした。
源氏物語:03 空蝉 (新字新仮名) / 紫式部(著)
大氣焔だいきえんもつ威張ゐばらされるので、品川軍しながはぐん散々さん/″\敗北はいぼく文海子ぶんかいしかへりにつてれといふのもかず、望蜀生ぼうしよくせいれて、せツせとかへ支度じたくした。ぷツぷツおこつてゞある。
前和歌山県知事川村竹治が何の理由なく国会や県会議員に誓うた約束をたちまちほぐして予の祖先来数百年奉祀し来った官知社を潰しひとえに熊楠をおこらせてよろこぶなどこの類で
恋人同士が手を取って月夜にそぞろ歩きをしたり、夕暮の空をねぐらにかえる鳥がつながって飛んだり、夫婦つがい鳩が巣の縁でくちばしを触れ合うところを見てさえ、彼女は真赤になっておこった。
老嬢と猫 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
お初が、訊き返すと、平馬は、薄手の唇を、ビリビリとおこりっぽく痙攣けいれんさせて
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
「まア、おこるなよ、八。誰が一体、どうして、誰に殺されたんだ」
「冗談いうな、もうおこらねエからいってみな千里眼じゃあるまいし……それにあんな高いところから下がハッキリ見えるもんか、おまけに、あそこからは、洗面所は陰になって、見えねエ筈だぜ……」
夢鬼 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
多計代は、おこって、何も手につかない風で坐っていたが
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
かう言つてあの人はおこる。すると私もさう思ふ。
脱殻 (新字旧仮名) / 水野仙子(著)
あの人も、おこり虫らしいから、私に暇を
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
先ずおやじのカンシャク頭は、テッペンをクリ抜いて蓋をするようにして、おこった時はその蓋を取ればなおるようにしてやりました。
豚吉とヒョロ子 (新字新仮名) / 夢野久作三鳥山人(著)
あなたは、昨べ、あたしとランプの話をした時のことを寝言に喋舌つて、それを奥さんが聞いて、大変おこつてゐたわよ、お気の毒だわね。
歌へる日まで (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
哲学者はそれには何とも答へないで、いきなり痰唾たんつば富豪かねもちの顔に吐きかけた。富豪かねもち西洋茄子トマトのやうに真紅まつかになつておこつた。
この長庵から見ますれば、旦那などははなっ垂らし、と云っておこっちゃ不可いけませんぜ、鼻っ垂らしのデクの棒、お話しにも何にもなりゃアしねえ。
村井長庵記名の傘 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ボーイが、船長にボースンの伝馬が見えると報告した時の、彼のおこり方の気持ちや、態度を説明するのには、さじを投げる。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
と赤羽君はカン/\におこって、その日の夜行で神戸へ立った。叔父さんが運送業をやっている。それを頼って行ったのだ。
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
この男は本当におこっているようですから、人間は本当に憤ると、生地きじを隠すことができないはずだと見たからです。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ここへ倅が帰って来ると不可いけませんから……。彼児あれは正直者ですから、ひとから嫌疑うたがいを受けて家捜やさがしをされたなどと聞くと、必然きっとおこるに相違ありませんから……。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
作左衞門はおこったの憤らないのでは有りません。突然いきなり刀掛に掛けて置いた大刀をひっさげて顔の色を変え
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「大兄さん、あんまりおこらないで下さいよ。イーハトブさんが向うの空で、又笑っていますよ。」
楢ノ木大学士の野宿 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
『だら怎したゞよ? 俺ア此頃少許すこし急しくて四日許り来ねえでたのを、うなおこつたのげえ?』
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
こうなると、お神さんも目に余って、或時何だか厭な事をお糸さんに言ったとかで、お糸さんがおこっていた事もある。私は何だか面白いような焦心じれったいような妙な心持がする。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
僕も悪かったけれど、そんなにいじめなくたっていいじゃありませんか。成るほど僕はちょっと不実なことをした。あなたがおこるのも無理がない。だから僕は散々謝罪あやまったでしょう。
ふみたば (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
發掘はつくつ承知しようちせぬので、はらつたから惡口あくこういたら、先方せんぱうおこつたといふ説明せつめい
と、おこったが、自分がその身になってみると、やはり蜘蛛六と同じ事をしていた。
茶漬三略 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
平左衛門はおこって肩で呼吸いきをしていた。平左衛門はお露の方をきっと見た。
円朝の牡丹灯籠 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
俊男は苦い顏で其後を見送ツてゐて、「おれは何を此樣こんなにプリ/\おこツてゐるんだ。何を?………自分ながら譯のわからんことをツたもんぢやないか。これも虚弱から來る生理的作用かな。」
青い顔 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
「まア、おこるなよ、八。誰が一體、どうして、誰に殺されたんだ」