意気地いくじ)” の例文
旧字:意氣地
私はただ黙ってのぶちゃんがすげてくれるのを見ていた。私は内弁慶で外ではから意気地いくじがない。知らない人とは口がきけなかった。
桜林 (新字新仮名) / 小山清(著)
それはかく、キーシュの狩はその後も成功つづきです。意気地いくじのない村人たちは、彼が取った肉を運ぶのにせわしいという有様でした。
負けない少年 (新字新仮名) / 吉田甲子太郎(著)
「何だい、なりばかり大きくて、からっきし意気地いくじのないやつだなあ。仲間へ手紙を書いたらいいや。」月がわらって斯う云った。
オツベルと象 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「だって、いかにもあたしが意気地いくじがないから柿をられたんだって云うような口ぶりなんですもの。あの梵妻さんも随分ずいぶんだわ。」
果樹 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
意気地いくじなしの水夫どもは娘っ子たちに会いたがって村へ帰ってゆくのに、諸君らは安んじてその妻をあとに残しておいて来たのである。
「おう、だれにもいうな。こいつ、意気地いくじがないから、やられちまったんだ。おくへ入るから、だれにもだまっているんだぞ、いいか」
火薬船 (新字新仮名) / 海野十三(著)
もしも小山さんが自分の責任をのがれるような工風くふうをするとかあるいは和女おまえたのんで家へ金を借りに来るような意気地いくじのない人であったら
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
意気地いくじがないと孝助殿に愛想あいそを尽かされたらうする、孝助殿歳がいかない子供のような娘だから、気にかけて下さるな、婆ア何を泣く
と、主人しゅじんは、さとすように、いったのでした。これをいたときに、信吉しんきちは、いままでの自分じぶん意気地いくじなしが、しんずかしくなりました。
風雨の晩の小僧さん (新字新仮名) / 小川未明(著)
「ぢや、姉さんは、あの吉野とか云ふ法学士の方が好いのですか、驚いたこと、彼様あんなニヤけた、頭ばかり下げて、意気地いくじの無い」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
これを聞いた自分の驚きはどんなであッたろう、五分もたぬうち、自分はもウわが部屋で貌を両手へ埋めて、意気地いくじもなく泣いていた。
初恋 (新字新仮名) / 矢崎嵯峨の舎(著)
以前、コノ十年間グライハ、僕ハ常ニ妻ノ攻撃ニ壓倒あっとうサレツヅケテイタ意気地いくじナシノ夫デアッタノニ、最近ノ僕ハソウデモナイ。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
美穂子については、「あれも今年は卒業するのですけれど、意気地いくじがなくって、学校が勤まりますかどうですか」などと言った。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
いや、そうはいけねえ——おいらあさっきから、一人で大分っているんだ。この上呑んだら、それこそ意気地いくじなくうたたねだ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
このお坊さんは元は武士さむらいであったので、今度は獣の餌食えじきになるような意気地いくじなしではなかろうと、村の人たちは安心していた。
鬼退治 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
と、ぽんと一本参りたまえば、待構えしていにて平然と、「ありゃあっし男妾おとこめかけさ、意気地いくじの無い野郎さね。」一同聞いて唖然あぜんたり。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
意気地いくじがないねえ、どうしたんだよ。やわいじゃあないかえ、お前さんの体は。ホッ、ホッ、ホッ、ホッ、手頼たよりないねえ」
銅銭会事変 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
と同時にまたその連中の心配を利用して、病気を口実に結婚を延期するのも、今となっては意気地いくじのない姑息手段こそくしゅだんとしか思われませんでした。
疑惑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
伯母さんは昼の中は口やかましいにかかわらず夜になるとまったく意気地いくじがなくなって眠ってしまうので起こしたところで起きそうにもない。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
「気が弱い」「意気地いくじなし」ということは彼にはこの上ない恥辱に思われて来た。彼はまた熱心な忠君愛国主義者になった。
松木まつき箕作みつくりも私に意気地いくじがないといっしきりにひやかすけれども、もって生れた性質は仕方がない、生涯これで死ぬことでしょう。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「ええ、しまった。意気地いくじのねえ奴が揃っている」孫兵衛は舌うちをして振りかえったが、その途端にハッとして、鋭いまなざしで闇を探った。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「馬鹿めがっ。意気地いくじなしめがっ。こういうことになるから、こういう目に会うから、今の世の中は気に入らんのじゃ! ——女将! 女将!」
山県有朋の靴 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
女々めめしいとか、意気地いくじなしにもれるが、僕のここに用いた女らしいというは善意にいたので、温和おんわ柔順じゅうじゅんの意味である。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
それは一つは養家へ対する反感から来ているのでもあり、自身の生活の破綻はたんあきらめ忘れようとする意気地いくじなさの意地とでも言うべきものであった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
私の経験にちょうすると、その多くが意気地いくじなしで、インテリ風で、秀才型で、その実、気のいた人間でない場合が多い。
河豚は毒魚か (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
ひょうのような水夫も、さすがに心細くなったとみえ、今はもう、もぐらもちのように意気地いくじがなく、浪に乗り、浪に沈みながら、悲鳴をあげている。
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
細君は大功名をしたように頬骨ほおぼねの高い顔を持ち上げて、おっとのぞき込んだ。細君の眼つきが云う。夫は意気地いくじなしである。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
抜きたるものとのみ存候いしも三年の恋一朝いっちょうにさめてみればあんな意気地いくじのない女に今までばかされて居ったことかとくやしくも腹立たしく相成あいなり候。
歌よみに与ふる書 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
いや、五尺の男子、ましてや旗本、しかも、腕に覚えのあるはずの大迫玄蕃ともあろうものが、まだ宵の口に、さような意気地いくじのない真似まねは出来ぬ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
それをなし得ない人は意気地いくじがないと思う人や、子供を愛するの、人のためを思うのというのは偽善だと思う人などが、いまもなおたくさんあります。
親子の愛の完成 (新字新仮名) / 羽仁もと子(著)
あるいは恐る、日ごろ心たけかりし父の、地下よりおどでて我をむちうつこと三百、声を励まして我が意気地いくじなきを責め、わが腑甲斐ふがいなきをこらし給わんか。
父の墓 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
した芸者のような意気地いくじなしではない。死んだッて、化けて出てやらア。高がお客商売の料理屋だ、今に見るがいい
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
その意気地いくじのない様子がまた葉子の心をいらいらさせた。右に目を移せば三四人先に木部がいた。その鋭い小さな目は依然として葉子を見守っていた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
家の中では、たいへん威張り散らしているが、一歩そとへ出ると、まるで意気地いくじが無い。私が、杉野君と知合いになったのは、いまから五年まえである。
リイズ (新字新仮名) / 太宰治(著)
この世の中の画家がことごとく一様に仲よしであり、お互に賞讃し合い遠慮し合い意気地いくじのない好人物ぞろいであったとしたらしかも安全と温雅を標語としたら
油絵新技法 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
おなか そう優しくされると、あたし、有難いやら、悲しいやら、意気地いくじもなく泣けて泣けて仕様がありません。
中山七里 二幕五場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
そして彼は、普段から、あまりに意気地いくじのない、ボースンや大工が、チーフメーツに「くそみそ」にののしられているのに対して、なおさら腹を立てた。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
意気地いくじのない私は力いっぱいにその者らの世話にかかっていますと、家内は自身の娘だけを分け隔てをして愛さないと意地悪く言ったりしたことがありまして
源氏物語:52 東屋 (新字新仮名) / 紫式部(著)
学生の癖に意気地いくじが無いんだなあ君ゃ。ハハハハハ。まあ珈琲を一杯飲み給え。スマタラ製だが非常に芳香かおりが高いんだ。度胸が据って僕の話が面白くなるだろう。
焦点を合せる (新字新仮名) / 夢野久作(著)
瑠璃子におぼきっていたわしは、彼女のこととなると、もう盲目も同然で、カラ意気地いくじがなかったのだ。
白髪鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
でも、あなた、男の人のようでもない。吉原まで行って、泊まりもしないで帰って来る——意気地いくじがないねえ、なんて、そう言って、わたしは笑っちまいましたよ。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「あんた、何でもあたしの方から仕向けなければ……ずるいのか、意気地いくじなしなのか、どっちなのよ」
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
今まで黙りて居しは意気地いくじなきのにはあらず、夫死してもわれは生きたりと言い顔に、知らず知らず積みし貸し金、利に利をつけてむやみに手近の者に督促はたり始めぬ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
結婚数の減少はごうも女子の罪ではなく、その責任は男子側にあって、これを婦人問題として議する前に宜しく男子問題として男子側の意気地いくじなさをとがむべき事でしょう。
女子の独立自営 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
所詮どうせ死ぬなら羊羹でも、天麩羅てんぷらでも、思うさま食ってやれと棄鉢すてばちになっても、流動物ほか通らんのだから、喰意地くいいじが張るばかりでカラキシ意気地いくじはない。ア餓鬼だナア!
そして通りがかりのなるべくきたない車、なるべく意気地いくじのなさそうな車夫しゃふを見付けて恐る恐る
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
どうも日本人ということを言明かさずにおめおめ帰って行くというのは意気地いくじのない話だ。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「ほんとに意気地いくじなしね、」と澄子は怒ったように云いながら、後から立ってきて、いきなり今井を台所へ押しやり、自分も一緒に進んでいって、ぱっと電燈のねじをひねった。
変な男 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
「なんだい意気地いくじなし。痴川が殺せないもんであたしを殺すことにしたの? 青瓢箪あおびょうたん!」
小さな部屋 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)