もが)” の例文
金眸は痛さに身をもがきつつ、鷲郎が横腹を引𤔩ひきつかめば、「呀嗟あなや」と叫んで身を翻へし、少し退しさつて洞口のかたへ、行くを続いておっかくれば。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
そのくちびるの上にいつ放すとも知れず自分の脣を押しつけたが、千代子は呼吸をはずませながら、もがきもせずにじっとしていた。
心づくし (新字新仮名) / 永井荷風(著)
見よ、デモクラシーは宿昔しゆくせきの長夢を攪破せんとのみもがき、アリストクラシーは急潮の進前を妨歇せんとのみさわぐにあらずや。
国民と思想 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
細川は軽く点頭うなずき、二人は分れた。いろいろと考え、種々いろいろもがいてみたが校長は遂にその夜富岡を訪問とうことが出来なかった。
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
しかるにこれを訴人して、後にざまあ見ろをくらって、のりべにになってもがくのは、芝居でも名題の買って出ぬ役廻やくまわりであろう。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
今權六がかゞんで見て居りますと、犬がグック/\と苦しみ、ウーンワン/\といやな声でえる、暫くもがいて居りましたが
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
遠く舟を離れて対岸をめがけて進むものもあった。彼も身を逆さまにして舟から水底の方へおどり入った。あたかも身をもがかずにはいられないように。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
角太郎はそれから二日二晩苦しみ通して、二十一日の夜なかにもがじにのむごたらしい終りを遂げた。その葬式とむらいは二十三日のひるすぎに和泉屋の店を出た。
半七捕物帳:03 勘平の死 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それを手に出来ないでもがいてゐる者は世間に沢山あるので、如何にも尤もと肯れることである。
趣味としての読書 (新字旧仮名) / 平田禿木(著)
もがいても女の力及ばずと見たのだろう、「じゃア、やるから待ちゃアがれ!」みずから帯の間から古い黄金を取り出し、「ええッ、拾って行きゃアがれ」と、ほうりつけ
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
おのおの真紅の毒舌を出しながら、悪徒わるものの手といい足といい首胴の差別なく巻き付いている、髪面ひげづら悪徒わるものは苦しそうな顔をしてもがき苦しんでいるというような絵を見た事があるが
二面の箏 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
余りに狼狽したジルベールにはルパンの謀計を了解するよしもなく、いたずらに亢奮してもがき騒いだ。ボーシュレーは別に何等の抵抗もせず自暴自棄の体ていで、ジルベールの態度をあざわらって
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
ついに敢えなくなりたまう、その梨の木は、亭々として今も谿間にあれど、果は皮が厚く、渋くて喰われたものでない、秀綱卿の怨念おんねんこの世に残って、あだをしたやからは皆癩病になってもがじにに死んだため
梓川の上流 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
「熱い! ううむ、苦しいわい!」とにわかにもがき苦しみ出した。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
敵は屈みて鋭刃によりつゝもがく、譬ふれば
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
自分はその日校務をおわると直ぐ宅に帰り、一室ひとま屈居かがんで、もがき苦しんだ。自首して出ようかとも考がえ、それとも学校の方を辞職してしまうかとも考がえた。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
しかし自分たちは蜘蛛くもの巣にかかった蝶や蜻蛉とんぼのように、苦しい、切ない、むごい、やがては命をとられそうな怖ろしいきずなに手足をくくられてもがいている。
箕輪心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
『先生、先生』と口の中で呼んで、どう其を切出したものかともがいて居ると、何か目に見えない力が背後うしろに在つて、妙に自分の無法を押止めるやうな気がした。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
はて何だろうと暗いから、すかして見ると、お手飼の白班しろぶちの犬がもがいて居ります。あやしの侍がしばらく視てる。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
爰に於て彼は実を撃つの手をやすめて、空を撃たんともがきはじめたるなり。彼は池の一側に立ちて、池の一小部分をにらむに甘んぜず、徐々として歩みはじめたり。池の周辺を一めぐりせり。
人生に相渉るとは何の謂ぞ (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
その爺さんがね、見ると……その時、角兵衛という風で、頭を動かす……坐睡いねむりか、と思うともがいたんだ。仰向あおむけにって、両手の握拳にぎりこぶしで、肩をたたこうとするが、ひッつるばかりで手が動かぬ。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
拾った金の穴を埋めんともがいて又夢に金銭かねを拾う。自分はめた後で、人間の心の浅ましさを染々しみじみと感じた。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
貴方がこの旅舎やどやに居るのと、私が又、あの二階で考え込んでいるのと——それが、座敷牢の内にもがいていた小泉忠寛と、どう違いますかサ……吾儕は何処へ行っても
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
敵は何とも答えずに、力の限り跳返はねかえそうともがいたが、柔道を心得たる忠一は急所を押えて放さぬので、敵は倒れながらに刃物を打振うちふって、下から忠一ののどを突こうと企てた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
かく「此の阿魔め、えゝ何をもがくのだ、べらぼうめ、金を渡してしまえ」
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
足をばたばたの、手によいよい、やぼねはずしそうにもがきますわの。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さればこそ母からも附込つけこまれ、遂に母を盗賊にして了い、遂に自分までが賊になってしまったのである。であるから賊になった上で又もやもがき初めるのは当然である。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
罪の深いもの同志が如何いかに互の苦悩から救われようとしてもがこうと、誰がそんな寝言のようなことを信じよう、そう考えて岸本は部屋の障子のわき悄然しょうぜんと立ちつくした。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
羽翅締はがいじめの身をもがきながら、洋刃ないふを逆にして背後うしろを払うと、切先きっさきは忠一が右のひじかすった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
もがくかみづれるか、わな/\と姿すがたおのゝく——天守てんしゆかげ天井てんじやうから真黒まつくろしづくちて、手足てあしかゝつて、のまゝかみつたふやうに、ながつて、したへぽた/\とちて、ずらりとびて
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
もし富岡先生にののしられたばかりなら彼は何とかして思切るほうにもがいたであろう、その煩悶はんもんも苦痛には相違ないが、これたたかいである、彼の意力はくこの悩にえたであろう。
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
巡査は谷川の水をすくって飲ませると、彼はわずかに眼をみひらいたが、警官の姿をるやにわかに恐怖と狼狽の色を現わして、しきりに手足をもがいていたが、何分身動きも自由ならぬ重傷である
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
お房は起きたがって母に抱かれながらもがあばれた。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
科学と哲学と宗教とはこれを研究し闡明せんめいし、そして安心立命りゅうめいの地をその上に置こうともがいている、僕も大哲学者になりたい、ダルウィン跣足はだしというほどの大科学者になりたい。
牛肉と馬鈴薯 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
医師に勧められて三度湯治とうじに行った。そしてこの間彼の精神の苦痛は身体の病苦と譲らなかったのはすなわち彼自身その不健康なるだけにいよいよ将来の目的を画家たるに決せんともがいたからである。
小春 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)