性分しょうぶん)” の例文
持って生まれた世話好きな性分しょうぶんから、金兵衛はこの混雑を見ていられないというふうで、肩をゆすりながら上の伏見屋から出て来た。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
私の性分しょうぶんとして考えずにはいられなくなりました。どうして私の心持がこう変ったのだろう。いやどうして向うがこう変ったのだろう。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
おいらは、得心とくしんのいくまで調べねえと、飯がうまくねえ性分しょうぶんだ。ちっとも遠慮することアねえから、おめえは、先へ引き揚げてくんねえ。
何でも個性を発揮しなければ気が済まないのが椿岳の性分しょうぶんで、時偶ときたま市中の出来合を買って来ても必ず何かしら椿岳流の加工をしたもんだ。
思ったとおりに何でも言いたいのが鶴見の性分しょうぶんである。それを先ず言っておいて、疑わしいところは教を受けたいと思っているのである。
○「どうしてこう心配事が出来ない性分しょうぶんだろう。もっとも心配事があるとぐレコードをかけて直ぐはぐらかしちまうくせがあるんだけれど。」
現代若き女性気質集 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
なぜか長作は、それを露骨に現すことは出来なかったし、そういう言葉を口にすることは、なおさら出来ない性分しょうぶんだった。
山茶花 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
「友人という友人と喧嘩をしてしまって僕達三人だけが残ったんです。自分で世間を狭めるんですから、損な性分しょうぶんです」
変人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
わたしは、うそをいったり、いつわったりすることができぬ性分しょうぶんです。病気びょうきになってくるしんでいるひとたちに、わかりもしないめったのものをやれましょうか。
手風琴 (新字新仮名) / 小川未明(著)
その最もはなはだしい時に、自分は悪いくせで、女だてらに、少しガサツなところの有る性分しょうぶんか知らぬが、ツイあらい物言いもするが、夫はいよいよおこるとなると
鵞鳥 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
となると、もうじっとしていられないんだ。すぐにも実験じっけんにとりかかりたくてね……これがぼくの性分しょうぶんなんでね
私は5+5を羽左衛門うざえもんがやると100となったり、延若えんじゃくがやると55となったり、天勝てんかつがやると消えせたりするような事をおおいに面白がる性分しょうぶんなのである。
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
なにもお前さんをなぐさものにするわけじゃねえのだ、おれは子供の時分から虫のせいで、善い事にしろ悪い事にしろ仕返しをしなくっちゃあおさまらねえ性分しょうぶん
「もし何かおありになるようなら、遠慮なしに云ってください、私もこう云う性分しょうぶんだ、できるだけのことはしましょう、あなたは何時いつ当地こっちへいらっしたのです」
女の首 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「なにほどお支払しはらいしたらいいか、おっしゃっていただきたい。」と、影はいいました。「なにしろ、わたしは人に借をのこしておくのが、きらいな性分しょうぶんでして。」
そんなことには一向平気な性分しょうぶんで——どんなに騒がれようがビクともしないたちだったが——それでもやはり疲労ひろうを覚えて、ちょっと一休み横になると言い出した。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
「槍はわしの持物です。どこへいくんだッて、この槍を手からはなさぬ性分しょうぶんなんだからしかたがない」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
冷く見えるのは私の損な性分しょうぶんね、いつでも人から誤解されるの、私ほんとうは、あなたたちの事なんだか恐しいの、相手のおかたが、あんまり綺麗すぎるわ、あなたを
誰も知らぬ (新字新仮名) / 太宰治(著)
わたしがなにぶん性分しょうぶんがわるいものですから、わたしも自分の性分しょうぶんがわるいことは心得こころえていますけれども、どうもその今日こんにちをおもしろくらすという気になれませんで
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
わたしはだれにあやまっていただくのもいやですし、だれにあやまるのもいやな性分しょうぶんなんですから、おじさんに許していただこうとはてんから思ってなどいはしませんの。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「わしは、子供のときから、にぎやかな方が好きです。讃美歌なんかに送られて天国へいくなんて、わしの性分しょうぶんにあわねえ。もっと、どかんどかんと、爆発すると、ようがすなあ」
地底戦車の怪人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
他人事ひとごとだけれど、あんまりお前って者が踏みつけにされてるからあたしゃ性分しょうぶんで腹が立って……さ、しっかりおしよ、いいかえ、弥生さんはお前のいい人と家を持ってるんだとさ
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
例の私の不決断な性分しょうぶんから、この土地ならそのすべてのものが私にさまざまな思い出を語ってくれるだろうし、そして今時分ならまだ誰にも知った人には会わないだろうしと思って
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
すると次第次第に震え出して、その震いがいよいよ厳しくなると同時にたちまち後ろへ倒れてしまうのもあり、あるいはまた立ち上るのもある。それはその神様の性分しょうぶんでいろいろになるのだそうです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「つまり今度のことなどもそれから来てるんですな」と和尚さんは考えて、「ほんとうに気の毒ですな。ずいぶんさびしい生活ですものなア。それにまじめな性分しょうぶんだけ、いっそうつらいでしょうから」
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
余は神経質で臆病な性分しょうぶんだから、車が傾くたんびに飛び降りたくなる。しかるに人の気も知らないで、例の御者ぎょしゃが無敵に馬をけさせる。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
相手あいて黙々もくもくとした少年しょうねんだが、由斎ゆうさいは、たとえにあるはしげおろしに、なに小言こごとをいわないではいられない性分しょうぶんなのであろう。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
上の伏見屋の金兵衛は、半蔵の父と同じようにすでに隠居の身であるが、持って生まれた性分しょうぶんからじっとしていられなかった。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
しかし、よくよく性分しょうぶんから算術さんじゅつがきらいとみえて、まったくおぼえこみもせず、すぐにわすれてしまって、なにがなんであったかわからなくなってしまいました。
残された日 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「飲め」傍の二人に聞かすように、「俺だちは、強きをくじき弱きをたすける性分しょうぶんだから、しかたがない」
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「おぬしは拙者の妻だぞということをいい聞かせているのじゃないか。もしお千絵殿、そなたがよく性分しょうぶんをご存じの旅川ですぞ、ムダな足掻あがきや愚痴はおよしなさい」
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一体、安達君は控え目の性分しょうぶんだ。人を突き退けて自分丈け進む気になれない。学校時代には、その為め見す/\遅刻したことがあった。しかし今は出勤だ。遅れては困る。
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
尤も二葉亭は外字新聞を翻訳するにもやはり相当な苦辛をした。如何にドラッジェリーのツモリでもツルゲーネフを外字新聞なみに片附ける事は二葉亭の性分しょうぶんとして出来得なかった。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
それを断ることの出来ない性分しょうぶんなので、そういう場合には、いつも善良な人間のように思われるのであるが、消極的な態度がどうかすると傲慢ごうまんな人間として誤解されることがあるのだ。
秋草の顆 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
いや、そのうえ、ごらんの通り、そこへさらに、ひとつの影をすら、つけてやってあるのです。ずいぶん費用のかかることですが、どうも一風いっぷうかわったことが好きな性分しょうぶんなのでしてね。
自分の性分しょうぶんとしてはあの上我慢ができなかったのだから許してくれとか、人間は他人の見よう見まねで育って行ったのではだめだから、たといどんな境遇にいても自分の見識を失ってはいけないとか
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
いつまでも未練らしく用いていたい性分しょうぶんなのです。
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
それをそばに聞いていた先生は、「本当をいうと、私は精神的に癇性なんです。それで始終苦しいんです。考えると実に馬鹿馬鹿ばかばかしい性分しょうぶんだ」
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「それだ。無器用に生まれついて来たのは性分しょうぶんでしかたがないとしても、もうすこしあれには経済の才をくれたい。」
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「なによりも、殺生せっしょうとかけごとが、大好だいすきだなんて、こまった性分しょうぶんさ。」と、青服あおふくは、自分じぶんをあざけりながら、他人たにんのいやがることをこのむのが、近代的きんだいてきおもいこみ
春はよみがえる (新字新仮名) / 小川未明(著)
と、よく母をなげかせたそのころの、きかない性分しょうぶんあとは、まだ、まざまざと消えきらずにあった。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いや、謹直きんちょくですから、う思ったら然う断らないと気が済まないんです。しかし世渡りには損な性分しょうぶんです。就職の面会に行っても、この調子ですから、採用されっこありません。
嫁取婿取 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
無器用に生まれついて来たのは性分しょうぶんでしかたがないとしても、もうすこし半蔵には経済の才をくれたいッて、旦那が達者たっしゃでいる時分にはよくそのお話さ。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「少しは癒るかも知れないが、元来がんらい性分しょうぶんなんですからね。悲観する癖があるんです。悲観病にかかってるんです」
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ひとの陰口、毀誉褒貶きよほうへん、中傷讒訴ざんそ、これにかかわっていた日にはりがないからである。障子のさんのチリを吹いて、わが目もチリにこすらなければならない。秀吉の性分しょうぶんに合わないことだ。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と先生は諄々じゅんじゅんと説いてくれた。これは勉強しなければ危いという暗示だった。しかし然ういう直接為めになるのには感じがにぶ性分しょうぶんだから仕方がない。間もなく別の暗示が利いてしまったのである。
善根鈍根 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
娘の父は首をって、実を云うと、私も少しうそ性分しょうぶんだが、私のうちのような少人数こにんずな家族に、嘘付うそつきが二人できるのは、少し考えものですからね。と答えた
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
こういうことにくわすと、がんらい、ジッとしていられない性分しょうぶん
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
持って生まれた性分しょうぶんからまくらの上でもじっとしていない人だ。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
多少性分しょうぶんが手伝っていると言え、相手が相手だった。
勝ち運負け運 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)