こころざ)” の例文
そこで、深山木の変死事件があってから、一週間ばかりたった時分、会社の帰りを、私は諸戸の住んでいる池袋へとこころざしたのである。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
茂兵衛 あらましかたがついたら、その時あ親子三人、こころざす方へ飛んで行くのだ。(外から戸をたたく。心張棒をとって振ってみる)
一本刀土俵入 二幕五場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
付近に肥溜こえだめなぞがあって、むろん若様がたの立ち入るところでない。しかし運動にあきた照彦てるひこ様はまもなく正三君をしたがえて、この方面へこころざした。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
いかなる道を世にこころざそうと、いのちを持たで出来ようか。されば、さむらいの、もっとも恥は犬死ということだ。次には、死に下手というものか。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お前も卒業までと思ったろうし、又大学までともこころざしてたろうけれど、人は一日も早く独立の生活を営む方がえことはお前も知って居るだろう。
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
男は正面を見たなり、女は傍目わきめも触らず、ひたすらにわがこころざかたへと一直線に走るだけである。その時の口は堅く結んでいる。まゆは深くとざしている。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
奥の道は、いよいよ深きにつけて、空はいやが上に曇った。けれども、こころざ平泉ひらいずみに着いた時は、幸いに雨はなかった。
七宝の柱 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それゆえ事の面倒にならぬうちわが身一つに罪を背負って死出の旅路をこころざ申候もうしそうろう。何とぞのち回向えこうをたのむとあった。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ゆえに僕は実業にこころざす人に、社会国家をわすれろとは決して言わないけれども、口に出すことだけは遠慮えんりょするほうがよかろうとすすめたいくらいに思っている。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
二郎は昼のうちに弁当を食べ尽して、何か食物たべものを買うところはないかと思って、考えていますと、遠くの方で太鼓の音が聞えているので、早速その方をこころざして道を急ぎました。
迷い路 (新字新仮名) / 小川未明(著)
だれにも一人ひとり守護霊しゅごれいいてることは、心霊しんれいこころざ方々かたがた御承知ごしょうちとおりでございますが、わたくしにも勿論もちろん一人ひとり守護霊しゅごれいいてり、そしてその守護霊しゅごれいとの関係かんけいはただ現世げんせのみにかぎらず
日本人の度量どりょうは、太平洋よりも広いんだ、昔から日本人は海外発展にこころざして、落々らくらくたる雄図ゆうとをいだいたものは、すこぶる多かったのだ、この山田という人は通商つうしょうのためか、学術研究のためか
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
若い頃に画家になろうとこころざした程の、私などが足もとにも近づけない程の、美術に対してすぐれた観照眼かんしょうがんを持っている茂吉であった事を、ずっと後に、思い出して、私は、冷汗ひやあせをかいたことである。
茂吉の一面 (新字新仮名) / 宇野浩二(著)
そこで彼は、未来において地下戦車長をこころざすわけを、係長に話をした。
未来の地下戦車長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
自分のこころざすことはほかにあった。
こころざす道につき進もう、そしてもし一道の芸能のと成り得たら、何十年の後なりと、またお目にかかりましょうと……
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
で、真先まっさきこころざしたのは、城のやぐらと境を接した、ふたつ、全国に指を屈すると云ふ、景勝けいしょうの公園であつた。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
たちまち見る、水ぎわをたどりて、火のかたへと近づきくる黒き影あり。こは年老いたる旅人なり。彼は今しも御最後川を渡りて浜にで、浜づたいに小坪街道へとこころざしぬるなり。
たき火 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
おおやけの事に奔走すれば野心家とうたがわれ、老後他人の厄介やっかいになるまいと貯蓄ちょちくこころざせば吝嗇奴りんしょくどあなどられ、一挙手きょしゅ、一投足とうそく、何事にしても、吾人ごじんのする事なす事につき非難をさしはさむことのなきものはない。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
長崎も居留地きょりゅうちを見なければ貿易港気分は味わえないとあって、先ず大浦へとこころざした。電車道へ出ると間もなく洋館の並んだ海岸を一直線に走って、長崎ホテルのところから又直ぐに引き返した。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
二人ふたりっているふねは、その夕焼ゆうやけのほうしてすすみました。そして、おおくの日数ひかずてから、ついにふねは、みなみこころざしたくにみなときました。おとこは、さっそく霊薬れいやくおうさまにけんじたのであります。
木と鳥になった姉妹 (新字新仮名) / 小川未明(著)
山田やまだ君と君川きみかわ君という大学生が、やはり三角岳をこころざして登っていった。
超人間X号 (新字新仮名) / 海野十三(著)
汚れた萌黄もえぎ裁着たッつけに、泥草鞋どろわらじの乾いたほこりも、かすみが麦にかかるよう、こころざして何処どこく。はやその太鼓を打留うちやめて、急足いそぎあしに近づいた。いずれも子獅子の角兵衛かくべえ大小だいしょう
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
けれど、人に愛をおしえ、不遇ふぐうな子の友だちとなり、人に弓矢ゆみや鉄砲てっぽういがいの人生をさとらせようとこころざしている自分が、その刀をたのみにしたり、その殺生せっしょうをやったりしてはならない。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、トムきちは、こころざまちほうかってあるいていきました。
トム吉と宝石 (新字新仮名) / 小川未明(著)
愈々計画の実現にこころざしたのであった。
電気風呂の怪死事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
……鷁首げきしゅの船は、其の島へこころざすのであるから、竜の口は近寄らないで済むのであつたが。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
我が散策子は、其処そここころざして来たのである。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)