影法師かげぼうし)” の例文
すると、金色の骨ぐみは、まったくかくれてしまって、そこには、まっ黒な三つの影法師かげぼうしのようなものが、立っているばかりでした。
怪奇四十面相 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「白鳥の歌」の十四曲中、「アトラス」「都会」「セレナード」「いこいの地」「海辺にて」「影法師かげぼうし」などはわけても珠玉的である。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
が、どちらが正体しょうたいでどちらが影法師かげぼうしだか、その辺の際どい消息になると、まだ俊助にははっきりと見定めをつける事がむずかしかった。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
赤道直下せきどうちょっかだから正午には太陽は頭のま上にあるのだ。筏の上に立つと影法師かげぼうしが見えない。よく探して見れば、影法師は足の下にあるのだ。
恐竜島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
さっきのようなことがたびたび続いたら——と、彼女はうしろの壁に映る自分の痩せた影法師かげぼうしを思わず見返らねばならなかった。
両国の秋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「何を言ってるんだい。何がばかなことなんだい。影法師かげぼうしを踊らせようとするのが、何がばかなことなんだい。おもしろいことじゃないか」
影法師 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
袈裟けさをはずしてくぎにかけた、障子しょうじ緋桃ひもも影法師かげぼうし今物語いまものがたりしゅにも似て、破目やれめあたたかく燃ゆるさま法衣ころもをなぶる風情ふぜいである。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
黄金色きんいろのお日さまの光が、とうもろこしの影法師かげぼうしを二千六百寸も遠くへ投げ出すころからさっぱりした空気をすぱすぱ吸って働き出し、夕方は
カイロ団長 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
何度も、何度も、墨江は更科の二階のを振りあおいだ。そこの障子には、大勢の影法師かげぼうししていて、時々、笑いくずれる声が往来まで流れてくる。
死んだ千鳥 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この自分のほうを目ざしてやって来る大きな影法師かげぼうしが人間であるはずがなかった——わたしのまだ知らないなにかのけものか、またはおそろしい大きな夜鳥か
それから、じぶんの影法師かげぼうしも、じぶんのするとおりに、一しょにおどり上ったり、走ったりしてついて来ました。男の子にはそれがゆかいでたまりませんでした。
岡の家 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
部屋へやの中は、障子しょうじも、かべも、とこも、ちがいだなも、昼間のように明るくなっていた。おばあさまの影法師かげぼうしが大きくそれにうつって、怪物ばけものか何かのように動いていた。
火事とポチ (新字新仮名) / 有島武郎(著)
月夜になるとな、蟹は馬鹿じゃせに、わがの影法師かげぼうしをおけかと思ってびっくりして、やせるんじゃ。やみ夜になると、影法師がうつらんさかい、安心してみがつくんじゃど。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
自分の意気地なさ、だらしなさ、情けなさが身にしみ、自分の影法師かげぼうしまで、いやになって、なんにも取縋とりすがるものがないのです。星影あわき太平洋、意地のわるい黒い海だった。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
田圃の中の俗に言う竹屋敷に卍の富五郎が女房と一緒に潜んでいることを嗅ぎ出したのが浅草馬道の目明し影法師かげぼうしの三吉、昨夜子の刻から丑へかけて、足拵えも厳重に同勢七人
そうだ、ぼくの影法師かげぼうし、おまえはそんなふうにして、一働ひとはたらきしてきてもらいたいものだ。
車の動揺どうようのために、ともすると、よろけそうになるのを、じっとふみこらえて、ランプをかたすみにさしつけると、大きな大入道おおにゅうどうのような影法師かげぼうしがうしろのいたかべにいっぱいうつった。
くまと車掌 (新字新仮名) / 木内高音(著)
若者の背後はいごには何ものにもまさって黒いかれ影法師かげぼうしが、悪魔あくまのように不気味な輪廓りんかくをくっきり芝生の上にえがいていた。老人は若者の背後にまわってそのかげのはしを両足でしっかりふまえた。
おしどり (新字新仮名) / 新美南吉(著)
花ならば海棠かいどうかと思わるる幹をに、よそよそしくも月の光りを忍んで朦朧もうろうたる影法師かげぼうしがいた。あれかと思う意識さえ、しかとは心にうつらぬ間に、黒いものは花の影を踏みくだいて右へ切れた。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
すくみ行くや馬上に氷る影法師かげぼうし 芭蕉
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
ロマンチックな蝋燭の光が、その静脈から流れ出したばかりの血の様にも、ドス黒い色をした垂絹の表に、我々七人の異様に大きな影法師かげぼうしを投げていた。
赤い部屋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
自分たちの墨絵すみえ影法師かげぼうしが、へいからぬけ出して踊りはねるというんですから、待ちきれませんでした。翌朝は早くから眼をさまして、皆誘い合わせました。
影法師 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
日が強くるときは岩はかわいてまっ白に見え、たてよこに走ったひびれもあり、大きな帽子ぼうしかむってその上をうつむいて歩くなら、影法師かげぼうしは黒くちましたし
イギリス海岸 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
さもなければざっとうのちまたが安全だった。そこでは影法師かげぼうしのことなんか誰も注意していないから。
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
あなたはおそらく、ゆめにもわたしが、このような安らかなきょうぐうにいようと、お考えになったことはありますまいな。あなた、ごじぶんのむかしの影法師かげぼうしをお見忘れですか。
夜はいよいよ暗かったが、この黒い影法師かげぼうしは星明かりにはっきりと見えた。
小鳥が鳥もちからはなれようとするように、若者わかものは手足をばたばたやって努力どりょくした。そして満身に鉄のような力をこめて、やっと一足歩いたとき、若者はその影法師かげぼうしからはなれることができた。
おしどり (新字新仮名) / 新美南吉(著)
私は黒い影法師かげぼうしのようなKに向って、何か用かと聞き返しました。Kは大した用でもない、ただもう寝たか、まだ起きているかと思って、便所へ行ったついでに聞いてみただけだと答えました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
放して退すさると、別に塀際へいぎわに、犇々ひしひしと材木のすじが立って並ぶ中に、朧々おぼろおぼろとものこそあれ、学士は自分の影だろうと思ったが、月は無し、つ我が足はつちに釘づけになってるのにもかかわらず、影法師かげぼうし
木精(三尺角拾遺) (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
影法師かげぼうしかもしれなかった。玄関の電燈の下を誰かが通って、その影が映ったのではないかと、大急ぎで曲がり角からのぞいてみたが、人のけはいはない。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
影法師が一晩のうちにへいいっぱいに大きくなるなんて、そんなことがあるものか。その男が塀をまっ黒に塗りつぶして、皆の影法師かげぼうしをなくしてしまったのだ。
影法師 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
「しゅ、もどれったら、しゅ、」雪童子がはねあがるようにしてしかりましたら、いままで雪にくっきり落ちていた雪童子の影法師かげぼうしは、ぎらっと白いひかりに変り
水仙月の四日 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
文六ちゃんの屋敷の外囲いになっているまき生垣いけがきのところに来ました。戸口どぐちの方の小さい木戸をあけて中にはいりながら、文六ちゃんは、じぶんの小さい影法師かげぼうしを見てふと、ある心配を感じました。
(新字新仮名) / 新美南吉(著)
眼をななめにするとやっと二人の影法師かげぼうしが見えるくらいに近づいた。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「あなたの影法師かげぼうしを、よく見てごらんなさい」
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その横あるきと、底の黒い三つの影法師かげぼうしが、合せて六つおどるようにして、やまなしの円い影を追いました。
やまなし (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
顔も黒い覆面ふくめんで、かくしていた。暗闇の中へ影法師かげぼうしみたいなやつが、ヌーッとはいってきたんだよ。
夜光人間 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
兵十の影法師かげぼうしをふみふみいきました。
ごん狐 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
お日さまの黄金色きんいろの光は、うしろの桃の木の影法師かげぼうしを三千寸も遠くまで投げ出し、空はまっ青にひかりましたが、誰もカイロ団に仕事をたのみに来ませんでした。
カイロ団長 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
ただ、ちょっと気になるのは、廊下をさまよい、トラックのまわりをうろついたという、例の怪しい影法師かげぼうしであったが、それもこうして車が走り出してしまえばなんの事もない。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
タネリは、青い影法師かげぼうしといっしょに、ふらふらそれを追いました。かたくりの花は、その足もとで、たびたびゆらゆら燃えましたし、空はぐらぐらゆれました。
三十分あまりしんぼうしてみはっていますと、警官が通りすぎるすきを待っていたように、片桐さんの門の中から黒い影法師かげぼうしが四人、ひとかたまりになって、いそぎ足に出てきました。
仮面の恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その秋風の昏倒こんとうの中で私は私のすずいろの影法師かげぼうしにずいぶん馬鹿ばかていねいなわかれの挨拶あいさつをやっていました。
インドラの網 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
春のある夕方のこと、須利耶すりやさまはかりから来たお子さまをつれて、町を通ってまいられました。葡萄ぶどういろのおもい雲の下を、影法師かげぼうし蝙蝠こうもりがひらひらと飛んでぎました。
雁の童子 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
(ぼくは立派りっぱ機関車きかんしゃだ。ここは勾配こうばいだからはやいぞ。ぼくはいまその電燈でんとうを通りす。そうら、こんどはぼくの影法師かげぼうしはコンパスだ。あんなにくるっとまわって、前の方へ来た)
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
ことに一番いいことは、最上等さいじょうとうの外国犬が、むこうから黒い影法師かげぼうし一緒いっしょに、一目散いちもくさんに走って来たことでした。じつにそれはロバートとでも名のきそうなもじゃもじゃした大きな犬でした。
イギリス海岸 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
そうそう、どちらもまだ挨拶あいさつを忘れていた。ぼくからさきにやろう。いいか、いや今晩は、野はらには小さく切った影法師かげぼうしがばらきですね、と。ぼくのあいさつはこうだ。わかるかい。
かしわばやしの夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
悪い事をしたものなら頭の上に黒い影法師かげぼうしが口をあいているからすぐわかる。お星さま方。こちらへおで下さい。王の所へご案内申しあげましょう。おい、ひとで。あかりをともせ。こら、くじら。
双子の星 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
みんなの影法師かげぼうしが草にまっ黒に落ちました。