引窓ひきまど)” の例文
ただ一人暇を取らずにいた女中が驚きめて、けぶりくりやむるを見、引窓ひきまどを開きつつ人を呼んだ。浴室は庖厨ほうちゅうの外に接していたのである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
ふらふらと引窓ひきまどの下へ行ったのである。夕方の星が、四角な狭い口から白っぽく見えた。春作は、引窓の綱にすがって、泥竈へっついの上に乗った。
魚紋 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やすんじけりさるにてもいぶかしきは松澤夫婦まつざはふうふうへにこそ芳之助よしのすけ在世ざいせときだに引窓ひきまどけぶりたえ/″\なりしをいまはたいかに其日そのひ
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
見て汝は何者なるやわれ今宵こよひ此質屋へ忍び入り思ひのまゝぬすまんといま引窓ひきまどより這入はひりたるに屋根にて足音あしおとする故不思議ふしぎおも出來いできたりたり汝聲を立てなば一うちこほりの如きやいば
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
馬に乗ったいきおいで、小庭を縁側えんがわ飛上とびあがって、ちょん、ちょん、ちょんちょんと、雀あるきにひらきを抜けて台所へ入って、おへッついの前を廻るかと思うと、上の引窓ひきまどへパッと飛ぶ。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「むむ。おめえは鼻利きだ。酒の匂いは新らしい。第一、これは女中部屋だ。ここで酒をのむ者はあるめえ。このあいだの奴らがここに集まっていたに相違ねえ。まあ、引窓ひきまどをあけてみろ」
半七捕物帳:41 一つ目小僧 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
臺所だいどころれば引窓ひきまどから、えんてば沓脱くつぬぎへ、見返みかへれば障子しやうじへ、かべへ、屏風びやうぶへかけてうつります。
三人の盲の話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
思ひ我が亡跡なきあととふらくれよ此外に頼み置事おくことなし汝にひしも因縁いんえんならん疾々とく/\見付られぬうち歸るべし/\我はいま仕殘しのこしたる事ありと云ひつゝまた引窓ひきまどよりずる/\と這入はひ質物しちもつ二十餘品を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
留守るすにはかぜ吹募ふきつのる。戸障子としやうじががた/\る。引窓ひきまどがばた/\とくらくちく。
夜釣 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
來りしやまづ此方こなた這入はいられよと云ふに初瀬留は御免成ごめんなされと戸口を入り漸々やう/\むね撫下なでおろし餘りの御懷おなつかしさに今宵こよひくるわ逃亡かけおちして此處へ來りしと物語ものがたりなど彼是なす中程なく夜もあくるにぞ喜八は起出おきいで引窓ひきまど
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
もしびれたか、きゆつときしむ……水口みづくちけると、ちやも、かまちも、だゞつぴろおほきなあな四角しかくならべて陰氣いんきである。引窓ひきまどす、なんかげか、うすあかりに一目ひとめると、くちびるがひツつツた。
夜釣 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
轆轤首ろくろくびさ、引窓ひきまどからねてる、見越入道みこしにふだうがくわつとく、姉様あねさまかほ莞爾につこりわらふだ、——切支丹宗門キリシタンしうもんで、魔法まはふ使つかふとふて、おしろなかころされたともへば、行方知ゆくへしれずにつたともふ。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
手場でばめにして、小家こや草鞋わらぢでもつくればいゝが、因果いんぐわうは断念あきらめられず、れると、そゝ髪立がみたつまで、たましひ引窓ひきまどからて、じやうぬましてふわ/\としろ蝙蝠かはほりのやうに徉徜さまよく。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)