年貢ねんぐ)” の例文
『ム……。こいつあたしかに、坊主の鉄雲てつうんだ。あのにせ和尚も、ずいぶん悪事をかさねたから、もう年貢ねんぐにかかってもいい頃だろう』
魚紋 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
僕は君が知っている通り、松江しょうこうに田を持っている。そうして毎年秋になると、一年の年貢ねんぐを取り立てるために、僕自身あそこへくだって行く。
奇遇 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「出ますよ、出ますよ、どうせ一度は納めなくっちゃならねえお年貢ねんぐですからね。大きにご苦労でござんした。へえい。さ、ご自由に——」
させるのは親の本意と思はねど身に替難かへがた年貢ねんぐ金子かねゆゑ子にすくはるゝのも因果いんぐわなり娘のつとめは如何ならんさぞ故郷こきやうの事を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
私の物はとられましてもうございますが、その中に代官所へ納める年貢ねんぐかね、三貫目といふものを盗み取られました、常が常でございますから
年貢ねんぐの納め時というにしちゃ、大したこともしちゃいねえのにと、俺だってくやしかったが、じたばたするのはやめた。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
……おい、仙波、永らくすっ恍けていやがったが、今度こそは年貢ねんぐの納めどき、昔のよしみで、この藤波友衛が曳いて行ってやる。観念してお繩をいただけ
顎十郎捕物帳:16 菊香水 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
与右衛門は村の名主で、年貢ねんぐ金を横領したとか云う捫著もんちゃくから、その支配内の百姓十七人が代官所へ訴え出ましたが、これは百姓方の負け公事くじになりました。
半七捕物帳:61 吉良の脇指 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「いかにもわしは中村だ。きさまも、とうとう年貢ねんぐをおさめるときがきたようだね。つまらない虚勢をはらないで、神妙しんみょうにして、最後を清くするがいい。」
少年探偵団 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
どんな腕の出來る人間でも、惡業あくごふが積めば年貢ねんぐを納める時が來るものだ、——俺はきつと辻斬野郎を縛つて見せる。年寄や女子供まで斬つて歩くやうな野郎を
しかし、今度こそは一世一代……これで年貢ねんぐを納めるか、引退して余生を楽しみ得るか、という千番に一番。
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
どうせ一二年辛い年貢ねんぐを納めると、また舞いもどって二度のお勤め、今晩は——と例のあでやかな声が聞かれるだろうから、今からおなじみの方々はその時を
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
年内人馬賃銭の内より宿助成としての刎銭はねせん何ほどということから、お年貢ねんぐ高割たかわりとして取り集めの分何ほど
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
小作人こさくにんには、やかましく年貢ねんぐてるし、それでもりないので、鉱山こうざんや、相場そうばでもうけようとして、かえって、すっかり財産ざいさんくしてしまい、いえも、土地とち
武ちゃんと昔話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
勿論、京都宮廷をとりまく貴紳の子弟であるから、官位の昇進を他所よそに見て、いわゆる世を捨てたところで、荘園しょうえんからあがる年貢ねんぐは何のかわりもなく生活を支えてくれる。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
「女が好きだったらしいな。お前も、そろそろ年貢ねんぐのおさめ時じゃねえのか。やつれたぜ。」
グッド・バイ (新字新仮名) / 太宰治(著)
始終額に汗を光らしていて、乾分として年貢ねんぐ集めを勤めるのを精一ぱいにしている若者です。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
この商売をなすには莫大の費えなれども、政府には米もなく金もなきゆえ、百姓・町人より年貢ねんぐ運上うんじょうだして政府の勝手方をまかなわんと、双方一致のうえ相談を取り極めたり。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
年貢ねんぐ苛斂かれんだったためと、解せられたのにも根拠はあるが、今一つの理由は、是が本来はれの日の食物であったことで、年に幾度の節日祭日、もしくは親の日・身祝みいわい日だけに
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
糠雨ぬかあめ朧夜おぼろよに、ちひさ山廓さんかくほこらまへやぶみののしよぼ/\した渠等かれら風躰ふうてい、……ところが、お年貢ねんぐ、お年貢ねんぐ、ときこえて、未進みしん科条くわでう水牢みづらうんだ亡者もうじやか、百姓一揆ひやくしやういつき怨霊おんりやうか、とおもく。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
年貢ねんぐのおさめどきがきた。どうでも勝手にしてくれ。」
出代や父が年貢ねんぐのとゞこほり 吾空ごくう
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
槐橋かいきょう先生といえば、はれもの患者もなおしなすったが、ずいぶん、女遊びや極道ごくどうもやり尽しなすったはず。ここらが年貢ねんぐの納めどきですぜ。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
つかひし事必らず口外こうぐわいなすべからずと吉平へもかた口止くちどめして濟し居たりしがたれる者もなく其年もはや十二月となりて追々おひ/\年貢ねんぐの上なふ金を下作したさくよりあつめけるを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
丁度其日は年貢ねんぐを納めると見え、入口の庭にむしろを敷きつめ、堆高うづだかく盛上げたもみは土間一ぱいに成つて居た。丑松は敬之進を助け乍ら、一緒に敷居を跨いで入つた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「逃したわけぢやない、昨夜のうちに逃げてしまつたのだよ、いづれは何處かで年貢ねんぐを納めるだらう」
「こいつには困った、まだまだ俺もここいらで年貢ねんぐを納めたくはねえのだが……」
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
しかし、ただじゃ年貢ねんぐを納めねえんだ。ひょっくり右門。これでもくらえッ
「そうだよ。きみたちも、もう年貢ねんぐの納めどきだからね」
影男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「帰ったらよくいっておけよ。俺の眼をぬすんでは、こそこそかせいでいるそうだが、そのうちに、年貢ねんぐを取りにゆくぞと」
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
本陣問屋庄屋の三役を勤めるに必要な公用の記録から、田畑家屋敷に関する反別たんべつ年貢ねんぐ掟年貢おきてねんぐなぞをしるしつけた帳面のたぐいまでが否応いやおうなしに半蔵の前に取り出された。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
浮川竹うきかはたけとやらへおしづめ下されいさゝかにてもお金にかへらるゝ物ならば此身は何樣いかやう艱難かんなんを致し候も更々さら/\いとひ申さねば何卒此身を遊女いうぢよに御賣成うりなされ其お金にて御年貢ねんぐをさめ方を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「さうと知つたら、逃げるんだつた。手前てめえの話に釣られて、到頭年貢ねんぐを納めさせられるよ」
百姓の年貢ねんぐはとり放題、領内のいい女は食い放題——わしらが覚えてからでも、あの親玉の手にかかった女が……ええと、まずガンショウ寺のあのお嬢さんなあ、それからトーロク屋の女房
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「きびしいと申すは、年貢ねんぐの取立てでござるか」
「おふたりとも、もう年貢ねんぐの納めどきですよ」
影男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
どうせ、末には、年貢ねんぐの納めが来るものと覚悟をしている九兵衛、同じことなら男らしく、大きな博奕ばくちを打ってみたいのさ
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
他の金利を見るような地主とは比較にもならないほどゆるやかな年貢ねんぐを米で受け取ることになっていたが、どこの裏畠とか、どこの割畠とか、あるいはどこの屋敷地とかも
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
私も年貢ねんぐや借金やらがかさんで、散々苦しんだ時でもあり、たつた一人の伜ですが、ツイ奉公に出す氣になりました。どうせ家へ置いたところで、百姓仕事の出來る伜でもございません。
わが子たちへも、多年の父らしからぬ行いを謝しました。領民には、来る年より、年貢ねんぐを下げるつもりでおりまする。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
麦は矢張小作の年貢ねんぐの中に入って、夏の豆、蕎麦そばなぞが百姓の利得に成るとのことであった。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
お百姓は小田原在の水右衞門といふ、日本一の正直者さ。御領主大久保加賀守樣御屋敷に屆ける村の年貢ねんぐの金が百兩、それを取られて思案に餘り、昨夜ゆふべ兩國橋からドブンとやらうとしたところを
「えらく今日は行儀がいいなあ。なあに、寺でも食いきれない菜園だ。適度には持ってゆけ、持ってゆけ。その代りちょいちょい、わが輩へのお年貢ねんぐを忘れるなよ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「大久保樣ではそんな事は知らないといふことですよ。殿樣は御在國だし、年貢ねんぐや公金なら小田原で扱ふ筈だから、領地の百姓が江戸屋敷へ百兩ばかりの小金を持つて來る筈はないといふんで」
「どうもまだわたしも、お年貢ねんぐの納めどきが来ないと見えますよ。」
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「おお、ちげえねえ、高毬だ。かわいそうに、こうも、とうとう年貢ねんぐの納めどきに会いやがったぜ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
辰さんは年貢ねんぐを納める日だから私に来て見ろと言ってくれた。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
一 当座、よねと塩とを与うべし。後日には、かまど年貢ねんぐ、一年ゆるしあるべし。家失いたる者には御合力のお沙汰あるべし。いち、この夏より立つべし。盆には、踊りあるべし。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あいと煙草の年貢ねんぐ金として、蜂須賀様へ納めなければならない急場に持って帰る途中なので、国元で、首を長くして待っている主人へ、どうにも顔向けがならないので……と
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
筒井つつい入道定次さだつぐの所領であったものを、家康が没取して、これを藤堂とうどう高虎に与え、その藤堂藩は、昨年、入部してから、上野城を改築し、年貢ねんぐの改租やら治水やら国境の充実やら
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)