天辺てっぺん)” の例文
旧字:天邊
頭の天辺てっぺんから足の爪先まで、極端な派手ずくめの低級趣味で男を引き付けた。その女達特有の毒悪な安香水は千束町香水と呼ばれた。
東京人の堕落時代 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
「いや、こんなところじゃない、わしは、ずっと前から思いついていたのじゃ、ほれ、大菩薩峠の天辺てっぺんへ持って行って立てるつもりだ」
実際この学生は、今し方まで地上にいたかと思うと、たちまちにして胡桃くるみの木の天辺てっぺんに上っているようなことが度々たびたびあったのだ。
道筋の藁葺わらぶきの家が並んでいる。それが皆申合せたように屋根という屋根に天辺てっぺんに草を生やし、中には何か花の咲きかけているのもあった。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
人待石にやすんだ時、道中の慰みに、おのおの一芸をつかまつろうと申合す。と、鮹が真前まっさきにちょろちょろと松の木の天辺てっぺんって、脚をぶらりと
瓜の涙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
裏通りをへだてて向う側に高いゴシック式の教会の塔がある。その塔の灰色に空を刺す天辺てっぺんでいつでも鐘が鳴る。日曜はことにはなはだしい。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
頭の天辺てっぺんの薄くなった亭主が、あか延片のべぎれを型へ入れて巻いている。すると、櫛巻の女房が小さい焼鏝やきごてを焼いて、管の合せ目へ、ジューとハンダを流す。
世間師 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
その上には美しい羊歯しだ躑躅つつじが一面に生え、天辺てっぺんには枝ぶりの面白い、やせた松が一本生えていた。岩には洞穴があり、その入口の前には小さな池があった。
あくる朝とても早く眼を覚ますと、さっそく顔を洗い、水をしませた海綿で頭の天辺てっぺんから足の爪先までからだをよくぬぐった——これは日曜日にだけすることであったが
空がよく晴れて十三日の月がその天辺てっぺんにかかりました。小吉が門を出ようとしてふと足もとを見ますと門の横の田のくろ疫病除やくびょうよけの「源の大将」が立っていました。
とっこべとら子 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
お登女さまの方へ頭の天辺てっぺんを向け、肱枕ひじまくらをして、北側にある小窓の外を眺めていた。杉林の木の間越しに遠くずっと高く、残雪のある峰がほんの僅かばかりのぞいていた。
似而非物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
中にも薄気味の悪い、最もあくどい奴は口をおッぴろげて笑っていやがる。乃公は頭の天辺てっぺんから足の爪先つまさきまでひいやりとした。解った。彼らの手配がもうチャンと出来たんだ。
狂人日記 (新字新仮名) / 魯迅(著)
あたい達は屋根のない火車かしゃに乗って、山の天辺てっぺんや、谷底や、猿の沢山いる所を通って、随分遠くまでやって来たんだ……だまされたんだ……騙されたんだ……兄さん、口惜くやしい
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)
小手をかざして塔の上の方を見上みあげるならば、五重塔の天辺てっぺん緑青ろくしょうのふいた相輪そうりんの根元に、青色の角袖かくそでの半合羽を着た儒者の質流れのような人物が、左の腕を九りんに絡みつけ
平賀源内捕物帳:萩寺の女 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
孤立した山頂の天辺てっぺんにある観測所で、人家からは、どの道を採っても二近くはある。そういう隔絶した地点にある建物のこととて、泥棒にはいる気になれば、極めて容易である。
硝子を破る者 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
デメッティの記念碑は礼拝堂のような恰好かっこうをして、天辺てっぺんには天使の像がついていた。
イオーヌィチ (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
支線を派して、谷へ走りこみ、その谷の向うには、赤沢岳が聳えて、三角測量が、天辺てっぺんにつんとしている、これから尾根伝いに行かれるはずの小槍ヶ岳(中の岳)には、雪が縦縞に
谷より峰へ峰より谷へ (新字新仮名) / 小島烏水(著)
彼は舷檣の天辺てっぺんにむかって飛んだ。それから再び飛ぶと、彼はすでに氷の上にあって、かの蒼白い朦朧たる物の足もとに立ったのである。彼はそれを抱くように両手をと差し出した。
仲通り一帯の多くの建物にははいり口が沢山ついていて、そして或会社なり事務所なりは、天辺てっぺんの部屋までその会社や事務所で占領して、ほかとは全然区別していなければ通用しなかった。
丸の内 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
まるで、エッフェル塔の天辺てっぺんこうのとりが巣をかけたようね。
遊星植民説 (新字新仮名) / 海野十三(著)
うしろからその兜の天辺てっぺんへ斬りつけた者があった。
(新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
頭の天辺てっぺんから足の爪先まで新聞の興味に満ちた人だから、多少が気に入らないようだった。堀尾君は拙いことを言ってしまったと思って
負けない男 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
信州戸隠山とがくしやまの奥の院というのは普通の人の登れっこない難所だのに、それを盲目めくら天辺てっぺんまで登ったから驚ろいたなどという。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
まあまあ、いとぐちから引き出して話をする。そもそも兄貴とおれとが、甲府のお城のお天守の天辺てっぺんでしたあのいたずらから事の筋が引いてるんだ。
たまらない痛みがズキンと頭の天辺てっぺんまで響いたが、その拍子にまたも烈しい咳があとからあとから出て来て、往来の物音も何も聞こえなくなった。
童貞 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
幇間たいこもちが先へ廻って、あの五重の塔の天辺てっぺんへ上って、わなわな震えながら雲雀笛ひばりぶえをピイ、はどうです。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼等はこの高い丘を、その禿げた天辺てっぺんまで登ろうという、大した意気込みで家を出たのであった。
そこで洋服の紳士(各事務室の重役連中は天辺てっぺん(九階)の西洋料理の方に天上するのだそうで、各階からここに天下るのは、主に雇人即ち洋服細民の部に属するということを誰かから聞いた。
丸の内 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
夢のように彷徨さまよい、また消えようとするとき、二、三分の間、雪の高嶺に、鮮やかな光がって、山の三角的天辺てっぺんが火で洗うように耀かがやく、山は自然の心臓かられたかと思う純鮮血色で一杯に染まる
雪の白峰 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
赤ん坊の時、猿に抱かれて天辺てっぺんまで登った木だ。当人の正晴君は知らないが、十ばかり年上の玉男さんはその折の大騒ぎを能く覚えている。
負けない男 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
禿げた側面は巨人のおのけずり去ったか、鋭どき平面をやけに谷の底にうずめている。天辺てっぺんに一本見えるのは赤松だろう。枝の間の空さえ判然はっきりしている。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかも五十近くになって頭の天辺てっぺんがコッ禿げて来ているのに恋愛小説なんかアホらしくって読む気になれない。
私の好きな読みもの (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「変ったどころではございません、今ここで煙草の火をつけて、霧が捲くから用心しろとおっしゃったかと思うと、もう二十八丁目の天辺てっぺんへ飛んで行ってしまいました」
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
この丘の頂上は、とがった峰でもなく、大きな円味まるみを持った天辺てっぺんでもなく、かなり広い平地、つまり高台になっていて、少し向うの方に、納屋なやのある家が一軒建っていた。
吃驚びっくりしたですだ、お前ん……ただりゃ袖も擦合すりあうけれども、手を出すと、富士の山の天辺てっぺんあたりまで、スーと雲で退かれたで、あっと云うと俺、尻餅をいたですが。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
西暦一千九百二年秋忘月忘日白旗を寝室の窓にひるがえして下宿の婆さんに降を乞うや否や、婆さんは二十貫目の体躯たいくを三階の天辺てっぺんまで運び上げにかかる
自転車日記 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
此処へ来たら五重の塔へ登るものだとあって、埃だらけの材木の間を息の切れるほどくぐった末、天辺てっぺんから花曇りと煤煙に鬱陶うっとうしそうな大都会を見渡した。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
その前に並べた酒袋しゅたいの座布団と、吉野春慶しゅんけい平膳ひらぜん旅籠はたごらしくなかった。頭の天辺てっぺん桃割ももわれを載せて、鼻の頭をチョット白くした小娘が、かしこまってお酌をした。
斬られたさに (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「三重の塔の天辺てっぺんにいるんだよ、月がいいからおいでよ」「待っておいで」——そこで弁信が
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
味方の砲弾たまでやられなければ、勝負のつかないようなはげしいいくさ苛過つらすぎると思いながら、天辺てっぺんまでのぼった。そこには道標どうひょうに似た御影みかげ角柱かくちゅうが立っていた。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そしてとうとう一番天辺てっぺんまで来ると、小僧は鳥のように隣りの木の枝へ飛び移って、スルスルと地面へすべり降りて砂原へ来て、十三人の子供を船に乗せて帆を揚げた。
猿小僧 (新字新仮名) / 夢野久作萠円山人(著)
そんならほんとうに棒の天辺てっぺんへ刃物をくっつけるぞ、さあこれだ、これをちゃあんと棒の先へつけて槍に組み立てるように仕掛が出来てるんだ、これで突いたら命はねえんだからなそう思え
うです。それでも天辺てっぺんと両側に未だ相応残っていましたよ。伸しさえすれば何うにかなると思って待っていると、漸くのことで少将に進級しました。しかし大佐と少将の間が長過ぎたのですな。
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
この亭主はひたいが長くって、はすに頭の天辺てっぺんまで引込ひっこんでるから、横から見ると切通きりどおしの坂くらいな勾配こうばいがある。そうして上になればなるほど毛がえている。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
何が出たのかと言えば、真紅まっか提灯ちょうちんがたった一つ、お城の天守の屋根の天辺てっぺんでクルクル廻っているのであります。大方、提灯だろうと思われるけれども、それとも天狗様の玉子かも知れない。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
私にはそれが何の意味だか解りませんでしたが、別に聞き返す気も起らずに、とうとう天辺てっぺんまでのぼりました。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
春先はるさき弁当でも持ってあそびに来るには至極しごく結構だが、ところが満洲だけになお珍らしい。余は痛い腹をおさえて、とうとう天辺てっぺんまで登った。するとそこに小さなびょうがあった。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
牢屋に似た箱ののぼりつめた頂点は、小さい石山の天辺てっぺんであった。そのところどころに背の低い松がかじりつくように青味を添えて、単調を破るのが、夏の眼にうれしく映った。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
台所のひさしから家根やねに飛び上がる方、家根の天辺てっぺんにある梅花形ばいかがたかわらの上に四本足で立つ術、物干竿ものほしざおを渡る事——これはとうてい成功しない、竹がつるつるべって爪が立たない。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかしその丸い顔を半分かたぶけて、高い山の黒ずんで行く天辺てっぺんを妙にながめた時は、また可愛想かわいそうになった。それからまた少し物騒になった。なぜ物騒になったんだかはちょっと疑問である。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)