さむらい)” の例文
人道なる思想が少数の先覚者に現われて彼らはいわゆるさむらいとなって、その後武士の階級が起り以て武士道が鼓吹されたものであろう。
平民道 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
申しては畏れ多うござりますが、わたくしも監物けんもつも、また家中の心あるさむらいは皆、御奉公がいのない暗君と、嘆かぬものはありませぬ。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
安藤謹んで曰く、今日蘆原あしはらを下人二三人召連通めしつれとおり候処、蘆原より敵か味方かととい、乗掛見れば、さむらい一人床机に掛り、下人四五人ならび居たり。
大阪夏之陣 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
宗右衛門はまだ七歳のせんに読書を授け、この子が大きくなったならさむらい女房にょうぼうにするといっていた。銓は記性きせいがあって、書を善く読んだ。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
さむらいは、つばを売り、女は、かんざしを売って献金し、十三ヶ月に渡って、食禄が頂戴できないまでに窮乏してしまった。そして、彼は隠居をした。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
そこは昔のさむらいの屋敷跡のように思えた。畑とも庭ともつかない地面には、梅の老木があったり南瓜かぼちゃが植えてあったり紫蘇しそがあったりした。
城のある町にて (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
「同役(といつも云う、さむらいはてか、仲間ちゅうげんの上りらしい。)は番でござりまして、唯今ただいま水瓶みずがめへ水を汲込くみこんでおりまするが。」
朱日記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
むかし南部藩に相馬大作というえらい鼻曲りのさむらいがいて、「南部の鮭で鼻曲り」というのはそれからはじまった地口だと講談で読んだことがあるが
南部の鼻曲り (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
これは維新前のさむらいの道中などを想像したもので、五月雨のため合羽をて歩いていると、刀が定めて突張るであろうというところから出来た句である。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
っかさんが金を出して内済ねいせいにしようというと、さむらいに内済はねえって、取っても付けねえ処だから、今お前さんが顔を出すとすぐに斬り掛けるにちげえねえ
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
金貸をして利息を取りながら親分肌を見せては段々と自分の処へ出入するさむらいどもを手なずけてついに伊豆相模に根を下し、それから次第に膨脹ぼうちょうしたのである。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
今の母はやはりれっきとしたさむらいの家から来たりしなれど、早くより英国に留学して、男まさりの上に西洋風のみしなれば、何事も先とは打って変わりて
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
馬喰町といっても彼女の片着いたのはさむらい階級で、土地や家作で裕福に暮らしており、民子の良人おっとも学校出であったところから予備少尉として軍籍にあった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
八十人あまりのおもに薩摩のさむらいが二階と階下とに別れて勢揃せいぞろいしているところへけつけてきたのは同じ薩摩なまりの八人で、鎮撫ちんぶに来たらしかったが、きかず
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
警固のさむらいは驚いて一方の男を捕えようとすると、その男の体は鳶になってばたばたと縄を解いて空にあがり、ひろ、ひろ、ひろと鳴きながらその上を舞っていたが
幻術 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
さむらいの血の流れている心は、僅かでも惑わせないものだという、平常の信念に対して、このように恥辱な事件に父の名が並べられるというのは! あんまりひどすぎる。
日は輝けり (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
巍々ぎぎたる高閣雲にそびえ。打ちめぐらしたる石垣いしがきのその正面には。銕門てつもんの柱ふとやかにいかめしきは。いわでもしるき貴顕の住居すまい主人あるじきみといえるは。西南某藩それはんさむらいにして。
藪の鶯 (新字新仮名) / 三宅花圃(著)
門弟は大抵たいていさむらいの子弟で、私のような町人は山本富太郎という私と同名の男と二人だけだった。
だが、そんな気になることからしてしんの底から商人ではない重吉一家は、さむらいの商法とはまたちがう、しいていえば職人の商法的な下手さでたちまち行きつまらねばならなかった。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
〔註〕これかか様、さむらいの子という者は、ひもじい目をするが忠義じゃ。またたべるときには毒でもなんとも思わず食うものじゃと、言わしゃったゆえ、わしはいつまでもこらえている。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
四度目にビールの栓抜せんぬきとコップを、ちょうどさむらいが座敷に入るとき片手で提げるような形式張ったひじの張り方で持出すと、洋服の腰に巻いていた妙な覆い布を剥ぎ去って台所へほうり込んだ。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「足軽だって士だろう? 寺岡平右衛門を見給え。兎に角さむらいならいんだ」
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「あれは易者を看板にしているが本当は易者じゃねえんだ、もとは水戸のさむらいよ。御三家の侍だから、こちとらとは格が違わあ。それで本名が山崎譲、うちの旦那の神尾様とは前からのお知己ちかづきだ」
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
しかし見ても知れよう、こんな業態ぎょうていだ、ならずもんだ、俺あ、ならずもんの腕で出来るだけのことをするだけだ。さむらいは士らしい駄ボラを吹いてそっくり返っていりゃいいんだ。俺あ士は大嫌えだ。
斬られの仙太 (新字新仮名) / 三好十郎(著)
彼女は村の生れでなく、うわさによればさるさむらい芸妓げいしゃに生ませた女らしい。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「志」という字はわれわれが一生考えさせられた言葉で、立志伝というように、さむらいの下に心があっていちばん尊い字だが、そういう意味の志があるから「有志家」というようになったわけではない。
故郷七十年 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
酔いもなにも一時に醒めて押っ取り刀、わや、わや、わやと崩れ立った中之郷東馬、山路主計、ほか六、七人の異形のさむらい、なかに、北伝八郎という素っ裸のさむらい、さらしの六尺に一本ぶっこんで
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「何に? 気がつかなかったと? その一言からして、無礼であろう。さては貴様は、この方が余儀ない次第で、尾羽おは打ち枯らしているゆえに、さむらいがましゅう思わなんだというのだな。いよいよもって聞き捨てならぬ。それへ直れ」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
吉のさむらいを土に誤り書く者多し。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
だが、その母は、父の無二斎が、どういうわけか離縁した人だった、播州の佐用郷さよごうさむらいへ再縁して、もう二度目の良人の子供があった。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
近所のものが誰の住まいになるのだと云って聞けば、松平の家中のさむらいで、宮重久右衛門みやしげきゅうえもんと云う人が隠居所をこしらえるのだと云うことである。
じいさんばあさん (新字新仮名) / 森鴎外(著)
宮本武蔵の二刀流を伝えた細川家のさむらい都甲太兵衛とごうたへえと云う人がある。一日あるひ街を行くと人が集って騒いでいる。聞くと
鍵屋の辻 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
「新兵衛どの、おり入ってお願いがある」と元服してからまだ間もないらしい美男のさむらいは、新兵衛の前に手を突いた。
(新字新仮名) / 菊池寛(著)
行子の眼にうつった大炊介という男性は、蔓巻の打刀うちがたなを指したさむらいの風体なのに、どこにも髯がないことであった。
うすゆき抄 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
しかし今日のいわゆるさむらいは昔の武士のように狭い階級ではない、各自の力によって自在に到達し得る栄誉である。
平民道 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
さむらいは茶碗を取りながらお村の顔を見て、顔を少し横にそむける。阿部は酔っているから心付きません。
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
蕪村がさむらいならこれは町人といってもよい。蕪村が九代目団十郎なら、太祇は五代目菊五郎である。蕪村の句は天籟的てんらいてきで大きな岩石のそばだっているような趣がある。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
先の母はれっきとしたるさむらいの家より来しなれば、よろず折り目正しきふうなりしが、それにてもあのように仲よき御夫婦は珍しとおんなの言えるをきけることもありし。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
肥後ひご菊池家きくちけ磯貝平太左衛門武行いそがいへいたざえもんたけゆきと云う武士があった。すこぶる豪勇無雙むそうさむらいであったが、主家の滅亡後、何を感じたのか仏門に入って、怪量かいりょうと名乗って諸国を遍歴した。
轆轤首 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「和田さんの家は器量統きりょうすじで、その人も美しかったという話や。おさむらいから町家へおかたづきなすった」
挿話 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
若山は、昔なら浪人の手習師匠、由緒あるさむらいがしばし世を忍ぶ生計たつきによくある私塾を開いた。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
たぎり立った世のさむらいに取ってずべき事と定まっていたことは何ヶ条もあった。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
しかし見ても知れよう、こんな業態ぎょうていだ、ならずもんだ、俺ぁ、ならずもんの腕で出来るだけのことをするだけだ。さむらいは士らしい駄ボラを吹いてそっくり返っていりゃいいんだ。俺ぁ士は大嫌えだ。
天狗外伝 斬られの仙太 (新字新仮名) / 三好十郎(著)
前景と同じ住庵の場、立派な武士が供の二人と部屋の縁に腰かけて居る。これに対して蓮月は別に愛想好くも無くまた不愛想という程でもなく、極めて自然の態度でさむらいが望むままに出来上った陶器を
ある日の蓮月尼 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
文学を味わうものは皆ぶんさむらいである。そういう建前から、僕は読む方を主としている。書く方もやらないことはない。創作が三度雑誌に載ったから、木寺君の二科入選に一遍丈け勝っている次第わけだ。
妻の秘密筥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
私の町にはさむらいが大分いたが、それは皆佐川の統治者深尾家の臣下であった。私の家は町人で商売は雑貨(土地では雑貨店を小間物屋と云った)と酒造とであったが、後には酒造業のみを営んでいた。
と覆面のさむらいは、泰軒へ
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「ねがわくば、於虎をてまえの家の養子に乞いうけたいものでござる。さもなければ、てまえの組のさむらいにいたしたいものですが」
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
明和三年に大番頭おおばんがしらになった石川阿波守総恒の組に、美濃部伊織と云うさむらいがあった。剣術は儕輩せいはいを抜いていて、手跡も好く和歌のたしなみもあった。
じいさんばあさん (新字新仮名) / 森鴎外(著)
式台に坐っている多勢のさむらいの中から、この覚悟で生死の境を超脱している都甲太兵衛を、一目で見出したと云う事は一寸ちょっと想像もつかぬ恐ろしい話である。
巌流島 (新字新仮名) / 直木三十五(著)