土用どよう)” の例文
梅雨つゆのあくるを待ち兼ねてその年の土用どようるやわれは朝な朝な八重にいざなはれて其処そこ此処ここと草ある処におもむきかの薬草むにいそがしかりけり。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
六月三日が、土用どよううしの日。この日、桃の葉でたてた風呂へ入ると、暑気をはらい、汗疹あせもをとめるといって、江戸じゅうの銭湯で桃葉湯もものはゆをたてる。
顎十郎捕物帳:08 氷献上 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
土用どようのうちの霖雨つゆのあめを、微恙びようの蚊帳のなかから眺め、泥濁どろにごつた渤海あたりを、帆船ジヤンクすなどつてゐる、曾て見た支那海しなのうみあたりの雨の洋中わだなかをおもひうかべる。
あるとき (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
行々子よしきり土用どようえつたてえに、ぴつたりしつちやつたな」と呶鳴どなつたものがあつた。やうやしづまつた群集ぐんしふ少時しばしどよめいた。しかすぐしづまつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
宗助そうすけ小供こどもときから、この樟腦しやうなうたかかをりと、あせ土用どようと、砲烙灸はうろくぎうと、蒼空あをぞらゆるとびとを連想れんさうしてゐた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
大分もう薄暗くなっていましたそうで……土用どようあけからは、目に立って日がつまりますところへ、一度は一度と、散歩のお帰りが遅くなって、蚊遣かやりでも我慢が出来ず
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一挙に草を征伐するには、夏の土用どようの中、不精鎌ぶしょうがまと俗に云うの長い大きなカマボコ形の鎌で、片端からがり/\いて行く。梅雨中つゆうちには、掻く片端からついてしまう。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
ゆゑ入梅つゆ土用どよう彼岸ひがんなどゝて農業のふげふせつは一々こよみざればかなはぬこと〻なれり。
改暦弁 (旧字旧仮名) / 福沢諭吉(著)
むしろ白日炎天に汗をふきながら下町の横町を通った時、どこかの窓の虫籠できりぎりすの声がひと声、ふた声、土用どようのうちの日盛りにも秋をおぼえしめるのは、まさにこの声ではあるまいか。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
莫迦ばか! 白い着物を着るのは土用どようだい。」
百合 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
蒔絵まきえの金銀のくもりを拭清ふききよむるには如何にせばよきや。堆朱ついしゅの盆香合こうごうなどそのほりの間の塵を取るには如何にすべきや。盆栽の梅は土用どよううち肥料こやしやらねば来春花多からず。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
としなつ土用どようはひつて、もなく……仔細しさいあつて……其家そのいへにはなくなつたはずだとおもふ。
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
いそがしいともくさもまあだきやしねえんだ、土用どようになつてからだつていくらもりやしめえし、つてばかしつからろうあれ、となり旦那等だんなたちだつて今頃いまごろむぎつてるさわぎだあ
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
きのうの雷雨のせいか、きょうは土用どように入ってから最も涼しい日であった。昼のうちは陰っていたが、宵には薄月うすづきのひかりが洩れて、涼しい夜風がすだれ越しにそよそよと枕元へ流れ込んで来る。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
春の花見頃午前ひるまえの晴天は午後ひるすぎの二時三時頃からきまって風にならねば夕方から雨になる。梅雨つゆうちは申すに及ばず。土用どようればいついかなる時驟雨しゅうう沛然はいぜんとしてきたらぬともはかりがたい。
蒸暑むしあついのがつゞくと、蟋蟀こほろぎこゑ待遠まちどほい。……此邊このあたりでは、毎年まいねん春秋社しゆんじうしや眞向まむかうの石垣いしがき一番いちばんはやい。震災前しんさいぜんまでは、たいがい土用どよう三日みつか四日よつかめのよひからきはじめたのが、年々ねん/\、やゝおくれる。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
それでいて、十代の娘時分から、赤いものが大嫌いだったそうで、土用どよう虫干むしぼしの時にも、私は柿色かきいろ三升格子みますごうしや千鳥になみを染めた友禅ゆうぜんほか、何一つ花々しい長襦袢ながじゅばんなぞ見た事はなかった。
監獄署の裏 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
あつさはうです。……まだみん/\ぜみきませんね、とふうちに、今年ことし土用どようあけの前日ぜんじつからとほくにこえた。カナ/\は土用どようあけて二日ふつかの——大雨おほあめがあつた——あのまへからした。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)