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喘
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あえ
ふりがな文庫
“
喘
(
あえ
)” の例文
だが、いたわる方の側の息が苦しそうに
喘
(
あえ
)
いでいるのに対し、いたわられている方のカズ子は岩の上を伝う小鳥のように身軽だった。
千早館の迷路
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
六兵衛はわれ知らず逃げ腰になり、口をあいて
喘
(
あえ
)
いだ。口をあかなければ
喉
(
のど
)
が詰まって、呼吸ができなくなりそうだったからである。
ひとごろし
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
彼の頭には
願仁坊主
(
がんにんぼうず
)
に似た比田の
毬栗頭
(
いがぐりあたま
)
が浮いたり沈んだりした。猫のように
顋
(
あご
)
の詰った姉の息苦しく
喘
(
あえ
)
いでいる姿が薄暗く見えた。
道草
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
まだ薄暗い方丈の、朝露に濡れた
沓脱
(
くつぬぎ
)
石まで
転
(
こ
)
けつまろびつ走って来た一人の老婆が、
疎
(
まば
)
らな歯をパクパクと噛み合わせて
喘
(
あえ
)
いだ。
狂歌師赤猪口兵衛:博多名物非人探偵
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
大きな砂利が靴の裏ですべって、やっと両側の
叢
(
くさむら
)
が尽きかけるあたりまできたとき、慣れない男は、やはり少し
喘
(
あえ
)
ぎはじめていた。
箱の中のあなた
(新字新仮名)
/
山川方夫
(著)
▼ もっと見る
バスは大変な満員で、僕ですら
喘
(
あえ
)
ぐような始末であったが、僕の隣りに学習院の制服を着用した十歳ぐらいの小学生男子が立っていた。
青春論
(新字新仮名)
/
坂口安吾
(著)
それらは幾十人となく強くどっしりと眼にうけとられる物ばかりであって、私は一種のにわかに生ずる
喘
(
あえ
)
ぎさえおぼえたくらいだ。
われはうたえども やぶれかぶれ
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
細い喉で、尖った
喉仏
(
のどぼとけ
)
の動いているのが見える。その時、その喉から、
鴉
(
からす
)
の啼くような声が、
喘
(
あえ
)
ぎ喘ぎ、下人の耳へ伝わって来た。
羅生門
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
見ると熱があるのか、赤くむくんだ顔を茫然とさせ、私が声をかけても、ただ「つらい、つらい」と義兄は
喘
(
あえ
)
いでいるのであった。
廃墟から
(新字新仮名)
/
原民喜
(著)
彼女には、血みどろのシグマが、むごたらしく
喘
(
あえ
)
いでいるのが、いつまでたっても茂少年の、のたうち廻る姿に見えて仕方がなかった。
吸血鬼
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
物凄
(
ものすご
)
い生の渦巻の中で
喘
(
あえ
)
いでいる連中が、案外、はたで見るほど不幸ではない(少なくとも懐疑的な傍観者より何倍もしあわせだ)
悟浄出世
(新字新仮名)
/
中島敦
(著)
涙はこぼれて、
鋼
(
はがね
)
を
冷
(
さ
)
まし、冷めた鋼は又、
火土
(
ほど
)
の中へ投げ込まれて、彼の苦しい胸の
喘
(
あえ
)
ぎを吐くように、鞴の
呼吸
(
いき
)
にかけられた。
山浦清麿
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
喘
(
あえ
)
ぎ/\車の
際
(
きわ
)
まで
辿
(
たど
)
り着くと、
雑色
(
ぞうしき
)
や
舎人
(
とねり
)
たちが手に/\かざす
松明
(
たいまつ
)
の火のゆらめく中で定国や菅根やその他の人々が力を添え
少将滋幹の母
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
喘
(
あえ
)
ぎ喘ぎ炎天下の道を行く。現代のような広い道路はないから、厭でも向うからのろのろ歩いて来る牛とすれ違わなければならぬ。
古句を観る
(新字新仮名)
/
柴田宵曲
(著)
ああ神よ、鹿の
渓水
(
たにみず
)
を慕い
喘
(
あえ
)
ぐがごとく、わが霊魂も汝を慕い喘ぐなり。わが霊魂は渇けるごとくに神を慕う、活ける神をぞ慕う。
イエス伝:マルコ伝による
(新字新仮名)
/
矢内原忠雄
(著)
取縋
(
とりすが
)
る松の枝の、海を分けて、
種々
(
いろいろ
)
の波の調べの
懸
(
かか
)
るのも、人が縋れば根が揺れて、
攀上
(
よじのぼ
)
った
喘
(
あえ
)
ぎも
留
(
や
)
まぬに、汗を
冷
(
つめと
)
うする風が絶えぬ。
草迷宮
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
目科は
宛
(
あたか
)
も足を
渡世
(
とせい
)
の
資本
(
もとで
)
にせる人なる
乎
(
か
)
と怪しまるゝほど達者に走り余は
辛
(
かろ
)
うじて其後に続くのみにて
喘
(
あえ
)
ぎ/\ロデオン
街
(
まち
)
に達せし頃
血の文字
(新字新仮名)
/
黒岩涙香
(著)
もう分り切ってるじゃないか、それによし分らないことがあったにした所で、苦しく
喘
(
あえ
)
ぐ彼女の声を聞いて、それでどうなると云うんだ。
淫売婦
(新字新仮名)
/
葉山嘉樹
(著)
切迫した、
喘
(
あえ
)
ぐような、内心でなにかと闘っているような表情をしていたが、やがて、笑いの消えた顔を、
懶
(
だる
)
そうに縦に振った。
地虫
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
道の千里も歩いて来たように胸が
喘
(
あえ
)
いで、抱えて来た書物をドタリと机の上に投げ出すと、椅子にヘナヘナと崩おれてしまった。
陰獣トリステサ
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
紺サージの布地を通して何ものかを尋ね迫りつつ尋ねあぐんでいる心臓の無駄な
喘
(
あえ
)
ぎを感ずると、何か優しい嫋やかなものに覆い包んで
母子叙情
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
それはその時故郷の声が、ひときわ高く聞こえて来るからであった。しかしすぐに歩みを
弛
(
ゆる
)
め、さも苦しそうに
喘
(
あえ
)
ぎ声をあげた。
神州纐纈城
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
簷
(
のき
)
の傾いた荒寺が草の中に立っていた。夜叉の
喘
(
あえ
)
ぐ
呼吸
(
いき
)
づかいがすぐ
背後
(
うしろ
)
で聞えた。大異はそのまま荒寺の中へ入って往った。
太虚司法伝
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
熊丸虎市も、ぐったりと、運び出された荷物のうえにへたばりこみ、阿呆のように、ぽかんと口を開いて、ただ、
喘
(
あえ
)
いでいた。
花と龍
(新字新仮名)
/
火野葦平
(著)
吸い込むたびに痛むので息が半分しかできない。歯車の歯が折れてしまいそうだ。そのままぐたりとしてあがりかけた魚みたいに
喘
(
あえ
)
いでいる。
胆石
(新字新仮名)
/
中勘助
(著)
「お話を
拵
(
こしら
)
えるんですって?」と
喘
(
あえ
)
ぐようにいいました。「そんなこと、あなたに出来るの?——フランス語みたいに? ほんとに出来て?」
小公女
(新字新仮名)
/
フランシス・ホジソン・エリザ・バーネット
(著)
生活と四つに組んで、創作慾に引きずられて、弱いマラソン選手のように、
喘
(
あえ
)
ぎ喘ぎ駆け続けているのが本当の姿である。
随筆銭形平次:13 平次身の上話
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
空虚な倉庫のうす闇、あちらの隅に終日すすり泣く人影と、この柱のかげに石のように黙って、ときどき胸を弓なりに
喘
(
あえ
)
がせる最後の負傷者と。
原爆詩集
(新字新仮名)
/
峠三吉
(著)
東支那海はかなり荒れているらしく、時々見かける、真黒な煙の尾を引いている汽船が
喘
(
あえ
)
ぎ喘ぎようやく進んでいるようにしか思われなかった。
秘境の日輪旗
(新字新仮名)
/
蘭郁二郎
(著)
自分らは汗をふきながら、大空を仰いだり、林の奥をのぞいたり、天ぎわの空、林に接するあたりを眺めたりして堤の上を
喘
(
あえ
)
ぎ喘ぎ
辿
(
たど
)
ってゆく。
武蔵野
(新字新仮名)
/
国木田独歩
(著)
諸君のある者は——われわれはよく知っている——貧乏であり、生活になやみ、時としてはいわばふうふう
喘
(
あえ
)
いでいる。
森の生活――ウォールデン――:02 森の生活――ウォールデン――
(新字新仮名)
/
ヘンリー・デイビッド・ソロー
(著)
湯にむせ返って、看視人たちにしっかり抑えつけられた手足を
痙攣的
(
けいれんてき
)
にもがきながら、
喘
(
あえ
)
ぎ喘ぎ、何やら取留めのないことを
喚
(
わめ
)
き立てるのだった。
紅い花
(新字新仮名)
/
フセヴォロド・ミハイロヴィチ・ガールシン
(著)
井伏
鱒二
(
ますじ
)
、中谷孝雄、いまさら出家
遁世
(
とんせい
)
もかなわず、なお都の塵中にもがき
喘
(
あえ
)
いでいる姿を思うと、——いやこれは対岸の火事どころの話でない。
もの思う葦:――当りまえのことを当りまえに語る。
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
他の生命に触れ、揺すり、
撼
(
うごか
)
し、抱き、一つに融けようとして
喘
(
あえ
)
いだ。そしてその結果は自他ともに傷ついたのである。
愛と認識との出発
(新字新仮名)
/
倉田百三
(著)
M君はささえている
両膝
(
りょうひざ
)
の上に、
痩
(
や
)
せた二本の手をダラリとさげ、
喘
(
あえ
)
ぐように口を開けて、足下ばかり凝視していた。
冬枯れ
(新字新仮名)
/
徳永直
(著)
松風の音の寂しい山門を出てからも、お島はまだ墓の下にあるものの執着の
喘
(
あえ
)
ぎが、耳につくような無気味さを感じた。彼女は急いで道をあるいた。
あらくれ
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
偖
(
さて
)
、
斯
(
こ
)
うして家庭が貧困の
裡
(
うち
)
に
喘
(
あえ
)
いで居乍らも、金さえ這入れば私は酒と女に耽溺する事を忘れませんでした。
陳情書
(新字新仮名)
/
西尾正
(著)
何も大路であるから不思議なことは無い。たまたま又非常に重げな
嵩高
(
かさだか
)
の荷を負うて
喘
(
あえ
)
ぎ喘ぎ大車の
軛
(
くびき
)
につながれて
涎
(
よだれ
)
を垂れ脚を
踏張
(
ふんば
)
って行く牛もあった。
連環記
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
ここにいるひとたちが、みな
幸福
(
しあわせ
)
そうな顔をしているのに、茜さんだけが、ひとりでなにか苦痛に
喘
(
あえ
)
いでいる。
キャラコさん:11 新しき出発
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
叫び声のようでもあったし、ぜいぜいいう瀕死の
喘
(
あえ
)
ぎのようでもあった。われわれ三人が同時に顔をあげたところを見ると、皆にそれが聞えたらしかった。
ペルゴレーズ街の殺人事件
(新字新仮名)
/
モーリス・ルヴェル
(著)
小さな汽車が、
喘
(
あえ
)
ぎながらやっと山の
頂
(
いただき
)
から、また数
哩
(
マイル
)
の谷間へ下りた所に、鉱山街、
箇旧
(
コチュウ
)
が横たわっている。
雲南守備兵
(新字新仮名)
/
木村荘十
(著)
奇物変物もすっかり影をひそめてしまった。では富の程度でも幾分か増進したかと問えば、それどころかこの村でも目下一戸当り千円の借金に
喘
(
あえ
)
いで居る。
百姓弥之助の話:01 第一冊 植民地の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
また病人は病苦に
喘
(
あえ
)
ぐ事を描いた文芸に接する事によって、その病苦を慰む事が出来る。考え様に
依
(
よ
)
れば人生は
陰鬱
(
いんうつ
)
なもの悲惨なものとも見る事が出来る。
俳句への道
(新字新仮名)
/
高浜虚子
(著)
夜通し吹荒れた西南の風に渦巻く
烟
(
けむり
)
の中を人込みに
揉
(
も
)
まれ揉まれて、後へも戻れず先へも行かれず、押しつ押されつ、
喘
(
あえ
)
ぎながら、人波の崩れて行く方へと
にぎり飯
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
少くともそんな気がして、二人で一緒にふりむくと、そのおじいさんは何やら
喘
(
あえ
)
ぎ
喘
(
あえ
)
ぎ私達に向って物を言っているのだが、それがなかなか聞きとれなかった。
晩夏
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
絶えず吐く黒い煙と、
喘
(
あえ
)
いでいるような
恰好
(
かっこう
)
とは、何かのろ臭い生き物のような感じを、見る人に与えた。
真珠夫人
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
その層の一番どん底を潜って
喘
(
あえ
)
ぎ喘ぎ北進する汽車が横川駅を通過して
碓氷峠
(
うすいとうげ
)
の第一トンネルにかかるころには、もうこの異常高温層の表面近く浮かみ上がって
浅間山麓より
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
そしてそこに聞こゆるものは、ただ一つの響き、
瀕死
(
ひんし
)
の
喘
(
あえ
)
ぎに似た痛ましい響き、
呪詛
(
じゅそ
)
の声に似た恐ろしい響き、すなわちサン・メーリーの警鐘の音のみだった。
レ・ミゼラブル:07 第四部 叙情詩と叙事詩 プリューメ街の恋歌とサン・ドゥニ街の戦歌
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
喘
(
あえ
)
ぎ喘ぎ坂を登って行った車夫は高輪の岡の上まで出ると急に元気づいた。なるべく遅くと注文したいほどに思っている客を乗せて、車はぐんぐん動いて行った。
新生
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
四日の独立祭を目のまえに控えて、フィラデルフィアの町は、もう襲いかけた炎熱の下に
喘
(
あえ
)
いでいた。
チャアリイは何処にいる
(新字新仮名)
/
牧逸馬
(著)
喘
漢検1級
部首:⼝
12画
“喘”を含む語句
喘々
息喘
喘息
残喘
余喘
喘鳴
痰喘
喘息持
喘息病
喘咽
喘歩
喘聲
発喘
餘喘