加之しかのみならず)” の例文
加之しかのみならず、大体偽善者であると思って間違ないのである。欠点のある人間、若しくは欠点をつつまずに出す人間は、少くとも正直である。
読書と著書 (新字新仮名) / 矢内原忠雄(著)
そして喜んで其人工の生命を与へるに足る丈の血潮を、自ら進んで与へようと思つた。加之しかのみならず、わしは殆ど彼女を怖しく思はなかつた。
クラリモンド (新字旧仮名) / テオフィル・ゴーチェ(著)
加之しかのみならず較々やや完全に近かつた雅典の人間より、遙かに完全にとほざかつた今の我々の方が、却つて/\大なる希望を持ち得るではないか。
葬列 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
それから加之しかのみならずと云って、皇太后の御上を云い、「猶子いうしの恩を蒙りて、兼ねて長秋ちやうしうの監たり、嘗薬しやうやくの事、相譲るに人無し」といい
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
だまして同じ丁字屋へ賣渡し身の代金をかすめとり其上に母のお安を三次にたのみて殺させ加之しかのみならず千太郎をあざむきて五十兩の大金をかたり取猶又同人を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
しかるに誰ということのわからぬ間に、僕の心には果たして一人であるか二人であるか三人か、加之しかのみならず一人であるにしても、あの人であろうか
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
加之しかのみならず、人民を融和せしめ、社交を助け、勝景を保存し、史蹟を重んぜしめ、天然紀念物を保護する等、無類無数の大功あり。
神社合祀に関する意見 (新字新仮名) / 南方熊楠(著)
加之しかのみならずさけ近所きんじよ灘屋なだやか、銀座ぎんざ顱卷はちまき取寄とりよせて、と會員一同くわいゐんいちどう強請きやうせいかんがへてごらんなさい、九九九でひますか。
九九九会小記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
加之しかのみならず、久しく日支両帝国の間に介在していたので、自然二股膏薬ふたまたこうやく主義を取らなければならないようになったのである。
沖縄人の最大欠点 (新字新仮名) / 伊波普猷(著)
加之しかのみならず山の開祖に取りては、登頂を果すことが登山の目的の全部ではなかった。現代の登山が登頂と同時に其目的の全部を完了するのとは違っていた。
山の今昔 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
加之しかのみならず文学者ぶんがくしやもつ怠慢たいまん遊惰いうだ張本ちやうほんとなすおせツかいはたま/\怠慢たいまん遊惰いうだかへつかみ天啓てんけいかなふをらざる白痴たはけなり。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
虎疫コレラが大流行で、我々は生のもの、例えば葡萄ぶどうその他の果実や、各種の緑色の物を食わぬようにせねばならぬ。加之しかのみならず、冷い水は一口も飲んではいけない。
加之しかのみならず彼女がそう云う過ちを犯す迄には、夫の思慮深い、ずっと前から計畫して段々とそこへ誘い込むようにした策略があったことを見逃してはならない。
君女は吾々と違って洋服一点張りじゃいけないのだ、これから時候は寒さに向って、加之しかのみならず常着ふだんぎからすべてを新調して世帯道具を揃えることは中々容易じゃないよ
誘拐者 (新字新仮名) / 山下利三郎(著)
加之しかのみならず、右紅毛人の足下あしもとには、篠、髪を乱し候儘、娘さとを掻き抱き候うて、失神致し候如く、うづくまり居り候。
尾形了斎覚え書 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
鷲郎に助けられて、黄金丸は漸く棲居へ帰りしかど、これより身体みうち痛みて堪えがたく。加之しかのみならず右の前足ほねくじけて、物の用にも立ち兼ぬれば、口惜くやしきこと限りなく。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
加之しかのみならず、プラトネの教へしごとく、魂、星に歸るとみゆること、また汝に疑ひを起さしむ 二二—二四
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
「二十日。微晴。此夕右脇下打撲、痛甚、加之しかのみならず咳痰に而平臥。此間文礼子弘前御用行に付、渋江小野両氏尋訪じんばう相頼、並に菓子折進物す。生口拡いくちひろめ青森行に而前後立寄。」
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
町奉行所へうったえ出たる事ありと、或る老人の話しなるが、それかあらぬかかく、食物を与えざるもなくこと無く、加之しかのみならず子供が肥太こえふとりて、無事に成長せしは、珍と云うべし。
枯尾花 (新字新仮名) / 関根黙庵(著)
独奈ひとりいかんせん、才おろそかニ識浅く加之しかのみならず、単身孤四字消剣、窮困資材ニとぼしき故に成功すみやかならず、然に略海軍の起歩をなす。是老兄の知所なり。数年間東西に奔走し、屡〻故人に遇て路人の如くす。
加之しかのみならず、この時に際し、外国の注目する所たるや、火を見るよりもあきらけし。しかるにその結果たる不充分にして、外国人もひそかに日本政府の微弱無気力なるを嘆ぜしとか聞く。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
かるが故に神につきての観念は、人智の進歩に連れて次第に変化し、枝葉の点においては、必ずしも一致していないのである。加之しかのみならずバイブルの中には、人間的誤謬ごびゅう夾雑物きょうざつぶつが少くない。
そして加之しかのみならず、事実を興味深く粉飾するために、何の小説にも一様に、護謨ゴム靴の刑事と、お高祖頭巾こそずきんの賊とが現れ、色悪と当時称せられた姦淫が事件の裏にひそんでいるのに極まっていた。
大衆文芸作法 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
加之しかのみならず政黨の進退は十數年を待たず、大抵三、五年を以て新陳交代す可きものなれば、其交代毎に一方の政黨が帝室に向ひ又これに背くが如きあらば、帝室は恰も政治社會の塵埃中に陷りて
帝室論 (旧字旧仮名) / 福沢諭吉(著)
加之しかのみならず透谷の感性は非常に強かりしかば僕等が書き放し、言ひ放しにしたるものも、透谷に取つてはそれが大問題を提起したるが如く思はれしを以てたゞちに其心裏に反撃の波浪をき起したるならん。
透谷全集を読む (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
加之しかのみならず斯ク其施行ヲ禁ジ、王ハ自カラ之ヲ忘却シテ意ヲ用ユルコトナシ。
加之しかのみならず、同じ言説を、幾度となく繰り返されるので、流石の陸軍当局も、先生の欺かざる熱意と根気と、終りなき訥弁に、たうとうしびれを切らして、帝大の主旨を諒とするに至つたのださうである。
浜尾新先生 (新字旧仮名) / 辰野隆(著)
加之しかのみならず此の天降あまくだりがおとなしく從來のしきたりを踏襲して行かない。
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
篠田君が果して我々同志を売るものか如何どうか知れるではないか、——同君が賤業婦人を救ひ出すのは珍らしいことではない、加之しかのみならず諸君は之を称讃してうるはしき社会的救済事業と認めて来たでは無いか
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
(新聞記者と管理部と関係の密なりしこと近衛の如きは他に例なきが如し)加之しかのみならず近衛師団の広島に着せし時新聞記者は誰も来ぬとて司令部管理部などにては不興なりしが如きこれ皆な待遇の疎なりし原因なり云々
従軍紀事 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
加之しかのみならずその裏には人情観察があります。
加之しかのみならず較々やゝ完全に近かつた雅典アテーネの人間より、遙かに完全にとほざかつた今の我々の方が、却つて/\大なる希望を持ち得るではないか。
葬列 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
加之しかのみならず牛に養はれて、牛の乳にはぐくまれしかば、また牛の力量をも受得うけえて、けだし尋常よのつねの犬の猛きにあらず。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
加之しかのみならず、英国とフランスとで日本陶器の蒐集が大流行を来たし、また米国でも少数の人が日本の陶器の魅力に注目し始め、美術博物館さえがこれ等を鑑識し出した。
加之しかのみならず時日の進行中において自然に消滅する悪口と思えば、さほど気にかけることはない。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
立退き今は改名かいめいして庄兵衞と名乘其元の名はしやう次郎つまとよ事元の名はうめと云者ならん天命にて其方がさい亂心らんしんなし我が手にあり加之しかのみならず親憑司早くも先達せんだつて牢舍申附たり同村名主傳吉を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
されど予が身辺の事情は遂に予をして渡英の計画を抛棄はうきせしめ、加之しかのみならず予が父の病院内に、一個新帰朝のドクトルとして、多数患者の診療に忙殺さる可き、退屈なる椅子にらしめをはりぬ。
開化の殺人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
加之しかのみならず、あの小説だか脚本だかを読んでいないでも、武者小路氏及び氏によって代表されているいわゆる白樺派の文芸及び思潮が、本当にオメデタイものであることを言明し得られると思っている。
文壇昔ばなし (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
加之しかのみならず、新聞小説も漸く盛んになり
大衆文芸作法 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
加之しかのみならず、私は日本中で京都ほど娘達や小さな子供が、奇麗な着物を着ている所を、見たことが無い。頭髪の結い方には特徴があり、帯の縮緬ちりめんと頭の装飾とは燦然としている。
しかも燕尾服えんびふく着用で聴講料を払って入場した紳士しんし淑女しゅくじょ——一もくしても一ぺんの書生たる僕以上の人と見受けられ、加之しかのみならずこの時は僕の独り演説であったから、これらの聴衆を見ると
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
自分から進んで學校に入れて貰つたに拘はらず、私は遂學科に興味をてなかつた。加之しかのみならず時には晝休に家へ歸つた儘、人知れず裏の物置に隱れてゐて、午後の課業を休む事さへあつた。
二筋の血 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
加之しかのみならず先生の識見、直ちに本来の性情より出で、つとに泰西輓近ばんきんの思想を道破せるものすくなからず。其の邪を罵り、俗をわらふや、一片氷雪の気天外より来り、我等の眉宇びうたんとするの概あり。
「鏡花全集」目録開口 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
加之しかのみならず洞のうちには、怎麼なる猛獣はんべりて、怎麼いかなる守備そなえある事すら、更に探り知る由なければ、今日までかくは逡巡ためらひしが、早晩いつか爾を捕へなば、糺問なして語らせんと、日頃思ひゐたりしなり。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
加之しかのみならず、此一面の明鏡は又、黄金こがねの色のいと鮮かな一片ひとひらの小扇をさへ載せて居る。
葬列 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)