つぐの)” の例文
汝の知らんと欲するは、はたされざりし誓ひをば人他のつとめによりてつぐのひ、魂をして論爭あらそひまぬがれしむるをうるやいなやといふ事是なり。 一三—一五
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
然るにこれを受けたものが多く紙価を寄せてこれに報いた。達夫等は刻費をつぐのつて余財を獲、霞亭に呈した。霞亭は受くることをがへんぜなかつた。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
文「とても友之助には返済は出来ません、手前もつぐのう力もありません、お村をお取上で御勘弁になりますか、御舎弟様に一応お聞きを願います」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
今までつい夢のように歓楽を極めていたのは、あれは如何いかにも軽はずみな、罪の深い事であった。その罪はつぐのわなくてはならない。そうだそうだ。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
だから、極力打ち消して置いたのよ。し青木さんが一緒だったら、そのつぐのいとして皆さんを箱根へ御招待しますって。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
京都から奈良へ来る汽車は、随分きたなくガタガタゆれて不愉快なものだが、沿線の景色はそれをつぐのうて余りがある。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
ゆったりとした腹中にその損失をつぐのうて余りある或る成算せいさんがすでにできたかのような感を周囲の旗本にもいだかせた。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
為に悲境を見る事あり、おおいに失望して、更に粗喰と不自由とを以て勤めて其損害の幾分つぐのわんことを勤めたり。
関牧塲創業記事 (新字新仮名) / 関寛(著)
ペーデルよ、不名誉は死をもってつぐのえ! 王室の名誉のため、父君の御負託にそむき、死をもって謝罪する兄を見ならえ。即刻自決して罪を償わるべし……。
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
相当の高価をつぐのうて、あの親熊の皮を買い取って、この子熊に与えてやったものと見なければなりません。
大菩薩峠:30 畜生谷の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
石崇せきそういはく、うらむることなかれとすなは侍僮じどうめいじて、おなじほどの珊瑚さんご六七株ろくしちしゆいだしてつぐのかへしき。
唐模様 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
〕のお金を使いこんだだけはまどう〔つぐのう?〕ように頼み入り候。「あ」の字の旦那にはまことに、まことに面目めんぼくありません。のこりの金はみなお前様のものにして下され。
温泉だより (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
事実、滝人はそれによって、今度こそは全然つぐのう余地のない、絶望のまっただ中に叩き込まれてしまった。それが、滝人の疑惑に対して、じつに、最終の解答を応えたのである。
白蟻 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
かれその弟、御佩しの十拳の劒を破りて、五百鉤いほはりを作りて、つぐのひたまへども、取らず、また一千鉤ちはりを作りて、償ひたまへども、受けずして、「なほその本の鉤を得む」といひき。
捉ふるものは義理人情、逃ぐるに怯ならず、避くるに卑しからず、死を以て之をつぐのふ、滅を以て之を補ふ、情死は勇気ある卑怯者の処為なり、是を大胆なる無情漢に比すれば如何ぞや。
つまり損亡そんもうとてはなくして苦楽あいつぐのい、平均してなお余楽よらくあるものと知るべし。
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
幸いにして夫婦の情愛が収支しゅうしつぐのうようにしてくれる。この点はお父さんも同じことだ。操さんにしてもお母さんにしても我儘には相違ないが、生物いきものとしての良人は充分大切にしてくれる。
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
勿論、こっちがつぐのうことが出来ればいうまでもないが、いまの身分で二十両はおろか、十両の工面くめんも付こう筈がない、つまりはこっちも災難、主人も災難とあきらめて貰うよりほかはない。
籠釣瓶 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
當初御萱堂ごけんだう不幸之みぎり存寄ぞんじよらざる儀とはまうしながら、拙者の身上共禍因と連係候故、報謝の一端にもと志候御世話も、此の如く相終候上は、最早債をつぐのふだを折候と同じく、何の恩讐おんしうも無之
わびさみしきよいを、ただ一点のあかきにつぐのう。燈灯ともしび希望のぞみの影を招く。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
たらはぬところ相勵あひはげみてつぐのまうさん。
あやまり不幸の天ばつむくい來て我と苦しむ自業自得じごふじとくは然ながら此儘に知らぬかほには過されず今にもたな勘定かんぢやうせば眼前がんぜん知れる五十兩つぐのひ方は實家じつかへ赴き何とか兄にはなしなば何うにかならんと思へども彼の小夜衣の事につきだまして取れた金などとは
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
またつぐのひにかへりきて
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
「ええ。おいでなさいよ」純一はつぐのわずに置く負債があるような心持をして、常よりは優しい声で云って、重たげに揺らぐお下げの後姿を見送っていた。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
かく問はれし魂その負債おひめつぐのひていふ。我知らず、されどかゝる溪の名はげに滅び失するをよしとす 二八—三〇
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
「いえいえ、そんなわけではありません。顔良、文醜のごときは、たとえば二匹の鹿です。二つの鹿を失っても、一匹の虎をお手に入れれば、つぐのうて余りあるではございませんか」
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しまいには増長して家の金を持出して遊びに出て、小瀧に入上いれあげて仕舞いますので、追々借財が出来ましたが、親父は八ヶましいから女房のおくのが内々で亭主の借金の尻をつぐのって置きます。
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「もし私がここで助かったら、私はどんな事をしても、この過去をつぐのうのだが。」
首が落ちた話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
此れをつぐのわんが為めに、我等夫婦はいまだ慣れざる畑仕事を為し、屋敷内にて菜大根及び午蒡ごぼう人参等を植付けて喰料しょくりょうを助けて、一日いちじつに責めては我等夫婦の喰料たる白米を五勺ずつにても※ずる時には
関牧塲創業記事 (新字新仮名) / 関寛(著)
すべての失費は皆米の内でつぐのいさえすればいからうして貰いたい。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
それが自分の罪をつぐのう正当の手段であると考えた。
鳥辺山心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
くさくだもののつぐのひに
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
じつとこらへ六右衞門は主人五兵衞に打向ひさて段々の御立腹りつぷくわびの致し方も之無く候ついては五十兩の引負金ひきおひきん何分なにぶんすぐにはつぐのひ難く暫時御猶豫下いうよくだされたし且又御給金の儀はなかば頂戴仕ちやうだいつかまつり半分なかばは御預け置候故日わり御勘定の程御願ひ申上候當人身分の儀は直樣すぐさま引取一札を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
さきに絵草紙を看た時、掏摸すりに奪ひ去られたのである。わたくしは已むことを得ずして家に還り、救を父楊庵に求めた。父はわたくしのために金をつぐのうてくれた。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
若し夫れ涙をそゝぐくい負債おひめつぐのはざるものレーテを渡りまたその水を味ふをうべくば 一四二—一四四
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
私が夫の身代りになると云う事は、果して夫を愛しているからだろうか。いや、いや、私はそう云う都合つごうの好い口実のうしろで、あの人に体を任かした私の罪のつぐのいをしようと云う気を持っていた。
袈裟と盛遠 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
又「此の内百金僕に返しても、此のかねは一に持ってくのじゃない、追々おい/\安い物が有れば段々に持って往く金だから、其のうちに君が才覚してつぐのえば宜しい、僕には命代いのちがわりの百円だ、返し給え」
我を見て失ひし目の作用はたらきをば汝の再び得るまでは、語りてこれをつぐのふをよしとす 四—六
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
二人は酒量なきにかかわらず、町々の料理屋に出入いでいりし、またしばしば吉原に遊んだ。そして借財が出来ると、親戚しんせき故旧をしてつぐのわしめ、度重たびかさなって償う道がふさがると、跡をくらましてしまう。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
それでその恩に報いなくてはならぬ、そのあやまちをつぐのわなくてはならぬと思い込んでいた長十郎は、忠利の病気がおもってからは、その報謝と賠償との道は殉死のほかないとかたく信ずるようになった。
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)