人情にんじょう)” の例文
春来しゅんらい、国事多端、ついに干戈かんかを動かすにいたり、帷幄いあくの士は内に焦慮し、干役かんえきの兵は外に曝骨ばっこつし、人情にんじょう恟々きょうきょう、ひいて今日にいたる。
中元祝酒の記 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
人間にんげんというものは、不幸ふこうにあわなければ、人情にんじょうというものをさとるものでない。」と、かれは、いつかいた言葉ことばおもしました。
塩を載せた船 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そりやわたしは、ひどいにあつているんですから——あのおやじくらい、ごうつくばりでケチンボで、人情にんじょうなしの野郎やろうはないですよ。
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
すこしもながく、おせんをめておきたい人情にんじょうが、たがいくち益々ますますかるくして、まるくかこんだ人垣ひとがきは、容易よういけそうにもなかった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
げんゆうとにわかれてりましても、人情にんじょうにかわりはなく、先方せんぽう熱心ねっしんならこちらでもツイその真心まごころにほだされるのでございます。
尊公そんこうから若君へお願いしてくれ。だれにしたって、ここで一番日ごろの鬱憤うっぷんらして、うで夜泣よなきをなぐさめてやりたいのは、人情にんじょうじゃないか」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
五分とたたないうちに、わたしはこの人情にんじょうのない、そのくせいやに監視かんしの行きとどいている村をはなれた。
いったい感情は読んで字のごとく、われわれの感覚かんかくといわゆる人情にんじょうとの二つを含むものであるから、善くもとれるし、悪くもとれると同じく、正しきにも走り、正しからざるにも走りやすい。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
そのは、いちばんかわいらしいおんなみたいな、かおをしていた。くにはちがっても、人情にんじょうや、どものあそびに、ちっともかわりはない。
春さきの朝のこと (新字新仮名) / 小川未明(著)
安心あんしんはしているけれど、ちっともはやたいのが人情にんじょうじゃないか。野暮やぼをいわずに、ちょいとでいいから、ここでおせよ」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
わしがみるところでは、世はいよいよみだれるだろう、いくさは諸国しょこくにおこってえないであろう、人間はますます殺伐さつばつになり、人情にんじょう美風びふうはすたれるだろう。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わたくしもそうされてれば、そこは矢張やは人情にんじょうで、つい一しょになっていてしまいました。
人情にんじょうのある子どもがいる」とかれはわたしを指さした。「あの子はきさまらのような悪党あくとうではない。きさまらは仲間なかまが苦しんでいるところを見てわらっている。この小さな仲間を手本にしろ」
人間にんげんんでいるまちは、うつくしいということだ。人間にんげんは、さかなよりも、また獣物けものよりも、人情にんじょうがあってやさしいといている。
赤いろうそくと人魚 (新字新仮名) / 小川未明(著)
どうかさっしておやンなすって。おせんにしてりゃ、自分じぶんからふみいたなはじめての、いわば初恋はつこいとでももうしやしょうか。はずかしいうえにもはずかしいのが人情にんじょうでげしょう。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
では——まよいでしょう。おそらくそれは親心おやごころ煩悩ぼんのうでしょう。——迷いのきりをへだてて見れば、れ木も花と見え、えんなき他人ひとさまの子供でも、自分の子かと見えてくるのが、人情にんじょうのとうぜん。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
言葉ことばはわからなかったけれど、人情にんじょうにかわりはありませんでした。しまひとたちのまごころは、三にんむねつうじて、永久えいきゅうわすれられないものでした。
南方物語 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ボンはこのきていて、人情にんじょうのないひとたちにいじめられるよりか、かえってあのにいって、しんせつなおじいさんにかわいがられたほうが
おじいさんの家 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「あなたは人情にんじょうのあるよいだ。そうです、そうしておやんなさい。」と、先生せんせいはいって、おみよのあたまをなでました。
なくなった人形 (新字新仮名) / 小川未明(著)
むらでも、よくよくこまったものには、自分じぶんたちのものを、けてやるぐらいの義理ぎりや、人情にんじょうのこっているからな。
かたい大きな手 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「いつまでも、こんな人情にんじょうのないまちにいたのではしかたがない。はやく、れないうちに、ほかのまちへいったほうがいい。」と、さとしているようにおもわれました。
塩を載せた船 (新字新仮名) / 小川未明(著)
どちらかといえば、わたしは、学問がくもんより人情にんじょうのあるほうをりますからね。せんだってであったか、令二れいじが、おかあさんには、そらているえだが、金色きんいろにはえませんか。
金歯 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そして、たかくらいのぼりましたが、大将たいしょうは、また一めんにおいて人情にんじょうにもふかかったひとで、んだ人々ひとびと同情どうじょうせられて、ついに大将たいしょうしょくして、隠居いんきょされたということであります。
強い大将の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
こうして、はたら人々ひとびと社会しゃかいには、うつくしい人情にんじょうながれる、あかるいところがありました。
なつかしまれた人 (新字新仮名) / 小川未明(著)