なくな)” の例文
かう言つて源太郎も、七十一で一昨年をとゝしなくなつた祖母が、子供の時にこのおかめ人形を見た頃の有様を、いろ/\想像して見たくなつた。
鱧の皮 (新字旧仮名) / 上司小剣(著)
家中うちぢゆうで一番広い客座敷の縁先には、なくなつた人達の小袖こそでや、年寄つた母上の若い時分の長襦袢などが、幾枚となくつり下げられ
虫干 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
母がなくなりましてから私の丹誠で是までにした唯た一人の忰を殺すというのは、みんな私の心の迷い、強慾非道の罰でございます
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
お父さんがなくなられてから初めてのお母さんの誕生日だから今年は僕達から何かお母さんに上げようって、皆で約束したのです。栄二は何を上げるんだい。
女の一生 (新字新仮名) / 森本薫(著)
朝ツぱらから此様こんな愚痴を申して済みませぬが、考へて見ますと、成程女と云ふものは悪魔かも知れませぬのねエ、山木様も奥様のおなくなりなされた当分は
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
大正九年に、その人との中に女の子が生れたので、夫の郷里京都へ、もろもろの問題を解決に旅立ったが、持病の胆石が悪化して、京都帝大病院でなくなった。
遠藤(岩野)清子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
それから間もなく、おきいちやんが、機場はたばなくなられたと云ふ話を聞きました。おたあちやんがお宮の境内で大きな虹の橋を見た日が丁度その日だつたのです。
虹の橋 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
大旦那様はそんなにも有仰おっしゃりますまいが、貴方の御病気の様子を奥様がお聞きなすって御覧ごろうじろ、大旦那様の一件で気病きやみでおなくなり遊ばしたようなお優しい
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
愚父のなくなりましたあの時に、此方こちらで引取つていただかなかつたら、私は今頃何に成つてをりますか、それを思ひますと、世間に私ほどさいはひなものはおそらく無いでございませう
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
彼はなくなった博士の助手をして、永くこの部屋に働いていたのです。しかしどっちかというと、彼は怠け者で、いつも博士からこっぴどく叱られていたということです。
人造人間事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
せんかみさんが、肺病でなくなったことを、お島はいよいよ片着くという間際まぎわまで、誰からも聞されずにいたが、姉の口からふとそれが洩れたときには、何だかいやなような気もした。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
父君の前をもよきにいひなし給へといふ。太郎まゆひそめて、あやし、此の国のかみ下司したづかさあがた何某なにがしと云ふ人を聞かず。我が家一六〇保正をさなればさる人のなくなり給ひしを聞えぬ事あらじを。
あゝ何故なぜ丈夫ぢやうぶうまれてれたらう、おまへさへなくなつてれたならわたし肥立次第ひだちしだい實家じつかかへつて仕舞しまふのに、こんな旦那樣だんなさまのおそばなにかに一時いつときやしないのに、何故なぜまあ丈夫ぢやうぶうまれてれたらう、いや
この子 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「奥様を、おなくなしなさいました、それは御不自由でございましょう」
牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
差配人の高木たかぎというのはなくなった主人が経営していた会社の使用人で長年金庫の番人をしていた堅い老人である。
寐顔 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
口惜しい、蓄生め、けだものめと始終そう思って、五年も八年もたなければ、ほんとうに分ることではない、覚えられることではないんだそうで、おなくなんなすった
化鳥 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
亥「えッ、なくなりなすったか、道理で新しい草鞋わらじが切れて変だと思った、えゝ間に合わなかったな」
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
なくなつた母の肌の匂ひとはまた別な、三十五六の大年増の烈しい香が、強い酒のやうに自分の鼻を衝いて、白く圓く肥えた大きな顏、剃つた痕の青々した眉、吊り上つた眼、隆い鼻、廣い口
父の婚礼 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
年と言ふものを取らないので、誰も彼も皆な若いよ、お前の阿父おとつさんでも阿母おつかさんでも皆な若いよ、——私の亭主も丁度ちやうど二十歳はたちなくなつたが、其時の姿のまゝで目に見える、わしの頭が斯様こんなに白くなつたので
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
彼は学生時代になくなったD博士とファラデーの暗界の研究にアッシスタントをつとめていた昔を思い浮かべて、なつかしげに眼の前のダーク・スペースの方を見ると、其処に汚い着物を着た一人の男が
科学者と夜店商人 (新字新仮名) / 海野十三佐野昌一(著)
なくなった人の形身分かたみわけをしなければならない。ほんとは四十五日か七十五日にやるのだろうが、ついでだから今のうち、帰りの荷物と一ツにして持って行って貰いたいね。
老人 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
母「はい、有難うだけれども遣れません、なくなったおとっさんのお位牌に対して、私の病を癒そうためにお前を其様な恐ろしい処へ奉公に遣って済むものじゃアない、のう丹治」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
母親は若死わかじにした、やがて父親もなくなった。その遺言に因れば、梓の実の姉が一人ある。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
孫一といふのは、竹丸の兄で、生れて一ヶ月經たぬ中になくなつた稚子みづこである。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
処が翌年になってと来た客は湯島ゆしま六丁目藤屋七兵衞ふじやしちべえと云う商人あきゅうど糸紙いとかみおろい身代で、その頃此の人は女房がなくなって、子供二人ありまして欝いで居るから、仲間の者が参会の崩れ
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
父親てておやなくなって、姉が初めて訪寄といよったのが機会で、梓は高等学校の業をえて上京した、学資は姉の手から——その旦那の懐中から——出たのであるが、学年中途にして志いまだ成らず
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
先方せんぱうではおほい恐縮きようしゆくして、いろ/\相談さうだんすゑ名高なだか針醫はりいなくなつて、藥箱くすりばこ不用ふようになつてゐたのをり、それを療法れうはふれいとしておくつてたのが、この藥箱くすりばこで、見事みごと彫刻てうこくがしてあつて
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
長二は其の頃両親ともなくなりましたので、煮焚にたきをさせる雇婆やといばあさんを置いて、独身で本所〆切しめきり世帯しょたいを持って居りましたが、何ういうものですか弟子を置きませんから、下働きをする者に困り
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
無理に拙者が若江を連れてまいりましたは、あなたに対しては何とも相済みません、若江はなくなられた親御の恩命にそむき、不孝の上の不孝の上塗うわぬりをせんければならず、拙者は何処どこへもどころはないが
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
梅廼屋うめのやは五代目だいめ塩原多助しほばらたすけ女房にようばうで、それが亭主ていしゆなくなつてから
塩原多助旅日記 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
かめ「えゝ、それではわたくしの亭主は、あのなくなりましたのですか」
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
なくなつてのち音沙汰おとさたはありませぬ、もしおひになつたら
塩原多助旅日記 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
とっさんはなくなって、当人は相続人になりました。
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)