かんば)” の例文
実はあまりかんばしい話ではありませんが、若干おもしろいところもありますので、新年そうそう皆さんのお耳を汚させていただきます。
餅のタタリ (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
海をも山をも原野をもた市街をも、我物顔に横行濶歩して少しも屈托せず、天涯地角到る処に花のかんばしきを嗅ぎ人情の温かきに住む
空知川の岸辺 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
正義の宮殿にも往々にして鳥や鼠のふんが落ちていると同じく、悪徳の谷底には美しい人情の花とかんばしい涙の果実がかえって沢山に摘み集められる。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ショルは良いバリトンだが、アメリカ的でないので、レコードではあまりかんばしいことはない。バッハの『ミサ=ロ短調』のバリトンはこの人だ。
磯野は一、二の官立学校の試験を、いつも失敗して、今通っている学校は、学課の程度が低く、卒業生の成績や気受けもかんばしい方ではなかった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
むなしき槽櫪そうれきの間に不平臥ふてねしたる馬の春草のかんばしきを聞けるごとく、お豊はふっとかしらをもたげて両耳を引っ立てつ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
きみのお手際てぎわぜんにつけておくんなすったのが、見てもうまそうに、かんばしく、あぶらの垂れそうなので、ふと思い出したのは、今の芸妓げいしゃの口が血の一件でね。
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼が在る所、四囲みな彼が如き人を生ず、これ何に由りて然るか、薔薇ばらの在る所、土もまたかんばしというにあらずや。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
百合子は、これから力になって貰いたいと思う勝見に、かんばしくない疑惑のあるのを情けないことに思いました。
赤耀館事件の真相 (新字新仮名) / 海野十三(著)
御存知の通り、蔦屋は上から順々に取られ申候。万一育ちても、祟りにて、かんばしきものには相成るまじく存申候。この辺のこと何卒よく/\お考え被下度くだされたく
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
もって一身一家の富をいたしたる者にして、世に名声もかんばしきことなれども、少壮の時より政府の官につき、月給を蓄積して富豪の名を成したる者あるを聞かず。
慶応義塾学生諸氏に告ぐ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
ところが、それから又半年程経つと、今度は道子に対するかんばしからぬ風評が立ちはじめました。
彼が殺したか (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
余りかんばしくない。がうまく行くだろう。小酒井不木が死んだ。惜しいことだ。日本のポウだと思っていたのに。横山有策も亡くなったと。躰を大事にしよう。金が欲しい。
時には、謂ゆる一杯機嫌でもって、役所へのさばり出ることさえあるので、そうなっては神聖なお役所も台無しで、文字どおりかんばしからぬ空気に充たされてしまうのである。
この崇高な山に対して嘲るような「浅間山から鬼が尻を出して、鎌で掻き切るようなおならをした」という意味のかんばしからぬ俚謡が時として村人の口の端に上るのは、爆発の際
山と村 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
にはかにも飢ゑてものほしげなるに、彼此をちこち六六𩛰あさり得ずして狂ひゆくほどに、たちまち文四が釣を垂るるにあふ。其のはなはだかんばし。心又六七がみいましめを守りて思ふ。我はほとけの御弟子なり。
かんばしいもみの木のまわりで、一条の日の光の中で、物狂わしく回転してる昆虫のロンド、蚊のファンファーレ、地蜂じばちのオルガンの音、木のこずえに鐘のようにふるえてる野蜂の集団の音、または
上州花隈はなくまの城主として、天狗飛切りの秘術を編み出し、当時芳名ほうめいかんばしいところの、戸沢山城守より伝授されたる小太刀潜入飛燕の術もて、岩に手を掛け枯木に縋りまたは空中を両手であお
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
爾のしろしめすごとくわが夫に天地の正気せいきあつまるあり、その壮宏たる富嶽のごとく、そのかんばしきこと万朶まんだの桜のごとく、そのしゅうそのほう万国ともにたぐいし難し、我如何いかにしてこの夫を欺くべけんや
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
西涼せいりょう甘粛省かんしゅくしょう・蘭州)の地にある董卓とうたくは、前に黄巾賊の討伐の際、その司令官ぶりは至ってかんばしくなく、乱後、朝廷から罪を問われるところだったが、内官の十常侍一派をたくみに買収したので
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
秋立つや白湯さゆかんばしき施薬院
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
よしんば自分の過去にはかんばしからぬ歴史があっても、一子久吉はまぎれもない水野家の嫡流、当然家をつぐべきはこの子供だ。
あんまかんばしい発見じゃございませんわね。う承われば、あなたは以前から聾耳だったかも知れませんよ。
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
いわんやまた阿母あぼ老健にして、新妻のさらにいとしきあるをや。葉巻のかんばしきを吸い、陶然として身を安楽椅子の安きに託したる武男は、今まさにこの楽しみをけけるなり。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
尤も、要屋で聽くと、決してかんばしい方ではなく、他家から入つて家督に直つた主人の山之助などは、口を極めてといふ程でなくとも、こと毎に久吉の陰險さをほのめかします。
巴里パリーにも倫敦ロンドンにもあんな大きな、そしてあのやうにかんばしいはすの花の咲く池は見られまい。
水 附渡船 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
かんばしい、暖かな、とろりとした、春の野によこたわる心地で、枕を逆に、掻巻の上へ寝巻の腹んばいになって、蒲団の裙に乗出しながら、頬杖ほおづえを支いて、恍惚うっとりしたさまにその菫を見ている内
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
だがその報告の内容は、キンギン国にとって、あまりかんばしいものではなかった。
二、〇〇〇年戦争 (新字新仮名) / 海野十三(著)
師匠も銀子の口車に乗り、やがて大弓場を処分して、藤本へ入って来たのだったが、入れてみると、ちぐはぐの親父と、銀子の所思おもわくどおりに行かず、師匠の立場もかんばしいものではなかった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
かんばしきにくらまされて、つりの糸にかかり身をうしなふ事なかれといひて、去りて見えずなりぬ。不思議のあまりにおのが身をかへり見れば、いつのまにうろこ金光きんくわうを備へてひとつの鯉魚りぎよしぬ。
そのはるきたるごとに余に永遠希望の雅歌を歌いくれし比翼ひよくママ有する森林の親友も、その菊花かんばしき頃巍々ぎぎとして千秋にそびえ常に余に愛国の情を喚起せし芙蓉ふようの山も、余が愛するものの失せてより
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
文藝春秋新社は意外にも紳士淑女のたむろするところで、礼節の念はふたばよりかんばしく、かりそめにも筆者に激動を与えるような饒舌をもらさない。
巷談師 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
「いや、惜しまれている中にやめるのが花です。冠婚葬祭博士、あんまかんばしい地位じゃありません」
冠婚葬祭博士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
ホーレンシュタインもかんばしくない。その他夥しい指揮者があるが、語るに足るものはない。
巴里パリーにも倫敦ロンドンにもあんな大きな、そしてあのようにかんばしいはすの花の咲く池は見られまい。
大通おおどおりへ抜ける暗がりで、甘く、且つかんばしく、皓歯しらはでこなしたのを、口移し……
売色鴨南蛮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
が、その結果はかんばしくなかった。
断層顔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
面相はかんばしからぬものがあったが、悠々たるその態度。余が感じたのは「馬力」の一語につきる。余は戦場の兵隊にもかかる馬力を感じたことはなかったのである。
その後、声も若さも失ったファーラーは再度オペラに復帰の望みを絶たれ、コンサートとレコードへの復活を心がけたが、少くともレコードの方はかんばしいことがなかったようだ。
「閑話休題に願いまして、斯ういう具合に、偉人は和漢洋ともに幼少の頃のことを忘れません。普通の人間とは違っています。栴檀せんだんは二葉よりかんばしい。菊太郎君、さあ、どうだね?」
勝ち運負け運 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
とおり一つの裏町ながら、撒水まきみずの跡も夢のように白く乾いて、薄い陽炎かげろうの立つ長閑のどかさに、彩色した貝は一枚々々、甘い蜂、かんばしき蝶になって舞いそうなのに、ブンブンとうなるはあぶよ、口々にやかましい。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
専ら利得のかんばしからぬ奔命に終始して、信長の長大をはかるために犬馬の労を致したのである。
二流の人 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
もっとも、要屋で聴くと、決してかんばしい方ではなく、他家から入って家督に直った主人の山之助などは、口を極めてというほどでなくとも、ことごとに久吉の陰険さをほのめかします。
かんばしくない事に相場がきまっている。精々上等のところで何か小面倒な調査を明日の今頃までになぞと言って仰せつけられる。然もなければお小言だ。罷り間違えば一番いけないことかも知れない。
小問題大問題 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
怪しまれて誰何すいかを受けることがあれば、鶏や鼠のなき声を真似ることも古い習いとなっていたが、時々はまた、お楽しみなことでしたね、などと、通人のものとも見えぬかんばしからぬことを言って
紫大納言 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
かんばしいことでない。困ったものだと思って、妻にも話した。
四十不惑 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
あまりかんばしい収穫もなかった様子です。
スカウトとしては名声があるが、その私生活は、はなはだ世評のかんばしくない男だ。銀座にキャバレーを経営しているが、ここまで云えば、あとはアッタリマエでしょう、説明がいらぬという人物。
投手殺人事件 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
栴檀せんだんは二葉よりかんばしかったんですな」
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「今度のは余りかんばしくないんですか?」
勝ち運負け運 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)