颶風ぐふう)” の例文
熱狂したネーは、死に甘んずるの偉大さをもって、その颶風ぐふうのうちにあらゆる打撃に身をさらした。そこで彼の五度目の乗馬は倒れた。
国民はこの政界の颶風ぐふう切掛きっかけ瞭然はっきりと目を覚し、全力を緊張させて久しくだらけていた公私の生活を振粛しようとするであろう。
鏡心灯語 抄 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
がしかし、これは秀吉を中心に見た場合のことで、対者となった柴田勝豊の身辺は、この数日、颶風ぐふうの巻くようなものであったに違いない。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今からざっと百年前、二十歳はたちから三十代のフランツ・リストの磁石的じしゃくてき魅力は、全欧州至るところに五彩ごしき颶風ぐふうき起さずにはおかなかった。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
丁ど颶風ぐふうでも來るやうな具合に、種々な考が種々のかたちになつて、ごた/\と一時にどツと押寄おしよせて來る………周三は面喰めんくらつてくわツとなつてしまふ。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
ますます怪しいふくざつな感情と変化する、遥に颶風ぐふうの空から舞ひ降りて、斬首人ざんしゆにんのしやつぽに休息するほどの、捨身な感情とまでなつてしまふ。
一隊商が曠野こうや颶風ぐふうに遇った時、野神にそなうる人身御供ひとみごくうとして案内人を殺した。案内人を失った隊商等の運命は如何。
百喩経 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
この前の時間にも、(暴風)に書いて消して(烈風)をまた消して(颶風ぐふう)なり、と書いた、やっぱり朱で、見な……
朱日記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかも時刻の移るにしたがッて枝雲は出来る、砲車雲もとぐもひろがる、今にも一大颶風ぐふうが吹起りそうに見える。気が気で無い……
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
案の定、南半球特有の颶風ぐふうが吹き荒れてきたからであった。風をはらんで弓弦のように張り切った索具が切れる。切れた索具でさらに二、三名の怪我人が出た。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
ところが途中颶風ぐふうに逢つて、舟は皆四散した。この時、義良親王の舟は、この篠島に漂着したのであつた。
伊良湖岬 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
それに反して、あちらでは、ラインの彼方かなたでは、西隣の人々のうちでは、集団的熱情の大いなる凪が、社会一般の颶風ぐふうが、時を定めて芸術上に吹き渡っていた。
はたして道人の言葉の通り、颶風ぐふうともいうべき烈しい風が、沖の方から吹いて来た。「逃げろ逃げろ!」と逃げ出したが、逃げられない数百人の人間があった。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
山谷さんこくに答え心魂しんこんに徹して、なんとも形容のできないすさまじき気合ともろとも、夜の如く静かであった島田虎之助は、颶風ぐふうの如く飛ぶよと見れば、ただ一太刀で
颶風ぐふうの勢少しくくじけたるとき、こゝに坐したる女子をみなごの、彼恢復せられたるエルザレム中の歌を歌ひ、耳を傾けて夫の聲のこれに應ずるや否やをうかゞひしこと幾度ぞ。
真暗な闇の間を、颶風ぐふうのような空気の抵抗を感じながら、彼女は落ち放題に落ちて行った。「地獄に落ちて行くのだ」きもを裂くような心咎こころとがめが突然クララを襲った。
クララの出家 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
すると林の中から、まっ黒な颶風ぐふうの雲のようなものが現われ、急行列車のようなすごいスピードで走る——と見えたは、よく見れば何千何万という魚群ぎょぐんなのであった。
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
タッタ一つ恩人の顔だけを見て死にたいと憧憬あくがれ願っている……その超自然的な感情が裏書きする戦争の暴風的破壊が……秒速数百米突メートルの鉄と火の颶風ぐふう、旋風、飇風ひょうふう
戦場 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
さうして、あの白い雲はみんな雪の粉で、下から見てあの位に動く以上は、颶風ぐふう以上の速度でなくてはならないと、此間野々宮さんから聞いた通りを教へた。美禰子は
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
しかしその虚ろなしんの臓のなかでは、目に見えてない盲目的な颶風ぐふうが疾駆し廻っていた。
あめんちあ (新字新仮名) / 富ノ沢麟太郎(著)
天皇は、これにくつし給ふことなく、紀州の南端を迂廻して、南方より大和へ入る作戦を敢行遊ばしたが、時利あらず、潮岬の颶風ぐふうに遭つて、皇兄稲飯命いなひのみこと三毛入野命みけいりぬのみことを失ひ給うた。
二千六百年史抄 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
颶風ぐふう、狂風が吹き、同じ様に驟雨しゅううが降り、洪水が降り、同じ様に、一時は蘇生の想いをなし更に同じ様に、前に倍する焦熱に苦しめられてヤッと「日の入り」と云う休戦に助けられた。
暗黒星 (新字新仮名) / シモン・ニューコム(著)
ただちに眼に入るのは、低気圧、颶風ぐふう等の文字である。予はむしろこれを読むのがいとわしかった。児供等は父がそれを読んで、何とか云うのを待つものらしく三人共だ何とも云わずに居る。
大雨の前日 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
真山青果氏の維新物の諸作品「京都御構入墨者」「長英と玄朴」「颶風ぐふう時代」。
大衆文芸作法 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
そうかと思うと、たとえばはげしい颶風ぐふうがあれている最中に、雨戸を少しあけて、物恐ろしい空いっぱいに樹幹の揺れ動き枝葉のちぎれ飛ぶ光景を見ている時、突然に笑いが込みあげて来る。
笑い (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
遠く、掻きむしるように荒れ続ける灰色の海の水平線が、奇妙に膨れあがって、無気味な凸線とつせんを描きはじめる。多分颶風ぐふうの中心が、あの沖合を通過しているに違いない。東屋氏は再び続ける。
死の快走船 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
そんな小喜劇を前ぶれに、やがて一陣の颶風ぐふうが輸入部に襲来した。十一月に入つて間もない頃で、朝のうちから電灯をともすほどの薄暗い日だつたが、午後になると寒々と小雨さへ降つて来た。
灰色の眼の女 (新字旧仮名) / 神西清(著)
何處かに、火事とか、洪水とか、颶風ぐふうとか、罷業とか、飢饉とかいふやうな、人々を困窮に陷れるやうな災厄が起つた時には、必ず「アグレイア」粉が「無料たゞ」といふ値段で、豐富に發送された。
水車のある教会 (旧字旧仮名) / オー・ヘンリー(著)
風にもまれて暮したりやうやく五日のさる下刻げこくに及び少し風もしづまり浪もやゝおだやかに成ければわづかに蘇生そせいの心地してよろこびしが間もなく其夜の初更しよかうに再び震動しんどう雷電らいでん颶風ぐふうしきりに吹起ふきおこり以前にばいしてつよければふね
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「またぞろ天地晦瞑かいめい、雷鳴、稲妻、竜巻、颶風ぐふうというわけですな!」
颶風ぐふうのように私を成功の最初の熱狂へと吹き送ったさまざまな感情は、誰も想像することはできない。生と死は、私がはじめて突破して私たちの暗い世界に光の急流を注ぐ理想の限界のように見えた。
『これはきっと颶風ぐふうですね。ずぶんひどい風ですね。』
風野又三郎 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
鳥も棲まはぬ気圏そらまでも颶風ぐふうによつて投げられたらば
西から東へ沈黙の颶風ぐふうが歩む
俄に起る一夜の颶風ぐふう
新頌 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
きっとこの颶風ぐふうが過ぎたら、その善良な平和の目的を温健に貫徹するための手腕ある代表者が現れて、世界の期待を空しくしないでしょう。
三面一体の生活へ (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
聖なる颶風ぐふうの一息は飛びきたってその二人を貫通し、二人は慄然りつぜんと身を震わし、そして一人は最上の歌を歌い、一人は恐るべき叫びを発する。
騷ぎは颶風ぐふうの如く捲き起りましたが、何を何うすれば宜いのか、まるで見當が付きません。町役人のところへ人を飛ばせたのは、餘程經つてからの事。
今晩こんばん——十時じふじから十一時じふいちじまでのあひだに、颶風ぐふう中心ちうしん東京とうきやう通過つうくわするから、みなさん、おけなさるやうにといふ、たゞいま警官けいくわんから御注意ごちういがありました。
十六夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
否々、そは我が言はんと欲せしところにあらず。わが本意は畫工に聖母のみ畫かせんとにはあらず。めでたき山水も好し。賑はしき風俗畫、颶風ぐふうあらがふ舟の圖も好し。
颶風ぐふうの起こる少し前である、大船の船首へさきに佇んで、空を見ている人物があった、天文学者西川正休。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
颶風ぐふうが襲って来た。今は船もくつがえるほどの大荒になって来た。船客も船頭も最早もは奇蹟きせきの力を頼まねばならぬ羽目になってもとどりを切って仏神に祈った。船は漸く港についた。
宝永噴火 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
五体に颶風ぐふうを起して、無念と、やにわに組みついてゆくが早いか、重左はヒラリと楊柳ようりゅう流しにたいを開き、同時に振りかぶった稀代の竹杖に怖るべき殺気をブーンとはらませた。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
逸早いちはやく帝都の諸新聞紙はこの発表をデカデカの活字で報道したものだから、知るとらざるとを問わず、どこからどこの隅々すみずみまで、一大センセイションが颶風ぐふうの如くきあがった。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「あれは、みんな雪の粉ですよ。かうやつてしたから見ると、ちつとも動いて居ない。然し、あれで地上に起る颶風ぐふう以上の速力で動いてゐるんですよ。——君ラスキンを読みましたか」
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
風はこんどは颶風ぐふうとなって吹いてきた——まだ眠ってる寒がりの大地を熱い息で温める春の南風、氷をかして豊かな雨を集めてる南風。それが谷の彼方の森の中に宵のようにえ立てた。
寝ても醒ても油断が出来ないうちに、やがて天地もくつがえる大雷雨、大颶風ぐふう、大氷雪がおちかかって、樹も草もメチャメチャになった地上を、死ぬ程、狂いまわらせられる。……ああ……セツナイ。たまらない。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
『この風はたしかに颶風ぐふうですね。』
風野又三郎 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
幾何学は誤りをきたし、ただ颶風ぐふうのみが真を伝える。それはポリーブに対して異説を立てしむるの権利をフォラールに与えるところのものである。
騒ぎは颶風ぐふうのごとくき起りましたが、何をどうすればよいのか、まるで見当が付きません。町役人のところへ人を飛ばせたのは、余程経ってからの事。